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AIの展示会になった?日本は? MWC2024レポート(前編)

記事更新日 2024年3月12日


はじめに

MWC Barcelonaという展示会をご存じですか?MWCはMobile World Congressの略で、毎年2月にスペイン・バルセロナで行われる、モバイル業界最大の展示会です。家電のCES(ラスベガス)と並び、デジタル機器の世界二大展示会と称させる巨大展示会です。そのMWC Barcelona(以降MWC)ですが、今年は2/26から2/29にかけて行われて、4日間合計10万人以上の方が来場しました。モバイル業界の全てが集まっているといってよいこの展示会を見れば、モバイル業界、ひいては通信業界の未来が分かるということで、毎年世界中の方々が来場します。

今年も、一昨年昨年に引き続きまして、MWCへ視察に行った弊社社員へのインタビュー記事をお送りしたいと思います。他には無い業界人としての視点でお届けいたしますが、一つ注意点がございます。弊社は、一応通信業界の片隅に籍を置く企業ですので、心情としては通信業界のネガティブな記事を書きたくはないのですが、エンジニアの矜持を持って忖度よりも事実の精神で書いております。もしかしたら、意見が合わず不愉快になるような内容が含まれているかも知れません。しかし、その内容も含め、弊社社員が見て、そして感じたありのままの現状ということで、ご容赦ください。

前編後編の2回に分けてお届けします。今回はその前編となります。

前編はこちら

このブログのお約束ですが、この記事は「広報発表ではなくエンジニアブログの記事」ですので、記事の内容は会社の公式な意見、方針ではありません。また、会社名等、固有名詞も出てきていますが、本記事は組織の見解では無く個人の感想であることをご承知置きください。尚、会社名等は敬称を略させて頂きます。

バルセロナが遠くなった・・・

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MWCバルセロナ2024会場

筆者(以降"筆"): MWC参加、お疲れ様でした。初めて参加したと思うんですが、MWCの盛り上がりってどう感じましたか?例えば、日本の他の展示会と比べてどうとか。

弊社社員Iさん(以降"I"): 日本の展示会とは規模が違うので、やっぱりそれなりにお客さんが入っているんだなという印象です。そして、日本と違って初日に人が多くて、日が経つほどにすこしずつ減るっていう感じでした。それと、朝は本当に人が少なくて、昼から夕方にかけて人が増えていくというのも日本と違うところですね。

筆: 昨年2023年のMWCは、欧州ではコロナが明けてほとんど影響がなくなっていた一方で、日本ではまだまだコロナの影響が大きくて、海外渡航が敬遠されている時期でした。そのため、日本人の来場者は極めて少なかったと聞きました。しかし、さすがに今年は日本もコロナの影響がほとんど無くなくなったと思います。日本人の来場者数はどうでしたか?

I: 今年は日本人の方を結構見かけました。日本人もそこそこいるんだなという感じがしましたが、それでも中国、韓国から来られている人の方が断然多かったように思います。もちろん、ヨーロッパ系の方の来場者が多いのは言うまでもありませんが。それと、意外と中東やラテン系の方は多くなかったですね。

筆: 原油も高いし、オイルマネー強そうなんですけどね。そういえば、昨年参加のHさんは、ロシアの戦争の影響で移動が大変だったと言っていましたが、Iさんはどうでしたか?

I: 大変でした。行きも帰りも(日本発着便のフライトは)13時間以上かかりました。行きはアンカレッジからロンドン。つまりグリーンランド、北極海を越える形でした。帰りは、パリからで、中東経由で帰ってきました。帰りはほとんど寝ていたので、まあ我慢はできたのですが、結果的に地球一周した形になっています。そういえば、行きの飛行機でCAさんからは、「この便はバルセロナに行く人が多い」という話は聞きました。

筆: やっぱり、影響は大きいですね。円安・ユーロ高もあって個人ではヨーロッパには行きにくいですよね。

I: そうそう、物価も高かったですね。水1本2.5ユーロ、400円ぐらいですかね。会場でビザを食べたら4000円とかそういうレベルでした。

筆: 食費も高かったでしょ?特に、夕食とか。

I: そうですね。ただ、現地ではお客様との会食が多くて、自腹はそこまででもないんですが。そのせいで、精算は十数万円ですけど(笑)。それと、ホテルに朝食が付いていて助かりました。(弊社の)海外出張の日当が、ウクライナ戦争前と変わってないから、ほんと大変でしたよ。

筆: ですよね。ユーロはインフレしてますからね。

I: バルセロナは観光地だから、もちろん観光客も多かったわけですけど、それも中国人ばかりでしたね。日本人観光客もいないわけではないんですが、ほんとちらっとしかいませんでしたよ。飛行機も中国系エアラインはすごい長蛇の列でしたし。中国系エアラインはロシア上空を飛べるというのも大きいかも知れませんが。

筆: ああ、そういう違いもあるんですね。

通信ではなくAI

筆: 実は昨年のMWCの記事では、O-RAN※1関連の展示が中国、韓国、台湾の中小メーカー中心に目立っていたと書きました。今年は、ズバリなにが流行っていたという印象ですか?

I: それはもう、AIですね。現地でお会いしたシンクタンクの方も話されていましたが、もう通信系5割、AI系5割といった割合です。情報通信の展示会なのに、通信に関係無いAIの展示が多かったです。

筆: そんなにAIばかりでしたか。昨年はちょうどChat GPTが一世を風靡し始めた中でのMWC開催だったので、まだAIが展示に間に合っていないといった感じでしたが、やっぱり今年はAIですか。それで、AIはどんな会社が展示していたんですか?

I: 私は中国、韓国、台湾の東アジア系を中心に回ったのですが、韓国がAIにもの凄く注力していて、中国と台湾はどちらかというとまだハードウエアよりでしたね。韓国でハードを展示していたのはSamsungぐらいですね。韓国パビリオン※2の8割はAI関連の製品だったと思います。もちろん、中には「これってAIと呼べるの?」というものもありましたし、全てがLLM※3系ではなくて、普通のDLのものもありましたが。

筆: DL系のものなら、別に昨年も展示できたはずで、今年これだけAI展示が増えたってことは、Chat GPTで今年再びAIブーム到来って感じですね。ところで、LLMとかの生成AIは、本来通信とはあまり関係ないと思うのですが、MWCではAIをどのように使ったものが展示されていたのか、目立った例をいくつか挙げていただけると有り難いです。

I: 面白かったのは、やはり韓国系の企業ですね。例えば、人間風のAIアバターが文字で入力した文章をしゃべるもの。言葉にするとと普通なんですが、実際見るととってもリアルで、もはや人間です。それと、人が歩いている動画を10秒間撮るとアルツハイマー病が検出できるというヘルスケアAI。

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10秒でアルツハイマー病を発見?

筆: それは、凄いですね。動画だけでアルツハイマーがわかるんですね。

I: アルツハイマー病の方は、何か歩き方に特徴があるみたいですよ。最後は、Chat GPTをカスタマイズできる、特定の外部データベースと連携させて、そのデータベースに特化した回答を得られるようなプラットフォーム。例えば、うちの会社の社内報告システムと連携させれば、うちの会社のデータを分析してAIとして活用できたりするんですよ。

筆: うちの会社の社内データってもの凄く沢山あるんだけど、構造化とかされていないから活用が難しいんですよね。だけど、展示されているような既存のLLM系AIに飲ませるだけでも、私は一気に宝の山と化すと思ってるんですけどね。というか、LLMってそういったテキストデータの分析がとても得意だから、すごくうちの会社に向いていると思うんですけどね。

I: 私も、この展示を見てそういったことができるなと思いましたよ。そういえば、紹介した3つのうち後ろの2つ(アルツハイマー検出とAIプラットフォーム)はSKテレコムのブースにあったので、SKのパートナーなんだと思います。

筆: SKテレコム、韓国の通信事業者ですか。あれ?どちらのAIとも、全く通信と関係無いですよね?

I: そうなんですよ。通信と関係無いんですよね。私たちが、そういったところばかりを回っていたからなのかもしれないのですが、通信のハードウエアを前面に押していこうとする展示は少なかったんですよね。ハードウエア、これは基地局も端末、両方ともなんですが。

筆: そうなんですが。あ、端末の話は後程お聞きしますので、次の話題に行かせてください。

昨年ブームだったO-RANは?

筆: では、先に純粋な通信技術的な話を伺いたいと思います。昨年展示の多かったO-RANですが、今年はどのような展示が多かったですか?

I: 今年のO-RANは、標準化はされているんだけれども、各メーカーはO-RANの上に独自の機能を載っけるという展示をしていましたね。折角、標準化して共通化しようとしているのに、メーカー独自の機能を載せているので、これって標準化の妨げになるんじゃないかな?と思うんですが。

筆: O-RANって、携帯事業者側が標準化を推進したんですよね。その方が事業者に機器の選択肢が増えて、安くなるから。だけど、メーカーはそれに逆らって独自色を出したいと。

I: 大手欧州メーカーは、事業者の言うことですから渋々従ってはいるけど、やっぱり差別化して自分たちの無線機を買ってほしいんでしょうね。ベンチャーには価格で勝てませんから。とにかく、付加価値付けて差別化して、囲い込みですよね。

筆: そうなりますよねー。それでは、対する去年活発だったO-RAN無線機ベンチャーはどういう展示をされていましたか?

I: 今年は、展示が無かったわけでは無いですけど、O-RANはあまり見ませんでしたね。中小のベンダーで言えば、むしろWi-Fi 7の製品を展示しているところが多かったですね。とある中国メーカーは来月から実証を始めて、今年秋ぐらいに中国、欧州向けに製品を出す予定だと話されていました。

筆: なるほど、Wi-Fi 7ですか。期待していたWi-Fi 6があまりユーザーに刺さらなかったので、私はWi-Fi 7にも懐疑的なんですけど、結構出ていたんですか?

I: そこそこ見ましたね。Wi-Fi 7はCAみたいなことができる※4ので注目されていましたね。特に6GHz帯で速度を稼げるらしいんですが、それでもMAX46Gbpsは出ないと思いますが。

筆: まあ、Wi-Fiで規格上の最大速度が出ることなんか無いですしね。ところで、携帯電話に戻りますけど、私はO-RANについても懐疑派で、オールインワン型の基地局こそ5G普及の切り札だと言い続けているんですけど、そういった無線機はありましたか?

I: ローカル5G(プライベート5G)向けならありましたよ。中国のA社ですね。今年の春ぐらいから日本の大手ゼネコンさんと実証実験もやるみたいです。何とコア一体型で、インターネット回線さえあればその場で5Gの電波が出せます。出力20W、価格は数百万。コア一体型なのでスタンドアローンとなりますが、これまでのローカル5Gのコストと比べれば1/10で局が建ちますからね。

筆: おお、やっと出てきましたか。コア一体型というのもとてもいいですね。私もこれなら売れそうだと思います。何度も言いますが、個人的にオールインワン型推しなので、とても期待してます。5Gの高い周波数とO-RANは相性悪いですよ。高い周波数こそオールインワンです(笑)。

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A社無線機

(2024/3/22追記 会社よりオールインワン型無線機メーカーの名前を伏せるように指示がありましたので、修正させていただきます。申し訳ございません。もし、無線機メーカー(中国A社)にご興味のある方はこちらのフォームよりお問い合わせください。)

後編へ続きます。後編は、大手メーカーの動向や、昨年も話題になった日本企業の印象など、引き続き独自視点でお伝えしていきます。


※1; Open-RANのこと。NTTドコモをはじめとする事業者が中心となって決定した、無線機の信号処理部分と無線機の部分の間の通信規格。ここの接続プロトコルを標準規格にして、相互接続性を担保することにより、信号処理部と無線機で異なるメーカーの機器を使用することができ、結果的に機器価格を下げることができると言われている。詳しくはこちらの記事を参照。

※2; 韓国政府機関が、複数の韓国企業を集めたブースを開いている。日本含めた各国でも同様のパビリオンを開いている。

※3; Large Language Modelの略。Chat GPTやGoogle Geminiなど、従来のDeep Learning AIよりも大規模なデータを学習させて構築したAIのこと。LLMは文章の判断だけでなく、文章を新たに「作り出す」ことができるため、同様な大規模学習型画像AIも含めて「生成AI」と呼ばれることが多い。

※4; Wi-Fi 7では、携帯電話のキャリアアグリゲーション(CA)の様に、複数バンド(例えば5.6GHzと6GHz)を同時に使用する機能があり、最大通信速度がWi-Fi 6に比べ大幅に向上している。