株式会社三技協 The Optimization Company

2016.09.09

■地域と歴史懇談会 ~二宮尊徳は日本人に何を残したのか~

イメージ画像

「尊徳の改革はそれほど高い評価ではありません」
Dr.ロナルド・A・モースの言葉に、会場に少しばかりの緊張が走った。
勤勉の象徴と親しまれてきた「二宮尊徳」を語る懇談会において、尊徳を長年研究し続けている松沢成文氏のプレゼンテーションに真っ向から対立する意見だった。
さあ、今回の懇談会はどういう顛末を迎えるのか?
想定外の始まりに、期待を込めた視線が集まった。

■二宮尊徳と柳田國男、それぞれの研究者が定めた交点

【地域と歴史懇談会】の2回目のテーマは「二宮尊徳」。尊徳を語るに相応しい二人のパネラーが登壇した。
一人目の元神奈川県知事で参議院議員の松沢成文氏は、尊徳に関する書籍を何冊も出版するほどの“尊徳専門家”だ。尊徳のエピソードや、近現代に名を残す多くの実業家たちが影響を受けたという報徳思想について、聴衆の心をぐっと掴む街頭演説のように分かりやすい解説を期待する。
二人目は、当社相談役のDr.ロナルド・A・モース。Dr.モースは、米国における日本研究の先駆けとして、民俗学者 柳田國男を中心に日本民俗学・農政学の研究を続け、「遠野物語(英訳)」をはじめ日本に関する数々の著作がある。

二宮尊徳と柳田國男―――。
一見何の接点もなさそうな二人の偉人だが、江戸後期から近代日本のさまざまな背景を究明し続けた研究者たちは、ここに「農業」という交点を見出していた。

日本の資本主義経済の礎を築いた二宮尊徳

photo松沢氏は、二宮尊徳を次のように紹介した。

百姓の家に生まれた二宮尊徳は、早くに両親を亡くし、川の氾濫で財を失い貧困の中で学問を続けました。厳しい労働の中で学習を続け培った知識と知恵は、自家の復興を成し遂げ、世界初となる農業協同組合や信用金庫の創設に至りました。これらは日本の資本主義経済の礎となり、現在の日本経済の発展につながったのです―――。

さらに、財政復興の思想として用いた「報徳思想」について、ひとつずつ丁寧に解説を続けた。

報徳」とは、徳を以て徳に報いることです。
」とは、その人の美点です。どんなものにも良さがあるのです。

人が幸せに生きるために必要なことは「勤倹譲」の精神です。
勤勉に働き、得た財は倹約して使い、余った一部を他に譲ります。

至誠」真心を尽くす。
勤労」知恵をみがきつつ働く。
分度」自らの“足る”を知る。
推譲」自分のために蓄え、他人のために譲る。
これらの思想は、日本人の精神を経済の仕組みに含める「道徳経済一元論」として、多くの後継者たちに信仰されました。

思想とビジネスは切り離して考えるべきだ

photoDr.モースは尊徳の労働倫理は高く評価するものの、農業改革に関しては世界レベルでは珍しいものではないという。とりわけ、思想を混在させた農業改革は戦前のファシズムを促進させたなど、日本にネガティブな結果をもたらしたとして、思想とビジネスを同軸で捉えることに異を唱えた。

思想的なバックグラウンドによる違いを読む

なぜ西洋では思想とビジネスは切り離されるべきなのか。
いくつもの宗教が入り組み存在する西洋では、自分の思想・信仰を守るため、自己の内面(思想)と外面(ビジネス)を敢えて分ける必要があるのではないか、と参加者から意見があがった。
株主がリスクを取る代わりにそれに見合った報酬を得る株式会社によるビジネスは、人の思想にはまったく関わらない。一方、宗教に対する信仰が西洋ほど高くない日本では、人々は公共的な存在(共同体)をとおして道徳を身に付け思想を形成してきた。特に農村社会では、農協がその役割を大きく担っていたはずだ。
つまり、西洋と日本とでは、思想形成のためのバックグラウンドが大きく異なり、ビジネスとの関わりもそれに基づいているというわけだ。

幸せはすべてがバランス良く共存すること

尊徳の改革によって江戸時代より農民は貧しくなったのではないか、という見解もある。
尊徳は、政府の側に立ち封建主義に異議を申し立てない程度の改革しかしていない、という見方もある。
これに対し松沢氏はいう。
「尊徳は物事を180度ひっくり返すような革命家ではありません。今の体制の中でより良くしようと、封建主義の改革を民主的に行った改革者なのです」

尊徳が残したものは、“ゼロか100”ではなく皆が等分のバランスを保つために、「人は働き家族や子孫のために蓄え、他人や社会のために譲る」ことができる社会。まさに、「天道も人道も経済も道徳もすべてがバランス良く共存し、融合することで、社会は発達し人々は幸福になる」という報徳の思想に基づいた改革であることを示している。
Dr.モースが研究を続けた柳田國男は、農商務省在籍時代に零細農業の生産効率を高める構造改革を提案した。こちらも封建主義に対する民主的な改革案である。

近年、日本人の倫理観が世界のさまざまな場面で賞賛を受けている。
「お・も・て・な・し」に始まり「助け合う」「相手を思いやる」「ルールを守る」「一生懸命」などは報徳の精神そのものである。
日本人の美徳として伝統的に受け継がれてきた倫理観が、今なお人々の基盤として存在し、世界にも広がり始めていることを大切に思いたい。

MIRAIMA TOPICS 編集部

 

記事一覧へ戻る

YOUTUBE
セミナー展示会のご案内
ライブラリ
CSR活動
書籍のご案内
お問い合わせはコチラ