記事公開日
【社内雑談】ドコモがRCSはじめるってよ その3

はじめに
NTTドコモが最新の携帯電話メッセージサービスであるRCS:Rich Communication Serviceを今年の夏から開始するというプレスリリースを発表しました。RCSとはNTTドコモ公式によれば、
「RCS」は、SMSでご利用いただけるテキストメッセージに加えて、写真や動画、スタンプといったコンテンツの送受信が可能なメッセージサービスです。スマートフォンに標準で入っているメッセージアプリで、すぐに使い始められ、グループチャット機能もご利用になれます。 https://www.docomo.ne.jp/service/rcs/?icid=CRP_INFO_news_release_2026_05_13_00_to_CRP_SER_rcs
ということです。おそらく、これを読んでいる人は思ったはずです、「別に今までだって写真や動画は送れたし、スタンプだって使えたよね?今更何のこと?」って。多くの人がLINEを使っていて、動画もなにも何でも送れていたし、単純なメッセージならiPhoneのiMessageもあります。ドコモやKDDI、ソフトバンクならiMessageっぽい「+メッセージ」というメッセージアプリもあります。
確かに、今更感満載ですが、なぜ2026年の今になってドコモはRCSに対応と発表してきたのでしょう?そして、+メッセージを含む既存のメッセージアプリはどうなっていくのでしょうか?いつもながら、社内で雑談しながら考えてみました。
毎度おなじみではありますが、このブログはエンジニア個人が好き勝手に発信するものであり、所属組織(株式会社三技協)の公式の見解ではありませんので、あらかじめご承知置きください。
【社内雑談】ドコモがRCSはじめるってよ その1 その2 その3
Appleの変節
社員B(以下B): WeChatと中国の事業者との戦いの余波で5G消息が事実上義務化されてしまった。そして、その中国の方針に直接影響を受けたのがAppleなんだよね。
社員A(以下A): さらに、ここでAppleですか?
B: Appleにとっても、中国市場はかなり大きいから、さすがに捨てることは出来ない。でも、iPhoneが5Gに対応する以上は、5G消息、つまりUPのRCSに対応する必要に迫られた。
A: そういえば、AppleのiMessageは独自規格ですね。
B: 加えて、Appleにとっては2024年に施行されたEUのデジタル市場法(DMA)もやっかいな存在だ。GAFAなど「ゲートキーパー」と呼ばれる超巨大プラットフォームに課させる法律で、自社優遇を禁止したり、他社決済を許したりして、囲い込みを防ぐ法律になっている。めちゃくちゃ簡単に言えば「21世紀の(特にデジタル市場向けの)独占禁止法」ってことだ。Appleのようなプロプライエタリで儲ける企業にはちょっと影響が大きい。
A: ああ、DMAは聞いたことがあります。EUはそういった、ややもすると理不尽な圧力によって、自国の権利を保護するの大好きですよね。そして、それがAppleのメッセージに影響するんですね。
B: AppleのiMessageは、Apple独自技術ののメッセージサービスで、iOSユーザーの情報により成り立っている。今更これを開放しろと言われるのはきつい。だから、その代わりにAppleのメッセージアプリを国際標準であるUPのRCS対応にして、「メッセージはちゃんと国際規格に則って開放しているでしょ?」と言えるようにした。どうせ、中国のせいでRCSに対応しなければいけないのなら「ついでにDMA対応のアピール材料にしちゃおう」というわけだ。
ということで、これまでAppleはかたくなにRCSには対応しない、と言い続けてきたんだけど、2024年9月リリースのiOS18から、RCS対応となった。
A: 中国の思惑とEUの法律により、ついにAppleもUP RCS対応となったのですね。
B: ちなみに、その仕組みは図の通り。図中に「各事業者のRCSサーバー」とあるけど、これはほとんどの事業者でGoogle Jibeになるはずだ。だとすると、iPhoneの挙動は、最初にiPhoneかどうかを判別して、iPhoneで無い場合のその後の挙動は、Googleメッセージがメッセージを送ろうとする挙動とほぼ同じになる。
A: RCS対応、と一言で言っても、内部では結構面倒なことをやっているんですね。
B: ちなみに、今回の話とは関係無いけど、AppleはDMAによりもう一つ大きな開放を余儀なくされている。それがAir Dropだ。Air DropはiPhone(iOS)機器同士で簡単にファイルをやり取りできるツールだけど、iPhone同士でしかやり取りが出来なかった。AndroidにもQuick Shareという同じ機能が後付けされたけど、AirDropと互換性がないためにiPhoneとは接続できなかった。実は「日本の中高生(特に女子)のiPhone率が異様に高いのは、AndroidだとこのAir Dropの輪に入れて貰えないからだ」と言われている。中高生は写真、動画を沢山シェアしたい。それをSNSやメッセージアプリなんかで送っちゃうと貴重なギガ(パケット)を消費するけど、Air Dropならそれが無い。マジョリティのiPhone勢がマイノリティのAndroid勢とシェアしようとするとギガを消費してしまうのでシェアの輪から外される、そういうことらしい。でも、このAirDropもDMAにより公開・開放が余儀なくされて、AndroidでもAir Dropの輪に入れるようになったんだ。つまり、Android版のAir DropであるQuick Shareが、本物のAir Drop対応になったんだよね。
A: なるほど、そんなところにもDMAの影響が出てるんですね。
B: ただ、全てのAndroidで使えるようになるわけではないので注意してね。Google PixelだとPixel 9aを除くPixel 9シリーズと、Pixel 10シリーズ全機種が対応。サムスン GalaxyだとS24、S25、S26と折りたたみ系の端末が対応している。その他はOPPOの一部機種が対応というぐらい。つまり、現状は対応機種がとても少ない。これから増えるかもしれないが、各社ともOSバージョンが同じでも対応非対応が分かれているので、ハード的な制約があるのだろうし、そこは分からない。
A: ちなみに、iPhone側の対応はどうなんですか?
B: そもそもAppleは何も対応するつもりはない。AndroidのQuick Shareが勝手にAir Dropに対応するだけで、AppleのiMessageがQuick Shareに対応する訳ではないから。
A: ユーザーとしてはこれも標準規格にしてくれたら、安心できるんですけどね・・・
そして存在意義のなくなる+メッセージ
B: 話を日本のRCSに戻そう。世界中がUP対応に傾きつつあり、GoogleだけでなくAppleまでもがUPのRCSに対応した中で、日本の三事業者クローズドな+メッセージをコストをかけて継続する意味はどこになるのか?という話になるよね。
A: 当然なりますね。
B: iPhoneのiMessageがRCSに対応した結果、現在の状況は下の表の通りになっている。
A: iMessageとGoogleメッセージのやり取りが完全にUP対応RCSになるわけですね。そして、+メッセージは+メッセージ同士でないとRCSにならないと・・・
B: 尚、iMessageとGoogleメッセージは、事業者や国を跨いでもRCSだ。
A: これ、+メッセージを使う意味あります?iPhone、Android標準のメッセージアプリならRCSが使えるってことですよね?
B: そうなんだよ。もし+メッセージを使う意味があるとしたら、僅かながらの+メッセージ専用スタンプを使いたい人とかかな?
あ、参考までに+メッセージの最新スタンプランキングを載せておくよ。版権もののキャラが全くいないけど、きっと気のせいだ。同じ絵柄ばかりで2~3人のデザイナーしかいないように見えるけど、それも気のせいだ。
A: こんなスタンプのために+メッセージを使う人なんて僅かもいないでしょう。少なくとも、確実に中高生は使わないでしょうね、+メッセージ。
B: 真面目に話します。+メッセージはLINEに対抗すべく開発されたものだと思うけど、はっきり言って+メッセージはLINEに対抗する存在にはなれなかった。大本営発表では4000万ユーザーを超えたということになっているが、周りで+メッセージを積極的に使用している人は自分しかいないし、仮に4000万が本当にアクティブユーザーだったとしても、それでも普及率90%を超え今やインフラとなっているLINEには到底敵わない。
A: そもそも、+メッセージ陣営の一角であるソフトバンクが、LINEをグループ傘下にした時から、もう無理だったんですよ。
B: まあ、そういうことになるのかな。今回のドコモのRCS対応発表っていうのは、こういった流れの一環なのだが、何故「ドコモとして標準のメッセージアプリをGoogleメッセージにする」という報道になっているのか、普通の人には分かりにくい。ただ、ここまで読んで下さった方なら、これが何を意味するか分かって頂けていると思う。一応、話の流れをまとめると以下の様になる。
- RCSは携帯電話事業者の団体が作った規格のために、事業者間での互換性が担保されていなかった
- 日本の+メッセージもその古いRCS規格なので、三事業者内でしか使えない
- 業を煮やしたGoogleが、全世界で互換性のある「Universal Profile(UP)」対応規格を作り上げ、自ら対応アプリ(Googleメッセージ)、サーバー(Google Jibe)の提供を始めた
- 世界的にUP対応RCSを採用する事業者が増えた
- 特に中国は、国を挙げてUP対応RCS(5G消息)を推進した
- Googleだけでなく、Apple iMessageもRCSに対応したため、Andorid-iPhone間がUP対応RCSでやり取りできるようになった
- ドコモもいつまでも+メッセージに固執しているわけにはいかず、あきらめてGoogleの軍門に降り、「Google Jibeを使うGoogleメッセージ」を標準アプリと認めた
こんなところです。
A: 「Googleメッセージを使う」= 「UP対応RCSに準拠」+「Google Jibeを使用」を意味するわけですしね。
B: そうなんだよ。もっと簡単に、そして厳しめに言えば、「日本ローカルが時代遅れになりグローバルスタンダードに飲み込まれた」ということ。
しかも、最近(2026年5月12日)のニュースで「iPhoneとAndroid間のメッセージ(RCS)が暗号化されるように」と報道されている。いわゆるE2EE(End-to-End Encryption)と呼ばれる機能なんだけど、この機能自体がユーザーに大きな変化を与えるわけじゃない。でも、このE2EEがApple、Google協力の下双方に実装されたということが重要で、今後のスマートフォンのメッセージやり取りはUP対応RCSで行うことが決定されたということを意味する。だから、これからのメッセージサービスは、全世界共通でiPhone、Android標準メッセージアプリか、OTTメッセージングサービスかのどちらかを使うことになる。まあ、中国は5G消息アプリが標準だけど、意味は同じ。そして、それ以外は排除された。
A: じゃあ、+メッセージはどうなるんですか?
B: どうなるんだろうね? ちなみに、KDDIは昨年(2025年)5月の段階で、Googleメッセージ標準化を発表していて、10月に完全対応しているからね。ただ、まだKDDIは+メッセージを捨てるとは言っていない。ソフトバンクはドコモよりちょっと前の今年4月にUP RCS対応を発表しているね。まあ、ここはLINEを持っているから、グループ全体としては何でもいいんだろうけど。
A: ドコモは最後の対応発表だったわけですね。
B: そう。だから、ドコモの対応が終わるぐらいには、+メッセージの先行きは分かると思うよ。まあ、行き先と言っても、いつ廃止するかという時期の問題だけだと思うけど。
まとめ
A: 今回はかなり長くなってしまいましたが、まとめをお願いします。
B: 先ほど、時系列的な流れについてはまとめちゃったので、ここでは別の視点からの感想を。
今回の一連の流れを意地悪く言うと、「携帯電話事業者達は、OTTメッセージングに敗れ去り、最終的にGoogleに全てを委ねることとなった」ということになる。RCSという通信技術的な加護がある分野ですら勝負できなかったんだから、このことは「携帯電話事業者がスマートフォンの画面の中心に出てくるというチャンスはほとんどなくなった」ことを意味するんじゃないかと思っている。
A: 確かに、そうなのかもしれませんね。
B: スマホ画面の中心を取り合うメッセージング、SNS、動画、ゲーム、どれもが勝者総取りなって生き残ったものの巨大化が進んでいる。20年前ならともかく、今や各社とももはや携帯電話事業者では手が出ないほど巨大になっている。
Facebook、テンセントは言うに及ばず、TiktokのByteDance社の昨年度の売上はおよそ1800億ドル(28兆円)と言われているし、日本ではロシアの怪しいSNSとしか思われていないTelegramですら15億ドル(2300億円)もの売上がある。コンテンツが専門ではない携帯電話事業者が、そんな資本力と闘って勝利するのはどう控えめに考えても難しい。
A: 確かにそうですね。このことは、それだけスマホの画面の中心を奪うと大きな利益が出るという事の裏返しなのでしょうけど。
B: そうなると、携帯電話事業者に残っているのは、ユーザーの身元を保証し、毎月確実にお金を回収できる「請求・回収インフラ」という最後の砦の”決済”だけになる。日本の携帯はほぼほぼポストペイド、つまり月額後払いで、事業者はユーザーの口座情報も信頼情報も持っているので、決済で勝負できている。しかし、世界ではそうではなく、プリペイドが中心の国も多い。そういう国だと、スマホ決済もOTTメッセージングサービスの会社とか、他のフィンテック企業とかに取られているんだよね。
A: じゃあ、携帯電話事業者は土管に徹するしか無いんですね。
B: そこまでは言わないけど、残念ながら携帯電話事業者が通信以外のサービスで儲けるというチャンスが、非常に小さいものになってしまったのは確かだろう。もちろん、日本のテレビ局みたいに、放送じゃなくて不動産で儲ける、みたいな全く別のビジネスに関しては別だよ。あくまでスマートフォン上での商売ってことで。
A: それは分かってます。
B: そして、この流れが次世代”6G”の方向性も左右するのだろうと思う。
今後、携帯電話事業者は、通信料で儲けるという原点に帰らないといけない。けど、Wi-Fi 8の時も話したように、もう通信速度向上なんて求められていないし、そこにお金を払ってくれるユーザーは極めて少ない。
となると、信頼で金を取るか、そもそもの口(台数)を増やすかのどちらかだよね、通信での売上を増やすには。
A: あれ?それって5Gの時にも言っていた様な・・・URLLC※7やmMTC※8とか。
B: そうなんだよね。10年前の議論と同じ事をするハメになると思うよ。
まあ、Starlinkはじめとする非地上系ネットワーク(NTN)とかLLMやフィジカルAI※9など、5Gの時よりかは伸びしろがある通信が見えてはいるけど、それが果たして土管専業となった携帯電話事業者の設備投資を賄えるのかというと、どうなんだろうね?
A: 難しそうですね。
B: 私はずっと言っているんだけどな、6Gに必要なのは高度な通信技術ではなく、基地局を1円でも安く建てる技術だと。そうしないと、通信以外の収入が絶たれつつある事業者にとって、周波数が上がって、それに伴い基地局数が増えていくという負担に耐えられない。
もちろん、6Gの技術目標とかには「機器を安くする」という項目が含まれてはいるんだけど、概念的にさらっと書いてあるだけとか、省エネで省コストみたいな文脈に含まれていたりして重視していないのが透けて見えている。まあ、それをやっても3GPPの規格を牛耳っている海外の大手通信ベンダー(エリクソンやファーウェイなど)にはメリットなんてないから当然だし、それを分かっていても事業者側にもそれを押し返す力は無いしね。むしろ、今のベンダーの敵はソフトウェア化(vRAN)やオープン化(O-RAN)で主導権を狙っているIT企業だし。
あれ? そう考えると、もしかしたらRCSの時と同じように、事業者は基地局でもGoogleに何とかして貰ったら良いのでは?
A: Googleが基地局を作るんですか? まあ、GoogleはもともとCPU※10も通信SoCも作っているし、仮想化やクラウドも大得意だし、できなくはないでしょうけど・・・ そこまで言うなら、事業者業務も全部Googleがやればよくないですか?
B: サービスから端末から基地局から集金まですべてGoogleか。もう、Google国でも作って貰って、みんなそこで暮らせば良いよ。
A: マトリックスの世界が完成ですね・・・ それでいいんですね、ミスター・アンダーソン?
※7; Ultra-Reliable and Low Latency Communications:超高信頼低遅延通信のこと。5Gの目玉であったが、現状はあまり浸透していない。
※8; massive Machine Type Communication:超多数接続のこと。5GのIoT向け規格として考えられていたが、先に4G(LTE)のNB-IoTがIoT向け規格として普及したため、5GのIoT向け規格は実用化されていない。
※9; 人間が生きる物理的な世界(3Dの世界)を理解するAI。ロボット、ドローン等で使われるAIを指すことが多い。
※10; Googleは2024年からクラウドサーバー向けに、ARMベースの”Axion”CPUを製造販売している。



