LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

バックホールって何のこと?(連載:第2回)

記事更新日 2022年8月2日


はじめに

我々はLEDバックホールという製品を売っていますが、LEDという単語は良く知っていても、バックホールという単語は「聞いたことはあるが、実際のところ正確に何を指すのか分からない」という方が多いと思います。「バックホールって何のこと?」と題しまして、前回と今回の2回に分けてバックホールの説明を行っております。前回は、バックホールの定義的なものを説明いたしました。今回は、バックホールの中身を説明しつつ、複雑になったバックホールを説明していきたいと思います。

バックホールのIP化

バックホールのIP化をより理解するために、バックホールの中を流れる通信について考えたいと思いますが、最初に携帯電話システム※1の基本である「C-Plane / U-Plane」の説明し、そこからどのようにIP化したのか説明したいと思います。

C-Plane / U-Plane

他の通信でも同じだと思いますが、携帯電話でも通信を維持するためにユーザーデータ以外にも様々な制御用のやり取りします。携帯電話では、その制御用のやり取りとして、物理レイヤー上でインジケーターとしてやり取りされるものと、普通のユーザーデータのペイロードと一緒に運ばれ、メッセージとしてやり取りされるものがあります。前者は物理的(無線的な)な接続を管理するために存在します。後者は無線的な接続が完了してからやり取りが開始され、より上のレイヤーでの接続を管理するために使われるため、レイヤー3メッセージと呼ばれたりもします。

このレイヤー3メッセージは、ユーザーが送る/受け取るペイロードの中に存在するのため、ユーザーのデータとメッセージは送受信時に混在することになります。しかし、両者が必要とする特性が異なるため、ユーザーが送受信するデータをUser-Plane略してU-Planeと、制御用のレイヤー3メッセージをControl-Plane略してC-Planeと呼び、それぞれを分けて考えています。当然、途中の信号処理も若干異なります。

携帯電話において、このC-Plane/U-Planeの区別は無線区間だけではありません。基地局とコアネットワーク間のやり取りにおいても同じようにC/U-Planeが存在しますし、後に説明するフロントホールというものにもC/U-Planeが存在します。ただ、今はそこは無視して無線区間のC/U-Planeだけを見ていきます。

RRCとNAS

このC-Planeですが、中を見るとRRCNASという2つのプロトコルに分かれます。

RRCはRadio Resource Controlの略で、無線接続管理を意味します。簡単に言えば、端末と基地局間の無線接続のためのやり取りを行うためのプロトコルです。端末が電話をかけるときに使われるのがRRCですし、基地局から別の基地局の電波へ移動するときに起こるハンドオーバーを管理するのもRRCです。このプロトコルのメッセージは基地局と端末の間でやり取りされます。携帯電話ではRRCというプロトコルを使って基地局と端末の接続を行うわけですが、実は基地局ができるのは「無線」の接続だけで、「携帯電話のシステム」との接続は次のNASプロトコルを使う必要があります。

NASはNon Access Stratumの略です。日本語に訳すと「非アクセス層」というなんだかよく分からない言葉になりますが、これは無線部つまりはアクセス回線ではないということを表しているのだと思います。NASは、端末とコアネットワークを直接つなぐプロトコルです。NASによって繋げていいという認証、端末の登録、通信の暗号化設定などを行います。NASによって接続を許可されて、初めて携帯電話というシステムにアクセスできるようになるわけです。NASのやり取りに基地局は関与せず、NASメッセージは基地局をスルーします。つまり、端末の携帯電話システムへの接続判断に、基地局は関与できないのです。自分で接続の可否が判断ができるWiFiのアクセスポイントとは異なり、言ってみれば携帯電話の基地局は、それだけでは何も出来ない存在なのです。

fig.1
図1:RRC/NAS/U-Plane

無線通信の維持はC-Planeの通信によって行われます。C-PlaneであるNASはバックホールを通じて通信されていますが、C-Planeが正常に通信できないと通信は直ちに切断されてしまいます。そのことは、バックホールは完全なベストエフォート型ではだめで、ある程度速度・遅延共に安定して通信ができなければいけないことを意味します。

SCTPとUDP

IP通信でよく使われているのはTCPとUDPです。TCPでは相手との接続確認、そしてエラー時の再送処理が行われます。また、データ順序も維持されます。TCPにはエラー再送機能があり確実に通信内容が相手に届きますので、HTTP(Web)のような時間は多少かかっても良いがエラーによる欠損は許されない通信に使われています。一方、UDPは接続確認せず、エラー再送も行わない送りっぱなしの通信です。その代わり遅延が少なく通信速度は速いので、データを大量に送るが多少のエラーは許されるようなIP電話や動画ストリーミングに使われます(といってもyoutubeはTCPですが・・・)。

TCPは送りたいデータパケットの切れ目を考慮せず、一度スタックしてから一定サイズで送り続ける「ストリーム志向」なのに対して、UDPはサイズ一定ではなく、送りたいデータパケットをそのままの形、サイズで送れる「メッセージ志向」です。

fig.2
図2:ストリーム志向とメッセージ志向

さて、バックホールでC/U-Planeを送るときはどうしたらいいでしょうか?TCPの様に確実に送ってくれる必要はありますが、送るものはメッセージなのでストリーム志向とは相性が悪い・・・ 何か良い方法は無いでしょうか?実はTCPとUDPのメリットを合わせたSCTPというプロトコルが存在します。SCTPは順序保証やエラー再送といったTCPの利点を持ちながら、メッセージ志向で、遅延が小さいというプロトコルです。これだけ書くともの凄くいいとこ取りに見えますが、ネットワークへの負荷が大きく、速度が出しにくいというデメリットもあります。そのためデータ量が多いU-Planeには向きませんが、通信量は少なくメッセージ単位で、必ず届く必要があるC-Planeには最適です。ですから、C-PlaneはSCTPで送ります。それではU-Planeは何を使って送るでしょうか。U-Planeの中身は、ユーザーの通信データですので、おそらくTCPの通信が殆どです。もともと再送があるTCPのデータを、さらにTCPにして送るというのは無駄です。また、無線区間はHybrid-ARQという別のプロトコルでエラー再送(訂正)を行っていますので、上のレイヤーでのエラー再送は必要ありません。ですから、IPバックホール中のU-PlaneはUDPでそのまま送っています。

SCTPは2000年に規格化された比較的新しいプロトコルで、現在もそれほど広まっているわけではありません。しかし、このSCTPができたお陰でバックホールのIP化が可能になったとも言えます。

基地局の構造とフロントホール

さて、IP化によってバックホールがすべてIPになってシンプルでわかりやすくなった・・・ かと言うとそうではないのです。LTEの頃となるとフロントホールなるものが出てきて携帯電話のネットワーク構成はより複雑になっていきます。なぜこんなことになったのか(なってしまったのか)? その経緯をふり返りつつ、現在の状況に至るまで順を追って説明していきたいと思います。

CPRI

バックホールが複雑になった歴史は、CPRI(シプリと読みます)というプロトコルからスタートします。CPRIは Common Public Radio Interfaceの略で、CPRIという業界団体の作ったプロトコルとなります。ホームページのトップページにエリクソン、ファーウエイ、ノキア、NECの名前が並んでいることからも分かるとおり、CPRIは基地局ベンダーによる業界団体です。なぜCPRIが作られたかというと、当初は基地局の無線機を「信号処理部分」と「無線機」の部分に分ける目的があったからです。

かつて、基地局の無線機は大きなものでした。1m四方の箱に入っていたり、キュービクル内に置かれたフルの19インチラック全てを埋めていたり、そんなサイズ。それでいて冷却装置(エアコン)が必要なため、到底人間が持って運べるレベルのものではありませんでした。ですから、無線機を鉄塔の上に置いたり、コンクリート柱に抱かせたりすることは難しかったのでした。ですから、鉄塔局であれば、無線機は地上、アンテナは鉄塔の上という構成が一般的でした。そうした場合、基地局から鉄塔上のアンテナまで50m以上の同軸ケーブル(給電線)を地面に対し垂直に敷設する必要があります。同軸ケーブルは1アンテナ2本必要で、通常鉄塔には3アンテナ以上ありますから、少なくとも6本必要となります。しかも、ここで使う同軸ケーブルは減衰をできる限り減らすために20D※2という相当に太いケーブルを使いますから、重さも価格もかなりのものがあり、工事上の問題となっていました。

それでもCDMAの頃になると無線機はかなり小型・軽量になり、冷却装置なしで屋外におけるタイプも出てきました。そのため、無線機によっては人間が背負えるようになり、鉄塔上への設置も可能となっていました。無線機を屋上に置けば、同軸ケーブルの長さが短くできます。その場合、鉄塔の上まで引くのは電源と通信ケーブルですので同軸ケーブルに比べ細くて軽いもので良くなり、本数も減ります。また、同軸ケーブルによる減衰がなくなりますので無線的にも(特に受信側の)条件が良くなります。ただし、だからといって無線機全てを鉄塔に上げてしまうと、今度はメンテナンスが難しくなります。障害が起きる度に、鉄塔へ登れる人を呼んでこないといけなくなる、これでは復旧まで時間がかかりすぎてしまいます。

そこで、無線機を二つに分割して、比較的メンテナンスが必要な「信号処理部分(BBU)」と、故障しにくい電波を吹くだけの「無線機(RRH)」の2つに分けて、BBUは地上に、RRHを鉄塔上に設置することにより、長い同軸ケーブルが不要でかつメンテナンスしやすいという構成になるようになりました。そして、このBBUとRRHの間を結ぶ線の通信プロトコルがCPRIなのです。

fig.3
図3:CPRIの基本構成

BBUとRRHの間をつなぐのがCPRIですが、CPRIにはどんなデータが流れているでしょうか?実は、この電波で送信する波形、および受信した波形が「デジタルの形で」送られています。携帯電話のデータは基本的にQAM※3ですので、変調した波形はIQの波形になるわけですが、それをそのままデジタルとして送っています。ちょっと分かりにくいですが、CPRIのスタンダード(v2.1)から、CPRIの基本フレーム構成の一例を引用します。

fig.3
図4:CPRIのデータブロック(CPRI ver2.1)

CPRIのデータを受信したRRHはIQ信号から、最終的な無線化(拡散)の処理をするだけで電波の送信ができます。逆に受信した電波もその逆でIQ信号を取り出して、CPRIで返します。一方のBBUは無線化手前までの全ての信号処理をBBU側で行ってからRRHにデータを送る、またはその逆を行っています※4。これにより、RRHの装置を簡素化し、できる限りの故障防止と軽量化を図っています。

さて、このようなCPRIですが、一つ大きな問題点があります。先ほどのフレーム構成図に”614.4Mbps line bit rate”とあります。これ、別にLTEや5Gのデータを送っているわけではありません。CPRIの最低速度、つまりCDMA(HSDPA)時代のデータを送るためのフレーム構成です。HSDPAは最初14Mbps程度からスタートしてます。つまり、14Mbpsのデータを送るためにCPRIは600M超のデータを必要とします。これは極端な例ですが、一般にCPRIは無線区間の「実データ速度」の10倍以上の通信速度が必要とされています。

C-RAN

もともとは鉄塔局のために考えられたCPRIですが、LTEの頃になると全く違う使われ方をします。

端末が、ある基地局の範囲から別の基地局の範囲に移動して使う基地局を変更することをハンドオーバーと呼びます。CDMAのころはハンドオーバーの際に一瞬でも途切れないように、複数の基地局と同時に通信できるようにして、切替時間が0になるようになっていました。その理由は「音声通話」を一瞬、例え0.1秒でも途切れさせないため。通話中に音が途切れるというのは、ユーザーにとって結構気になるもの。その音声の無瞬断を実現するために、CDMAではわざわざ複数の基地局を一括管理する"RNC"という機器を新たに導入しました。そのRNCがあったため、CDMAは端末が複数の基地局の電波を同時に使うということが簡単にできるようになっていました。

しかし、次の世代のLTEは「データ通信専用」だったため、このハンドオーバーを始めとする基地局同士の連携をあまり重視しませんでした。データ通信中、例えばgoogle検索の最中に0.1秒瞬断したとしても誰も気付きませんよね?LTEは、そのお陰でRNCのような基地局同士を連携させるような中間設備が必要なくなり、全体のネットワーク構成はシンプルになりました。とまあ良いことだらけのように思えましたが、LTEの高度化を考えたときにはそれがデメリットとなりました。

LTE高度化の一つに隣接したセル(アンテナ)同士が出力を調整して干渉を低減させるCoMPという機能があるのですが、これは極めて厳密な時間同期が必要なため、同一基地局内でないと使えないというものでした。別の言い方をすると、同じBBUに繋がっている別のRRHとの間でしかCoMPは機能しないのです。ご存じの方も多いであろうキャリアアグリゲーション(CA)も同じです。複数の周波数バンドを束ねて使うことで高速化を実現するCAですが、これも同一BBUでないと機能しません※5

これらCoMPやらCAやらのLTEの高度化機能を広範囲で使うために導入されたのがC-RAN (Centralized - Radio Access Network)です。C-RANの使用例をCAを例に見ていきます。

通常の基地局構成だと、地理的に同じ場所にあるセルだけがCAの対象になります。それは全ての周波数バンドが同じカバレッジ(セルの範囲)であればさほど問題はありません。しかし、実際には800MHzと3.5GHzのような周波数特性、特に距離による減衰が全く異なるバンド同士でCAは行います。プラチナバンドと呼ばれる広範囲用の800MHzと、あまり飛ばないスモールセル用の3.5GHzでは、1セルの範囲が全く異なります。すると、800MHzのセルの中にいくつかの3.5GHzのセルが存在するということがあり得ます※6。この場合に同一ロケーションにある基地局だけしかCAができないのであれば、あまり有意義ではありません。

fig.5
図5:C-RANなしでのキャリアアグリゲーション

ここで出てくるのがC-RANというやつです。BBUはある一箇所に集めて、各基地局のRRHまではCPRIの回線で繋ぎます。そうすると、物理的なロケーションは異なっている基地局であっても、BBUは同一なのでハードウエア的には同一の基地局と見なすことができます。そして、この構成をすることにより図のように複数の(場所的意味での)基地局を含む一定範囲のエリアでCAを構成することができます。このようにBBUを1箇所に集中し、BBUと分散設置されたRRHの間はCPRIで結び、複数基地局でLTE高度化機能を使えるようにすることをC-RANと呼びます。尚、C-RAN他にもBBUのリソース共有化というメリットもありますが、ここでは説明を割愛します。

fig.6
図6:C-RANありでのキャリアアグリゲーション

一方、C-RAN構成をすることによるデメリットは明確です。それはCPRIのために、ある程度長い距離で超高速な回線が必要になるということです。前述の通り、CPRIには実通信速度の10倍程度、しかも常時その速度が保証されているような回線が必要となりますので、ADSLはもとよりFTTHでもCPRIを通すのは難しく、ダークファイバのような専用線を使う必要があります。この回線は、通常のバックホールと比較し何倍もの速度が必要ですし、中身の信号は基地局の一部であるBBUで生成されるものですから、「コアネットワークから基地局までがバックホールである」という元来の定義とも異なります。したがって、C-RAN用として集中BBUと別の場所にあるRRHを結ぶCPRI回線をフロントホールと呼ぶことにして、バックホールと区別することにしました。

O-RAN

C-RANの仕組みを、5G向けに発展させたものがO-RAN(Open-RAN)です。

CPRIは無線機メーカーの業界団体による規格でした。そのせいかどうかは知りませんが、CPRIは物理伝送部分の定義が殆どで、それ故メーカー特有の機能を入れる余地が大きく、CPRIは実質メーカー依存の性質を持っていました。そのため、本来であればBBUとRRHは異なるメーカーの機器でも動くはずですが、実際はBBUとRRHは同一メーカーである必要がありました。高度なソフトウエアであるBBUは高信頼のグローバルメーカー、機能は少ないが数の多いRRHは安いメーカーに、というのが使う方の事業者の理想ではありますが、実際はBBUもRRHも世界に数社しかないグローバルメーカーよる高価な機器を使うしかありませんでした。5Gでも同じ状況は困ると言うことで、メーカーではなく事業者を主体とした団体が設立されました。そこが規格化を推進することで、BBUとRRHはどんなメーカーでも相互接続できるようにする、それにより参入障壁も下がり無線機が安くなる、という算段です。この規格というか仕組みをO-RANと呼びますが、O-RANの"Open"という文字には、そのような意図があるのです。

現段階のO-RANの中身というかやっていることはCPRIとあまり変わりません。変わったのはCPRIには殆ど定義されていなかった「接続性」の部分。一般のネットワーク機器でも使われているNETCONF※7を採用し、設定の反映は自動化され、プラグインプレイが実現できるようになりました。5Gは超高速のため同期に厳しいですが、GPSだけでなくO-RAN経由のPTP/SyncE※8でも時間同期が提供できるようになっています。とはいえ、CPRIと同じく実速度の10倍が必要という性質には変わりなく※9、例えばSub-6の5Gであれば最低でも10Gbpsが必要となります。いずれにせよ、O-RANのBBU-RRH間はC-RANのときと同じようにフロントホールと呼ばれます。

さて、ここまでO-RANを説明したのですが、C-RANとの変化を中心に書いたため、実は重要なことを説明していませんでした。それは、O-RANになって、BBUが二つに分かれたこと。O-RANではBBUはO-CUとO-DUの二つに分かれました。それに伴い、RRHはO-RUと呼ばれるようになりました。詳しくは書きませんが、BBU内のパケット処理や呼処理部分を切り離してO-CUとして、残りをO-DUとしました。O-CUの機能は汎用性が高く、より汎用サーバーに近くなり、クラウド化しやすくするために分けています。ですから、O-DUとO-CUは同じロケーションに置かれることもあるし、O-CUだけコアネットワーク側に置かれることも、クラウドとして全く別の場所に置かれることもあるでしょう。とりあえず、O-DUとO-CUが別の場所にあるとして、O-DUとO-CUの間の回線を何と呼ぶでしょうか?O-RAN規格によれば、それはミッドホール(Midhaul)と呼ぶようです・・・

fig.7
図7:O-RUからCNまでの回線の呼び方

そもそも5GであってもO-RANに関わりなくBBU-RRH構成の基地局(無線機)もありますし、O-DUとO-CUが一体の機器もありますし、小型基地局ではO-RU/DU/CU一体型という基地局もあります。いろいろありすぎて、もはや訳が分かりません。

結局なにがバックホール?

携帯電話において結局何がバックホールなのでしょうか?今まで述べてきたことを考えると、以下の通りとなります。

  • 規格上、理論上の定義としては、BBUまたはO-CUからコアネットワークまでがバックホール
  • C-RANやO-RAN構成では、BBU/O-CUがNTT局舎のようなより広域なネットワークの接続点に置かれる場合があり、その時点で物理的なバックホールがどこか分からなくなる
  • CPRI(eCPRI)はフロントホールでありバックホールではない
  • 無線機がBBU/RRH又はRU/DU/CU一体型であれば、そこからネットワークセンター等までがバックホールだが、その無線機がBBU/O-RUなのか、一体型なのか外部の人に見た目では分からない

というわけで、一般の方はもちろんのこと、我々にとっても「何がバックホール」かを厳密に区別することは難しいのです。

ですから、我々としてはもう少し定義を丸めて考えてしまっていて、現場の機器からどこかのNTT局舎の様な建物かネットワークセンターまでを繋ぐ、CPRIではない(=IPである)回線がバックホールであると考えるようにしています。機器構成によっては厳密には違うかも知れませんが、ざっくりこれで考えて問題ないはずです。もっとも、「バックホールとフロントホール、ミッドホールを区別しても(携帯電話的には意味が合っても)ネットワーク回線的にはどれも同じで意味は無い」と言われると返す言葉もないのですが・・・

おわりに

2回に分けて、バックホールとは何かを説明させて頂きました。長々書きましたが、今回の話を一言で言えば「IP化でシンプルになったところにCPRIで複雑になった」という話でした。C/O-RANよるフロントホールは高度な機能を提供する一方で、CPRIベースの高速な回線がネックでこれが基地局の展開を妨げる要因の一つになっています。ミリ波、テラヘルツ波と周波数が上がり、必要な基地局数が増えていく中で、分離型で行くのか、一体型で行くのかは予想が付きにくいですが、基地局を結ぶ回線が今よりさらに重要になる事は間違いありません。光無線通信もその一端を担えるように進化していきたいと思っています。


※1; 正確に言えば、(O-RAN含む)3GPP系携帯電話システムに適応される用語。日本においてはWCDMA/LTE/5GNRのことを指すが、本文では「携帯電話」と置き換える。

※2; 同軸ケーブルの内芯が20mmという意味。ケーブル全体の直径だと30mm近くにもなる。

※3; 直角位相振幅変調のこと。この変調はsin成分とcos成分の合成で作られるため、データはIQ平面で表すことができる。現代のデジタル無線通信の殆どはこの変調信号を使っている。

※4; 例えばOFDMであれば、OFDM信号に変えるIFFT/FFTはRRHが対応、IQ変換まではBBUが対応となる。尚、CRPIでは無線データだけでなく、ベンダー固有情報やアラーム、AISGなどを送ることもできる。

※5; より正確に言うと、どこのレイヤーでその機能が処理されるかによって決まる。CAであればMACレイヤーでデータが各周波数バンドへ分割/結合されるため同一BBU内での処理が必要となる。

※6; この様な構成を"HetNet (Heterogeneous Network)"と呼ぶことがある。

※7; スイッチ、ルーターなどネットワーク機器を管理するためのプロトコル。メッセージはXMLで、ネットワーク設定などがやり取りされる。上位機器から下位機種に対しネットワーク設定を提供できるため、RRHのインテグレーションが必要なくなる。

※8; Precision Time Protocol / Synchronous Ethernetの略。前者がパケットベース、後者がパルスベースの時間伝送である。どちらも上位のスイッチが時間同期を提供する。インターネット経由で時間同期するNTPと異なり同一LAN内限定であるが、その分時間精度が高い。

※9; 現在のO-RAN(7.2x)とCPPIは共に物理レイヤー内での分割となるため、必要とする通信速度も近い。そもそも、O-RANであっても伝送データの大部分を占めるC/U-PlaneデータはCPRI(eCPRI)規格で伝送することが想定されている。