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【令和最新版】LPWAってなに? 前編
高校生でも分かる通信用語#30

はじめに

みなさんIoT(あい・おー・てぃー)という単語は聞いたことがありますか?Internet of Thingsの略で、日本語で言うと「モノのインターネット」のことを指します。もっと具体的に言うと、「パソコンやスマートフォン等の計算機能を持つ機器ではないものがインターネットと繋がること」を指します。

IoTの例として一番よく使われるのが、電気やガスなどのメーターです。電気メーターやガスメーター、水道メーターは、各家庭がどれぐらいの量の電気、ガス、水道を使ったかを測定しており、それをベースに料金が徴収されます。そのために、このメーターを各家庭まで読みに来る「検針員」という人がいます。料金は一月に1回徴収されるので、この検針員もひと月に1回全世帯を回るのです。各メーターは家の裏とか地中埋設とか面倒な場所に設置されていますので、検針は手間のかかる仕事であり、それゆえそれなりの人件費がかかっていました。しかし、現在ではメーターに通信機器が取り付けられている家庭もあり、時期になれば勝手に通信してメーターの値を電力会社などのサーバーへ送信してくれます。つまり、メーターは人間が関与せずに通信しているので、こういったものを「IoT」、すなわち「モノのインターネット」と呼んでいるのです。

IoTは、メーターのような”センサー的なもの”での使用が主と考えられているため、高速な通信が必要ではありません。しかし、その代わりに(Wi-Fi、Bluetooth等と比べ)広い範囲で確実に通信できることが必要で、尚且つ乾電池で長期間動くレベルの超低消費電力も必要となります。

さて、このIoTを実現するために、世界的に800~1000MHz帯という”サブギガヘルツ”と呼ばれる周波数が割り当てられました。周波数が低いほど電波は遠くまで飛ぶのですが、その分大きなアンテナが必要になります。一方で、周波数を高くしてしまうと電波が遠くまで飛ばず、また障害物に遮られやすくなります。このような"遠距離伝送と障害物回避"のバランスを考慮した結果、サブギガヘルツ帯が最も汎用性が高いため、IoT向けとして世界的に採用されるようになりました。日本では920MHz帯が割り当てられて、多くのIoT機器がこの周波数を使っています。

このサブギガヘルツ帯(920MHz帯)を使い、低速ではあるが広範囲に届き消費電力が小さいIoT向けシステムのことを、一般にLPWA(Low Power Wide-Area Network)と呼んでいます。LPWAという単語には厳密な定義があるわけではなく、サブギガヘルツとは異なる周波数を利用するIoTシステムも存在します。しかし、世界的に主流となっているシステムが全てこのサブギガヘルツ帯をメインに使用しているため、「この帯域を用いるIoT向けシステム」の総称としてLPWAと呼ばれることが多いのです。

実は、このLPWAという単語が世の中に広まったのは2016年ぐらいからなので、それからおよそ10年が経とうとしています。しかし残念なことに、この過去10年間で「LPWA」という概念自体が広く浸透したとは言い難く、さらには専門家(業界人)の間ですら、その存在が忘れられかけている状況があるのです。本稿では、「専門家からも注目されにくい」LPWAという概念に焦点を当てます。これを、現在の高校生や大学生の皆さんにもわかりやすく解説しつつ、【令和最新版※1と名付け、LPWAの現状を深掘りしていきます。

そもそもLPWAは何を目指していたのか?

まず、話を過去、約10年前の2016年頃に遡り、 当時のLPWAがどのような用途を目指していたのかを、具体的な事例を挙げて見ていきましょう。これらの例を通じて、LPWAに求められていた要件(機能)を理解する助けとなるはずです。

以下、当時LPWAの用途としてよく取り上げられていた5つの例を紹介します。

  1. スマートメーター(公共インフラの自動検針)
    • 電気メーターやガスメーター、水道メーターなどの検針データを無線で自動的に送信
  2. 物流のトラッキング
    • 「コンテナ」とか「台車」とかにまでLPWAのモジュールを取り付け、現在場所や移動履歴などを管理
  3. スマートシティ
    • ゴミ箱にLPWAモジュールを取り付けゴミの回収を容易に
    • 川や水路の水位を監視
    • スマートパーキングと呼ばれる空いている場所を管理
    • CO2やNOxのセンサーにLPWAを付けて、空気の汚染状況をリアルタイムで把握
  4. 農林水産業モニタリング
    • 電源の確保が難しく、Wi-Fiも届かない農地や山林での利用
    • 温度、降雨、土壌状態のモニタリング
  5. 高齢者・子供・ペットの見守り
    • ランドセルや首輪に小さなLPWA端末を付け、保護者がスマホで位置を確認

当時、このように幅広い用途がLPWAの可能性として描かれていたのです。しかし、読者の皆さんから見ると、これらの用途は「既にあるもの」や「当たり前すぎないか?」と感じる部分はないでしょうか?

LPWAは前述したように、「電力が不安定な場所でも電池で動作し」「数kmに及ぶ広範囲をカバーする」通信を実現します。スマートフォンのように巨大な電池を搭載してくれてそれを(ユーザーが)毎日充電してくれるというものでもないし、かといってBluetoothのように近くの機器とだけ通信できれば良い、というものでもない。LPWAは、特に「電力面」でかなりの制限があるシステムなんです。つまり、LPWAが実現できるのは「電力面での制約が大きい環境下」に限定されてしまうため、初期の時点ですでに「あらゆる使い道がある万能システム」として認識されにくかったのです。

それでは次に、LPWAが抱える技術的な制約とは何か。そして、実際に現在どのような形で使われているシステムなのかを、次章以降で詳しく解説していきます。

LPWAの仕組み

LoRaとは?

LPWAとして、もっとも有名でもっとも普及したシステムはLoRa(ろーら)でしょう。LoRaはLong Rangeの短縮で、文字通り長距離で通信できるように開発されたシステムです。LoRaは国際標準化こそされていませんが、Wi-Fiと同じような"LoRa Alliance"という業界団体が作られており、技術規格の管理、相互接続の承認などを行っています。LoRaという技術はもともとフランスの会社が開発したものでしたが、世に広まる前の2012年にアメリカの通信半導体メーカーであるSemtech社に買収されています。

このLoRaの特長は「低消費電力で長距離通信が可能である」という点ではあるのですが、LoRaが他のLPWAシステムより優れていた最大のポイントは、機器が「安価に揃えられる」という点にあると思います。LoRaは"LoRa Alliance"が管理する公開された技術であるため、誰でも機器を製造でき、そのため親機もWi-Fiのアクセスポイント程度の価格で購入する事ができています。これは、半導体メーカーのSemtechがLoRaの権利を持っているために、LoRaの通信用半導体チップ(モデム)をSemtech自身が開発・製造できるという点も大きいはずです。このブログではなんどか取り上げていますが、半導体の開発が一番手間もお金もかかります。LoRaはメーカー自らが所有する規格のため、そのハードルを最初から越えられている点も、大きなアドバンテージになりました。

長距離通信の大変さ

次に、本題である”安さ”以外のLoRaの技術的なポイントを順を追って説明していきたいと思います。

LoRaは半径数kmで通信できることと低消費電力を売りにしています。しかし、通信として長距離を通信することと、消費電力を削減することは相反することになります。これは物理法則です。例えば、ある機器を(周波数を変えずに)長距離で通信したいと考えるのであれば、

  • できるだけ高い電力で送信する(送信電力を上げる)
  • 電波が悪い状況でも通信できるようにする
    • 遅い通信速度で送信する
    • 必要であれば繰り返し送信する

という2つの性能のどちらか、もしくは両方を実現する事が必要です。しかし、高い電力での送信は言うまでもなく電力を消費します。しかも、一般的に送信電力と電力消費は比例ではなく、送信電力を上げようとすればするほど効率が悪くなり、電力消費が大きくなってしまいます。これは、スピードをあげようとすればするほど燃費が悪くなる自動車と同じです。だから、消費電力を重視すると、送信電力を上げるのが非常に難しいのです。

また、遅い速度で通信することも、同じデータ量を長い時間をかけて送信することになるため、結果的に電力を多く消費します。例えば、1MB(8Mbit)のデータを100kbpsで送る場合は80秒かかります。しかし、100倍の10Mbpsで送れば、100分の1の時間、つまりたった0.8秒で送ることが出来ます。100kbpsと10Mbpsでは回路的に同じ消費電力ではありませんが、100倍高速なCPUが100倍電力を消費するのではないのと同じように、通信においても100倍も電力を消費しませんから、結果的に10Mbpsで送った方が電力消費はかなり少なくなります。また、確実に送信しようとして繰り返し送信したら、繰返し回数分の余計な電力を消費します。

このように、長距離通信と低消費電力は根本的に相反するわけです。では、長距離通信で電力消費を抑えるにはどうしたらよいでしょう。もちろん、送信電力とか、通信速度のバランスを取る、そういった考え方も大事です。しかし、それで抑えられる電力など知れたものです。だから、電力消費を劇的に下げる方法は一つしかありません。それは、送るデータを少なくすることです。なんなら、何も送信しなければ電力を全く消費しません。まあ、それは冗談として、データが少なくして送信時間を少なくすること、これこそが最大の消費電力削減方法であることは間違いありません。

面倒なのは送るよりも受けること

さて、上の項で書いたのは送信の時の消費電力の話です。送信の時に電力を消費するのは皆さん異論がないと思います。しかし、実は送信時以上に消費電力が大きくなるのは受信時の電力なんですよね。

通信機には2つの種類があります。一つは、ラジオやトランシーバーのように明示的に機器の電源を入れている間だけ受信をすれば良いという機器。もう一つは、携帯電話やスマートウォッチのように電源をOFFにすることはなく24時間稼動していて、その間ずっと受信し続けている機器。用途を考えるとLoRaのようなLPAWの機器は後者にあたると考えられますよね?けど、後者って、とても電力を消費するのです。

通信機は電波を出していなくても、受信回路を動作しているだけで電気を消費します。と言うのも、電波を受信するには無線機だけ電源を入れても意味は無く、通信に必要な周りの部品、例えば復調器やCPUなどの部品にも電源を入れる必要があるからです。

例えば、携帯電話はいつ来るか分からない電話やLINEなどの呼び出しを24時間つねに待ち続けなければなりません。でも、ほとんどの携帯電話は電池で動くために、24時間常に受信回路に電源を入れておくことは出来ません。

この受信時の電力消費の問題に対して、携帯電話はどうしているでしょうか? 携帯電話(5G)では、通常1.28秒に1回、およそ1ミリ秒間だけ起動して電波受信する仕組みになっています。これを、一般に間欠受信と呼んでいます。携帯電話は、その1ミリ秒という短い時間の間だけ受信回路を起動し、自分に対する呼び出しが来ているかどうかを確認します。ほとんどの場合自分への呼び出しはないため、受信の後すぐに機器をオフにします。仮に呼び出しが来ていれば、ユーザーに対して通知を行うために端末全てを起動することとなります。この呼び出しの確認ですが、間隔だけ見れば1.28秒に1回ですから結構頻繁ではありますが、1回の時間が1ミリ秒程度なので、受信回路が動いている時間は、実時間の千分の一以下なんですよね。こういった工夫により、充電無しでも何日も電池が持つ、という現代の携帯電話を実現しているのです。

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間欠受信
受信間隔の時間設定は0.32~2.56秒の間で可能だが、1.28秒で設定されるケースが多い。

では、LoRa(の子機)はどのように受信時の電力消費を抑えているのでしょう。普通の乾電池で何ヶ月も何年も稼動しなければならないLoRaでは、携帯電話のような間欠受信をすることは難しいため、そこは潔くすっぱりとあきらめました。そして間欠受信をあきらめた結果、なんとLoRaは送信の直後でしか受信しないという恐ろしい仕様となりました。

LoRaはIoT機器という特性上、送信は何かのタイミング、例えばタイマーだったり、外部からの電気信号だったり、という何かしらのイベントによって発生します。そして受信は送信直後の一定時間だけ行います。親機は子機からの信号を受信すると、急いで子機に対して信号を送ります。”子機からの信号を受信しました”という返事に加えて、パラメータ変更等が必要な場合はそれもこのタイミングで行います。子機は受信時間が終わると即座に電源をオフします※2(下図左)。

この「送信直後しか受信出来ない」というルールは絶対で、もし親機に沢山送りたいデータがあって1回の親機の送信(子機の受信)では送りきれない場合子機にわざわざもう一回送信するように指示します(下図右)。受信のために、わざわざ意味の無い空データの送信を行うんですから徹底してます。いずれにしてもLoRaのこの仕組みにより、消費電力を大幅に削減することが出来ています。

fig
LoRa送受信シーケンス

しかし、子機が送信直後しか受信しないということは、すなわち子機の呼び出しが出来ないことを意味します。このLoRaの制限により、LoRa、引いてはLPWA全体の使い道が大きく狭められることになったのです。

次回予告

次回は、LPWAが狙っていた場所は現在どうなっているか?という話です。数が出るであろうGPSモジュールや、スマートメーターは他のシステムとの競争が激しく、LPWAは苦戦を強いられています。開始から10年後、LPWAの現在地をお届けします。次回をお楽しみに。

(担当M)

※1; ネットスラングです。意味はこちら

※2; 1秒程度の受信(RX1ウインドウ)に加えて、RX1ウインドウで受信出来なかった場合に、RX2ウインドウと呼ばれる異なるチャンネルでの待ち受けを確認する時間も存在する。