LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
3Dプリンター関連ニュース
記事更新日 2023年8月8日
はじめに
2023年7~8月にかけて、3Dプリンター関連で個人的に気になったニュースがありましたので、ピックアップして記していきます。
XYZprinting 3Dプリンター事業から撤退
台湾に拠点を構える XYZprinting,INc. (新金宝グループ) が、2023年7月1日、産業用・家庭用ともに3Dプリンター事業から撤退する方針を発表ししました。また、8月2日にアフターサービス事業を株式会社イグアスへ業務移管する旨を発表しました。
XYZprinting 3Dプリンタ事業撤退・公式オンラインショップ閉店のお知らせ
業務移管のお知らせ
主に産業向けの粉末焼結積層 (SLS) 方式の3Dプリンター部門をアメリカのNexa3D,Inc.に事業売却し、SLS方式以外の卓上型3Dプリンターについても製品の販売を2023年9月15日を目処に終了し、段階的に3Dプリンタ事業から撤退する模様です。
日本法人のXYZプリンティングジャパンも、3Dプリンター事業撤退と公式オンラインショップXYZ e-shopを2023年8月8日に閉店し、株式会社イグアスの運営するオンラインショップ サプライズバンクドットコムにて、消耗品・材料マテリアルの継続販売する方針としています。
また、2023年9月1日に日本国内での販売品に係わるアフターサービス業務を株式会社イグアスへ業務移管し、3Dプリンタ本体の修理等を今後3~5年間を目標に行うとのことです。
日本でも約10年ほど前、2014~2015年頃だったかと思いますが、家庭用3Dプリンターブームが到来し大手家電量販店の店頭で機器のデモが行われていた風景を薄っすら覚えています。XYZプリンティングがリリースしていたダヴィンチシリーズも、当時のブームにおける熱溶解積層 (FDM) 方式では間違いなく選択肢に上がってくる機種だったので、今回の3Dプリンター事業撤退のニュースはなかなかにショックが大きいです。
筆者は先輩社員からidBx!を譲り受けたのでダヴィンチシリーズを購入することはなかったのですが、最初の機種として購入を検討していたものの一つが、終ぞ触れること無く終焉を迎えてしまうことに……
依然として3Dプリンター本体や部品設計用の3DCADは扱いが難しく、個人レベルではなかなか試してみようという気になれないことが普及に繋がらないのではないかと、ふと考えてしまいます。
先日、弊社の工事を専門に行う部署より、展示会のブースに置くための模型を作りたいとの要望を受け、8~9月に掛けて模型製作を行うことになりました。(こちらも過去記事のラジコンのようにブログのネタとして活用する予定です)
工事図面として2DCADは使いこなしていても、3DCADや3Dプリンターについては全く分からないのでお任せしますという状態で、やはりソフトにしろハードにしろ未知の存在としての扱いを感じました。
印刷用プリンターと同程度に簡単に扱えるようにならないと、きっと今以上に広がるのは難しいのでしょう。
現在の家庭用3Dプリンターは、そこそこのモノを作るだけでも扱いが職人芸すぎます。FDM方式においては造型プラットフォームのレベリング、ヘッド部ヒーターの温度調整、エクストルーダーの吐出・引込量調整、モーター速度の調整といったプリンター本体の調整が多岐にわたり、かつ経験則で煮詰めていく必要があります。ボタンを数回押すだけでそれなりの印刷ができるプリンターとはあまりにも手間が違いすぎるのです。
取り扱いの難しさを解決するべく、Ankerの販売している「AnkerMake M5」ではAIカメラの活用やプロセッサー周りのカスタムにより従来機種と比較して手軽に扱うことができるそうで、筆者も実際の使い勝手が気になっています。研修目的や治具開発用として、何かしらの名目で予算が取れれば購入して評価してみたいところですが、最近は光造形方式ばかり運用していて、部品の頑丈さが求められる場合は外注サービスを使ってSLS方式のナイロン素材で作ってしまっています。そのため、FDM方式の新しい3Dプリンターが現時点で必要かと言われると、そうでもないのが現状ですが。
ちなみに上記AnkerMake M5からAIカメラ、液晶操作パネルを廃して低価格化した「AnkerMake M5C」という製品が米Ankerから販売されており (Anker Japanでは未発売) 、造型プラットフォームXY軸が若干減少しているものの、造型機能はM5とほぼ同等としています。3Dプリンター専業メーカーではないですが、Ankerのような大手ハードウェアメーカーから販売されているとなると、家庭向けとしてはデファクトスタンダード化が進むのでしょうか。
また、3DCADにおいても、操作方法の習熟、3Dプリンターの各方式の特性に合わせたモデリングといった一朝一夕では身につかないノウハウが必要で、有志作のSTLデータをDLして造型するのはともかく、自分で一から作り出すのはやはり難しいものです。
事業撤退のニュースは残念ですが、2010年台以降の3Dプリンターは特許失効によるオープン化で家庭用のFDM方式や光造形方式の低価格化が進んできました。粉末焼結方式も2014年に特許が失効したと聞きますし、そろそろ数十万円で買える家庭用の粉末焼結方式3Dプリンターが出回ってくれば嬉しいなと思います。
実用レベルの部品を作れる粉末焼結プリンターが手元にある環境を、いつか構築してみたいものです。扱いが難しい粉末素材を家庭用でリリースしたところで、どれだけの人間が扱えるのかという問題はありますが……
安価な金属3Dプリンター
島津産機システムズ株式会社 (島津製作所) が、近畿大学、エス.ラボ株式会社、第一セラモ株式会社と組み、100万円台で購入可能な金属3Dプリンターを2024年の提供開始を目指して開発中です。
島津製作所系など、100万円台の金属3Dプリンター
「巻けるコンパウンド」と100万円台のMEX方式金属3Dプリンタを開発
不勉強なものでMEX方式とは何ぞやとなったので調べてみると、材料を加熱して押し出す方式の総称を材料押出 (Material Extrusion : MEX) 方式と呼ぶそうです。
その中でも、細い棒状のフィラメントを材料とする方式がFDM (Fused Deposition Modeling) 方式、金型を使った射出成形で使用される粒上のペレット材を材料とする方式としてGEM (Granules Extrusion Modeling) 方式やAPF (Arburg Plastic Freeforming) 方式と細分化されます。
ペレットを使うGEM方式の「GEM200GDH」はエス.ラボ株式会社が1000~2000万円にて販売しており、島津産機システムズ株式会社では後処理として造形物を焼結するための小型脱脂焼結炉「VHS-CUBE」を販売しています。第一セラモ株式会社は材料の開発を行っており、上記2機種+材料でミニマム3000万円程度のシステムとして販売中とのことで、となるとVHS-CUBEは1000万円台でしょうか。
開発中のフィラメントを使うタイプの「Margherita」については、100万円台という目標価格を見て安い!と思ったのですが、造形後にVHS-CUBEによる焼結が必要となると、システムとしての価格は1000万円クラスになってしまうので、さすがに見た目ほど安くはないのですが、億単位が必要とされていた金属3Dプリンターが1000万円クラスで組めるとなると、価格的に非常に大きなインパクトをもたらしてくれます。
日本国内においては従来加工方法と比較して〇〇に対応できない、費用が高価、品質保証が難しいといった、主として従来方式との比較から3Dプリンターはダメと否定されがちです。一方でアメリカや欧州では宇宙・航空・防衛といった先進分野において、トータルで考えて3Dプリント部品を使ったほうがメリットが大きい (例えば重量削減や人力での工程削減に繋がる) となれば、導入費用が高額でも採用してしまう、従来部品の延長線ではなく3Dプリンターでしか作れない形状で機能向上を図るといった、強引ではありますが金属3Dプリンター活用機会を得ることでノウハウを蓄積し、得手不得手の理解を深めてより適した使用方法を開拓しているとのことです。
さすがに製造業では無い弊社での購入は難しいのですが、価格がネックで金属3Dプリンター導入を見送っていた製造業で広がり、活用例が増大していくと嬉しいところですね。
金属3Dプリンター活用が日本国内で進まない現状については、以下連載記事にて詳しく触れられています。もちろん記事中には普及のための方便は含まれているにせよ、現在の3Dプリンターが置かれた従来加工方法との共存すら避けられているような状況はなんとしても脱して欲しいと願うばかりです。
金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか
まとめ
以上、ここ最近の3Dプリンター関係のニュースについてのブログでした。
XYZprintingの事業撤退は悲しいですが、一方で価格を抑えた金属3Dプリンターといった歓迎すべきニュースもあり、仕事でも趣味でも3Dプリンターを活用している身として、また何か共有したいニュースが見つかりましたら記事にまとめさせていただきます。