LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

パラボラアンテナ模型と展示会出展のお知らせ

記事更新日 2023年9月12日


はじめに

前回更新の記事ではFree Space Optics=FSOについて触れました。主として地上対衛星、衛星対衛星 (どちらかといえば後者メイン) を、通常は電波による無線通信を行うところをレーザー光を用いて高速通信する技術です。詳しくは前回記事を読んでいただくとして、今回は従来方式の電波による地上対衛星通信に用いられる地上局側パラボラアンテナの模型を作ったので、その製作記となります。
また、何回か前の更新で少し触れていた模型作成というのが、今回紹介の模型のことですね。

ブログに書き記すと共に、本記事記載の模型は2023年9月13日(水) (記事更新日の翌日!) に開催されるSpaceLink2023にて、弊社ブース内に展示します。ご興味のある方は、弊社ブース (ブースNo.5) までお越しいただけますと幸いです。

SpaceLink2023

まずは今回出展する展示会SpaceLink2023についての説明です。

展示会名 SpaceLink2023
開催日時 2023年9月13日(水) 10~18時
展示会場 東京ドームホテル B1F「天空」
東京都 文京区 後楽 1-3-61
入場料 無料(事前登録制)

弊社並びに衛星の運用にも関わっているグループ会社の三技協イオスは、ブースNo.5と6にて展示を行います。
以下弊社HPお知らせより出展概要の引用です。

「SpaceLINK2023」に出展します
~宇宙ビジネスを支える衛星通信技術サービスをご紹介~

三技協/三技協イオスは共同で、2023年9月13日(水)に開催される総合宇宙イベント「SpaceLINK2023」(主催:株式会社DigitalBlast)に出展します。
「SpaceLINK2023」は「あなたと宇宙がつながる日」と題し、幅広い業界におけるビジネスや生活スタイルと宇宙がつながる未来を見据えた日本最大級の宇宙総合イベントです。今後、宇宙・衛星ビジネスに取組む企業や地域の課題解決に取り組む自治体をはじめ、宇宙市場への研究を拡げる大学ほか宇宙に興味を持つすべての方を対象としています。
三技協および三技協イオスは「宇宙への夢、宇宙への道を我々の技術が現実にします」をテーマに掲げ、宇宙・衛星ビジネスに長年従事してきた実績を軸に3つのサービスをご紹介します。

■衛星地上局構築サービス
衛星との通信を確保するために必要となる地上局を検討し、回線設計から現地環境調査、運用への引き渡しまで、ワンストップでサービスを提供します。
■小型衛星製造/検査/運用サービス
人工衛星の製造からロケット打ち上げ支援・衛星運用までの幅広い領域を、豊富な経験と専門知識を有するチームが技術支援サービスを提供します。
■サプライチェーンマネジメントサービス
長年にわたり蓄積した海外向け無線装置SCMのノウハウにより、柔軟なプロセス再構築を行い、お客様がコア領域へ注力できるBPOサービスを提供します。

ブログ執筆を担当しているチームは光無線通信の機器販売や開発を主業務として活動する部門ですが、会社としての主な事業領域は携帯電話部門と工事部門に分けられます。その中でも工事部門はマイクロ派無線局や衛星通信のための地上局建設に関わっています。
政府の牽引する従来型宇宙開発と比較し、ベンチャー企業等民間企業・団体を中心とした宇宙開発「New Space」と呼ばれる分野が活発化しており、将来的な市場拡大が見込まれています。 (代表例:Starlinkで有名なSpaceX社)
弊社もNew Spaceを含めた宇宙領域へさらに注力していこうということで、新たな顧客へのリーチのため地上局建設や衛星運用を来場者へアピールするべく、展示会出展チームより相談を受けました。衛星地上局となるパラボラアンテナの模型をブースに設置したいとのことで、弊社が2022年度に文教施設に設置したパラボラアンテナを参考に今回設計・製造しており、とても"新鮮”な機器となっております。

パラボラアンテナ模型

例によって3Dプリンターで部品を造形しました。造形した部品と塗装した模型の全体像が以下の図です。
部品価格低減化を図るため小さい部品同士を棒で繋いで一体化し、塗装前にニッパーで切り離して分割することで各々の部品として使用します。

fig.1
図1:パラボラアンテナ模型 部品
fig.2
図2:パラボラアンテナ模型 完成形

実物は直径は2.4mの反射鏡を持つ可動式パラボラアンテナです。こちらの模型は1/10スケールですので、反射鏡の直径は24cmです。3Dプリントサービスにて製造依頼した部品が到着した際、見た目は完全にお皿。そして部品代全体の約半分を占めるのがこの部品でしたので、やはり大型部品は高くつくことを実感させられました。
手動ですが実物同様にX・Y軸方向の可動軸による首振りが可能な構造としています。サーボモーターを用いた軸可動も実装できなくはなかったのですが、開発期間の延長やモーターを収納するための見た目の変更といった問題があり、手動となりました。
可動軸兼固定用のM3低頭ボルトは埋め込んだナットによって固定されており、ナット埋め込み作業のために基部は分割しています。それでもなお作業性は悪いので、このような部位にはインサートナット導入も視野に入れないといけませんね……今後の課題です。
ちなみに今回の画像は撮影するタイミングによって、塗装前・塗装済みとバラバラです。少々見づらいと思いますがご了承ください。

fig.3
図3:可動軸 ナット埋め込み

また、反射鏡を真横に向けた最もバランスの崩れる位置にでも安定するよう、基部となるポール内部には重りを入れて倒れないようにしてあります。最初はポール内部の空洞に合う直径の鉄棒を切り出して重りにしたり、ボールベアリング用の鉄球を仕込もうかと考えていたのですが、釣り用の棒状の鉛重りが見つかったのでそちらを流用しています。釣りの重りはgではなく号数で表現することが一般的だそうで、今回採用した重りは60号、約230gです。

fig.4
図4:基部ポール 釣り用重り

実物でボルト・ナットが存在する位置にはダミーですが造形を入れてあり、模型として部品の締結に用いるボルト・ナットは概ね実物と位置を合わせて設計してあります。0.5mm厚のワッシャー形状等も、造形ルールには沿っているものの見た目にわかるほど段付きで造形されるか心配でしたが、きちんと造形されていて一安心です。CAD画面ですと輪郭線がありコンマ数ミリの厚みでも存在感が出てしまうので、設計と現物とでは認識の差が生まれやすいところです。実物の寸法の1/10では薄すぎたので厚みを増していますが、さらに厚みを増して存在感を与えても良かったかもしれません。

fig.5
図5:現物とCAD画面での見え方の差

スナップフィット

基本的に筆者が設計したモデルでは、部品同士の結合にボルト・ナットを用いています。
メインで使っている3Dプリンターが光造形方式ですので、造形に用いる樹脂が硬く割れやすい特性を持っています。そのため、タッピングビスや圧入による塑性変形に弱く、どうしてもボルト・ナットで共締め固定せざるを得ないのが現状です。ただ、今回のモデルは実物の縮小モデルということもあり、ボルト・ナットが収まらない箇所が発生してしまいました。また、自前の3Dプリンターでは作れない大型モデルでしたので、最初から外注3Dプリントサービスにて靭性のある樹脂が使える想定ということもあり、よい機会だということでスナップフィットを取り入れてみました。

スナップフィットの爪構造を取り入れたのは、反射鏡裏面中央の支柱と反射鏡裏面を結ぶL型アングル材を模した部品の結合部です。

fig.6
図6:爪構造を取り入れた部品

特に支柱には軸可動を行うコの字状の部品と結合するボルトがあり、アングル材と結合する部位に新たにボルト・ナットを仕込む余裕が確保できなかったので、狭いスペースで結合を行うためにスナップフィットを取り入れました。単純なピンとダボ穴では抜ける可能性があったので、ピン側は返しのついた爪構造としました。 抜け止めとなる返しには高さがあるので根本のピン直径よりも太くなってしまうので、ピンの根本とダボ穴の直径を合わせていると返しが引っかかってピンを挿入することができません。そのため、ピンには薄い割を入れ、挿入時に返しの高さを吸収できるようにしています。設計値としてはダボ穴がΦ2.2mm、ピンがΦ2mm、返しがΦ2.5mm、ピンの割が0.5mmです。
挿入時には割の0.5mm分が圧縮されるので、返しは実質Φ2mmにまで縮まることでダボ穴に挿入可能としていました。造形誤差や塗膜による厚み変化を考慮しダボ穴の直径や返しとの距離は0.2mm分の遊びを確保していましたが、組立て後のピンとダボ穴は緩めの嵌合となっているので、遊びは0.1mm分で良かったかもしれません。

支柱にアングル材を6個取り付けた状態、さらに反射鏡裏面とも結合した状態が以下の図です。足が足りていないですがタコのようです。
結合部を中心に軸可動するので、角度を捻りながらリフレクター裏の穴にピンを挿入して組立て完了、破損せずに機能してくれて一安心です。
実を言うと過去に光造形レジンで爪構造は試した事があるのですが、組立時は耐えたものの部品に力が掛かると爪の根元で折れてしまった経験があり、素材的に大丈夫ではあると思いつつも実際に部品が組み上がるまではドキドキものでした……

fig.7
図7:支柱・アングル材・リフレクターの結合

ピンの変形量や結合強度にはきちんとした計算式が存在するわけですが、今回はそこまで考慮できていないので、他の筐体設計でも頻発するようであればしっかり勉強しないとなというところです。

まとめ

以上、パラボラアンテナ模型と展示会出展情報についてのブログでした。
3DCADに起こすにあたってアンテナの構造に対する理解が深まったり、スナップフィットの爪構造を取り入れてみたりと、なかなか勉強になる案件でした。
繰り返しになりますが、ご興味のある方はぜひSpaseLink2023にご来場いただけますと幸いです。