記事公開日
【社内雑談】Pixel 10aも当然ミリ波非対応
(と言いつつ衛星SOSの話題)後編

【社内雑談】Pixel 10aも当然ミリ波非対応 前編 後編
はじめに
引っ越し以前からこのブログを読んでいる方ならご存じかと思いますが、我々は自称「ミリ波応援隊」として、ひたすら携帯電話のミリ波に関する記事を書き続けています。
しかし、残念ながらミリ波対応端末は減る一方。そして、先日の2026年2月18日に、GoogleがPixel 10aの発表をしました。カメラの出っ張りが無く、背面までフラットな筐体は非常に魅力的に映ります。2025年に販売した端末の中で、唯一ミリ波に対応(Pixel 10 Fold)したGoogleの最新機種は、はたしてミリ波に対応しているのか?そして、Pixel 10aはどういった無線的な機能を持っているのか?ミリ波応援隊の我々が予想したいと思います。
衛星SOSシステムの違い
Apple iPhoneのシステム
B: 次に緊急通報システムとの接続の問題。警察、消防等の緊急連絡先は英語ではPSAP(Public Safety Answering Point)と略されることが多いんだけど、そことの接続を確立するのに時間がかかる。簡単に言えば、衛星から110番や119番へどのように繋げるかの調整に時間がかかる。
A: そんなところに問題があるんですか? 確かに、衛星から各国のPSAPへどのように接続しているのかって考えたことなかったです。
B: これはPixelとAppleのシステムと比較するとわかりやすいから、まずAppleの衛星SOSシステムから説明します。
A: よろしくお願いします。
B: 上の図がApple iPhoneデータの流れだ。まず、iPhoneがGlobalstarの衛星にSOSのテキストメッセージを上げる。Appleは衛星専用の独自プロトコルを自社開発している。で、それが衛星に届くと、そのまま地上局へ送り返すこととなる。いわゆる、衛星にあるのはいわゆるトランスポンダなんだけど、無線的に内容を全くいじらないのでトランスペアレント型、別名ベントパイプ方式と呼ばれている。
A: 放送衛星とかも、折り返しているだけですし、ベントパイプですよね。
B: ただ電波を折り返すという点では放送衛星と似ているんだけど、Globalstarと放送衛星では地上局の考え方が異なるんで、そこを説明します。
まず、ベントパイプ方式は電波を折り返すだけだから、衛星からはユーザー端末、つまりiPhoneと地上局の両方が見える状況でないと通信ができない。でも、それは静止衛星なら問題ない。衛星は(見かけ上)動かないので、1箇所の地上局が衛星に対して常に同じ方向を向いて通信していればよいだけだから、事実上地上局が見えているに決まっているので、そうなると結局衛星の電波の範囲がそのまま通信範囲ということになる。
しかし、Globalstarは衛星コンステレーション方式だ。衛星コンステレーションということは、衛星は常に動いており、同じ場所にはいない。だから、地上局は衛星を追尾しなければいけないし、地上局は接続する衛星がコロコロ変わる。しかし、その状況でベントパイプ方式で通信を実現するとなると、沢山ある衛星がどんなに動いても、どの衛星からも常に地上局が見えている状況である必要が出てくる。
一方で、例えばこちらの記事で紹介しているStarlinkとかSDAの衛星だと、衛星同士が通信するため、各衛星は必ずしも地上局が見えている必要は無い。衛星間でデータを渡して、どこかの地上と通信している衛星までデータを届ければ良い。だからこそ、9000とか10,000という数の衛星でも通信できるって事ではあるんだけど。しかし、その代わり衛星で電波を復調、デコードしてデータだけを取り出さなくてはいけないから、衛星は高価になるし、衛星の消費電力も増える。この方式はリジェネレイティブ型と呼ぶらしい。
A: Starlinkはリジェネレイティブ型ということですね。ただ、ベントパイプ方式を考えた場合、リジェネレイティブ型に比べて地上局の数が必要になりそうです。衛星が安く済んでも結局、地上局でコストがかさみそうですが。
B: そう、その通り。どちらが低コストで済むかは設計次第だけど、確実に言えることはベントパイプ方式でサービスエリアを増やすためには、衛星よりもまず地上局を増やさないといけないということ。それはGlobalstarでも同じ。そして、全世界でサービスしたいAppleは、その点をどうやって解決したのか?
A: アップルならではの秘訣があるんですか?
B: そう、あるよ。なんと、Appleは・・・ ありあまる資金を使って、地上局を沢山増やした。そりゃ、元のGlobalstarとAppleじゃあ、使えるお金の桁が違う。たかだか携帯電話の1機能のために15億ドルをポンと出せる会社は多くはない。Appleはそれで地上局を作らせた。
A: ぐぬぬ。金の暴力・・・
B: さらに、アップルはリレーセンターと呼ばれる衛星SOSの受信センターも作った。リレーセンターがAppleと各国のPSAPとの接続を担う。具体的には、SOSが上がってきた国のPSAPがテキストメッセージに対応していれば、そのまま該当国へテキストベースで通報。対応していなければ、Appleが用意した専用オペレーター(人間)が各国のPSAPへ音声電話を掛ける、そういった仕組みになっているようだ。
例えば、日本はPSAPの仕組みが地域ごとに異なっていて、テキスト通報で対応できるPSAPもあるけど、まだまだ音声しか対応できないPSAPも多い。日本以外を見れば、テキストに全く対応できない国も少なくないだろう。そういったところは、24時間365日対応のオペレーターが吸収しないといけないから、結構リレーセンターは手間も人手もお金もかかるし、簡単ではない。
そうした背景があるからこそ、このシステムの最大の特長は、端末から衛星、リレーセンターに至るまでAppleがほぼ全て自社で賄っているところと言えると思う。金の力だね。
A: AppleはGlobalstarを含めて、かなり力業で衛星SOSをいれてきたということが分かりますね。
Google Pixelの衛星SOSシステム
B: 次は、Pixelのシステム。
A: 仕方ないとは言え、色々な会社が出てきますね。アレ?Garmin(がーみん)って、あのGarminですか?
B: そう。あのGarmin。GPSとかスマートウォッチのGarmin。まあ、Garminについては後程説明しよう。まずは、衛星のところから。
前回も説明したように、Pixelはインマルサットの衛星を帯域借りしているSkyloという会社の回線を使う。そのSkyloは衛星との通信に3GPPのNTN NB-IoT規格を使っている。NB-IoTはLTEのIoT用の規格だね。IoTの規格だから、狭帯域だけどロバスト性能が高くて、とにかく省電力。それをNTN※5用通信としたものがNTN NB-IoTだ。NB-IoTはPixelのモデムが対応しているから、実装は容易だ。
A: なるほど、携帯電話の標準規格だからモデムが流用できる。NB-IoTってこういう使い方もしているんですね。
B: インマルサットは静止衛星なので、赤道上空36,000kmの位置にある。先ほどのGlobalstarは約1,400kmなので、静止衛星が真上にない(日本なら南方にある)ということも考慮すれば、両社の通信距離にはかなり差がある。遠くと通信するため、電力は食うし、遅延は大きいし、速度も出ない、というのは覚えておくべきポイント。ちなみに、Globalstarも衛星コンステレーションとしては高い軌道の方です。Starlinkなんて地上550kmだからね。
A: インマルサットは、遥か遠くの衛星がトランスポンダで折り返しているということですね。
B: そう。ただ、インマルサットは折り返しではあるんだけど、単純な折り返しではないらしい。私も正確には理解していないけど、インマルサットは、デジタル・チャネライザーと呼ばれる「データの中身までは見ないけど、いったんデジタル化して周波数やビームを変える」トランスポンダを使っているとのことだ。Globalstarの方が、単純に周波数を変えて増幅しているだけのトランスポンダだったのに対し、デジタルで色々と加工してから送っているから、インマルサットの方式は「デジタルトランスペアレント型」と呼ぶらしい。
A: トランスポンダの進化型、ということですかね。
B: インマルサットの地上局でデータを受信した後は、Skyloのコアにデータが飛ぶ。ここまではSkyloの管理範疇。
A: 課金とかもあるでしょうから、どちらにせよSkyloのコアを通す必要がありますね。
B: そうだね。Skyloは別にPixelの衛星SOSだけをやっている会社ではないので、Skyloコアからは様々な場所へデータは飛んでいくんだけど、Pixelの衛星SOSのデータに関しては、Garmin応答センターへ飛ばされる。
A: いや、なんでここでGarminが出てくるんですか?
B: じゃあ、ここで更にGarminの説明を。Garminは携帯型GPS(GNSS)受信機の老舗といえるメーカー。アメリカ本社※7だけど、工場は台湾にあるから、私的には台湾メーカーというイメージかな。今でこそ携帯、スマホには必ずGPSが付いているけど、そんな時代よりもずっと前からGPSの受信機を作っていた。
Garminの祖業は航海用のGPSレシーバーだったけど、Garminの名を不動のものとしたのは登山用のGPS受信機だと思う。携帯圏外でも地図上に自位置を表示できたから、登山する人の多くがGarminのGPS受信機を持っていたんじゃないかな?登山と言えばGarminだ。
それに、自転車界隈の人もGarmin必須のようだ。サイクルコンピューターと言って、自転車に取り付けて速度、位置、方向、距離、回転数(ケイデンス)、心拍数なんかを表示、記録する装置があるんだけど、これの最大手がGarminだ。というか、自転車趣味の人に聞いたら、ガチ勢は基本Garminを使うらしい。
A: Garminは、そういったスポーツ系に強いんですね。ニッチだけど、確実な需要がある。
B: それ以外にも航空用GPS受信機みたいな超プロ向け機器も作っているし、とにかくGPSといえばGarminと言って過言ではない。我々だって、かつては業務でよく使ってたしね。ちょっとまって、引き出しの奥に1台眠っていたような・・・
これこれ。GPSの電波を受信して、地図上で表示してくれる。これで、GPSの位置を取りながら、電波の測定とかしていたんだよ。
A: Bさんも、こんなの持っていたんですね。
B: でも、今の一般の人にはGarminはスマートウォッチの会社というイメージも大きいんじゃないかな?うちのじいさんがGarminのスマートウォッチを使っていて、買い換えのためにGarminのアウトレットに連れて行ったんだけど、そこで展示されている商品のほとんどがスマートウォッチだったからね。もはや、Garminはスマートウォッチのメーカーとも言えるのでは?もちろん、そのスマートウォッチもGPSからの派生なんだけどね。
A: そう言えば、Garminのスマートウォッチは単体でGPSが受信できるものが多いですね。ランニングガチ勢とかが使っているイメージがあります。
B: で、話を元に戻すと、Garminは登山者用GPSを多く作っていると言ったけど、その上級機種は、衛星電話経由でSOSを出せるようになっているんだ。Garmin inReachというサービス名で展開していて、その対応機器であればスマホ不要でGarminの機器だけで衛星SOSメッセージが出せる。2011年サービス開始※7だから、iPhoneよりもずっと早くサービスを開始している。日本ではかなり遅れて2018年開始だったらしいけど、それでも尚Appleよりずっと早い。こういうところは、さすが登山のプロGarminといった感じだ。
A: GPS受信機で衛星SOSが出せたんですか。Garminはかなり先を行っていたんですね。
B: 私は登山には全く興味がないし、登山に興味のある知り合いもいないので、この製品を持っている人も使っている人も見たことがないけど、どこでもSOSが出せるというのは登山者にとって魅力であろうことぐらい想像はできる。トムラウシ山遭難事故のように、携帯がつながらなかったが故に多くの犠牲者を出した(増やした)事故もあったからね。
ちなみに、Garminは衛星SOSの通信手段としてはイリジウムを使っているそうだ。イリジウムであれば、まあ多くの場面で通信できるでしょう。
A: イリジウムですか。衛星電話業界もいろいろ面白いですね。
B: Garminを持つユーザーは世界中にいるから、当然SOSは世界中から来る。それに対応するのに必要なものは、結局Appleと同じリレーセンターとなる。いや、同じというか、むしろGarminが元祖か。Garminのそれは「Garmin応答センター」と呼ばれていてアメリカにあるんだけど、24時間365日、Garmin機器からの衛星SOSを受け付けていて、各国のPSAPと繋げているんだ。ちなみに、登録してあると家族等の緊急連絡先へも連絡してくれ、その情報を元に関係各所、すなわち山岳救助隊などへ連絡してくれて、救助が来るまで本人と連絡を取り合ってくれるなど、山での遭難を前提としたかなりリッチなサービスになっている。この辺は、多くの登山者に愛され、使われているGarminだからこそのサービスって感じだね。
A: 確かに、このサービスがあるなら、登山するのにGarminを持たないという選択肢は無いですね。
B: で、ここまで話して分かったと思うけど、そんなリッチな対応までできる応答センターというか、いわゆるコールセンターを自社のためだけに使う必要は無いので、Google Pixelも相乗りした、そういった感じです。おそらく、PixelバージョンはGarminの遭難フルサービスではないと思うけど、Garminのオペレーターがやってくれるのだから、クオリティはかなり高いと思う。
A: Appleほど端末の数が出れば自前でコールセンターを建てれば良いですけど、Pixelはそういうレベルの端末ではないので、コールセンターをシェアするというのは確かに良い考えですね。いわゆる水平分業です。Appleに対抗するレベルになるとお金がかかりそうですから。
B: で、ここまで来れば予想が付いているだろうけど、Garmin応答センターと日本のPSAPの接続が遅れているというのがPixelの緊急SOSが日本で使えないことの、考えられる二つ目の理由。Garmin応答センターは日本も対応していたのになんでPixelを同じにできないのか、そこまでは知りませんが、すでに技適は通っている機種でも使えていないので、日本で使えない理由があるとしたらここと想定されるんだ。Appleと異なり複数の会社が関わっているし、いろいろと面倒なのは想像に難くない。
A: なるほど、確かにですね。
B: いずれにせよ、技適は通したわけだから、いずれPixelの衛星SOSのサービスは日本でも開始されるでしょう。日本の一般の人にとって衛星SOSが役に立つシーンはあまりないんだけど、しかし、これが役に立つときは人の命がかかっている様な場面になるはずだから、iPhone、Pixelだけでなく、今後も様々な端末へ広まっていくと思うよ。
A: そうですね。普段の電池を食うとかも無いですし、あって損があることは決してない機能ですしね。
まとめ
A: さて、時間も来ましたのでまとめをお願いします。今回はミリ波の話しだったはずが、衛星SOSという衛星通信の話がメインだった気がします。
B: NTNは、思いのほか各社積極的にやっている感じがするね。auはいち早くau Starlink Directなんてサービスを始めた。また、先ほどのSkyloはソフトバンクが出資しているからソフトバンクもそのサービスを始めそうだし、楽天は「最強衛星サービス」と銘打って今年春から大々的にNTNをやろうとしているし、ドコモはAmazonやスカパーJSATと組んでなんかやる予定みたいだしね。
A: なんか、どのキャリアもミリ波より力が入っている気がするのですが・・・
B: そう見える?まあ、見えるよね。超広帯域だけどごく一部でしか使えないミリ波と、もの凄く遅いけどどんな場所でも使えるNTNは、考え方が真逆だ。私の持論でもあるけど、今以上の通信速度を求めるコンテンツって現在のところ存在しないから、後者の「あらゆる場所で通信できる」というところの方が優先度が高いんだろう。そして、それがiPhoneやPixelの衛星SOS重視にも繋がっているんだろう。
A: なんか、ミリ波の趨勢が決まりつつある。ミリ波応援隊としては厳しい結末が見えつつ・・・
B: そう言えば、先ほどiPhone 17eの発表があったね。3月12日発売だから、日本においてはPixel 10aよりも早い発売になりそうだ。
A: ミリ波は?17eのミリ波の対応はどうなったんですか?
B: それは、また次回のお楽しみと言うことで。
A: えーーー!
(次回へ続く?)
【社内雑談】Pixel 10aも当然ミリ波非対応 前編 後編
※5; インマルサットIoT関連の技適(工事設計認証)は2026年6月30日付けで取得していたが、(発売機種バレを防ぐために)一定期間公開しない制度を使用していたため、報道は同年12月となった。
※6; Non-Terrestrial Networkの略。3GPP Release 17から標準化が本格化した、地上の基地局網(Terrestrial Network)を宇宙(衛星)や空(HAPS:高高度プラットフォーム)まで拡張するネットワークの総称。従来の衛星通信が専用端末を必要とする独立した系であったのに対し、NTNは5G/6Gアーキテクチャの一部として統合されている。これにより、標準的なモバイルプロトコル(NB-IoT等)を用いた、スマートフォン等の民生用端末と衛星との直接通信(Direct-to-Device)が可能となった。静止衛星(GEO)、中軌道衛星(MEO)、低軌道衛星(LEO)、および成層圏飛行体(HAPS)を重畳的に活用することで、山岳地、海上、空域を含む「地球上すべてのカバレッジ確保」を目指す技術である。
※7; 登記簿上の本社はスイスにあるが、実質的な本社機能はアメリカカンザス州にある。
※8; inReachはDeLorme社の技術(サービス)であったが、2016年にGarminがDeLorme社を買収し、inReachはGarminのサービスに統合された。






