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【令和最新版】LPWAってなに? 後編
高校生でも分かる通信用語#31

はじめに
みなさんIoT(あい・おー・てぃー)という単語は聞いたことがありますか?Internet of Thingsの略で、日本語で言うと「モノのインターネット」のことを指します。もっと具体的に言うと、「パソコンやスマートフォン等の計算機能を持つ機器ではないものがインターネットと繋がること」を指します。
このIoTを実現するために、世界的に800~1000MHz帯という”サブギガヘルツ”と呼ばれる周波数が割り当てられました。周波数が低いほど電波は遠くまで飛ぶのですが、その分大きなアンテナが必要になります。一方で、周波数を高くしてしまうと電波が遠くまで飛ばず、また障害物に遮られやすくなります。このような"遠距離伝送と障害物回避"のバランスを考慮した結果、サブギガヘルツ帯が最も汎用性が高いため、IoT向けとして世界的に採用されるようになりました。日本では920MHz帯が割り当てられて、多くのIoT機器がこの周波数を使っています。
このサブギガヘルツ帯(920MHz帯)を使い、低速ではあるが広範囲に届き消費電力が小さいIoT向けシステムのことを、一般にLPWA(Low Power Wide-Area Network)と呼んでいます。LPWAという単語には厳密な定義があるわけではなく、サブギガヘルツとは異なる周波数を利用するIoTシステムも存在します。しかし、世界的に主流となっているシステムが全てこのサブギガヘルツ帯をメインに使用しているため、「この帯域を用いるIoT向けシステム」の総称としてLPWAと呼ばれることが多いのです。
実は、このLPWAという単語が世の中に広まったのは2016年ぐらいからなので、それからおよそ10年が経とうとしています。しかし残念なことに、この過去10年間で「LPWA」という概念自体が広く浸透したとは言い難く、さらには専門家(業界人)の間ですら、その存在が忘れられかけている状況があるのです。本稿では、「専門家からも注目されにくい」LPWAという概念に焦点を当てます。これを、現在の高校生や大学生の皆さんにもわかりやすく解説しつつ、【令和最新版】と名付け、LPWAの現状を深掘りしていきます。
携帯電話でもよいのでは?
IoT市場を狙っているのは、当然LPWAだけではありません。現在の無線通信の王者である「携帯電話」がIoT市場を見逃すわけがありません。第4世代LTEのIoT向けシステムというのが作られました。その一つがNB-IoTです。
NB-IoTは、携帯電話のLTEをIoT向けに改良したシステムで、通信速度は普通のLTEとは比べられないほど遅い(最大250kbps程度)のですが、その代わり非常に低い消費電力で動くように作られています。携帯電話と互換性があり、携帯電話のネットワーク内(つまり、対応基地局のアンテナが建っているところ)であれば使えます。しかし、携帯電話であるということは「月々の料金を取られる」ということでもあり、それがNB-IoTの最大の短所でもあります。
LPWAが実現したかった用途の一つに、「人や物のリアルタイムな位置把握」というものがあります。例えば、最初に例に出した
- 高齢者・子供・ペットの見守り
- 物流のトラッキング
といったものがそれにあたります。どちらも物理的にはLoRaの機器にGPSを付ければ実現できるはずです。しかし、LoRaには”呼び出しができない”というルールがあります。例えば子供の「現在位置」を知ろうにも、親機からの呼び出しが出来ないので、任意のタイミングでの場所を把握することが出来ません。一方、NB-IoTは携帯電話です。子機を呼び出すことが可能なため、機器の場所を知りたいという呼び出し信号を出せば子機が現在位置を返してくれます。
「現在位置を知る」というニーズは日々高まっています。まだスマホは持てないけれども、しかし、習い事をしていて親から離れる機会の多い幼稚園生、小学生なんかにGPS機器を持たせることが一般的になっています。幼稚園、小学校で当たり前のようにGPS機器の宣伝チラシが配られます。おそらく、LoRa含むLPWAはこういった用途を取り込みたかったのでしょうが、この辺はすべてNB-IoTに取られてしまいました。なぜなら、こういった層は毎月お金を払ってでも安心を買いたいわけで、NB-IoTが有料であるというハードルも簡単に越えられるからです。私もかつて娘が小さいときにこれ持たせていましたが、いつでも居場所が分かるという安心感は何物にも代えがたいものです。
このように、「現在位置の特定」「親機からの指示による制御(呼び出し)」といった機能は、通信キャリアが提供する回線サービスを持つNB-IoTに大きく優位性があります。この点において、LoRaを含むLPWAは「送らなければ受けられない」という構造的な制約から抜け出すことが難しく、大きな課題を抱えることになりました。
本命のスマートメーターは?
さて、本稿の冒頭で取り上げた用途の中で、最も現実的な採用例となると考えられるのが「スマートメーター(公共インフラの自動検針)」でしょう。これは、毎月の電力料金徴収という必須タスクがあり、「検針員の削減」という明確なメリットがあるため、企業が大規模な投資を行う強い動機付けとなる分野です。しかし、ここにおいてもLPWAはそのままでは活躍できませんでした。少なくとも、日本ではあまり採用されていません。
まず、電気のスマートメーターですが、他のIoTと異なり電力の心配が全く無い(AC供給が容易である)ため、省電力の必要がありません。この時点でLPWAのメリットの多くが失われます。そのため、電気のスマートメーターで使用されているのは、Wi-SUNというシステムでした。Wi-SUNは広義ではLPWAに属しますが、他のLPWAよりも高機能で、電池で何年も動くことを目標に作られたシステムではありません。そして、電気のスマートメーターがLoRaではなくWi-SUNを採用した理由は、ずばり「メッシュ通信機能」です。
スマートメーターでは、各家庭に設置された子機が使用量を収集し、そのデータをインターネット経由でサーバーへ送りますが、この通信は必ず親機(ゲートウェイ)を経由することが前提となります。したがって、子機は必ず親機と通信できる範囲にいなければいけません。LPWAが(Wi-Fiや携帯電話と比べ)いくらエリアが広いと行っても、1つの親機で電力会社の管内を全てカバーできるものではないため、ある程度の数の親機を設置する必要があります。ですが、この「ある程度」という部分こそが、実際の運用において最も厄介な問題となるのです。
料金徴収という根幹に関わるインフラであるため、通信の途絶(=圏外)は絶対に許されてはいけません。したがって、広範囲にわたるエリア設計と、万が一障害が発生した場合の対策を綿密に行う必要があります。例えば、もし大きな建物が建つとか周囲の環境が変わることで新たに圏外の場所が発生することがあれば、即座に対策を打つ必要があります。この「日常的に圏外を潰していく作業」は非常に手間もコストもかかります。通信が本業の携帯電話会社はこの作業を当然のようにやっていますが、電力会社がメーターのためだけにこの保守作業を行うのは、経済的・現実的に非常に困難なのです。
そこでWi-SUNのメッシュ器通信機能が役に立ちます。メッシュとは子機同士が通信してバケツリレーで通信できることを指します。マルチホップ通信とも呼ばれます。障害物があって直接親機と接続できなくても、子機をリレーしてデータを通信することが出来ます※3。スマートメーターは各家庭に設置される前提なので、設置数が多くメッシュを構築しやすい環境です。こういった環境下であれば、少ない親機で数多くの子機を安定して接続することが出来ます。このメッシュ機能は、親機と子機が直接通信することしか出来ないLoRaなどの他のLPWAに対して、特に都市部において大きなアドバンテージを持ちます。このような理由で、電力各社はスマートメーターにWi-SUNを採用したのです。これは、消費電力に気を遣わなくて良い電力メーターだから出来る方法です。
もちろん、Wi-SUNではうまくメッシュが構築できないような場所(過疎地とか)もあります。その場合は、NB-IoTや、車載等を想定した規格であるLTE-M※4を使っています。残念ながらLoRa等はほとんど使われていません。
水道のメーターは、また他のメーターと異なる特性を持ちます。それが、「地中に埋まっている」ということ。地面そもそもLPWAや携帯電話の電波を通しませんし、また低い場所から電波を出すために電波が遠くまで届きにくいという問題もあります。したがって、水道はスマートメーターに向いていないんです。NB-IoTを使ったスマートメーターの実験などを行っているようですが、正直他のインフラよりもスマートメーター化が進んでいません。何より、電気、ガスが民間企業のサービスであるのに対し、水道の多くが「自治体」によるサービスであることもスマートメーターの普及を妨げています。いずれスマートメーター化は進むと思いますが、もう少し時間がかかりそうです。
最後にガスのスマートメーターです。ガスメーターは実はスマートメーター化する前から監視用に電池を搭載していたため、スマートメーター化のハードルは高くないと言われています。スマートメーターという言葉が流行る前から、電話線に接続し自動でデータが収集できるメーターも存在していました。ガス業界のメーターが電気・水道よりも先進的だったのは、プロパンガスであれば残量の監視が重要ということもありますし、なによりガスは他のインフラよりも問題が発生したときのリスクが大きいからだと考えられます。
さて、現在のガスメーターの状況ですが、ガス会社によって(無線の)スマートメーターのシステムは異なるようです。各地域に一社しかない電力会社と比べて、ガスを提供する会社数は圧倒的に多いため、スマートメーターも会社毎に様々なシステムが採用されています。そして、私が調べた限り電気、水道、ガスの中で唯一LoRaを採用しているケースが見られたのがこのガスメーターです。Sigfoxと呼ばれるLoRaに近いLPWAシステムが採用されている例も結構見られます。つまり、LoRa含むLPWAはガスメーターに活路を見出している状況です。
勝者はAirTag?
先述のように、見守り用途などにはNB-IoTのような携帯電話回線が必要です。そして、NB-IoTは携帯電話なので必ず月額料金が取られます。しかし、世の中には月額料金を払うほど重要ではないけれど、場所や状態を知りたいというニーズも存在します。鞄に付けたり、お財布に付けたり、ペットに付けたり。子供ほど重要じゃないけど、何かの時に居場所が分かったらうれしいなという、そのぐらいのレベルのニーズも多いでしょう。その場合、機器は安い方が良いし、電池も長持ちした方が良い。もしかしたら「通信するほどでもないものが通信をする」という意味で、こんな用途こそがIoTの定義に近いものなのかもしれません。
LPWAの特性から見ると、このような「低コストで長期間利用できる」用途には最適だと思われてきました。しかし、こういった用途でさえLPWAは使われず、他のシステムが使われることになりました。それが、"AirTag"です。AirTagは、Appleによって開発されたシステムであり、Appleという巨大なエコシステムと普及率の高いiPhoneというプラットフォームがあるからこそ実現できたものです。
AirTagは、現在位置を知らせるIoT機器でありながらGPSアンテナを搭載していませんし、インターネットへ接続する機能も持ちません。AirTag自身は測位を一切しておらず、単に自分自身の存在を知らせるための電波を定期的に発信しているだけです。自分の存在を周囲に教えるために、定期的に電波を出す装置のことを一般的に「ビーコン」と呼んでいますが、AirTagはまさにBLE※5を使ったビーコンでしかありません。
しかし、そのビーコンを最寄りのiPhoneが受信すると、iPhoneはその位置をクラウドサーバー(iCloud)上に保存します。AirTagの持ち主のiPhoneだけでなく、あらゆるiPhoneがAirTagのビーコンを受信すると位置登録を行います。その結果、見ず知らずの誰かのiPhoneが自分のAirTagを探してくれている、そして逆に自分のiPhoneも常に誰かのAirTagを探している、そういった仕組みです。そして、iPhoneの普及率、普及台数を考えれば、事実上AirTagがどこにあっても常に現在位置を把握している状態といっていいでしょう。
現在は、後追いでAndroidでも同じようなシステム(Find Hub)ができあがり、色々な会社からタグ(ビーコン)が販売されています。AirTag及び類似タグは、GPSを搭載しない単なるビーコンでありながら、圧倒的なスマートフォンのネットワーク効果(エコシステム)を活用し、安価で小型化を実現できているのです。しかし、この「周囲のスマートフォン群」に匹敵する規模のプラットフォームを持たずに、LPWA単体で同様の仕組みを実現するのは極めて困難です。
普及という面で、AirTag系タグより一般に普及しているLPWAは存在しないでしょう。そう考えると、IoTの裏の勝者はAirTagなのかも知れません。
LPWAはどうなったのか?
結局、LPWAはどうなったのか?LPWA技術の多くは、ガスメーターなどの特定インフラ分野に留まりました。それ以外でLoRaだと、工場内や、海外の超大規模農場などでのセンサーネットワークとして生き残っているようです。総数としては徐々に増えているようなのですが、残念ながら当初考えられていたような用途にはほとんど用いられなかったし、大規模な一般用途への普及は、競合システムの優位性によって難航したのが現実です。しかし、IoTという概念が下火になったか?といえばそんな事はありません。LLMの普及により、人間が機械を管理するのではなく、機械が機械を管理する時代がすでに来つつあります。そうなると、IoTはますます重要になってくるでしょう。
そんな中、新しいLPWA技術として今注目を集めつつあるのが、Wi-Fiの派生規格であるIEEE 802.11ah、通称Wi-Fi HaLow(へいろー)です。LPWAのサブギガヘルツ帯を使いながら、Wi-Fiの技術を用いて他のLPWAよりも高速で通信ができる規格になっています。1kmぐらいの距離であれば写真程度は送ることが出来るため、これまでLPWAでは実現できなかったような用途で使用できるのではないかと考えられています。現状、まだ親機も子機もサイズが大きかったりして、機器が熟れていない感じが拭えないため、今すぐ普及するとは思えませんが、将来もっと小型化したり、Wi-FiアクセスポイントでWi-FiとWi-Fi HaLowの両方が動くようになったりすれば、これまでのLPWAとは比べものにならないほど普及する可能性を秘めています。
まとめ
2回にわたり、令和最新版のLPWAを紹介しました。技術的な話が中心ではありましたが、皆様にもなんとなくIoTというものがどういうものなのか理解頂けたんじゃないかと思っています。
実は、まだまたIoTという世界は発展途上です。IoTには、ちょっとしたアイデアで誰もが勝者になれるチャンスが眠っていると思っています。皆様も、これをきっかけにIoTの新しい用途を考えてみるのはいかがでしょうか?IoTのような生活に密着した技術は、結果的に開発者や技術者では思いつかない用途で使われることが多いものです。もしかしたら、新しいビジネスは皆様の頭の中に眠っているかもしれませんよ?
※3; 全ての子機がメッシュ機能を持つわけではなく、子機の中でもRoutor Nodeと呼ばれる一ランク上の子機がメッシュ機能を持つ。尚、メッシュ機能を持たない末端の子機はLeaf Nodeと呼ばれる。Leaf Nodeであれば、LoRa並みに省電力化することが可能である。
※4; LTE-Mは、IoT向けのLTEバージョンの一つ。NB-IoTよりも高速に通信できる(1Mbps超)しハンドオーバーなども可能だが、消費電力はNB-IoTよりも大きくなり機器も高価になるため、車載(コネクテッドカー)などで使われることが多い。
※5; Bluetooth Low Energyの略称。第2世代のAirTagはUWBの電波も使い、より正確に測位できるようになっている。



