LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

MWC2022出展記念!

MWC2022に出展した結果はどうだったのか?

記事更新日 2022年3月19日


はじめに

前回書きましたとおり、なんと三技協が、毎年バルセロナで開催されている、あのMWC2022に初出展しました!! MWCとは何かとかは前回をご覧頂ければと思いますが、ともかく世界最大の通信展示会に(ブース内間借りスペースではありますが)出展し、いよいよLEDバックホールも世界デビューしました! 今回のブログは、その世界デビューの様子というか、今回のMWCの様子や雰囲気など、出展側の目線で見えたことなどを書いていきたいと思います・・・

とはいえ、筆者は現地バルセロナへ行っておりませんので、実際に現地で出展の対応した社員Hさんに対するインタビュー形式で進めていこうと思います。ただ、単なる会社の広報発表みたいな内容ですとこのブログの趣旨に反しますので、できるだけ「出展したからこそ分かる事」を記事にしたつもりなので、軽い気持ちでお読み下さい。

当然ですが、前述の通り「広報発表ではなくエンジニアブログの記事」ですので、記事の内容は会社の公式な意見、方針ではないことをご承知置きください。会社名等、固有名詞も出てきていますが、組織の見解では無く個人の感想ですのでご容赦下さい。

インタビュー内容

筆者(以下"筆"):MWC2022、バルセロナでの出展お疲れ様でした。帰国後、体調等はいかがですか?

Hさん(以下"H"):体調は問題ありません。ただ、帰国便がウクライナ侵攻によってロシア上空を飛べなくなったために、ロンドンからグリーンランド上空を通って、つまり西回りで15時間もかかりました。直行便ではあったものの、こんなに長い時間飛行機に乗ったのは初めてです。しかも、帰国便で座席前後の方に新型コロナウイルスに発症された方がいたらしく、帰国後7日間の隔離を余儀なくされました。やっと、昨日その隔離期間が無事終わったところです。

:それは大変でした。欧州においても、コロナ禍、オミクロン株がまだまだ完全に収まっていない中での開催でした。MWCにおいては、何か特別な感染症対策はあったのでしょうか?

H:MWCは凄くシステマチックになっていて、ワクチンの2回以上の接種証明を事前申請しないと入場パスが貰えません。これ出展者だけじゃ無く、来場者も一緒です。スペインの方がワクチン接種の意味付けが重いという感じを受けました。それと、スペイン入国の際に72時間以内のPCR陰性証明が必要のため、二重に安全管理されているという感じも受けました。

また、場内は「マスクはFFP2※1以上」という条件があったため、全員高規格なマスクをする必要がありました。日本ではそういう規格というか性能でマスクは管理されていませんが、向こうの薬店ではマスクは性能別に売られていました。この辺は、驚いたところです。

:Hさんは、これまで何度もMWCに行かれていますが、今回初めて出展側に回って、これまでと何か違うことはありましたか?

H:前日の午後に会場へ入ったのですが、今回は日本パビリオンでの出展だったのでそれでも十分準備は間に合いました。モニターとかポスターは事前に日本で入稿したモノを準備していてくれていましたので、展示するLEDバックホール本体を準備する程度でした。もちろん多少の現場あわせはありましたかが、準備はとても楽でした。それと、出展者パスであっても、入るのにも顔認証が必要とか、銃を持った警備員がいるとか、日本よりもその辺は厳重でした。

:他のブースの様子はどうでしたか?

H:日本の展示会だと、大手企業のブースでも開催前日の夜ギリギリまで調整しているのをよく見かけますが、MWCでは前日の午後に我々が入場した段階で、大手ブースはもう既に殆どできている状態でした。MWCは毎年同じ位置に、同じ企業が、同じ展示をしている感じなので慣れているというのもありますし、おそらく設営の期間も長い※2のではないでしょうか?

:我が社も日本の展示会には数多く出展していますが、これまで出展した日本の展示会とMWCの違いは何かありましたか?

H:ヨーロピアンスタイルなのか、ブース内で食事を振る舞う、飲み物を振る舞う、そういうスタイルが普通ですね。我々も出展した日本パビリオンではそういうことをやっていませんでしたが、お隣のスペインブースはもはや喫茶店と化していましたよ。リラックスして話をする、というのが商品を展示することと同じぐらい大事のように見えました。

:そういえば日本のとある展示会でも、ドイツパビリオンで夕方にビールとチーズを振る舞っていましたよね。あんな感じですか?

H:そうそう。あんな感じ。欧米の会社でミーティングするとコーヒーとスナックとかが置いてあることも多いし、展示会も同じ感覚なんだと思います。

:他には?

H:あと・・・ これはMWCに限ったことじゃないんでしょうけど、会場内の食事が恐ろしく高かったです。日本でも展示会会場では通常より高いですけど、それにしても高い。ハンバーガーが21ユーロ(約2700円)もしました。外なら8ユーロ(約1000円)で食べられるのに。

:荷物も少ないとは言え、実機など搬入しなければ行けません。我々、そういった経験が少ないですが、短い準備期間(約三週間)でよくできたなと思いますが、どうだったのですか?

H:搬入は自分たちでやると該非判定とかとっても大変なんですけど、日本パビリオン側で全てやってくれたので、何も考えることが無かったです。その代わりではないですが、ブースで展示した荷物は10日以上経った今でも、いつ帰ってくるのかすらわかりませんが。どうも、これはウクライナでの戦争の影響らしいですが。

:元に戻りまして、今年のMWC全体の印象をお聞かせ下さい。コロナ前の数年間はファーウエイ(華為技術)が大々的に展示していたイメージがあります。

H:全体の印象で言うと、東アジア勢が元気でした。中国、韓国、台湾。その3加国ですね。

:あれ日本は?

H:日本人はほとんど来ていなかったです。現地駐在員が来ているぐらいで。人が来ていなかったのは、日本とロシアぐらいです(笑)。

:個別だとどんな会社が印象に残りましたか?

H:結局、ファーウエイが一つ二つ上を行っている感じでした。欧州系があまり元気が無かった印象もあって、ファーウエイ例年以上に目立っていました。仮に自分が機器を選定する側だとしたら「ファーウエイブースに来ると最新の無線機から、回線、発電機まで全て揃っていて、その上どうやってマネタイズするかまでのソリューションも提案されるので、あとはお酒飲んでサインすればOK、他のブースを見る必要も無い」と考えてしまうかも知れない。そう思ってしまうほどの充実した内容でした。

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図1: 今年もさすがのファーフェイブース

:他の会社は?

H:出展者側なので、普段よりもブースは回れなかったですが、その中でも各国のスタートアップを集めたエリアがあって、そこは面白かったですね。売れるかどうかはよく分からないけど、一発モノで尖っているかもしれない?ものが結構ありました。

:そういえば、全体の客入りとはコロナ前と比べて、実際のところどうだったですか?

H:公式発表は6万人超。コロナ前の2019年は10万人と言われてましたのでちょうど6割戻ってきたという数字です。しかし、肌感覚的には7~8割戻ってきている感じで、ああもう世界はアフターコロナなんだな、という印象を持ちました。

:展示内容についても伺いたいです。今年は、6Gは固まってないけど、5Gはもう動いちゃってるという、携帯電話業界的に言えば「過渡期」に開催された展示会でしたが、どういった内容の展示が目立ちましたか?

H:よくある通信、無線機みたいなブースだけで無く、今年はフィンテックだったりコンサルだったりそういうのが目立ちましたね。マッキンゼーやアクセンチュアなど、一見モバイルと無関係そうなコンサルティングファームが大ブースを構えていたりして。中身までしっかり見ていないので詳細までは把握していませんが、5Gや6Gを「どう使うか」を考える方向になってきているのは間違いありません。

それとAIですが今年はあまり目立ちませんでした。前回来たときなどは猫も杓子もAIを全面にだしてましたが、もはやAIは当たり前で「AIを使って何をするか」じゃないともう目を引けない、そういう段階なのだと思います。AI繋がりでいえば、今年は車関係もぱっとしませんでしたね。自動運転技術が伸び悩んでいて、5Gのキラーコンテンツにならなかったのが原因だと思います。前回はQualcommすら車を展示していたのに。

:Hさんの印象として、他に目立った商品、メーカーなどはありましたか?ファーウエイ以外で。

H:CESでも賞を取った会社ですが、”Klleon”という韓国の会社で、カメラで顔をとってキャプチャーすると、自分でしゃべった言語を自分の顔と声で翻訳するというソフトウエアを展示していました。顔の動きも、声も、リップシンクも、翻訳後の内容も全く違和感が無くてびっくりしました。こんなのが当たり前になったら、本当に言語の壁無く会話ができそうな気がします。

Klleon社リンク

:さて、本題の我が社(三技協)のブースの話に触れたいと思います。先ずは日本パビリオンについて。日本パビリオンには何社ぐらい出展していたんですか?

H:全部で10社です。

:どういった会社が出展されてましたか?

H:モバイルと直結しない会社が多かったですね。小型衛星だったり音響技術だったり、通信以外の人が多かったですね。通信機器をやっていたのは我々ぐらいなものでした。

:我が社も含めて、スペースは各社どれくらい貰えたんですか?

H:全体が10mのブースで両面あったので、一社あたり横幅2mです。日本ではもっと狭いブースで展示することも少なくないですし、今回は展示するものも人数少なかったので丁度良い広さでした。

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図2: 日本パビリオン(工事中)

:三技協ブースではどういったものを展示していたのですか?

H:場所も狭いのでLEDバックホールだけを展示していました。無線帯域が逼迫していて、光は新しいバンドだからそれを使いましょう、といういつもの感じで説明していて、将来的には車車間通信だったり、ミリ波のバックホールとして使いましょう、という提案をしました。これは、日本の小さい展示会でやるパターンとさほど変わりません。

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図3: 我が三技協ブース(コーナー)

:お客さんは結構きましたか?例えば、事前の想定と比べてとか。

H:お客さんは、事前の想定よりかなり来ました。小さいブースですし、あまり人が来ないかなと思っていたのですが、本当にいろいろな国のお客さんが来場されました。キーノートが開催されるエリアだったので、その前後に人が多くなる傾向にありました。この辺は、日本の展示会と一緒です。

あと、MWCでは夕方は大ブース以外ほとんど人がいなくなります。日本の展示会ですと、夕方の終了時間ギリギリに来られる方も結構多いのです。我々はこれを直帰需要と呼んでいますが、これがMWCではありませんでした。おそらく、出張で来ている人が多いからだと考えています。早めにホテルに帰って会社に報告とか、接待含めみんなで食事とかそういうパターンではないかと。

:どういった地域のお客さんが多かったですか?具体的には言えないでしょうから、ざっくりとした地域で結構ですので教えて下さい。

H:中東、アフリカのお客様が結構、光無線に興味があるようでした。すでに問い合わせとか来ていますけど、うちの会社(の規模)からするとなかなか手が出せないんで、これがビジネスに即繋がるかというと難しいかも知れません。もし、これを読んでいて興味がある商社さんおられましたら連絡お待ちしてます。

:連絡来るといいですね。ところで、他の光無線関連はいかがでしたか?我々が代理店もしているOLEDCOMMなんかは、これまで毎回いろいろな形でMWCへ出展していましたが、今年はどうだったのでしょう?

H:我々と交流のある、世界二大LiFiメーカーであるOLEDCOMM※3PureLiFi※4、どちらも出展はしていました。OLEDCOMMはフランスブースの一部ですが、PureLiFiは単独ブースを出展していました。しかし、どちらもモノを目立つように展示していなくて、残念ながらあんまりぱっとしませんでした。OLEDCOMMは商品がLiFiだけですから、どちらかというとCES(アメリカラスベガスで行われる巨大家電展示会)に力を入れていて、MWCでの出展はお付き合いみたいなものらしいですが、とは言え同じ光無線業界にいる人間からすると残念に感じました。

:そうでしたか。残念な話で終わるのもあれなんで、最後は明るい総括をお願いします。今後、MWCの経験を踏まえ、どういう展開をお考えですか?

H:明るい話かどうか分かりませんが、お話しさせて頂きます。今回のMWCでは誰も「5G」という言葉を前面に出していませんでした。”Connectivity”こそが重要であり、そこに使われている技術自体はあまり重要ではない、そういった感じを受けました。だから、我々は光無線通信を使ったその”Connectivity”をもっと追求していく必要があります。そして、それを実現するための答えはファーウエイのブースにあって、技術を表にだすのでは無くて、光無線をつかってどうマネタイズするか、これまでできなかったことをどう実現するか、そういったソリューション、いや製品を用意する必要があるでしょう。単なる通信機では無く、そういった製品を準備しないと、きっと光無線通信は広がらないだろうと改めて感じました。

:そうですね。我々技術陣も、そういった製品が作れるように頑張ります。今日はお忙しいところ有り難うございました。

筆者の総括

私もこのブログで似たようなことをよく書いていますが、すでに携帯電話の技術は一般ユーザーのニーズを超えてしまっているのだと思います。つまり、通信速度であったり、接続安定性であったり無線技術で解決できる部分はすでに解決できているのです。後は、それをどう使うのか?ですが、どう使うのかの鍵を握るのが「いつでもどこでも使えること」、すなわちConnectivityであり、今後はこのキーワードが中心に進むのかと思います。

帯域の制限や干渉の問題がない光無線通信は、容易にConnectivityを向上させることのできる方法の一つで、Connectivityがキーワードになる限りは闘えるなと思っています。今後は、無線通信の「土管」を売るのでは無く、「通信を使った何か」を製品とできるように開発を進めていく必要があることを強く感じました。


※1: 産業安全技術協会HPによると、「FFP2はヨーロッパが定めたEN規格に適合したマスクで、米国規格のN95、日本の防じんマスクのDS2に相当するものとして一般に認識されています。」とされている。

※2: 日本のほとんどの展示会では設営は長くて2日間しかなく、1日目はブース設営業者による工事で、重機も入るため設営業者以外は安全のため入場しない。そのため、出展者による展示物の準備は2日目の展示会前日にやらなくてはならない。

※3: OLEDCOMM(オレドコム)は、フランスのLiFiメーカー。恐らく、今一番「まともな」LiFiを販売している会社。

※4: PureLiFi(ピュアライファイ)は、イギリスのLiFiメーカー。LiFiという言葉を作り出した、LiFi業界の老舗。