LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

MWC2022出展記念!

携帯電話と光無線通信の未来とは?

記事更新日 2022年2月27日


はじめに

これまで火曜日に更新してきましたこのブログですが、今回はあえて今日、日曜日に更新します。

なんと、明日28日から始まるMobile World Congress 2022に三技協として初めて出展するからです。

通信業界の方ならご存じとは思いますが、知らない方のためにMobile World Congress、通称MWCの説明を簡単に説明させて頂きます。このMWCは携帯電話を中心としたモバイル機器の世界最大の展示会で、毎年2月にスペインバルセロナで開催されています。2019年には10万人以上の人を集めて開催されましたが、2020年、2021年と新型コロナウイルスの影響でMWCは中止(正確に言うと延期)になっていました。家電のCES(ラスベガス)と並び、デジタル機器の世界二大展示会と言えるでしょう。我々の会社も、コロナ前は毎年数人を派遣し、展示を見に行っていました。この規模の展示会ではお約束の「エアがない、宿がない・高い」問題で関係者が大変苦労していたのを横目で眺めておりましたが、そんな苦労をしてでも行く価値のある展示会なのです。

そのMWCに、今年は何と!我々の会社が出展することになりました。見に行くのではありません。出展です! といっても、ご存じの通り(?)単独でブースを構えるほどの力も金もない我が社ですので、どこかのブースを間借りしてちょこっと参加させてもらうい形での出展です。それでも出展は出展。記念すべき初出展です。そして、間借りさせて頂くブースは「Japan Pavilion」。総務省がお金を出しJapan Pavillionというブースを持ち、その中に小ブースをいくつか作成し、いくつかの日本企業を紹介するという形式です。ブース出展料は「無料」ですが、出展したい企業は総務省による選考に残る必要があります。今回は、我が三技協がその中の一社に運良く選ばれたわけです。ラッキー!

https://www.value-press.com/pressrelease/290631

https://www.mwcbarcelona.com/exhibitors/japan-pavilion

展示物は光無線通信、このブログ手も度々紹介させて頂いているLEDバックホール(LEDBH)です。光無線通信というニッチな珍し製品がいよいよ世界デビューです。

MWC2022は2/28~3/3まで開催されるのですが、そもそオミクロン株蔓延の状況下でMWCが開催されるかどうかも不透明で、さらにはJapan Pavillionの開設、すなわち総務省のMWCへの参加も正式に決まったのが開催約3週間前でしたので、展示としては簡単なものしか準備できませんでした。しかし、MWCに来場される方には是非Japan Pavillion内の三技協コーナーへ立ち寄って頂けると幸いです・・・

と書きましたが、現実的な状況、特に感染リスクや帰国時の隔離期間などを考慮するとと、殆どの人はバルセロナどころか海外に行くこともままならないと思います。ブースの構成や展示物などなどは、また別のページかどこかで紹介すると思いますので、今回は「事前の特集」と致しまして、なぜ三技協はMWCにLEDBHを出展するのか、光無線チームは今後の携帯電話と光無線通信の関係をどう考えているのか、ということを(結構遠回りに)書きたいと思います。

我々光無線チームの考える次世代の携帯電話システムと光無線通信

5Gの問題点

我々三技協という会社は、ローカル5Gの設計、構築等を数多く請け負っています(というか、光無線通信は副業でそちらが本業です)。ローカル5Gを簡単に説明しますと、これまで携帯電話会社(事業者)にしか割り当てられなかった「携帯電話用の周波数」を、申請さえすれば誰にでも割り当ててくれるというものです。なんと、ドコモ、au等と同程度の周波数がローカル5G専用として準備されています。今まで似たような制度(BWA)はありましたが、周波数が狭く既存携帯電話会社と同等の速度は出せませんでしたし、申請条件も厳しかったため誰でも申請できるというものでもありませんでした。しかし、今回のローカル5Gは、原則「誰でも」よいのです。もちろん、その場所についてはそれなりの制限がありますがそれ以外は比較的融通が利くため、例えば会社内とか、工場内とか、公園内とか、そういったところで自分で基地局を建てれば「自分専用の携帯電話」を作ることができます。「別にそんな事しなくても携帯電話使えるし、そんなもの必要?」と思われるかも知れませんが、ある限られたエリア内であっても「完全に自由に通信できる」というのは世の中を変える力があります。どんだけパケットを使おうとも、どんだけ端末を増やそうとも、自由。家の中のWiFi対応機器を増やすように、携帯電話の端末を増やせたらどうでしょう?コネクテッドカーならぬ、コネクテッド自転車、何ならコネクテッド三輪車なんかが出てくるかも知れません(図1)。公共スマートスピーカー的なものが町中に設置されたら、どんなことが起こるでしょう?(いいことかどうか分かりませんが)防犯カメラ程度なら、どこにでも簡単に設置できるようになります。十分な帯域があってどこでも何でも繋がる、これこそが真のIoTであると我々は考えています。

fig.1
図1: 真のIoT??

誰もが真のIoTを実現できる世界を作りたいと我々の会社もローカル5G構築のお手伝いを始めたのですが、現実はなかなかに厳しいものでした。免許申請が面倒なのはある程度仕方ないとしても、とにかく機器も回線も「高い」のです。コアネットワークと無線機、そしてそれを繋げる回線を最低限準備するだけで数千万円かかります。5Gは4Gと比べても、通信が速いというだけで無く、比較にならないほど複雑で、数多くの機能を実装しなければ行けませんので、当然機器の価格は高くなります。回線も、既存事業者と同様のO-RAN※1を使う場合、最低でも10Gの光ファイバーが必要になります。つまり、ローカル5Gを実現するには高価な無線機を高価な回線で結ばないといけません。それに加えて、これまでよりも周波数が高い※2ために電波が飛ばず、同じ面積をカバーするにもより多くの無線機を準備しなければいけないわけです。そうなると、お金のある人しかローカル5Gは使えないことになり、実際我々のローカル5Gのお客様も比較的大きな会社さんがほとんどです。これでは我々が目指す「誰もが真のIoTを実現できる」というところとはちょっと遠いと感じています。(もちろん、大きな会社さんからお仕事いただけるのは有り難いですが、それとは別の話です。)

当然これ(何でも高い)というのは、ローカル5Gのお客様だけでは無く、既存の事業者でも同じ事のはずです。もちろん、規模が違いますから無線機も回線もローカル5Gを構築するときよりは安く入手できるでしょう。しかし、その代わり量も多い(しかも半端なく多い)ので、5Gの普及にかかる費用はこれまでと比較しても莫大な費用となります。その負担が重いことは、5G開始から三年経った今でも世界各国で「5Gのカバレッジが想定通りには広がっていない」ということで証明してしまっています。おそらく、日本においてもLTEと同様に全国津々浦々で5Gが使えるようになるのは相当先でしょうし、真の5Gと言われるミリ波が全国で使えるようになる日が来ることは「このままだとない」かもしれません。

我々の考える次世代システム

携帯電話の進化の歴史は、周波数利用効率向上の歴史、すなわちどれだけ周波数を無駄にしないかの歴史と言えるでしょう。世代を超える毎に周波数利用効率は上がっていき、5Gは周波数利用効率を極限まで上げるため非常に複雑なシステムになりました。そのため機器の価格も回線も高くなってしまいましたが、技術的には周波数利用効率はほぼ極限近くまで高いです・・・ でも、それって本当に周波数利用効率が高いと言えるのでしょうか?

確かに、800Mとか2.1GHzとかのこれまでの基地局数で日本全土をほぼカバーできる周波数であれば、多少機器の価格が高くなったとしても周波数利用効率は高ければ高いほど良いでしょう。しかし、1基地局あたりのエリアが狭く、そのために(建前の数値ではなく本当の意味での)人口カバー率が低いシステムの周波数利用効率を高めることに、そこまでの意味があるのでしょうか?例えば、技術的な周波数利用効率が90%あったとしても、無線機や回線価格が高くてカバー率が20%しか行かないシステムと、技術的な周波数利用効率は60%しかないけど、価格が安いから沢山設置できカバー率が40%まで行くシステムと、どちらの「真の」周波数利用効率が高いと言えるでしょうか?

今の5Gミリ波の無線機は、高度な機能を持ちアンテナ数も多く高価になってしまう事は理解出来ます。しかし、その結果が「使われない」「エリア構築には全く寄与しない」では、周波数利用効率もなにもあったものではありません。ですから、我々は、より簡単に、どこにでも設置できることにより、これまでよりも多くの基地局が設置でき、それによって結果的にミリ波やそれ以上の飛ばない周波数において「実質的な」周波数利用効率を上げられるシステムのこそが次世代の携帯電話システムに必要だと考えます。そのために構造がシンプルで機器自体安価となり、設置(工事)や設定(インテグレーション)も簡単で、回線も最低限で済む、そういったシステムにすべきだと考えます。携帯電話なんだから信頼性が必要では?と言われるかも知れませんが、それはもっと低い周波数で確保すればいいのです。

我々の考える光無線通信

と偉そうなことを言ったところで、我々の会社ごときが6Gに影響を与えることは難しいわけですが、一方光無線通信であれば、我々はリーディングメーカーと自負していますので、いろいろな提案が可能です。例えば、ユーザー(携帯端末)までの電波はミリ波等だとして、その後ろ側の回線(バックホール回線)を光無線にするという提案であれば十分実現できます。

簡単に、そして素早く基地局を展開するためには、簡単に誰でも設置できる事が必要です。また、面倒な免許申請や他事業者との調整も不要なほうが良いでしょう。ミリ波が必要とされるような市街地では電柱地中化も珍しくなく、光ファイバーの敷設はかなり大変なので、無線が望ましいでしょう。そして、免許申請が不要となるとアンライセンスで他に与える干渉が小さいほど良いでしょう。この様は必要な特長を挙げると、光無線通信がそれに適していることが見えてきます。(ちょっと無理矢理ですが)

次世代(6G?)の光通信のイメージはこんな感じです。

fig.2
図2: 次世代光通信のイメージ

わかりにくいかも知れませんが、街灯にミリ波無線機が付いており、その上に次世代光無線システムが付いていて、バックホールを担います。光無線をカスケード接続、つまり「リレー」を自動的に行い、電源さえあればミリ波無線機を設置していくことが出来るようになります。ミリ波無線機は今のような過度なビームフォーミングで1無線機ごとの最大通信距離を伸ばすのでは無く、WiFiでやっている程度のゆるいビームフォーミングだけど無線機を安くでき、その分沢山設置する、そんなイメージです。

いまの(つまりMWCに展示している)光無線通信機では、まだ6Gのバックホールの回線としては不十分なので、いろいろな進化が必要です。通信速度のアップも必要でしょうし、自動的に方向を調整する機能も必要でしょう。ただし、どちらも現状の見通しではそれほど難しいことではありません。デバイスの進化により通信速度のアップは見込まれていますし、方向の自動調整は既存技術の発展です。我々も6Gよりも前に実用化する予定で研究を進めています。

というわけでMWCでは・・・

MWCの展示そのものはLEDバックホールなので従来製品ですが、6Gに向けてより簡単に、「easy setup」「easy to spread」をテーマに展示します。これで6Gの何かが変わるとか、そういうわけじゃありませんが、我々のスタンスだけでも知って貰いたい、誰かと一緒に真のIoTを目指したい、そんな気持ちで出展いたします。

前述の通り、準備期間も短く、ブースも間借りの小さいものですが、我々の会社のMWCデビュー戦。コロナ禍や、ウクライナ問題など国際展示会にとって非常に大きな逆風が吹く中、全体でどれぐらいのお客様が来られるのか、我がブースにどんなお客様が来られるのか、全く予想が付きません!

その展示の結果、反響は次回このブログで紹介させて頂く予定です。 お楽しみに!

fig.2
図3: MWC2022三技協コーナーのコンセプト(一部)

※1; Open Radio Access Networkの略で、基地局のCPU部分と無線機部分を分離するためのプロトコル。同様の機能を持っていたCPRIよりも、NETCONFに準拠するなどIPネットワーク接続に近い形になっていて、ベンダー非依存性を高めている。

※2; 現在、世界で5G用として割り当てられている周波数は、Sub6と呼ばれる3.7~6GHzの周波数と、ミリ波と呼ばれる20G超の周波数。いずれも、LTE以前に割り当てられてた周波数よりも高い。