LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

AIの展示会になった?日本は? MWC2024レポート(後編)

記事更新日 2024年3月19日


はじめに

MWC Barcelonaという展示会をご存じですか?MWCはMobile World Congressの略で、毎年2月にスペイン・バルセロナで行われる、モバイル業界最大の展示会です。家電のCES(ラスベガス)と並び、デジタル機器の世界二大展示会と称させる巨大展示会です。そのMWC Barcelona(以降MWC)ですが、今年は2/26から2/29にかけて行われて、4日間合計10万人以上の方が来場しました。モバイル業界の全てが集まっているといってよいこの展示会を見れば、モバイル業界、ひいては通信業界の未来が分かるということで、毎年世界中の方々が来場します。

今年も、一昨年昨年に引き続きまして、MWCへ視察に行った弊社社員へのインタビュー記事をお送りしたいと思います。他には無い業界人としての視点でお届けいたしますが、一つ注意点がございます。弊社は、一応通信業界の片隅に籍を置く企業ですので、心情としては通信業界のネガティブな記事を書きたくはないのですが、エンジニアの矜持を持って忖度よりも事実の精神で書いております。もしかしたら、意見が合わず不愉快になるような内容が含まれているかも知れません。しかし、その内容も含め、弊社社員が見て、そして感じたありのままの現状ということで、ご容赦ください。

前編後編の2回に分けてお届けします。今回はその後編となります。

前編はこちら

このブログのお約束ですが、この記事は「広報発表ではなくエンジニアブログの記事」ですので、記事の内容は会社の公式な意見、方針ではありません。また、会社名等、固有名詞も出てきていますが、本記事は組織の見解では無く個人の感想であることをご承知置きください。尚、会社名等は敬称を略させて頂きます。

大手機器メーカーの動向は?

筆者(以降"筆"): 先ほど、ちょっと欧州大手メーカーの話が出ていましたけど、MWCといえばファーウエイ(Huawei:華為技術)を忘れてはいけません。今年のファーウエイはいかがでしたか?

弊社社員Iさん(以降"I"): 展示品というと2つに分かれていました。一つは5.5G(世代)の展示。5Gの通信速度とか同時接続数とかを拡張していくというものです。もう一つは、そのインフラを使ってAIを投入しマネタイズする方法。例えば港湾の自動運転とか。それと、今はアリババとかの商品を北京、上海、深センで自動配送しているようです。AGV※1を使って、すでに400万件の実績があるとか。そのインフラをファーウエイが担う形です。

fig.1
ファーウエイ5.5Gの説明

筆: 最近、日本でもUber Eatsが出前の自動配送の実験を始めましたとニュースになっていましたけど、中国はすでに荷物の自動配送実験が始まっているんですね。というか、やっぱりそういうこともファーウエイが絡むんですね。ファーウエイは展示内容はわかりましたけど、やっぱり今年も一番目立っていたんですか?

I: そうですね。一番大きなブースで、一番目立っていて、一番人が多かったですね。

筆: やはりそうですか。他のメジャーメーカーはどうでしたか?

I: ノキアとエリクソンは、同じようにネットワークスライシングを使った携帯電話事業者向けマネタイズ方法を提案していましたね。例えば、プレミアム帯域をユーザーに割り当てて、確実に帯域は確保されるんだけど、その分料金が割高になるとか。この考えは両社共通していましたね。

筆: URLLC的なものをネットワークスライシングで使ってお金を貰うという奴ですね。

I: また、エリクソンは、他で発表済みのものでしたが、「企業に対して共通APIを公開して、それを活用して貰う」ということをやっていました。現地では、共同研究しているソニーとトヨタの担当者がブースに立たれていましたね?

筆: APIでどういうことをするんですか?

I: 主に帯域のコントロールですね。ソニーは映像伝送用にアップロードの帯域を確保する。トヨタは、自動運転のために帯域を確保なんですが、自動運転用の制御帯域とエンタテインメント向けの帯域は違うよねってことで、その辺の研究みたいです。

筆: ソニーは放送素材伝送用に5Gを使いたいって事かな?

fig.5
エリクソンとトヨタ自動車の展示

スマートフォン

筆: さて、先ほど後回しにすると言った端末の話です。MWC関連の記事で「スマホ時代の終わり」といったセンセーショナルなタイトルの記事も出ていましたが、実際Iさんからみてどうでしたか?スマートフォン関連で何か目に留まったものはありましたか?

I: ないです。そもそも、スマートフォンを展示しているブースが凄く少なかったんです。会場の大通りを見渡してみると、辛うじてファーウエイのサブブランドがあったぐらい。シャオミ(Xiaomi:小米科技)なんて、スマートフォンは展示せずに電気自動車を大々的に展示していましたから。もしかしたら、どっかでスマートフォンを展示してたのかも知れませんが、私が見る限りは見つからなかったので、もしスマートフォンを展示していたとしてもそんなレベルですよ。

筆: いやいや、シャオミってスマートフォンが祖業のメーカーですよ。それが、スマートフォンを一切展示していないとは、なんか凄いというか、衝撃的ですよね。

I: 端末で成り上がったメーカーが端末を出していないというのは、凄いことでした。

筆: もう、ハードウエアとしてのスマートフォンは完成してしまっていて、展示会に出すような技術なりアイデアなりは無いって事なんでしょうね。

fig.3
XiaomiブースのEV

今年も日本勢は厳しい

筆: 昨年の我々のMWCの記事では「日本は存在感を完全に失っている」と書かせていただいたんですが、これが結構反響があったんですよ。そして、今年の日本のMWC関連報道では、KDDIの出展が話題になっていました。報道によればNTTドコモが日本のプレゼンス低下を嘆いてKDDIを誘ったみたいで、現地では両社で連携して集客していたみたいな話でした。ドコモも同じ印象だったんだなということで、昨年の記事もわかる人にはわかっていたんだと思います。そんな流れで今年ですが、ドコモ、KDDIを含めてで良いのですが、ずばり日本勢はどんな感じでしたか?

I: うーん。言いにくいですね。正直に言えば、日本勢は活気が無いですね。そもそも、出店数も少ないですしね。

筆: 今年もそんな感じですか。

I: KDDI、NTTドコモには人が入っていました。KDDIの展示は、大きな地球儀があって、Starlink、欧州のデータセンターといった海外連携、バーチャル店舗だったり、コネクテッドカー、ドローン通信とか、まあ通信事業者がマネタイズする方法としては、極めて普通の内容でしたけどね。

fig.4
KDDI展示の水空両用ドローン

筆: 普通の展示会なら十分ですけど、世界と闘うMWCとしては、若干インパクトが弱い感じがしますね。

I: 日本パビリオンに至っては、かなり厳しいものがありました。目立つものも、先進的なものもなくて、正直遅れているという印象でした。これでは、海外の人は話を聞く気にはならないんじゃないかな、と思わざるを得ません。個人的な感想ですけど、日本は「ものづくりの国」ではなくて、「ものづくりしかできない国」なのではないかとすら思いましたね。

筆: かなり手厳しいですね。けど、海外の展示会で、海外と公平に比べられるからこそ、そういう感覚を持つんでしょうね。

I: パビリオンの見せ方も良くなかったと思います。韓国パビリオンと同じような面積なのに全然見た目が違っていて、日本のは先進的な感じもしないし、興味を持たせるような見せ方じゃなかったです。やっぱり、MWCって、みんな今後来る新しいものが展示されているというイメージで来場していると思うんです。でも、日本パビリオンを見てみると・・・ そんな印象です。

筆: そういえば、我々も2年前に日本パビリオンで出展しましたけど、そういったブース全体のイメージ調整的な話は全然されなかったですね、これは、今後要改善ですね。日本国内の展示会だと、それでも普通レベルで済んじゃうんですけど、MWCとなるとかなり見劣っちゃうのかな。

I: そういうのもあるでしょうし、そもそも出ているものが新しくないというか、挑戦的じゃないんでしょうね。例えば、MWCにはベンチャー用のホールもあって、沢山に小さなブースが出ているんですけど、そこに出ている日本メーカーは皆無で、一方で韓国メーカーは沢山出ていましたよ。

筆: なるほど。日本はベンチャーが少ないっていうのが、国のイメージ全体に影響しているんですね。

筆者注:あまりのショックに、Iさんは日本パビリオンの写真を撮り忘れていたとのことで、写真がありません。申し訳ございません。

次世代の話

筆: もう、2024年です。世代交代の目安とされる2030年まで、あと5年ちょっとしかありません。そろそろ6GとかBeyond 5Gとか、そういった次世代のネタも増えてきたと思うんですけど、いかがでしたか?

I: 6Gの情報は、ほとんど入ってこなかったですね。6Gを前面に押し出して「積極的にやってますよ」と言っていたところは皆無だったんじゃないかなと思います。

筆: あら、そうだったんですか。

I: 各社AIを前面に押し出したかったというのが理由かも知れませんが、今年の展示はどちらかというと「5Gをどのように活用するか?」というところを見せているところが多かったですね。だから、申し訳ないんですけど、今回6Gについて報告するようなネタが無いんですよね。大手機器メーカーですら6Gのネタは極わずかで、AIばっかりでしたからね。あのファーウエイすらAI全面押しでしたから。

筆: 私は以前より6Gの普及は今までより大幅に遅れると予測してましたが、ファーウエイやエリクソンすらそれでは、6Gは本当に遅れるかも知れませんね。

I: そういえば、フランスのORANGE※6は、本当にAI全面押しで、CEOが「Chat GPTを使って社内業務の30%効率化を達成できた」とスピーチをしていました。けど、それ本当かな?と思って、社員と思われる説明員に話を聞いたら、「30%のことは知らない」って言われちゃいました。普通の海外企業なら、「業務30%効率化なら、30%人員削減」ってことですから、知らないってことはないと思ったんですけどね。

筆: ははは! まあ、成果を「盛る」ことはありますからね。今出ているAIの成果なんて盛りに盛ったものばかりでしょうから。

I: そうでしょうね。

(2024/3/22追記 筆者注:誤解されるといけないので注釈を入れておきます。ORANGEの30%効率化を完全に否定しているわけではありません。また、前編を読んだ方ならわかると思いますが、筆者は決してAIによる効率的に否定的ではありません。むしろ、AI化の流れはもはや止められないだろうし、AI導入に遅れた企業団体は生き残れないとさえ思っています。)

筆: 次世代と言えば、光無線通信はどうでしたか?一応、6Gの候補になっていますし、そもそもこのブログは光無線通信のブログなんで、これに触れないわけにはいかないんですよ。

I: 大変言いにくいのですが・・・ ブースを全て見たわけじゃないので断言はできないですが・・・ 何もなかったですね。

筆: うーん、予想通りの答えではあるものの、残念。聞かなきゃ良かった。

最後に一言

筆: 時間も来てしまいましたので、それでは最後に一言お願いします。

I: 今年はやっぱりAIの普及という波を感じました。ですが、来年のMWCでは、そのAIはどうなっているのか?今後、AIの波はどのように変わっているのか?その辺が非常に楽しみです。MWCは通信展示会ですが、もはやAIに乗っ取られていたといっても過言で無かったですからね。

筆: やはり、最後もAIですね。今日は、帰国すぐのお忙しい中、お時間頂き有り難うございました。恐らく、他のメディアでは出ていないであろう情報もいくつかあって、読んだ方はきっと参考になると思います。

I: そう言っていただけると有り難いですね。

筆者の雑感

今年のMWCは、読んでいただいたとおり「通信は二の次、AI命のMWC」となったようです。

筆者の持論で、このブログでも何回か書いていますが、おそらく有線、無線限らず、通信機能ってもうすでに完成しちゃっていると感じるんですよね。もちろん、ネットワーク全体の容量を増やすとか、そういう方向の機能なり技術なりは今後も必要ですし進化するでしょう。しかし、ユーザーレベルで見た場合は、今以上の機能・性能は不要になってきているんです。皆さんだって、YoutubeなりNetflixなりが安定してみられれば十分でしょ? このことは、基地局などのインフラ側にとっても、スマートフォンのような端末側にとっても同じ事です。どちらもこれ以上の進化は必要とされていない、となると、通信のハードウエアとして展示するものはなってしまってしまう。このことが6GもスマートフォンもないMWCを産んだのでしょう。

一方のAIは、特に生成AIは、もはや流行廃りとかとは関係の無い「インフラ」としての地位を築くはずですが、そのインフラをどのように使い、どのようにマネタイズするのかが、今後の勝負になるでしょう。そして、インターネットを活用して巨大になったGAFAMの様に、これからAIをインフラとして活用できた会社こそが次のGAFAMになる、そして、それをみんな理解しているからこそのAI命のMWCという訳です。我々も含めて、なんとか日本企業もAI企業として脱皮して巻き返したいところですね。


※1; Automatic Guided Vehicleの略で、一般に「無人搬送車」と訳される。

※2; フランスの通信事業者で、全世界で3億人あまりの加入者を有する巨大通信事業グループでもある。元フランス国営企業であり、日本でいうNTTグループに近い。