LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

日本どうなる? MWC2023レポート

記事更新日 2023年3月28日


はじめに

MWC Barcelonaという展示会をご存じですか?MWCはMobile World Congressの略で、毎年2月にスペイン・バルセロナで行われる、モバイル業界最大の展示会です。家電のCES(ラスベガス)と並び、デジタル機器の世界二大展示会と称させる巨大展示会です。そのMWC Barcelona(以降MWC)ですが、今年は2/27から3/2にかけて行われて、総計約9万人が来場しました。モバイル業界の全てが集まっているといってよいこの展示会を見れば、モバイル業界、ひいては通信業界の未来が分かるということで、毎年世界中の方々が来場します。

実は、昨年我々もジャパンパビリオンの一員として初めてMWCへ出展しまして、その様子をこちらの記事で紹介しました。今年は出展はしておりませんが例年通り弊社社員が視察してきましたので、今回のブログでは、視察した社員へのインタビューをお送りいたします。世界のモバイル業界の現状を少しでも感じ取って頂ければ幸いです。

尚、弊社の業態上、MWCは無線機関連を中心に視察しており、端末(スマホ)関連はほとんど見ていないとのことなので、インタビューはほぼインフラ側だけの話題となっておりますことをあらかじめお断りしておきます。

このブログのお約束ですが、この記事は「広報発表ではなくエンジニアブログの記事」ですので、記事の内容は会社の公式な意見、方針ではないことをご承知置きください。会社名等、固有名詞も出てきていますが、組織の見解では無く個人の感想ですのでご容赦下さい。尚、会社名等は敬称を略させて頂きます。

MWCインタビュー

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図1:MWC Barcelona 2023会場

今年のバルセロナ

筆者(以降”筆”): 昨年に引き続き今年もMWC参加、お疲れ様でした。今年もインタビューをさせて頂きたいと思います。去年のMWCは、まだコロナが収まっていない時期に強制開催といった雰囲気でしたが、今年のMWCはどうでしたか?

弊社社員Hさん(以降”H"): こちらこそ、よろしくお願いします。今年のコロナですけど、会場でマスクしていたのは我々ぐらいなもので、マスクしている方が目立つという状況でした。お客側だけでなく、出展者サイドでもマスクしている人はいなかったですね。海外メーカーで働かれている日本人の方々も、最初マスクは用意したけど結局はマスクを外したと話されていました。

筆: そういえば、昨年のMWCはマスク必須で陰性証明やワクチン接種証明が必要だったり、大変厳しい入場条件があったと話されていましたが、今年はそういった条件というか規制みたいなものはあったんですか?

H: そのような規制は全く無かったです。現地では確実にコロナは終わったという印象です。おそらく、ただの風邪と同じ感覚のようです。コロナ感染は多少残っているのかも知れませんが、そんなことを全く気にしていない感じでした。

筆: すごいですね。お店とか飲食店、ホテルとかはどうでしたか?

H: お店も、ホテルも誰もマスクしてないですよ。スペインでは、一年前に「屋外であればマスクを取って良いという」という様に緩和されていましたので、丁度日本より一年進んでいるといった感覚ですね。だから、一年後の日本は今のバルセロナと同じようになっていると思いますよ。

O-RANが盛り上がっている

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図2:中国(香港)メーカー無線機(Comba-Teleocm社)

筆: さて、本題に入りたいと思います。今年は約9万人来場と、コロナ前の8~9割に戻りました。一方で、日本のMWCの報道はいまいちで、余り盛り上がっているように見えませんでした。現地バルセロナの盛り上がりはどうでしたか?

H: 今年はかなり盛り上がっていましたね。

筆: 昨年と比べてですか?

H: そういうレベルじゃ無いですね。来場者の数は増えていましたがそれだけじゃなくて、とにかく出展者側が盛り上がっていました。その理由はずばりO-RAN※1ですね。O-RANの製品を展示しているメーカーが沢山ありました。失礼かもしれませんが「知名度のない中小のベンチャー的なメーカー」が様々なO-RAN対応無線機を展示していました。特にアジア三国(中国、韓国、台湾)のメーカーが多かったですね。

筆: O-RANですか。私は、いまいち好きじゃ無いんですが・・・

H: O-RANの無線機用ソフトウエアがオープン化しているため、それを利用して様々なメーカーが無線機を作っているようです。それをOEMとしても出しているみたいですね。また、規制があって先進国への輸出が難しいファーウエイ(華為技術)の代わりとして、規制のかかっていない中小の中国メーカーが無線機を輸出しているというのもあるようです。特に、ドイツへは結構入っていると聞いています。

筆: そんな事になっているんですね。

H: それに伴ってか、ローカル5G(プライベート5G)もよかったですね。昨年はローカル5Gに対応しているような無線機がほとんどなかったのですが、今年は対応無線機が沢山ありました。

筆: ほう。とはいえ、5Gは過渡期であって6Gもまだ研究段階という状況で、今年のメイン題材は何とみえましたか?

H: そういった観点で話すと・・・ 今年のMWCの公式テーマは”Velocity(速さ)”でした。通信がオープン化していて、それを加速していくぞ、という流れ。今までは、大手メーカーだけに閉じていたような世界だったのが、特にアジア圏の中小新興メーカーが「自分たちだってやれるぞ」ということで、沢山出てきています。そういった意味で「広がる速さ」というものを感じました。

筆: そのオープンならではの広がりって奴は、O-RANの目的そのものでしたよね?

H: そうですね。O-RANによって、無線機業界の裾野がもの凄く広がった感じがします。

筆: 私は、周波数が高い無線機ならむしろオールインワンタイプの方が良いと思っているんですけど、オールインワンタイプはどうでしたか?

H: オールインワンタイプはほとんど無かったですね。韓国メーカーがミリ波※2で出してきた。それぐらいですかね。

筆: そうですか、残念だな~。それでは、今話に出たミリ波の方はどうでしたか?このブログでも書きましたが、各国ミリ波には苦戦しているみたいなので、なんか新しい何かが出てこないか期待しているんですが。

H: うーん、ミリ波は少なかったですね。どこもsub-6※3がメインです。ミリ波は無線機もそうですが、そもそも対応端末も少なかったですしね。先のO-RANも、ほとんどがsub-6のものでした。

筆: ミリ波はまだ来ないんですね。

MWCにおける日本

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図3:楽天グループブース
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図4:NTTドコモブース

筆: そういえば、O-RANに関しては日本でも楽天とドコモがニュースになっていました。

H: 楽天は、楽天シンフォニー※4一色でした。三木谷(浩史楽天グループ)会長が来場されてプレゼンされていました。O-RANの日本での導入例を世界に展開する、O-RANの先頭を走っているのは自分たちだ、とアピールされていました。楽天シンフォニーのサービスは、楽天グループのビジネスを変えるゲームチェンジャーになる存在だということです。

筆: 対するNTTドコモはどうでしたか?

H: 日本の会社の中では、ドコモの展示が一番頑張っていたと思います。研究所で研究中の商品やサービスを中心に展示していましたね。O-RANも展⽰はしていましたが、楽天とは異なりドコモファミリーのメーカーと一緒に海外に出ていくスタンスでした。そういえば、ドコモは6Gの展示も大きかったですね。

筆: 6Gですか!

H: ドコモはIWON構想※5と6Gを融合させて、更に通信性能を上げていくんだ、というアピールをしていました。5Gではドコモは後れを取ったという感覚があるようで、IWON構想を6Gの旗頭にして、世界をリードしていきたいように見えましたよ。

筆: なるほど。正直IWON構想がどうなるか我々には予測できませんが、ドコモはそっち(光)で勝負するんですね。

次に、楽天、ドコモ以外の日本の事業者、メーカーはどうでしたか?

H: 事業者は出てないですね。メーカーは前述のNEC、富士通は出展していました。ただ、残念ながらNECは招待者専用でしたし。それでも、NECは去年までコロナでMWCへは出展していなかったので、戻ってきて頂いただけでも有り難いという感じです。

そして、それ以外の日本メーカーは、数社ぐらいしか出ていなくて、はっきり言って存在感全くゼロな感じでした・・・

筆: 厳しいですね。昨年我々が出展した日本パビリオンはどうでしたか?

H: 残念ながら、他国のパビリオンと比べてインパクトが弱かったというか・・・

韓国なんかは国のパビリオンが3つ4つあって、ソフトウエア系とか、なんとか系とか分かれて存在していました。そして、それぞれに面白い展示がありました。CESで賞を取った製品の展示も多くて、やっぱり人も集まっていたし、例えば今注目のAI系にしても尖っていて見せ方がよかったですよ。

筆: なんか、話を聞いているだけで暗くなりますね。

H: そう、正直完全に遅れてるって感じです。NWCで日本は存在感を失ってますね。

筆: そういえば、昨年は「MWCに来ていないのは日本人とロシア人だけだ。」なんて事を言っていましたが、今年はどうでしたか?

H: 日本人に関して言えば、昨年と比べればそれなりに来ていたはずなんです、飛行機は満席でしたし・・・ でも、会場で遭遇するほどではなかったですね。

ロシア人は今年も全く来ていませんでした。入国できないのかもしれません。

やっぱりファーウエイ

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図5:ファーウエイブース (GUIDE構想の紹介)

筆: まあ、日本のことはいったん置いておいて、逆にその他で盛り上がっていた国とかブースはどこですか?

H: やっぱり、今年もファーウエイですね。なんか、もう一つ一つが素晴らしい感じでしたよ。それと、ファーウエイブース内にパートナーを紹介するコーナーまであったりして、凄いと思いました。

筆: さすがファーウエイ、強いですね。

H: 例えば、「5Gに投資しても回収できない」という話を良く聞くけど、それに対する回答というかマネタイズの方法というか、そういったものを事細かに様々な事例を紹介しながら説明していました。それにとても感心しましたね。

それと、面白い商品としてFTTRというものを紹介していました。Fiber to the RoomでFTTR。

筆: ご免なさい。不勉強で申し訳ありませんが、初めて聞きました。

H: 私もFTTRを知っていたわけではないんですが、日頃お世話になっている日本のシンクタンクの方に現地でお会いしたときに「ファーウエイのFTTRが面白いから是非見た方が良い」と勧められたので。そうしたら本当に面白かった。

筆: どういったものなんですか?

H: 光ファイバーなんですが、半透明でフレキシブル、LANケーブルを引くよりももっと見栄え良く、簡単に敷設できるようなケーブルが展示されていました。もう、ニトリやハンズで売っていそうなレベル感でプロダクトが並べてありました。

結局のところ、ユーザー機器へ接続する末端はWi-Fi6や7だったりするわけですが、光ファイバーだからそこまでが速くなるんです※6

筆: 一般に流行るかどうかは別にして、光ファイバーを一般の方でも簡単に扱えるようにするとする考え方はありかもしれませんね。

H: そうなんですよ。LANケーブルと同じように光ファイバーが扱えるようになったら、何かが生まれる知れません。

通信とAI

筆: さて、直接の5Gや6Gといったもの以外のネタで気になったものはありましたか?例えば、今IT界隈では、ChatGPT等LLMのニュースで持ちきりですけど。

H: AIですか。ベンチャー系が集まるFY4Nというブースがあったんで、AI関連の商品がそこにはあったかもしれないけど、そこまで見る時間がなかったので分かりません。

既存大手メーカーはAIを使った保守、メンテナンスに力を入れているようでした。ノキアはAVA※7を押していましたね。もの凄く出来が良いようです。機能をモジュール化していて、それをいじればAIやプログラミングの知識がなくとも誰でも構成できるようになっていました。で、事業者にとっては運用コストが下げられますよ、と。

筆: 保守、運用がAI化されてしまうと、我々の会社の仕事は無くなりますね・・・

H: 残念ながらそうかもしれませんね。大手なので(先ほどのO-RANのベンチャーよりも)イニシャルコストは高くなるけど、保守運用が楽でコストが下げられるし、AIによって障害発生の予防ができるからサービス品質も高くなる。そうなれば、結果的に安くなる、という提案になっていました。

光無線通信他

筆: 一応、このブログは光無線通信のブログなんで、光無線通信の事も聞いておかなければいけません。MWCでは光無線通信の展示はありましたか?

H: 殆どありませんでしたが、我々のパートナーであるフランフォーファー※8がLi-Fiを展示していましたね。まあ、サブテラヘルツ波とのセットですが。

筆: サブテラですか!どんなものですか?

H: まだまだ装置は大きいものでしたが、100Gbps出せる機器として展示されていましたね。先ほど出てきたエリクソンでも、サブテラヘルツの6G機器を出されてましたね。

筆: 徐々に、6Gに向けてサブテラヘルツも出てきているんですね。

最後に

筆: 本日は有り難うございました。それでは最後に、全体のまとめというか、感想をお願いします。

H: オープン化というところで、裾野が広がって、関わる人が増えていて、勢いを感じました。それと同時に日本の存在感が無くて、「日本がいなくても全く問題なく盛り上がっているMWC」というのを見てしまうと、日本は世界から取り残されている感じがします。その点では、楽天シンフォニーは唯一頑張っていると言えるかも知れませんが・・・

筆: 最後も暗い話になってしまいましたね。本日はどうも有り難うございました。

雑感

Hさんの最後の言葉にある「日本がいなくても全く問題なく盛り上がっているMWC」、これに尽きると思います。昨年はコロナ禍であったという言い訳ができましたが、今年のMWCはそういった言い訳ができなくなって、日本の状況が明白になってしまったようです。日本の周辺の国々ではO-RANというチャンスに対してベンチャー的な会社が立ち上がっているのに、日本ではそんな動きが全く無い(見えない)。

光無線通信をやっている我々も一種ベンチャー的な扱いなんで分かるんですけど、日本だと難しいんですよね、通信機器のベンチャーは・・・ これ以上書くと会社に怒られちゃうので止めておきますが、ともかく我々光無線通信もなんとかまたMWCに出展できるように頑張らなければならない、と強く思いました。


※1; Open-RANと呼ばれる標準規格のこと。具体的に言うと、無線機を機能で3レイヤーに分けて、それぞれのレイヤー間の接続仕様をO-RANで規格化している。"Open"であるから、どのようなメーカー同士でも接続できるようにならなければいけない。詳しくはこちらの記事を。

※2; ミリ波は、5G用に割り当てられている26GHz~40GHzの周波数の事を指す。その周波数だと、波長がmm単位となるため、ミリ波と呼ばれる。

※3; sub-6は、5G用に割り当てられている3~6GHzの周波数の事を指す。

※4; 楽天グループがO-RAN含めた仮想化ネットワークの普及のために設立した会社。O-RANシステムの導入支援等を行っている。

※5; IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、これまでの電気回路ではなく、光技術を活用することにより、これまでのインフラを超えた高速大容量のネットワークを構築しようというもの。詳しくは公式サイト

※6; 一般家庭の環境でイーサケーブルを使用した場合、最大通信速度は2.5Gbpsであり、Wi-Fi6/7の最大通信速度より低くなる。光ファイバーであれば10Gbps超となるためWi-Fiの性能を発揮できる。

※7; Automation Visualization Analyticsの略。フィンランド・ノキア社のAIを利用した管理ソフトウエアで、トラフィック容量を予測して基地局の設置場所や方法を予測してくれたり、トラフィックが少ないときは不要な電波発射を停止し電力消費量を削減したりすることが可能になる。

※8; ドイツ公的研究機関であるのFraunhofer研究機構のこと。Fraunhoferは様々な研究所の集まりであり、光無線通信を研究しているのはHHI研究所(Heinrich Hertz Institute)である。