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【社内雑談】NVIDIAがノキアに10億ドル出資

はじめに

会社ホームページのリニューアルでブログの更新が止まっていたため、若干古い話題になってしまいますが、昨年10月ぐらいにNVIDIAがノキアに10億ドルを出資すると報道されました。ノキアからも公式発表されているため事実です。これは、我々も取り上げてきたvRANやAI-RAN化という文脈中での動きの一つとみて良いでしょう。

これからの携帯電話基地局はvRANといって、基地局のコンピューター部分を基地局線用ハードウエアではなく汎用サーバーで動かすようになる、という流れになっています。これまでの基地局は各メーカーによるガチガチの専用ハードで作られていましたが、昨今はCPUやGPUの処理能力も上がったため、基地局の信号処理部分はソフトウエア化し、通常のコンピューター、つまりは汎用サーバーの上で動かそう、というわけです。専用ハードウエアでない分、調達の自由度も増しますし、コストダウンも見込めます。

汎用サーバー上での信号処理として主に使われるのがGPUです。そして、ご存じの通り、NVIDIAは世界最大のGPUメーカーです。つまり、NVIDIAはノキアに出資することで、ノキアと手を組み自社のGPUを使ったvRAN基地局を広めようと考えているはずです。

次にAI-RANは、vRANで使われるGPUを無駄なく使おうという考えで生み出されました。vRANにより基地局内でGPUが動くようになるわけですが、基地局というのは時間毎に使用量が大きく異なるという特徴があります。朝の登校・出勤時間、昼休み時や夕方から夜の帰宅時間には非常に混みますが、深夜はほとんど使われていません。しかし、通常の基地局は、最も混んでいる時間でも対応できるようにハードウエアを準備します。そうじゃないと、混んでいる時間は通信ができなくなる、切れてしまうという最悪の事態になります。でも、このことを逆に考えると、vRAN基地局であれば、多くの時間で「遊んでいるGPU」が存在するとも言えるのです。このような基地局内の余剰GPUを生成AIの計算リソースに割り当てようというのが、AI-RANの基本的な考え方です。

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AI-RANのGPUリソースイメージ
マージンを見るので、実際には信号処理に使用するリソースはもっと少ない場合が多い

NVIDIAは、”NVIDIA AI Aerial”という(SDKの)ブランド名を掲げて、AI-RANを強力に推し進めるようです。今回の出資報道でもこの名前が出されていましたし、NVIDIAがRANの分野においても覇権をとろうとする野心が見え隠れしています。

技術的な詳しい話は、過去の記事で触れていますので、そちらをご覧下さい。

今回は、NVIDIAの出資により携帯電話業界はどうなっていくのか、どういう事態が予想されるのか、社内で話しております。いつものコタツ記事なので、気楽に読んで頂ければと思います。当たるも八卦当たらぬも八卦です。尚、これまで同様、企業・団体の敬称は省略させていただきます。

業界再編の第一歩?

社員A(以下A): ことし最初の雑談です。よろしくお願いいたします。

社員B(以下B): はい、よろしく。ブログの引っ越し後、最初の雑談になるね。

A: 今日は引っ越し前から温めていたネタです。ちょっと前の話になりますが、昨年(2025年)10月末に、GPUでお馴染みのNVIDIA(エヌビディア)が、携帯インフラ業界3位のノキアに対して10億ドル(1550億円)の出資をしたという発表がありました。vRANになり、GPUが基地局に使われるようになるのは決定事項でしたから、業界最大手のNVIDIAが携帯業界に対して手を出してくるであろう、というのは多くの関係者が予想はしていたと思います。ただ、その相手が三強の一角ノキアだった、というのは私には意外でしたが。

B: 昨今のノキアのあまりポジティブとは言えない状況においては、予想の範疇だとは思うよ。ただ、NVIDIAやノキアに具体的に触れる前に、これは業界再編の第一歩である、ということは協調しておきたい。

A: 確かに、先日もNECが基地局業界から撤退というニュースが入ってきました。一方で、昨年は京セラが基地局業界に参入という話題もありました。出ていく人、入ってくる人、様々入り乱れていますね。これを業界再編ど呼ぶのかどうか、わかりませんけど。

B: 尚、京セラは、基地局業界参入をやっぱりやめるという報道もあるからね。再編の最中なんだろう。

なんで今業界再編なのかというと、今後の基地局は3つのセグメントに分かれるというところに理由がある。何故分けるのかと言えば、それは既存基地局ベンダーの既得権を削るための方策と言える。

A: そうなんですか?

B: そう。じゃあ、なぜそうなのか、基地局の各セグメントをそれぞれ説明していくね。

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vRAN基地局(Node B)の構成

まず最初は無線機。5G用語ではRUと呼ばれる装置だ。電波を出す装置。これはアナログ装置も絡むし、高い周波数の装置だとアンテナ一体型になって、一部はビームフォーミングなどの機能が付いた高機能無線機になる。機能にもよるが、無線屋であれば参入はしやすい。だから、結構ベンチャーなどの新規参入も目に付く。

次に、信号処理部のうちのハードウエア。ちなみに信号処理部は、5G用語でCU、DUと呼ばれる部分のことだ。これまで基地局ベンダーが作っていた専用ハードウエアだった。信号処理用のチップもベンダーが自作していた。vRANとは、ここを汎用のコンピューター、つまりサーバーに置き換えることを指す。サーバーなので、CPUとGPU、メモリ、ストレージで構成されると考えてくれ。例えばインテルのvRANサーバーはCPUベースで動いているから、CPUでも動くんだとは思うけど、携帯電話の信号処理はGPUのほうが効率が良いと言われている。だから、NVIDIAがノキアに出資したのは、この部分をNVIDIAのGPUを使ったハードウエアにする、というのが大前提となるだろう。

A: ただでさえ儲かっているNVIDIAが、更に儲かろうとする恐ろしいムーブですね・・・

B: 最後に、信号処理部のうちの、ソフトウエア部分。これは、やはり既存基地局ベンダーに一日の長があるというか、新規参入が極めてやりにくい部分だ。

A: ソフトウエアなのに、新規参入しにくいんですか?一般的にはソフトウエア化されるとコモディティ化すると言われていますが、話を聞くとハードウエアの方が参入しやすそうな感じですね。

B: ここは難しいんだよ。新規参入がしにくい理由を知りたければ、3GPPという携帯電話の標準規格を調べてみると良いよ。あまりに複雑、あまりに膨大で、これから参入しようなんて気が起きないから。一覧のリストを表示するだけでブラウザが重くなる、そんな規模の標準規格だからね。ソフトウエアでいえば、今更Windowsに代わる多機能OSを作ろうという会社がないのと同じだ。

A: Windowsなんて、Microsoftですら持て余してる感がありますもんね。現代のサクラダファミリアというか。

B: Windowsとか、日本の某銀行のシステムとか、なんだかサクラダファミリア化しまったソフトウエアも少なくないよね。そして、携帯電話のシステムも私にはそれらと同じに見える。特に5Gになって機能が複雑になりすぎた。誰も全体を管理できていない。しかも、数多のスマートフォンとの接続もできないといけないから、デバッグや試験も恐ろしく大変。だから、新規参入のハードルは恐ろしく高い。

A: なるほど。そう言われてみれば、そうですね。

B: ただ、これまでは無線機から信号処理部のハードもソフトも、すべて一気通貫で無線機ベンダーが作っていた。しかも、それでいて売れる数が多いものだから、ここが基地局ベンダーの売り上げの源泉だったわけ。

でも、それって携帯電話オペレーターにとってはすべて支出になるわけだから、できるだけ削りたいよね。だから、オペレーターも5Gになって策を出してきた。それがvRANとO-RAN※1という考え方だ。O-RANによって無線機部分が剥がされ、vRANによってCU/DUのハードウエア部分が剥がされるわけで、それでは一体、従来の基地局ベンダーはどこで儲ければ良いの?ってことになってきているんだ。

A: 基地局ベンダーは逆風なんですね。それは、業界再編は必至ですね。

まとめ

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Google Gemini作成

A: さて、時間になりましたので、まとめをお願いします。

B: 面白みを増すために、大胆な予測をしてみたい。

さきほどもちらっと触れたけど、Googleは自社の巨大AIをNVIDIAのGPUでなく、自社開発のTPUで動かしている。Google曰くだけど、NVIDIAの汎用GPUでAIを動かすよりも2~3倍も電力効率が良いらしい。今までGoogle TPUは門外不出だったけど、生成AI業界のもう一つの巨人であるMeta(フェイスブック)がGoogleのTPUを採用するのではないかというニュースが出てきた。

NVIDIAはCUDAのおかげでGPUにて独占的地位を築いてきた。AMDやIntelはこの牙城が崩せなかった。しかし、Googleは違う。そもそも生成AIのベースであるTransformer※4の発明者であり、現在世界No.1の生成AIを動かしている会社だ。すなわち世界で最もAIに関する開発力のある会社なわけで、そこが開発サポートをしてくれるのであればCUDAに迫ることができるかもしれない。Metaはそこら辺まで見越して、Google TPUを試すんだと思う。

A: それはわかりましたが、最後にいきなりGoogleのTPUの話なんかして、なんですか?

B: このTPUを使ってvRANの基地局を作ろうとする会社はないかな?例えば、Pixelの件でGoogleと仲の良いサムスンとか、BIG3なのに唯一GPUメーカーと強いコネのないエリクソンとか。

A: なるほど。入手困難で高価なNVIDIA GPUを捨てて、Googleと組む会社が出てくる可能性があると。

B: そうそう。現実問題としてGoogle TPUでvRANが動くかどうかは知らないというか、多分動かないだろうけど、Googleとエリクソンが組んだら面白いでしょ?会社としては。全部自社で賄えるファーウェイ、GPUの巨人NVIDIAと組んだノキア、それに対向するにはエリクソンだってGoogleぐらいと組まなきゃ勝負にならないから。

A: 面白いか面白くないかと言われたら、確かに面白そうではありますが、流石にそこは現実的ではない気がしますよ。行列計算に特化されたTPUで、vRANを動かせるとも思いませんし。

B: つまんないな。確かに実現可能性は低いよ。ただね、最後に一言言わせてくれ。

A: なんですか。

B: ノキアの選球眼を信じることはできない。NVIDIAと組んで良かったのか?ノキアはなんと言ってもWindows Phoneを採用した会社だからね。

A: そこは痛いところ突きますね・・・ コメントは差し控えさせていただきます。

B: まあ、AI-RANが広まった方が世の中は面白くなると思うので、是非各社とも頑張ってまずはvRANの普及を頑張ってください。

A: お、普通のオチですね。それでは、皆様次回をお楽しみに。

(担当M)
***

※1; O-RANとはOpen-RANの略。NTTドコモのような携帯電話オペレーターが中心となり作られた、RUとCU/DUの接続を規定する規格(団体)のこと。RUとCU/DUのメーカーが異なっていても接続が保証されるインターオペラビリティを重視した規格で、O-RANに準拠した機器であれば、携帯オペレーターは自由に機器を選べるようになる。

※2; CUDAとはCompute Unified Device Architectureの略で、プログラミングのプラットフォームである。元々GPUはグラフィックを計算・表示するためのプロセッサーであるが、CUDAを使って開発すればNVIDIAのGPU上で様々なアプリケーションが動かせるようになる。特にAIにおいては、CUDAを用いてGPUを使うように開発すると、CPUを使うよりも圧倒的に高速になるため、CUDAがAI開発の事実上のスタンダードとなっている。そのため、CUDAは、AIにおいてNVIDIAが独占的地位を占める最大の要因となっている。

※3; TPUとはTensor Processing Unitの略で、AI専用に設計さえたプロセッサーのことである。AIは大量、かつ大規模な行列計算を行う必要があるが、TPUはその行列計算に特化したプロセッサーである。GPUは本来グラフィック向けのものをAI用として使っているため無駄が存在するが、TPUはAIに最適化されているため、AI計算に限ればGPUと比べて高速で効率が良いとされている。

※4; Transformerとは、生成AIの中核をなすアーキテクチャ。2017年にGoogleの研究チームが論文「Attention is All You Need」中で発表。生成AIであるLLM(Large Language Model)はTransformerによって実現された。ChatGPTのGPTは、Generative Pre-trained Transformerの略である。