LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
高校生でもわかる通信用語 #6
指向性ってなに? 前編
記事更新日 2024年4月9日
社内の人間に、「今までのブログは難しすぎて専門家しか読まないよ」と指摘されて始めた「高校生でもわかる通信用語」シリーズの第6回です。できるだけ難しい言葉を使わずに、できるだけわかりやすく通信用語を説明していきたいと思います。
はじめに
以前TBSラジオの話をしました。そのとき話に出てきたのが「AMラジオを送信するのには150m程のアンテナが必要である」ということを書きました。で、そのアンテナが何をするかというと、アンテナに垂直方向、つまりは地面に水平方向の電波の強さを通常の1.64倍にします。1.64倍は大したことない様に聞こえます。しかし、アンテナ自体は電気的に増幅するとか、そういう機能は持ちません。それなのに、何故強さを1.64倍にできるのか?それは、アンテナで電波が強くなるのは、単に指向性を上げているからです。それにより、1.64倍になるのです・・・
そんな話だったのですが「そういえば、指向性って単語は何となく聞いたことあるけど、具体的には何なのか?」という人は多いと思います。ですので、今回はそんな指向性の話をしたいと思います。指向性の持つ意味とは?そして、どのようにして指向性は与えられるのか?そういったことを説明していければと思います。
今回は前編で、アンテナの指向性とその定義を説明したいと思います。
指向性とは?
指向性って単語の意味はWikipediaでしらべると、「音、電波、光などが空間中に出力されるとき、その強度(単位立体角あたりエネルギー)が方向によって異なる性質」とされています。だけど、私はこの説明だと半分しか説明していないと思うんです。
指向性は、方向によって強さが異なるという意味だけでなく、特定方向に強さ(エネルギー)が集まっているという意味も含みます。そう、集めているんです。生み出してはいないんです。集めているということは、どこかの方向に集めて強くすれば、どこかの方向は疎になって弱くなるんです。例えば、全方向に均等に出ているんだけど、「運良く」ある方向だけ電波が強くなった、といったことはないのです。どこかが強ければどこかは弱いはず。その理由は単純でアンテナから放出される電波のエネルギーを全て足せば、常に同じ量になるからです。
先ほども書きましたが、アンテナって電気を使って増幅するものではありません。アンテナは、ほとんどの場合ただの金属線と金属板の塊でしかありません。となれば、「アンテナから放出される電波のエネルギーを全て足せば、常に同じ量になる」となるのは当たり前です。だって、これ、言い換えれば「エネルギー保存則」です。アンテナに入力される電波以上に電波が出ることはないのです。
例えば、典型的なアンテナであるパラボラアンテナを見てみましょう。宇宙との通信によく使われますし、テレビのBSやCSを受信するために自宅に設置している人もいると思います。いや、今日日、家にテレビがないという人も多いかもしれませんが・・・ とにかく、パラボラアンテナ自体は、皆さん見たことはあるはずです。
このパラボラアンテナというものはは、ほぼ正面にしか電波が飛びません。電波源から放出された電波は、凹面の反射板に反射するんですが、全ての電波が綺麗に真っ直ぐ一方に反射するように作られているからです。ですから、パラボラアンテナは、後ろは当然のこと横方向にもほとんど電波は飛んでいません。それどころか、数度角度が変わるだけで電波がほとんど飛ばなくなります。その代わり、正面方向の電波の強さを100倍とか1000倍にすることができます。パラボラアンテナの真正面しか電波が飛ばない代わりに、特定方向の電波をもの凄く強くすることができるのです。
これを踏まえて、アンテナの性能というものを考えてみます。仮に、真正面の垂直、水平方向とも±2度しか電波が飛ばない、それ以外は一切電波が出ないアンテナがあるとします。物理的に「目的方向以外に一切電波が漏れないアンテナ」は存在しないのですが、あくまで”理論上”の話です。
この理想アンテナの場合、全方向に出ているアンテナと比べて「4度/360度」、すなわち1/90の方向に電波が集中します。以前、デシベルの回でも説明しましたが、電波の強さは面積で表されますので、全体の1/90の角度ということは、面積で考えると、1/90の二乗である1/3600の面積に電波が集中している事になります。これは、全周(球の表面積全体)から見てエネルギーが1/3600のエリアに集まっているとも考えられるので、その結果「電波の強さは3600倍になっている」という計算が成り立ちます。
そして、これこそが指向性の説明となります。ある方向にどれだけ集めたか?どのような範囲に電波が集まっているか?それが指向性です。そして、指向性が高ければ高いほど電波は強くなりますが、電波の強い範囲は狭くなり、電波の弱い範囲が広くなります。上の図で言えば、黄色い小さな丸の範囲のみが電波の強い範囲で、残りは電波が極めて弱い範囲です。その代わり、黄色い丸範囲の電波の強さは指向性を持たないときの3600倍にもなる、ということです。
指向性の定義
指向性がどれだけ大きいかというのは、全方向均等に電波が出ている場合、つまりは指向性が全く無い「無指向性」のアンテナと比べての比較となります。先ほどの±2度の理想アンテナの場合、電波の強さは「無指向性」と比べて3600倍でしたので、この3600という数値が指向性の値になります。ちなみに、指向性の大きさの値を「利得」と呼びます。無指向性アンテナと比較して何倍強いか?が利得です。利得は当然、アンテナの場所(角度)によって異なります。±2度の理想アンテナの場合、±2度の範囲以外は、電波が出ていないわけですから、利得はマイナスですよね? でも、その「アンテナの利得」と呼ぶ場合、そのアンテナに利得の最大値だけを指します。上の図でいえば、±2度の範囲の3600倍というのが、理想アンテナにとっての「アンテナの利得」とされます。利得の低い場所は「アンテナの利得」においては無視されます。
利得の値は、3600とかいう生の数字だと大きすぎてわかりにくいので、通常利得はデシベル(dB)で表します。3600はデシベルに直すと35.5dBになります。そして、dBだけだと電波の出力とか減衰とかと区別が付けにくい、ということもあり、アンテナの利得はdBiと表現することになっています。つまり、無指向性アンテナの3600倍の強さを持つアンテナは、利得35.5dBiのアンテナであるということになります。
さて、先ほども書いたとおり利得35.5dBiのアンテナであっても、それは指向性がピークの場所の強さであって、その他の場所(角度)がすべて35.5dBiということではありません。一般的に、ピークの場所から離れていくと徐々に利得は下がっていきます。逆に電波を集めている分、むしろ無指向性アンテナより電波が弱い場所の方が多いはずです。結局、電波は利得が高いところからも、低いところもからも出るわけで、そうなるとアンテナの指向性というのをアンテナの(最大の)利得だけで表現しても、今一、アンテナを評価できませんよね?強さだけでなく、どれだけの範囲に電波が出ているのかを表す指標も必要でしょう。そこで、使われるのが半値角(はんちかく)という指標です。
半値角は、利得が最大となる角度を基準とし、そこから強さが半分になる(=3dB下がる)角度のことを言います。上の図で言うと、-A°と+A°が強さが半分になる角度です。半値角としてA°と表示する場合と、±A°と表示する場合がありますが、上記の通り意味は同じです。この半値角の範囲が、アンテナの電波の出る範囲と認識される場合が多いです。もちろん、半値角は「半分」になるだけですので、それ以外の角度にも電波は出ています。携帯電話の基地局でいえば、半値角は±30°であっても、アンテナから40°の地点で携帯電話が使えないのかと言えば、そうではありませんしね。
アンテナの性能を表す指標は他にもいくつかありますが、やはり最も目にするものは半値角という指標です。半値角という概念はアンテナや電波だけでなく、光の世界でもよく使われます。LEDとか照明器具とかも半値角で評価することが多いです。光の場合は「視野角(FOV)」と言い換えられることもありますが、その中身は光の強さが半分になる角度、すなわち半値角です。
ちょっと脱線したのでまとめますと、アンテナの指向性というのは、多くの場合、「アンテナの利得(最大値)と、半値角という利得が半分になる角度」の2つの指標で表現される、ということになります。
前編まとめ
さて、今回は、アンテナの指向性って何を意味するのか?、そしてアンテナの指向性の定義について書きました。もう一度思い出してほしいのは、アンテナは電波を強くするものというよりも、電波を集めるものです。集めるから結果的に強くなるだけで、能動的に強くしているわけではありません。そこを理解すれば、指向性の理解も簡単でしょう。
次回は、それでは、アンテナでは電波をどうやって集めるのか?ということを書いていきたいと思います。それでは次回もお楽しみに。