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トピックス

記事公開日

超高信頼ってなに? 前編
高校生でも分かる通信用語#28

はじめに

先月のMWC2026にて、アメリカのQualcommがWi-Fi 8(IEEE802.11bn)用のチップを発表して話題になりました。皆さんも、家庭や学校で必ず使っているであろうWi-Fiは、近年そのバージョンがナンバリングで管理されるようになっています。現行の最新規格はWi-Fi 7ですが、今販売している全ての機器がWi-Fi 7対応しているわけではありません。例えばiPhone 17無印はWi-Fi 7対応ですが、先日販売したiPhone 17eはその前のWi-Fi 6までしか対応していません。Pixel 10に至っては、Wi-Fi 7の対応はPro以上のみで、10aどころか10無印すら対応していません。つまり、Wi-Fi 8とは、まだ十分に広まったとは言えないWi-Fi 7の更に次のバージョンということになります。

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Wi-Fiのナンバリング

そのWi-Fi 8ですが、現在2028年5月での承認を目指して標準化の作業が進められています。標準化とはWi-Fi 8の機能や性能を細かく、そして厳密に決めることです。言い換えると、誰が作っても同じ機能を持つ製品になるようなルールを決めることです。Wi-Fi 8は後2年後ぐらいにルールが決まる予定である、つまりWi-Fi 8に対応した製品はあと2年後ぐらいに出る予定ということになります・・・

ただし、Wi-Fiの世界は不思議なもので、承認される前、つまり規格として確定する前に商品自体は出てくるんですよね。なんか「Draft版対応」とか何とか言って。規格化の正式決定を待たずに、今決まっているルールでさっさと作っちゃう人達がいるんです。これ、何が言いたいのかと言えば、冒頭のQualcommがWi-Fi 8のチップを発表したというニュースは、近いうちにそれに対応した製品が出てきますよ!ということを意味するということです(もちろん、まだもう少し時間はかかります)。

でも、そんな説明をしたところで、普通の人はWi-Fiにどんな機能があって、ナンバリングの番号によって何が違うのか把握していないと思います。いや、実際に業務として扱っている我々ですら、専門でやっている人以外は、細かいところまで把握していませんしね。では、私がなぜ今いきなりWi-Fi 8の話をしているのかというと、Wi-Fi 8が従来と違い通信の最高速度の向上を捨てたことを知ってもらいたかったからです。

このブログ(というかこの記事を書いている私)は、繰り返し「ユーザーは今以上の通信速度を求めていない」と言い続けていました。その理由は「コンテンツが無いから」。私はYoutubeやNetflix、Prime Video以上に通信速度を必要とするコンテンツが存在していないと考えています。しかも、その状態がスマホ登場以来15年以上続いています。皆さんには、実際これら以上に通信速度が必要なアプリやコンテンツって何か思いつきますか? 精々、ゲームのダウンロードが早くなってうれしい、ぐらいなものですよね? もしかして、スタディーサプリや東進の授業が1Gbpsぐらいの64K全周囲VR動画で配信されたら、うれしいですか?

一方で技術者って闇雲に通信速度を求めてしまうものなのです。「速度を上げる=技術力」ですからね、それは私もわかります。でも、残念ながら「コンテンツ側」の需要が無いため、通信速度も必要とされなくなってきています。事実、携帯電話が4G(LTE)から5Gになったことを喜んでいる人を私は見たことがありません。むしろ、4Gで良いから電車の中でも安定して繋がって欲しい、そう思っているんじゃないですか、多くの人は。

Wi-Fiも6、7までは高速化を追い求めていました。しかし、8になりついにそれを止めました。なんと、Wi-Fi 7と8では理論上の最高通信速度は同じなんです。いよいよ、Wi-Fiの技術陣ですら速度を求めなったということです。これは画期的なことです。

それでは、速度も変わらないのになんのために7から8というメジャーバージョンアップを行うのか?それは、Wi-Fiに「超高信頼」という通信を加えるためです。え?超高信頼ってなに? ということで、前置きがめちゃくちゃ長くなりましたが、今回は、Wi-Fi 8のコンセプトである「超高信頼」とはどんな通信のことを指すのか、説明したいと思います。なるべく、わかりやすくしていくので、最後までお付き合いください。

Wi-Fiの高速化の歴史

唐突ですが超高信頼を説明するために、まずはWi-Fiがどのように高速化してきたのかを説明したいと思います。これを書かないと後の説明に困るので、お付き合いください。

まず、Wi-Fiに限らず、携帯電話含め今どきの高速デジタル通信の通信速度を上げる方法は、おおよそ次の3つの方法に限られています。

  1. MIMOのアンテナ数(正確にはストリーム数)を増やす
    • MIMOは、簡単に言うとアンテナ数を増やすとそれだけ速度が増えるという技術です
    • アンテナ数と最大通信速度が比例します
    • 例えば、Wi-Fi 4以前のWi-Fiは1本のアンテナだったのが、Wi-Fi 4になり2本まで使えるようになりました
    • Wi-Fi 7では最大16本まで使えるようになりました
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MIMOのアンテナ数と速度の関連性
  1. QAMの次数を上げる
    • QAM次数とは、単位時間当たりの情報(ビット)の量だと思ってください
    • QAMの次数、つまりビット数と最大通信速度が比例します
    • Wi-Fi 4では最大6ビットだったものが、Wi-Fi 5では8ビットまで使えるようになりました
    • Wi-Fi 7では最大12ビットまで使えるようになりました
  2. 帯域幅を広げる
    • 帯域幅と最大通信速度が比例します
    • 例えば、Wi-Fi 4以前のWi-Fiは最大20MHzまでしか使えませんでしたが、Wi-Fi 4になり40MHzまで使えるようになりました
    • Wi-Fi 7では最大320MHzまで使えるようになりました
    • Wi-Fi 7では、さらに複数の周波数帯域(バンド)を同時に使えるようになりました(例えば、2.4GHz帯と5GHz帯と6GHz帯を同時に使うようなことが可能になりました)
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Wi-Fi周波数幅の推移

Wi-Fiの高速化の歴史も、当然この3つの方法を実行してきた歴史といっても過言ではありません。Wi-Fi 4以降の各バージョン(ナンバリング)と、通信速度を上げるために使われた方法を下の表にまとめました。ナンバリングが上がる度に、この3つの方法のいずれか、または全てが使われてきたことがわかります。

規格名 承認時期 理論上最大速度 MIMO
ANT数増
帯域幅増 QAM
次数増
備考
Wi-Fi 4 2009/10 600Mbps   MIMO初導入
Wi-Fi 5 2013/12 6.9Gbps  
Wi-Fi 6(E) 2021/5 9.6Gbps     完全リニューアル
Wi-Fi 7 2024/9 46Gbps 複数バンド同時使用

しかし、上の表の説明の前に、まず言わなければいけないのは「通信速度の向上に関しては技術的な余地がなくなっている」ということなんです。すでに、高速化の対策を行いすぎて、上記方法の"1","2"は物理的限界に近づいているといってよい状況になっています。さらに、限界が近づくほどそれぞれの効果が薄くなってしまうため、数字の上限が上がったように見えても、実際に使った時の速度にはほとんど影響しなくなっています。

今や実質的にWi-Fiの通信速度向上に寄与しているのは"3"、つまり帯域幅だけなんです。帯域幅だけは、嘘偽りなく通信速度にそのまま比例します。しかし、Wi-Fiの帯域幅というのは、技術と言うよりも「周波数の割り当て」という政治的な話になるため、自由に広げられるわけではありません。つまり、こちらはこちらで別の方向から限界が近づいています。

そんな限界が近づく中、関係者みんなで頑張って、最大通信速度を何十Gbpsまで上げてはみたものの、結局のところ皆さんがWi-Fiを使っていて上の表の最大速度が出た事なんてないんじゃないですか? それは当然です。先も書いたとおり、すでに"1"と"2"の効果が数字通り出ないからです。極々限られた条件でしか最大速度は出ません。ですから、上の表の最大速度なんて、はっきり言えば中身のない”はったり”速度なんです。どの規格とも最大速度の半分も出ればもの凄く良い方で、下手すりゃ10分の1も出なかったりします。それって、意味のある数字なんですか?

例えば、中国CHUWI某社のPC※1はCPU偽装だといって叩かれて返品騒ぎになっていますが、それですらベンチマークでみれば精々25%程しか盛ってない訳です。何と比べているんだと思うかもしれませんが、CPUの速度だと25%で大問題になるのに、Wi-Fiの速度なんて25%じゃ比較にならないほどに盛られている。最大速度って、本当にこれで良いんですかね?

Wi-Fi 7では、最大で46Gbpsという速度が出るようになりました。でも、様々なごく希な条件が重なったときにだけ可能となる46Gbpsを、誰がどんな用途で使っているのでしょうか? はっきり言います、誰も使っていないでしょう。まず、こんな理論上の最大速度なんて誰も信用していない。そして、そこまでの通信速度を誰も必要としていない。つまり、スペック上の通信速度を信用もしていないし、そもそも今以上の速度の必要も無いから、Wi-Fiのバージョンアップなんてどうでも良い。どうでもよいから、予想より機器の入れ替え(リプレース)が進まない。これがWi-Fi高速化の結果なんです。

次回予告

次回は、いよいよ通信速度に代わって選ばれた「超高信頼」についての話です。超高信頼とはなにか?どのように実現しているのか等、技術的な話をしていく予定です。

(担当M)