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Li-Fiについて(3) 本当の使い道は?

記事更新日 2021年8月31日


はじめに Li-Fiの基本的なメリットとデメリット

Li-Fiは、電波ではなく光の通信ですので、光ならではのメリットとデメリットが存在します。比較対象となるWi-Fiと比べての最大のデメリットは前回説明しましたとおり見通し外(NLOS)通信ができないことですが、それ以外にも次のようなデメリットが存在します。

  • 太陽光の問題から、屋外での使用が難しい
    • バックホール型の光通信と異なり垂直方向で通信するため、太陽光の影響を避けられない
  • 通信距離が短い
    • 特に、子機側の通信距離が消費電力の関係で短くなりがち

一方、主なメリットは次のように考えられます。

  1. 照明と一体化できる
  2. 電波の使いづらい場所(電波を嫌う場所や高ノイズ環境)で使用できる
  3. 光の飛ぶ範囲が制限できるので、干渉を発生させにくい
  4. NLOS通信ができないので、セキュリティを確保しやすい

一番最初の「照明と一体化」というメリットがLi-Fiの最大のメリットだったはずなのですが、現在の技術ですと難しいということは以前説明したとおりです。そして、3、4のメリットは、どちらも「光が飛ばないこと」を逆にメリットと捉えたものなのですが、これらは今Wi-Fiで問題視されている最大のデメリットの部分でもあります。Wi-Fiは言うまでも無く全世界で普及しており、おそらくこの記事を読んでいるような人で使っていない人はいないであろう技術ではありますが、公衆Wi-Fiなどで過干渉で通信速度が低下する問題と、意図しない場所まで飛んでしまうことにより暗号を突破される心配があるというセキュリティの問題の2つの問題は常に指摘されてきました。ですから、これらの点で困っているユーザーであれば、LiFi導入のメリットがあるように考えられます。

Li-Fiの利用シーン

上記のメリットを活かした利用シーンがいくつか提案されており、そのいくつかは実際に運用されています。その利用シーンをいくつか紹介いたします。

工場内での使用

工場は、通信している機器が密集しています。このような状況でWi-Fiで無線化は非常に難しいものです。アクセスポイント(AP)の設置を間違えると干渉が多く発生し、接続もままならなくなります。衝突も多く発生し、大きな遅延が発生する可能性も高くなります。ここをLi-Fiに置き換えると、機器が密集している状況でも安定した通信が可能となります。また、工場では何よりセキュリティが重要視されます。Wi-Fiですと、電波が工場外に漏れ出てそこから不正アクセスされる可能性がありますが、Li-Fiであれば遮光することで一切信号が外に出なくなりますから、不正アクセスを試みることすらできません。

図1
図1 工場でのLi-Fiイメージ

飛行機内での使用

飛行機の座席のエンターテイメントシステムを無線化するという試みも行われています。Wi-Fiでエンターテイメントシステムを動かすには高密度すぎます。しかし、各席まで配線されるLANケーブルは結構な重量となり、可能であれば無線化して軽量化したい。そういったニーズに応えるため、Li-Fiで機内エンターテインメントシステムを動かすという実験が行われています。

記事 "Air France and Oledcomm partner on first commercial flight with Li-Fi"

病院内での使用

病院は古くから電波を嫌う環境の一つです。今は、病院内であっても携帯電話もWi-Fiも使用可能な場所が多くなりましたが、それでも電子機器使用厳禁の部屋は存在します。逆に電子メスのように医療機器自体が大きなノイズを出すため安定した無線通信が行えないという場所もあります。そういった場所でLi-Fiが唯一の無線通信機器として利用できる可能性があります。

図2
図2 病院でのLi-Fiイメージ

いずれの利用シーンも、Wi-Fiでは難しいシーンであり、Li-Fiの活躍が期待されている分野です。

強力なライバル Wi-Fi 6とLocal 5G

しかし、競合するWi-Fiが自分の弱点をそのままにしておくかと言えば、そうではありません。Wi-Fi 6はこれまでのWi-Fiを大幅に改善した新しい技術になっています。

Wi-FiにはIEEE802.11b,g,a,acなど様々規格があり、対応している変調方式や周波数、帯域幅(速度)が異なります。かつてはそれぞれそのままの規格名で呼ばれていましたが、Wi-Fiに興味と理解がある方以外にとって規格名はとっつきにくく、何が何に対応しているのか分かりにくくなっていました。Wi-Fiの規格を管理するWi-Fiアライアンスは、その状態を改善するため、規格名で呼ぶ従来の慣習を改め、その世代別に"Wi-Fi" + "番号"で呼ぶことに決めました。おそらく今一番流通していて、皆様がお持ちのスマホも対応していると思われる規格である"IEEE802.11ac"はWi-Fi 5と呼ぶこととなり、今は一部のスマホやPCしか対応していませんが、今後必ず普及するであろう”IEEE802.11ax”をWi-Fi 6と呼ぶこととしました(と、折角整理したのに、もうWi-Fi 6Eなど余計なものが増えていますが)。 Wi-Fi 6はこれまでで最も大きな変更がなされた世代と言われていますが、その中でも最も大きな変更はOFDMAの対応でしょう。Wi-Fiの記事ではないので詳しくは説明しませんが、簡単に言うとWi-Fi 5まではイーサネットの文化に則って、衝突と再送を前提とする方式だったのが、Wi-Fi6からは携帯電話の文化に近い「スケジューリング」の概念を使ってユーザーが順序よく通信するようになったということです。その事により「衝突」という無駄な送信、つまり無駄な干渉が少なくなくなり、アクセスポイント(AP)全体のスループットが向上します。それに加えてMU-MIMOやBSSカラーリングなどいくつかのインパクトの大きい技術も採用されています。これらによって、Wi-Fi 6ではAPや端末が数多くある環境での接続性が向上し、ユーザー体感は飛躍的に向上するでしょう。

また、日本ではローカル5Gという新しいシステム(というかルール)が認可されました。これはNTTドコモやKDDIのような「携帯電話事業者」でなくても、自分の敷地であれば自前で携帯電話システム(5G)を構築しても良いというものです。携帯電話は免許制でWi-Fi等と異なり他のシステムによる干渉がありませんし、さらに接続する端末は厳密に管理されていますから、接続性や信頼性、そしてセキュリティがWi-Fiと比較し圧倒的に高い、というのは皆様同意いただけると思います。さらに、5Gには更なる高信頼低遅延を実現できる機能も存在します。その通信性能を自分のネットワークに使えれば、例えば工場などで使えれば、これまで有線接続しかあり得なかったようなミッションクリティカルな用途においても無線通信が使える可能性があります。つまり、これまでWi-Fiが苦手だった分野で使用されていくことが期待されています。

さて、話をLi-Fiに戻しますが、もともとLi-FiはWi-Fiが苦手だったシーンでの使用が想定されていました。しかし、Wi-Fiは自身が苦手だった部分を改善してきましたし、ローカル5Gのような信頼性の高いシステムも選択肢として入ってきました。例えば上に挙げた3つのLi-Fi利用シーンのうちLi-Fiでなければできないのは最後の病院でのシーンしかありません。 もちろん、Wi-Fiにおいては、未だ多くがWi-Fi 5以下対応の端末でありWi-Fi 6の実力が発揮できる状況ではないという問題があり、ローカル5Gにおいては、システムがWi-Fiと比べてとても大規模で、免許申請も必要で煩雑、それ故に導入、運用コスト高価であるという問題があります。しかし、これらは技術的な制限でないので、状況によって許容されるでしょう。そう考えると、(光無線通信を推進する我々が言うべきことではないのですが)これまでの発想ですとLi-Fiが活用できるシーンというのは、どんどん狭まっていき、残るものはかなりニッチなものしかないように思えます。

今後のLi-Fiシーンと課題

これは私見ですが、今後のLi-FiシーンはWi-Fiが使えない場所での代替というよりは、有線が大半を占める用途での無線の置き換えがターゲットになってくるのではと考えています。その理由は、Li-Fiにとってさほど大きなメリットではないと考えられてきた「全世界で法規制にとらわれない」「細い・狭い場所でも通信できる」という2つの小さなメリットが活きてくる、いや活かすしかない状況になってくると思われるからです。

例えば、HDMIケーブルの置き換え。HDMIは規格も複雑ですし、ケーブルは太い上に長さの制限も厳しく、LANケーブルに比べるとかなり取り回しが悪く価格も高いです。ですから、無線化は強く望まれている分野の一つでした。現在Wireless HDという60GHz電波で無線化する技術もありますが、殆ど普及しておらず未だにHDMIケーブルで接続されています。普及しない理由の一つが、各国の法規制に従う必要があるため、ワールドワイド販売が前提のテレビでは採用しにくいところ。それが、Li-Fiであればそういった規制を考える必要が無く無線化が可能となります。また、一部HDMIが対応しているイーサネットの同時送信も可能となるでしょう。HDMIに限らず、取り回しが悪いのに無線で代替できずにやむを得ず有線にしているというものは沢山あるはずです。

自動車やトラック、列車、飛行機などの内部配線の置き換えも考えられます。これらは有線よりも軽量化できるとメリットが出てきます。車輌内の配線は狭い場所が想定されるため、電波の無線通信は難しい場合が多い※1です。Wi-Fiですと、例えば直径1cmの穴を通して通信すると言うことは難しかったのですが、Li-Fiであれば全く問題なく通信できます。また、過酷な場所での通信ですと「ノイズに強い」という光通信のメリットが活かされる場面もあるでしょう。それに加えて、可動部や非接触が求められる部分での通信も無線化のメリットが大きいでしょう。例えば、これまで特殊なコネクタが必要で難しかった回転部(例えば車輪と車軸の間)での通信も可能となります。

ただ、いずれの用途においても現状のLi-Fiでは速度が足りなかったり、小型化が足りなかったりして、今すぐに実用化するのは難しいでしょう。しかし、これらの短距離・高速の用途であれば、小型化は容易ですし、速度の方も光源をLD※2にすることによりかなりの高速化が可能ですから、近い将来の実用化の可能性はあります。そうなるとLi-Fiは、照明+通信という本来の意味からは外れていきますが、有線を無線に置き換える技術として広く浸透していくかもしれません。

まとめ

  • Li-Fiのメリットは、これまでのWi-Fi(Wi-Fi 5以前)の弱点である事が多い
  • Wi-Fi 6やローカル5Gは、これまでのWi-Fiの弱点を克服している
  • Li-Fiは、これまでと異なるメリット「狭い場所でも通信できる」「世界的に電波法フリー」という2点で闘っていく必要がある
  • 総合的に判断するとLi-Fiは短い有線の置き換え用途が向いているのではないか?

※1; 無線通信には「フレネルゾーン」というものが存在し、ある程度広い空間(開口部)がないと減衰してしまいます。周波数が低いほど大きな空間が必要となります。例えば2.4GHzWi-Fiで2mの距離にて通信する場合を考えると、半径10cm程度の空間がないと減衰が大きくなります。しかし、光ほど周波数が高いと、フレネルゾーンの概念は無視できて、ほぼ広がらず直進する波と考えて良くなります。

※2; LDはLaser Diodeの略。LDはLEDに比べて速度応答性能が圧倒的に高く、高速化が容易。そのため、光ファイバーで使用する高速なSFPでは、ほぼLDが使われている。ただし、現状ではLEDよりも出力が低いので長距離空間通信には不向き。