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【社内雑談】本当にさようならCDMA 前編

はじめに
さて、以前もこのブログにてCDMAやめるってなに?というタイトルで、ソフトバンクが第三世代WCDMAを終了させることを記事にしました。そして、今回はとうとうNTTドコモがWCDMAサービスであるFOMAを終了させることで、すべてのWCDMA、そして全ての第三世代携帯電話のサービスを終了することになります。
第三世代携帯電話であるCDMA方式が終わるということは、それまでの「レガシー」も同時に終了することとなります。今回のブログでは、この携帯電話業界にとっては激動の時代であった2000年頃からのCDMA時代をふり返ったのですが、話は思わぬ方向へ進んでいきます。
毎度おなじみではありますが、このブログはエンジニア個人が好き勝手発信するものであり、所属組織(株式会社三技協)の公式の見解ではありませんので、あらかじめご承知置きください。
CDMA携帯電話の終焉
A: 今日は、NTTドコモがFOMAを今年3月31日をもって終了させるため、第三世代携帯電話が全て終了するという話題で雑談していきたいと思います。というか、なんか、ここ最近我々の社内雑談のブログが連発されている様な気もしますが。
B: その辺は読者に、ご容赦をお願いしたい。さすがにFOMAの終了はブログの話題にしておかないといけないからね。
第三世代携帯電話は、このブログでも何度も出てきておなじみのアメリカQualcommが携帯電話に持ち込んできたCDMAという方式を採用したことで、CDMA世代とも呼ばれる。
A: 知っています。FOMAはWideband CDMA、略してWCDMAというシステムですよね。
B: そう。NTTドコモとソフトバンクがWCDMAというシステムを採用していた。ちなみにFOMAは世界で最初にサービスされたWCDMAシステムでもある。auはCDMA2000という他と違うシステムを採用していたが、auだけシステムが違うのは理由があって、バブル時代前からの貿易摩擦的な話が絡む。私が携帯電話業界で仕事をするようになったのはCDMAスタート時のcdmaOneの頃だから、この辺の話は上司から良く聞かされたよ。
A: 貿易摩擦ってどういうことですか?
B: 1980年代は、アメリカの対日貿易赤字が大きな問題となっていて、様々な外圧がかかった。圧力には、牛肉やオレンジの関税を外せとか、アメ車を売れとか、いろいろあったのだが、その内の一つが「アメリカの携帯電話システムを使え」だった。当時の携帯電話の会社は現NTTドコモと現KDDIしかなかった。さすがにNTTドコモがアメリカのシステムを使うわけにはいかなかったから、KDDI、当時のIDO/セルラーがそれを受け持ったという流れで、第一世代のアナログの時代からKDDIはアメリカのシステムを使っていたわけ。そして、その流れでcdmaOneという2.5世代と呼ばれた米Qualcomm開発のシステムを採用した。基地局などインフラ側はアメリカのモトローラ1社による供給だったはず。
A: モトローラって、今はレノボでしたっけ?
B: それは端末側の部門だね。インフラ側はフィンランドのノキア※1に吸収された。だから、モトローラという携帯電話のメーカーは今は消滅してしまった。端末にブランドが残るのみ。
A: 携帯電話業界は、本当に諸行無常ですね。
B: cdmaOneを進化させて第三世代にしたのがCDMA2000というシステム。KDDIはcdmaOneの流れからそのままCDMA2000へ移行した。移行した、と簡単に書いたけど、そこにはWCDMAとCDMA2000の標準化争いがあったというのは有名な話だ。
A: CDMA2000のアメリカ、対WCDMAの日欧の争いでしたよね。
B: 第二世代でGSMで天下を取ったスウェーデンのエリクソンと端末の覇者ノキア、それに日本のNTTドコモがWCDMAを推していて、CDMAの生みの親でもあるQualcommやモトローラ等の米国勢が推すcdma2000との戦いとなって、結局統一されないまま第三世代携帯電話はスタートしてしまった。
結果は、皆さんご存じの通りWCDMAが勝った。そして、WCDMAの勝利により、第四世代はWCDMAの後継のLTEで統一された。ビデオ業界で言えば、ベータとVHSが争ってVHSが勝利したために、後継がDVDで統一されたみたいな話だ。
A: いや、逆にわかりにくいですよ。別にDVDはVHSの後継じゃないし、しかも、その例えだとその後にHD-DVDが出てきちゃうし。
B: そうか、確かに。ビデオに倣うと第5世代で再分裂ってことになるか・・・
A: それはさておき、WCDMAは何が勝っていてCDMA2000に勝利したのですか?技術的な面で、何かWCDMAの方が優れていたとか? ビデオの例えで言うと、ベータは録画技術的には勝っていたが、録画時間が長かったためVHSが勝利したと、ものの本で読みました。そういった差はあったのですか?
B: 正直、技術面での優劣ではないと思う。WCDMAが第二世代の覇者GSMの後継だったことが最大の要因で、それに加えてエリクソン、ノキアが強く、アメリカベンダーが弱かったということが勝因じゃないの?それと、QualcommもCDMA2000敗因の一つだ。なんかいつも悪者にして申し訳ないが、CDMA2000は実質Qualcommの規格だったので、メーカーや事業者がQualcommのぼったくりライセンス料を嫌がったという理由もあるだろう・・・
技術面から冷静に見ると、正直どちらも優れていなかったと思う。むしろ、私が優れていると思うのは、3.5世代と呼ばれたCDMA2000 EVDOだ。なんで私がCDMA2000、WCDMAどちらも優れていないと思うのかという理由は、第三世代携帯電話の終了と共に終わる、2つのサービスを考えるとわかる。
A: なんですか、その同時に終わる2つのサービスって。
一緒に終わる2つのサービス
B: 一つ目は、i-mode。LTE以降の端末にはi-modeが搭載されていないから、FOMAの終了、すなわち第三世代携帯電話の終了はi-modeの完全終了を意味する。
A: なるほど、確かにそうですね。LTE以降のスマートフォンにはi-modeボタンはありませんし。キャリアメールだけがアプリとして細々と生きていますね。
B: i-modeって第二世代PDCの時に広まったサービスというイメージがあるけど、実際はPDC末期、WCDMAが始まる2年前ぐらいに始まったサービスなんだよね。だから、世の中に爆発的に広まったのは、どちらかというとWCDMA開始後なんだ。i-mode自体は素晴らしいサービスで、画期的であった。まず、SMSのような半分回線交換みたいなサービスでは無く、完全パケット通信サービスだったこと。通信量もパケット単位。そして、CHTMLのようなWeb互換のシステムとインターネットメールベースのキャリアメール、そしてJavaベースのアプリ。すなわち、携帯電話なのに、携帯電話の世界に閉じない、特定メーカーに依存しない、完全なインターネットの世界に準拠したサービスだったこと。それでいて、確実な課金。あ、最後のはユーザーと言うより事業者やサービス会社にとってのメリットですが・・・
とにかくこのi-modeというサービスにより、携帯電話では「音声通話よりデータ通信の方が重要」という時代が一気に来てしまった。そして、それは携帯電話の料金体系が「時間課金」から「パケット課金」重視に変わったことも意味する。
A: 確かにそうですね。i-modeの時代は、私も電話よりメールの方がメインでした。ゲームでパケ死なんて言葉もありましたし、写メールとかも流行りましたね。
B: 写メールはi-modeではなく、ソフトバンクというか当時のJ-Phoneとシャープが始めたサービスだけど、パケット通信の重要さを表す一つのサービスだと思う。
そして、FOMAと同時終了する2つめのサービスはCS、回線交換方式の通信だ。ソフトバンクのCDMAが終わるときに出されたこの記事でも回線交換については書かれている。回線交換は、要するに旧来の電話回線と接続するための機能なんだけど、無線側からの視点では一定の帯域が常時確保される帯域保証型のサービスという見方も出来る。
A: ああ、LTE以降はPS、つまりパケット通信のみのシステムになったんでしたね。音声通話もVoLTEというIP電話でするようになりましたし。つまり、帯域保証型とは逆のベストエフォート型サービスですね。
B: cdma2000とWCDMAだけど、今思えば無線技術的に見ると正直どちらもそこまでパケット通信を重視したシステム構成では無かった。もちろん、第二世代と比べて高速通信ができる、というのを売りにはしていたけど、CDMAのシステムを冷静に見れば、どちらかといえば「究極の音声通話用携帯電話」といった方が正しい。CDMAの特長の一つが「複数の基地局からの電波を同時に使える」ことなんだけど、これにより移動中でも音声が一瞬たりとも途切れることなく使えるようになっている。これは電話の音声がブツブツと途切れまくる第2世代GSMやPDCの反省から生まれた技術なんだけど、未だCDMAだけにしか実装されていない特別な技術だ。無線回線交換ネットワークの究極とも言える。
でも、CDMAのパケット通信に関しては、cdma2000、WCDMAのどちらも音声通話の回線を束ねて高速を実現する的な構造だった。若い人は覚えていないかもしれないが、固定電話のダイアルアップ通信のイメージに近い。
A: 覚えていますよ。電話回線を使って、通信開始時に電話をかけて、それで通信を繋げるやつですよね。親父がパソコンで夜な夜なやっていたのを覚えています。
B: そう、それ。CDMAにおいては、無線的に音声の電話と変わらない性質の回線をパケット通信にも使っていた。だから、回線交換のシステムの上に無理矢理パケット通信を乗っけた感が拭えないし、無線的にも効率的では無かった。
A: 第三世代携帯電話って、データ通信を売りにした割にパケット通信に適した通信では無かったんですね。
B: でも、i-modeの登場によりCDMAを設計していた人たちが考えているよりもずっと早く、携帯電話はパケット通信がメインになってしまった。そして、人々が広帯域を求めるようになってしまった。
そんな中、初めてパケット通信に”完全に”特化した携帯電話システムとして登場したのがcdma2000 EVDOというシステムだ。EVDOはデータ線用であり「音声通話は一切出来ない」という割り切った作り。もし音声通話したい場合は普通のCDMA2000のチャンネルを使え、となっていた。このEVDOは、携帯電話で初めてのパケット専用システムであるため、今までに無い先進的な技術が多数使われていた。例えば、今も5Gで使われている非常に重要な技術である「Hybrid-ARQ」や「PFスケジューラー※2」を初めて導入したのもEVDOだ。
EVDOの電波の質自体はCDMAではあるのだけど、CDMAの電波を符号でユーザー多重するのでは無く時間でユーザー多重するシステムになっている。つまり、細い線を沢山束ねる電話ではなく、太い線を時間で割り当てるイーサネットに近い考え方になった。この”パラダイムシフト”により、EVDOはパケット通信を非常に効率良く伝送できるようになった。そういった面で、私はEVDOをとても優れたシステムだと思っているし、とても好きだ。レイヤー分けも非常に綺麗だしね。尚、このEVDOの考え方をWCDMAに取り入れたのがHSDPA、HSPAだ。
A: そうだったんですね。
B: というわけでちょっと脱線してしまったけど、i-modeの登場によってパケット通信がメインになってしまっていたのにもかかわらず、回線交換重視のcdma2000やWCDMAは、登場時からちょっと時代遅れなシステムだった。そして、それを挽回して時代に合った先進的なものに変えたのが、EVDOやHSPAである、というのが第三世代の私の評価だ。
A: ちょっと意外なというか、辛口な評価ですね。
iPhoneが与えた影響
B: その後、日本では2008年にiPhoneが登場し、アプリでIP電話が実装できるようになり、iPhoneユーザーは「電話」にLINE通話や、Face Timeを使うようになった。それにより、回線交換を不要なものとしてしまった。さらにiPhoneによって、回線交換どころかi-modeまでもが過去のものとされてしまったわけだがね。
i-modeのようにiPhoneが景色を変えてしまったもっていうのは様々あると思うけど、その中でも重要なものの一つが、携帯電話と無線LANがシームレスに使える事だったと私は思っている。
A: え?そこがそんなに重要ですか?当たり前の気がしますが。
B: 私はそう思うね。iPhone登場当時、i-modeとかキャリアメールを使う場合は、携帯電話のネットワーク経由である必要があった。つまり、パケット料金を支払う必要があったわけ。だから、ガラケーで無線LANに対応している端末皆無※3。というか、携帯電話で無線LANなんて使われたら携帯キャリアが儲からないから許さなかった。
例えば、当時のガラケーはデコーダーを積んでいて動画を再生する機能があったけど、それは自分で撮った動画やSD経由の動画を見るためのものであり、通信してYoutubeのような動画サービスを見るなんて事は考えられなかった。そんなことしたら通信料金いくらになるんだよ?って感じで。
A: そういえば、確かにガラケーに無線LANは付いていなかった記憶があります。
B: 一方で、PCとかは無線LANが当たり前になっていて、ある程度家庭に普及していた。Nintendo DSとかPSP、PS3とかのゲーム機も無線LAN搭載だったしね。
で、iPhoneが登場して、今通信しているのが携帯電話と無線LANのどちらなのかを気にすること無く通信できるようになった。特に、家の中では自動的に無線LANにつながって高速に通信できるようになったから、iPhoneは動画のようなリッチなコンテンツも扱えるようになった。まあ、(当時日本で唯一iPhoneを販売していた)ソフトバンクのiPhone契約が実質パケット無制限だったこともあって、iPhoneなら料金を気にせずコンテンツが楽しめるようになったということだ。
このことは、これまで携帯電話上で動くコンテンツに対しては携帯キャリアが「パケット課金」出来ていたものが、iPhoneにより携帯電話とコンテンツが切り離されて、携帯キャリアは蚊帳の外にされてしまったことを意味するんだ。その後はご存じの通り、コンテンツによる儲けは、プラットフォーマーやコンテンツプロバイダーに取られるようになったでしょ?
A: 確かに、言われてみればそれは大きいですね。
B: 一応、厳密に言うとiPhone登場前のHTC※4のWindows MobileスマートフォンやノキアのSymbian OSフォンも無線LANに対応していたから、iPhoneが無線LANスマホの元祖というわけじゃ無いんだけど、iPhoneとその他じゃ情報端末としての完成度が段違いで、その完成度と無線LANが組み合わさったために、世界を変えることになったんだよ。
A: まとめると、CDMAの終焉と共に終わるかつて携帯キャリアの花形だった2つのサービスは、結局のところiPhoneによって終了させられてしまったということですね。
B: まあ、iPhoneの有無に関わらず、いずれはなくなる技術ではあったと思うけど、iPhoneによって早めに退場させられたってことは確実に言えるでしょう。特に、i-modeの終焉は、日本の携帯電話文化の終焉でもあるからさ。
A: そう考えると、なにやらCDMAの終了というのも感慨深いですね。
次回予告
次回は、CDMA時代のインフラベンダー業界の再編について話をします。CDMA2000に乗ってしまったベンダーはどういう末路を辿ったか?そして、当時世界最大と言われていた、あのカナダの通信機器ベンダーは結局どうなったのか?などの回顧録的内容になる予定です。
※1; モトローラのインフラ部門は、ノキアのインフラの会社である当時「ノキア・シーメンス・ネットワークス」、現「ノキア」に吸収合併された。
※2; Proportional Fairness Scheduler。回線状況が良い人から通信しつつも、ある程度の公平さを確保して通信の順番を割り当てる機能のこと。これにより、イーサネットでは当たり前である「データが来た順番に割り当てる方式(ラウンドロビン方式)」等にくらべ、無線パケット通信の利用効率が劇的に上がるとされている。
※3; NEC N900iLという端末も存在したが、こちらはIP電話(内線電話)用の無線LANで、コンテンツを無線LANで楽しむ用途では作られていなかった。また、iPhone登場後には、N906iLのような無線LANでi-modeへ接続できる端末も登場したが、その場合でもNTTドコモと無線LAN(ホームU)契約し、さらにプロバイダーをNTT(フレッツ)にする必要があるなど、NTTドコモが課金できるように制限をかけていた。
※4; 台湾のスマートフォンメーカー。iPhone登場よりも前から、Windows Mobile対応のスマートフォンを数多く出していた。また、Androidにも早くから対応し、世界で最初の商用Androidスマートフォンを販売した。
