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【社内雑談】盛り上がってる?ミリ波 その2

はじめに
先日、KDDIとJR東日本から山手線の車両内で5Gミリ波のエリア化に成功というプレスリリースがありました。これ以外にも、いくつかのミリ波に関する発表が続いています。我々はミリ波応援隊として5Gミリ波を様々の形で取り上げてきましたが、いよいよ各社ともミリ波に本腰を入れるのでしょうか?
時代を先取る?我々が、いつものようにミリ波について忖度なく語っていくのですが、今回は基本に戻って「ミリ波の技術的な課題」について語るようです。今回はどんな話になるのでしょうか?
毎度おなじみではありますが、このブログはエンジニア個人が好き勝手に発信するものであり、所属組織(株式会社三技協)の公式の見解ではありませんので、あらかじめご承知置きください。
ミリ波は透過しない
社員B(以下B): ミリ波が飛ばないわけではないのに「ミリ波は飛ばない」と言われる最大の理由は、ミリ波が物質を「透過しない」ということだと私は考えている。例えば、ミリ波は壁どころか、薄めのガラス板1枚ですら大きな減衰を余儀なくされるから、室内ではかなり使いにくい。
社員A(以下A): ミリ波は透過しないというのは良く聞きますが、ガラスもダメなんですか。
B: それも周波数の問題だ。周波数が低いほど物質を透過し、周波数が高いほど物質を透過しない。この特徴も別に電波に限らず、あらゆる波で同じ性質になる。例えば、音とか地震でも同じだ。
A: 地震と同じ!
B: じゃあ、せっかくなんで地震を例にとって説明しよう。地震の周期が短い揺れは、あまり遠くまで伝わらない。同じエネルギーであっても、地震の周期が長い揺れは遠くまで伝わる。周期が短いとは高い周波数を意味し、逆に周期が長いと言うことは低い周波数を意味する。
それでは、なぜ周期の短い揺れが遠くまで伝わらないかをざっくりと説明する。まず、周期関係無く地震の波の特性から。地震は地中で発生するのだから、地震の波というのは地中の岩や石、砂の動く方向を周期的に変化させることになる。この地震の力により、岩や石に対して変形させようとする力が働く。変形させようとする力は、最終的には熱に変換される。こうやって、波のエネルギーは、途中の地震を伝える媒体(岩や石)によって一部が熱エネルギーに変換されて減衰していく。
さて、周期が短い、つまり周波数が高い地震波と、周期が長い、つまり周波数が低い地震波が同じ距離を進むとする。波と言うものはその周波数によって伝達スピードが変わるわけではないため、周期が短い波も周期が長い波もほぼ同じ速度だ※5。となると、同じ距離を地震波が進んだ場合、周期が短い波は同じ距離で沢山の物質を変形させ、周期の長い波は変形させる物質の数が少ない。変形は減衰を生むので、周期の短い地震波の方が減衰が大きくなることになる。
A: 理屈は何となく分かります。物質を沢山揺らせば沢山エネルギーを使うと。実際、自分が何かを揺らそうと思ったら、長い周期で揺らすより短い周期で揺らそうとする方が疲れますからね。
B: そうそう、そんな感じ。そして、この考え方は音でも電波でも同じなんだ。もちろん、細かいところを見ると違いはあるんだけど、高い周波数の電波が物質中で速く減衰する理屈としては同じだと思ってくれ。
A: 「波」というもの全般の特性だと考えれば良いですね。
B: そうなんだ。それで、電波とはちょっと離れるけど、最近大きめな地震が多いので、ちょっと話がそれるけど、地震の話を続けさせてくれ。
地震にも、短い周期の揺れと長い周期の揺れがあるんだけど、一般に家屋とかにダメージを与えるのは短い周期の地震だ。地震と言えば、ガタガタと結構速く激しく揺れている印象があるでしょ?
A: ありますね。先日防災訓練で地震体験カーに乗りましたが、凄く速い振動でした。
B: 短い周波の振動は、地上の様々なものにダメージを与える。家屋や電柱の倒壊は基本的に短い周期振動によるものと考えて良い。一方で、長い周期の振動は、振動がゆっくりなこともありあまり建物に影響を与えない。だから、地震の大きさを表す「震度」は、地上への影響が大きい短い周期の振動を対象に評価されている。建物が地中の岩と同じだと考えれば、短い周波の振動に減衰が多いのも理解できると思う。短い周期のほうが建物へのダメージが大きい、すなわちエネルギーを消費するということだから。
A: 確かに、そうですね。
B: しかし、近年、長い周期の振動も建物に影響を与えるということが分かってきた。そのため、長い周期の地震の震動のことを「長周期地震動」と呼んで、短い周期の、いわゆる普通の地震の震動と区別して評価を付けるようになっている。
A: あ、聞いたことありますね。6/25に八戸沖で発生した最大震度6強の地震でも、ニュースで長周期地震動が発生したと、やっていた気がします。
B: 長周期地震動は、数秒から数十秒の周期の非常にゆっくりした揺れだ。これが何故建物に影響を与えるのかというと、ビルによっては長周期地震動の長い周期がビルの共振周期に重なってしまうことがあるからだ。そうした場合、ビルの振動が増幅され建物内外に大きな被害を与えることがある。一方で、長周期地震動は一軒家へはあまり影響を与えない。それは、一軒家は小さく共振周期も短いから、周期の長い振動に共振しないためだ。このことは、楽器の弦と同じ原理で、「弦が短い=音が高い=周期が短い」、「弦が長い=音が低い=周期が長い」という関係がビルや建物にもあると考えて良い。だから、長周期地震動は「その長い周期に共振してしまうビルのような建物だと大きな影響が出る場合がある」ということになるね。
長周期地震動は大きな地震で発生することが多いんだけど、大きくゆっくりな揺れのエネルギーは減衰しにくく、震源から遠く離れた場所でも被害を出す場合がある、という点にも注意が必要だ。更に、大きな長周期地震動は振動している時間が長く、結果的に地震のダメージが大きくなることもある。上の写真は東日本大震災のものだけど、2階では大したことの無い被害状況だったにもかかわらず24階では室内が壊滅的な状況になったようだ。おそらく、ビルが共振して上層階が大きく揺れたのだと思う。これは、典型的な長周期地震動の被害と言われている。
A: ということは、タワマン高層階に住んでいる人なんかは注意した方が良いですね。残念ながら、私は金銭的な事情によりそんなところに住めませんが・・・
B: あなたの金銭的事情は無視して説明すると、高級なタワマンとか今どきの高層のオフィスビルなんかは、建物が免震、制震構造になっているため、比較的被害が少ない場合が多い。むしろ、耐震のみで、免震、制震が施されていない、中層ビルなんかに影響が大きいはずだ。うちの会社もかなり怪しい・・・
A: さらっと、怖いこと言いますね。
B: さて、会社のことは忘れて、再び電波の話に戻ろう。このブログでも何度も触れたけど、周波数1000kHz前後のAMラジオの波長は300m程度。一方、ミリ波は「ミリ」と名前が付いている通りに、1センチメートル程度かそれ以下だ。電波も地震と同じように、波長が長いほど減衰は小さく、波長が短いほど減衰が大きい。そして、ここまで波長、周波数に差があると、透過による減衰にも相当差があるということがイメージできるでしょ?
A: 改めて言われると凄い差ですよね。
B: ただし、電波において、どんなものがどれぐらい透過せずに減衰するか?という問に答えるのは極めて難しい。波長によって減衰しやすい、通しやすいものがあり、単純計算では求められない。だから、どれぐらい減衰するかという問の答えは「材質による」となってしまう。実際、材質、形状によって電波の減衰量は全く異なる。ただ、「減衰の理論」から考えると、減衰を材質無視で超ざっくり平均的に考えた場合、物質を透過するときの減衰量はおおよそ周波数に比例する傾向にある。
A: 透過時の減衰も周波数に比例ですか・・・ ということは、空中の伝搬でも減衰して、ガラスとかを透過するときも減衰すると、そういうことですか?
B: そう。ダブルで減衰。だから、ミリ波は建物内が非常に弱い。いや、「弱い」ならまだしも、正直に言えば「使えない」レベル。
A: 改めて言われるときついですね。
ミリ波は散乱しやすい
B: さらに、周波数が高くなればなるほど反射しにくくなるという問題点もある。
A: え?ミリ波と言えば反射してエリアを作るというイメージがあります。周波数が高いほど反射させやすいのかと思っていました。
B: じゃあ、逆に質問だけど、光って反射しやすいと思う?
A: そりゃ、反射しやすいと思いますよ。鏡とかで完全に反射するってイメージです。電波や音はそんなしっかり反射しないイメージです。
B: そう思うのは分かるし、一部正しい。でも、そのイメージって、光が反射しやすいのではなく、鏡が特殊だからだって知ってた?
A: え?鏡が特殊ですか?
B: 例として、この写真を見てほしい。
A: なんですか?普通の照明と壁ですね。
B: これ、うちの会社の会議室の壁なんだけど、ホワイトボードとして機能するように、金属の下地に対して白い光沢の塗料で塗装してある。だから、ぱっと見はホワイトボードのような光沢のある壁になっている。
A: それが、どうしたんですか?
B: その壁に天井照明が反射しているけど、ぼんやりとしか反射していないよね?
A: 確かに。
B: 壁の塗装には、遠目では分からないけど、近くでよく見ると細かい凹凸がある。これのせいで、鏡のように真っ直ぐ反射してくれない。光は、この微妙な凹凸で散乱してしまうんだ。
A: なるほど、ざらざらしていると散乱するんですね。
B: 散乱によって光が無くなるわけでは無いけど、一方向に進んでいた光が広く分散されてしまうため、特定方向への光の強さというのはなくなってしまう。
更に言えば、先ほどの壁は、ホワイトボードとして使うために「光沢はあるが凸凹もある」という珍しい材質の例。普通の壁よりも表面がなめらかだから、ぼんやりではあるが反射光で照明の形が分かった。でも、一般的な壁紙が貼ってある壁は、照明の形どころか照明が反射していることすら分からないよね?
A: 意識したことなかったですが、そういわれてみれば、そうですね。
B: もっとはっきりとした例を出そう。壁紙と光源と言えば間接照明だ。間接照明とは人間には照明が直接見えない位置に埋め込まれていて、壁に反射した照明の光を使って室内を照らす方式だ。
A: ぼんやりと照らされるから、やや暗くてもよいバーとか寝室とかで使われますね。
B: 間接照明は壁紙に光をあてて照明としているけど、その壁紙の光を見ただけでは、光源である照明の形なんて分からないよね?これは、まさに光が散乱しているという証拠だ。光源の形が分からないほどに散乱しているわけ。もちろん、壁紙は中の人が眩しくないように敢えてそういう材質を選んでいるわけだけど、だからといって特殊な加工をしたものではないということは言っておく。
逆に、鏡は極限まで表面をなめらかにした特殊なものなんだよ。だからあんなに綺麗に反射する。
鏡なんて人類史上で言えば、かなり最近にできたものだ。歴史ででてくる青銅鏡など金属の表面を人間が頑張って磨いた鏡であれば昔からあったけど、あれのほとんどは神事に使うもので、顔を見るなどの普通の用途で作られたものではない。今現在一般的に使われているガラスの鏡というのは16世紀のイタリアのベネチアガラスが最初だと言われている。けど、当時は一枚作るのにもかなり時間がかかる製法のため(しかも門外不出だったから)、貴族しか使えないような超々高級品だったらしい。鏡が量産できるようになったのは1835年にドイツ人科学者ユストゥス・フォン・リービッヒが水銀を使わない銀メッキ法を発明したからだと言われている。一般人でも鏡を手に入れられるようになったのはそれ以降の話だからね。ものとして複雑な構造ではないため現代人にとって鏡は当たり前だと思われがちだけど、鏡が普及したのはまあまあ最近のことなんだよ。
A: なるほど、なんか鏡って平安時代ぐらいからありそうなイメージですけど、普及したのは19世紀以降だから歴史から見ると比較的新しいんですね。よく考えれば、あれだけ平らなものを作るっていうのは難しいですもんね。ちなみに、私は”ユストゥス・フォン・リービッヒ”の名前は知っていますよ、料理好きなので。確か、(調味料としての)ブイヨンを開発した人ですよね?
B: いや、ずいぶんとマニアックな彼の業績を知っているね・・・ 一応説明するけど、リービッヒは偉大な化学者であり、彼の業績は多岐にわたっていて様々なものに「リービッヒ」の名前が残っている。「リービッヒの最小律」や「リービッヒ冷却器」にいたっては日本語IMEの予測変換の候補に出てくるほどだ。この人の業績はぐぐって貰えればいくらでも情報は出ると思うけど、日本では一般的に「農芸化学の父」と呼ばれている。化学肥料を発明し、植物の生長には有機物だけでなく窒素やカリウム、リンなどの無機物も必要だと言うことを発見した人だ。
と、化学の話はここまでにして、鏡の話に戻ろう。鏡のように完全につるつるなめらか、というのは作るのがとても難しい。そして、そこまでやったのであれば、確かに光はきれいに真っ直ぐ反射する。だけど、ちょっとでも表面がざらざらなら光は簡単に散乱してしまうという性質がある。
この散乱の一番顕著な例が「すりガラス」だ。すりガラスの凹凸は人間の眼にはどれぐらいあるのか判別できないほど小さな凹凸だが、それでも光は散乱してほとんど直進しない。その証拠に、磨りガラスを通すと明るさの大小は分かるけど、形までは分からないぐらい散乱する。
A: ああ、確かにそうですね。けど、すりガラスって、触れば凹凸があると何となく分かりますが、どれぐらい凹凸があるなんて肉眼では見えないほどでしかないですね。
B: そんな極わずかな凹凸でも光は散乱してしまうんだけど、電波であれば先ほどのホワイトボード用の壁でも、普通の壁紙でもすりガラスでも、ほとんど拡散せずに反射するんだ。それは何故かというと、光よりもずっと波長が長いから。
例えば、Wi-Fi等で使われる2.4GHzだと、波長は12cm程。一方、トイレとか風呂場のガラスに使われる目隠し用のすりガラス(型板ガラス)の凹凸は0.2mm程度。12cmの波長からすると、0.2mmは無視できる程度なので、さほど拡散せずに反射するわけ。
しかし、光の波長は500nmという「ナノメートル」のレベル。ナノは10のマイナス9乗。光からすると、0.2mmの凸凹は無視できないどころか、自分の波長よりはるかに大きいわけですから凹凸の通りに反射してしまう。
一般に、すりガラスの凹凸は一定でなくランダムなので、光も全方向へランダムに反射する。そういった反射を科学的には「ランバート反射」と呼ぶんだけど、私はこのランバート反射を含め、真っ直ぐ反射せず様々な方向へ乱反射する現象に「散乱」という言葉を使っている。
この散乱なんだけど、よく考えれば当然の結果なんだよね。だって、500nmに対しての0.2mmの凹凸というのは、12cmで考えれば48mもの凹凸があるのと同じだからね。そりゃ、凹凸に従って反射するでしょ?そして凹凸がランダムなら光の反射方向もランダムだ。
A: そりゃ、そうですね。波長によって凹凸での反射方法が異なるということは、それって「電波の散乱の度合いは波長の長さによる」ということを意味しませんか?
B: 完全にその通りだよ。これを踏まえて、本題のミリ波について考えよう。例えば、日本の5Gのミリ波は28GHzあたりだから、その波長はおよそ10mm。すりガラスぐらいならミリ波でも問題なく反射する。でも、アスファルトとか、ブロック塀とかサイディングとか、そのレベルの表面の粗さの場合、散乱してしまう可能性がある。で、その程度の粗さの材質なんて、そこら中にあふれている。
従来の周波数、例えば900MHzとか2.1GHzとかそういった周波数であれば、多少表面が粗くても全体として平らであれば電波は反射した。その結果、建物の間で反射を繰り返して、結果的に伝達距離が長くなったりしたもんだ。
A: しかし、ミリ波は反射もしてくれないと、そう言いたいわけですね。
B: ワイヤレスジャパンでも、メタサーフェス反射板として、ミリ波を反射させてエリアを拡大させるという展示をやっていた。もちろん、ミリ波だって全てが散乱するわけではなく普通に反射することもあるわけだけど、これって光で言う「鏡で反射」させているのに等しい。
A: そうですよ、こういったニュースを見ていたから、ミリ波って反射させやすいのかと思っていました。実際は、そうでは無いと。
B: 技術的理由は割愛するけど、高い周波数のミリ波であれば小さい鏡でも反射させやすい、というメリットはある。しかし、そのメリットが効くのは「意図して反射させたい場合」だけ。
これまでの説明の通り、電波は波長が凹凸の大きさに近くなるほど散乱しやすくなるという性質を持つため、現実世界にある建物やら地面やらを考えた場合、多くのシーンでミリ波の方が散乱しやすい。だから、特に街中では、反射が弱い分、ミリ波の電波の届く距離が短くなる。ミリ波を使いたいのは街中なのにもかかわらずね。
A: 透過もしない、反射もしないとなると、良いところ無いじゃ無いですか!
次回予告
まだまだ続く、ミリ波のデメリット。ミリ波にメリットはないのか? 次回、ミリ波最終回、君は生き延びるができるか?
※5; ただし、縦波と横波では伝達速度が変わる。また、地震が伝達する物質(硬い岩か柔らかい土か等)によっても伝達速度は変わる。






