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【社内雑談】Xiaomiの独自SoC

記事更新日 2025年6月24日


はじめに

スマートフォン大手のシャオミ(Xiaomi Corporation:小米集団)が、オリジナルのSoCを発表したことが話題となっています。

SoCとは、スマートフォンの心臓にあたり、CPUやGPU、通信モデム、画像処理チップなどを1つのチップに統合したものとなります。スマートフォンに使われるSoCは、高性能かつ超低消費電力を求められるために最先端技術が必要で、そのため開発できるメーカーは多くありません。ほとんどのスマートフォンメーカーは、アメリカのQualcommか、台湾のMediaTek(メディアテック)のいずれかのSoCを使っています。しかし、超大手メーカーともなると話は別で、自社でSoCを開発している会社がいくつもあります。最も有名なのがAppleで、それについては以前も記事にしました

というわけで、今回はシャオミの自社製SoCの話をしつつ、シャオミそのものの話や、スマートフォン業界などについて雑談していきたいと思います。毎度毎度のコタツ記事ですので、緩い気持ちで読んで頂ければと思います。

いつものことですが、このブログは個人の見解で、会社としての方針では決してありません。個人が勝手に書いているものだとしてお読みください。尚、各企業・団体の敬称は省略させていただきます。

独自SoCとは?

社員A(以下A): 先日発表シャオミが、独自SoCであるXRINGシリーズを発表しました。確かに、シャオミはスマートフォン世界3位まで上り詰めましたので、扱い台数から考えてもSoCを独自に開発するというのは、理解は出来ますね。

社員B(以下B): 独自SoCを使っているスマートフォンメーカーは、これまでApple、Googleの両OSメーカーと、販売台数最多の韓国サムスン(Samsung)、基地局側の最大手である中国ファーウェイ(Huawei :華為技術)の4社だったんだけど、これにシャオミが加わった形になるんだけど・・・

A: なるんだけど、なんですか?

B: シャオミは、これが最初ではなくて、2017年にも一度自前のSoCを販売していて、今回で2度目の挑戦なんだよね。

A: え?そうなんですか?知りませんでした。

B: シャオミは、まだ今ほど会社が大きくなかった2014年に、半導体設計会社であるBeijing Pinecone Electronicsを設立しているんだ。だから、2017年に発売したSoCも、そして今回発表のSoCもそこ開発のものなんだよ。2017年に発表したSoCは「Pengpai/Surge S1」という名前で、残念ながら評判は良くなかった。私はよく知らないんだけど、当時の記事によると、製造はTSMCでゲーマー向けにCUPに比べてGPUが強いというSoCだったらしい。残念ながら、他社と比べてかなり見劣りしたらしく、自社でも使われなくなった。

A: よくある話ではありますね。SoCは本当に難しいです。

B: で、その後のPineconeは、カメラセンサーとか充電制御チップとか、細々とした半導体製品を出していたんだけど、今回2度目の挑戦としてSoCを出してきた、ということになるね。

A: 今回は、勝算があるんでしょうか?

B: うーん、どうなんだろうね。ただ、現在のシャオミのラインナップを見ていると、確かに独自SoCを作りたくなる気持ちはわかる。

A: なるほど、ラインナップですか。

B: 現在、シャオミは、ハイエンドの”社名+番号”、ミドルレンジの”Poco”、廉価の”Redmi”という3シリーズ展開になっているんだけど、実際は各シリーズにProやらUltraやらTurboやらも存在して、各機種の位置付けがわかりにくい、かなり雑多なラインナップになっている。

そして、SoCもハイエンドがQualcomm、とか決まっているわけじゃ無い。各シリーズでQualcomm、MediaTek、そして中国のUNISOCという3SoCが使われている。一般的に、SoC性能は今紹介した順番通りになるはず。でも、ハイエンドの番号シリーズでもMediaTek SoCが使われることがあるし、廉価版のRedmiシリーズであってもQualcomm SoCが使われているケースも多い。

例えば、3シリーズの直近の上位機種を比べてみると、次のようになる。

Xiaomi 15 Ultra Poco F7 Ultra Redmi Turbo4 Pro
発売時期 2025/2 2025/5 2025/4
SoC Qualcomm SM8750-AB
(SnapDragon 8 Elite)
Qualcomm SM8750-AB
(SnapDragon 8 Elite)
Qualcomm SM8735
(SnapDragon 8S Elite)
対応RAT GSM/HSPA/LTE/5G GSM/HSPA/LTE/5G GSM/HSPA/CDMA2000/LTE/5G
プロセス 3nm 3nm 4nm
RAM ~16GB ~16GB ~16GB
価格(EUR) 約1,000 約800 約300

全部SoCはQualcommで、世代も大きくは変わらない。Redmiが若干下のSoCになるけど、ゲームでもやらない限りは、ほとんど体感はかわらないはず。むしろ廉価版のRedmiは何故かCDMA2000に対応している。これだけ見ると、スペックはほとんど変わらなく見えるけど、端末の値段はかなり違う。

A: 確かに、各シリーズの差がよく分からないですね。

B: 結局、全てのスペックをみてみると、15のカメラはライカ製だとか、最大充電速度が違うとか、SoC以外の部分での差があり、それが大きな価格差になるわけだ。

このように、シリーズととSoCメーカーって、今やあまり関係が無いんだよね。言い方を変えると、SoCの性能って、端末全体の性能、価格、そして最終的な売上にそこまで影響しない、とシャオミのラインナップから見て取れる、っていうことだ。一部の人は気にするんだろうけど、売上の多くを占める一般人にとっては、カメラとかディスプレーとかSoC以外の仕様の方がよっぽど売上に影響するんだろう。

そう考えると、SoCなんてどうでもいいんだよ。でも、その割に端末価格に関するSoCの割合って結構高くなる。だったら、販売台数が多いシャオミは自社開発にした方が性能の割に価格が下げられるはず。もちろん、他社より明確に劣るとなると話は別なんだろうけど、まあそれなりに最新に近いスペックなら問題ない。

例えば、Google Pixelなんかは、まさにそうだよね。Pixelに使われているTensorプロセッサーは、少なくともベンチマーク上では最高性能とは言えない。でも、ユーザーがPixelに求めているのは、ベンチマーク上の高性能ではなく、Googleサービスとの親和性とか、カメラ含むGoogleのAI性能だ。だから、Pixelはベンチマークをあまり気にせず、AIに全振りのプロセッサーで勝負してる。

A: 確かにそうですね。私も、ゲーマーじゃないんで最高のSoCなんて求めてないし。むしろ、重さとか、電池とか、そういった方を優先します。

B: もちろん、本当に最新最高性能を求める人も一定数いるし、メーカーとしてはそういったブランドが必要なのも事実だ。最高性能スマホは、自動車メーカーにおけるスポーツカーみたいなものとも言えるだろう。もしかしたら、シャオミはそういった層には引き続き最新QualcommのSoCを使った端末を提供するんじゃないかな?というのも、シャオミは自社製SoCであるXRINGを正式発表する数日前に、Qualcommと今後複数年にわたり、パートナーとして連携するということをわざわざ発表しているから。

とはいえ、まずはフラグシップシリーズのXiaomi 15シリーズにXRING O1 SoCという新SoCを投入するみたいだ。今後Qualcomm SoCがどのラインナップに投入されるかは不透明だけど、暫くは、今と同じようにシリーズ中に色々な会社のSoCが混在している、という状況は続くんじゃないかな。

それと、無視できないのはXRING T1というスマートウォッチ向けのSoCも同時に発表していること。こちらは消費電力重視タイプで、自社製LTEのモデムまで搭載している。こちらは、スマートウォッチ、バンドだけじゃなくEVとかにも搭載していくようだ。

まあ、いずれにしても、シャオミとしては、スマートフォンに限らず、今後のSoCは、徐々にXRINGシリーズが中心になるように進めたい、というのは間違いないだろう。

A: これは、シャオミ10年来の夢ですから、多少コストがかかってもやりたいですよね。

B: 加えて言えば、シャオミも、いつファーウェイのようにされるかわからないから、西側諸国製SoC一本槍は避けたいという事情もある。実際、シャオミは2021年に中国軍関連企業に指定され、ファーウェイと同じように規制されそうになった。でも、アメリカで裁判を闘って、現在のところ指定は解除されている。

規制されたファーウェイのスマートフォン部門は、その後規模の大幅な縮小を余儀なくされたし、一部はスピンアウトさせて後に売却という憂き目に遭った。ファーウェイの本業は、通信のインフラ側機器だったから会社として何とかなったけど、スマートフォンが本業のシャオミが、当時同じ事をされて生き残れたかはわからなかったよね。

A: 確かに。今は、ファーウェイは規制前の売上まで戻っているみたいですけど、それはスマートフォン以外が頑張ったからですしね。

B: ちなみに、勘違いがないように言っておくけど、ファーウェイがアメリカから色々な規制をされた結果、ファーウェイはQualcommのSoCが全く買えなくなった、ということではないんだよ。今でも、Qualcomm SoCの端末がファーウェイから出ている。入手できなくなったのは、最新の5G対応SoCと、最新Androidと、アプリを提供するGoogle Playだ。

A: そうなんですか。てっきり、QualcommのSoCも入手できなくなっているのかと思っていました・・・ って、5G非対応のSoCのみって、十分規制されているじゃないですか!

B: ファーウェイは廉価版の端末も結構出しているからね。最近の端末※1でも、4G Qualcomm SoCにAndroid12を載っけていて、Google Playの代わりに、ファーウェイAppGalleryというアプリストアがバンドルされているみたいだよ。

ファーウェイAppGalleryは、ファーウェイのスマートウォッチ・バンドを使用していると入れざるを得なくなる※2から、日本でもインストールさせられた人はまあまあいるんじゃないかな?私もファーウェイバンドを使っているから入れさせられたし。AppGalleryを知らない人はバカするかもしれないけど、かつてのWindows PhoneのMicrosoft Storeよりずっとまともなストアだと思うよ。

fig.4
Huawei AppGallery画面

A: いやいや、ファーウェイだってそんなものに勝ってもうれしくないでしょうよ・・・ それにしても、ファーウェイはこれでいいんですかね?このへんな型落ち仕様でも売れる国もあるとは思いますが、それなら潔くAndroidやめれば良いと思うんですが、どうですかね?

B: ファーウェイの現在のハイエンドスマートフォンは、独自SoCのKirinと、独自OSであるHarmony OSだからね。この組み合わせのファーウェイスマホは5G対応ができているよ。だから、中国国内では売れているみたいだね。

A: 正直、こちらの組み合わせの方が、すっきりしていて良いですね。事ここに及んでは、もはや独自SoCやOSの方が売れるし、儲かるでしょうに、ファーウェイに旧式Qualcomm SoCや型落ちAndroidを敢えて使う理由があるんですかね?

B: アメリカによる規制がかかった当初はQualcommの全チップが対象だったんだけど、数年後に緩和されて、4GのSoCは許可されたという経緯があるんだよ。その当時は自社のKirinが上手くいかなくて、ファーウェイにとっては4GのQualcommでも貴重だったという時期だったようだ。だから、その時に一定期間購入する契約はしただろうし、それを消化するためにQualcomm SoCを採用している、というのが主な理由だろう。また、念のためQualcommとの関係は今後も続けておいて、サプライチェーンは維持しておこうと思っているかもしれない。いずれにしても、これは私の想像でしかないし、明確な理由はわからないけど。

A: ですよね。商品価値が無いであろう、Google Playの無いAndroidがQualcomm維持の理由とも思えませんし。

B: いずれにしても、ファーウェイにしてもシャオミにしても、中国メーカーとしては、サプライチェーンの多様化は最優先事項の一つなんじゃ無いかな。いつ何が規制されるか、わかったもんじゃないし。

最近は、トランプ政権の無茶なのかTACOなのかわからんが、いろいろと各国に無理難題を押しつけたおかげで、アメリカという国の政治的信用度が激落ちしているよね。アメリカから、いつ、何されるかわからない。だから、中国メーカーだけじゃ無くて、西側諸国の中でもリスク回避としてSoCやOSの自社開発を検討する会社が増えても不思議ではないよ。

シャオミの日本進出

A: さて、シャオミと言えば、最近日本に実店舗を出店したと話題になりました。

B: 私は、早速行ったよ、シャオミストア(Xiaomi Store)。2店舗ある※3けど、イオンモール川口の方。ちなみに、川口には、建て替えて新しくなったイオンモール川口と、もともとダイアモンドシティだったイオンモール川口前川があるんだけど、お互いが1.5km弱しか離れていないため初心者は間違いやすい。シャオミがあるのはイオンモール川口ですので、お間違いなく。

ちなみに、シャオミのショップは、面積的には小さいけど、イオンモールの建物の中心付近にあったから、立地としてはかなり良い場所だと思う。

A: そうなんですか。ところで、ショップにはどういったものが置いてあるのですか?携帯が並んでいて、携帯ショップみたいな感じですかね?

B: いや、もっと色々と売っている。多くの人は、恐らくシャオミというとスマートフォンのイメージしか無いだろうから、シャオミという会社から説明していこうかな。

A: よろしくお願いします。

B: シャオミは、もちろんスマートフォンの製造販売が祖業ではあるけれど、今はテレビなどの黒物家電、掃除機などの白物家電にも手を出しており、総合家電メーカーとしても顔を持ちつつある。

A: 白物家電も売っているんですか!

B: シャオミをここまで大きくしたのには2つの戦略があったと言われている。一つは、オンライン専業。実店舗には商品を卸さず、オンライン店舗のみに絞って販売した。これにより、店舗マージンを下げられた。もう一つは、販売機種数を絞ること。シャオミ誕生当初は、年間でも数モデルしか販売せず、しかも売り切れたら終わり、となる戦略を採っていた。フラッシュセールと呼ばれる手法なんだけど、これによって1モデル当たりの販売数を増やし、かつ無駄な在庫が出ないという状態を作れた。

この2つの方針によってコストを下げられ、「性能は比較的高いのに低価格」なスマートフォンを販売することが出来たんだ。私はシャオミを中国国内専売の時代からウォッチしてきたけど、シャオミは実際に「同価格帯としては圧倒的な高性能」の機種を出し続けていた思う。

A: なるほど。低価格だけど高性能という端末を売り続けたわけですね。

B: 低価格高性能だけじゃ無く、そのデザインにも力を入れていた。時にはパクリと言われることも多かったけど、そのデザイン性の高さから、シャオミは中国人の若者が憧れる「ブランド」へと成長していった。

その後会社は大きくなり、オンライン専業とか、少モデルラインナップとかは、後にいろいろと変わっていくんだけど、「低価格だけど高性能」というラインは崩していないね。

A: 確かに、シャオミ製品には、価格の割に高性能でおしゃれなイメージありますよね。

B: その、「おしゃれだけど高性能低価格」のイメージそのままに、白物家電、黒物家電、そしてEVにまで、製品を広げていったというのが、今のシャオミだね。

だから、日本の実店舗にも、テレビ、PCモニターのような黒物が中心ではあるものの、掃除機とか、炊飯器とかの白物だって売っているんだよね。もちろん、本業であるスマホやタブレット、イヤホンやスマートバンドも売ってたよ。さすがにEVは売ってなかったけど。

fig.3
シャオミバンドを愛用する弊ブログ記者Y氏もコスパの良いシャオミイヤホンを購入

A: そりゃ、EVは売らないでしょ・・・ とは言え、シャオミはすでに総合家電メーカーでなんですね。そうなると、家電はスペックだけじゃわからなくて、実物を見てなんぼ、というところがありますので、それで実店舗なんですかね?

B: メインではないだろうが、それもあると思う。触ってみた感じ、ダイソン風のスティック掃除機は値段こそ安いけど、まだ性能とか質感はダイソンや日立には劣る感じだった。でも、黒物家電はやばいね。テレビは日本や韓国メーカーと全く遜色ないのに、笑っちゃうような値段で売られていたからね。いや、細かいところを見れば違うのかもしれないけど、そんなのちょっと見ただけではわからないというところが黒物の怖いところだ。ほんと、今のテレビがダメになったら、シャオミにしようと思ったよ。

A: それは、すごいですね。私も行ってみようかな。

B: 話は飛ぶけど、シャオミが2つしか実験的店舗に川口を選んだ理由は、川口という場所の特殊性によると思う。

A: なんですか?川口の特殊性って。

B: 川口市というと、最近何かとニュースとなるクルド系の方々を思い浮かべる方も多いと思うんだけど、実際は中国人がめちゃくちゃ多い街なんだよね。例えば、西川口駅西口は中華街になっているんだけど、横浜のような観光地ではなく、日本語表記のない店が当たり前の「リアル中華街」だからね。更に言うと、その辺の公立小中学校には、日本語が話せない子のための日本語教室が設置されているし、学年によっては半分近くが中国人含む外国人だってこともあるようだ。

A: すごいですね、川口は。日本人がマイノリティの世界・・・

fig.1
西川口では普通の看板 (「手机」は携帯電話を、「上下」はカードを意味します)

B: だから、シャオミも川口に出店したんでしょう。ちなみに、イオン川口のシャオミの店員さんは、日本語の話せる中国人だったよ。

A: 多いであろう、中国人のお客様への対応も完璧ってことですね。

B: けど、私が行ったときは、客は日本人ばっかりだったよ。私は、日本人相手でも十分勝算のある製品と価格だと感じたけどね。後は、知名度だけ。

A: 知名度向上のための、実店舗なんでしょうね。

B: もちろん、それが主目的だろうよ。

スマホへの影響

A: さて、SoCの話に戻りますけど、シャオミが自社製SoCを作ることによって、スマートフォンの勢力図に変化は出るでしょうか?

B: 2つの点で、今のところはあまり影響はないだろうと思っている。

1つは、モデムがまだ完全な自社製では無い、という点。自社製のモデムはLTEまでで、5G対応は出来ていないようだ。XRING O1を初めて搭載したXiaomi 15S Proは、5Gにも対応なので他社製のモデムを使っていると報道されている。

Appleの回でも書いたけど、Appleは最新のiPhone16eから念願の自社製モデムとなったけど、そのAppleでさえ、Intelのモデム部門を買収して、さらにその6年後にやっと5G対応の自社製モデムができたわけ。そんなわけだから、最新モデムまで自作となると相当に時間がかかる作業になる。もちろん、LTEに対応できるだけでも凄いことなんだけど、5Gまで対応となるとさらにハードルは高い。おそらくは当面はQualcommやMediaTekの様なSoC大手からモデムを買い続ける必要があり、自社製SoCだからといって、大幅なコストダウンはできないであろうと予想される。

A: AppleですらQualcommへの支払いに相当苦労したみたいですから、シャオミがそこから逃れられるまでは、まだ時間がかかりそうですね。

B: 2点目は地政学的な話も絡む。シャオミのSoC XRING O1のCPU、GPUは、ベンチマーク的にはQualcommの上位機種と肩を並べる性能を持つ、と言われていてそれはそれで凄いけど、結局はTSMC製の時点で、その凄さは半減する。なぜなら、3nmなんてプロセスのSoCは、現状TSMCしか作れないから。Qualcommが作っても、シャオミが作っても、結局TSMCなら状況はあまり変わらない。

A: そうは言っても、自社製SoCとて、AppleもGoogleも、どこも製造はファウンドリですよ。それこそ、大半がTSMC、残りはサムスンとかですよね。

B: いや、そういうことでは無い。TSMCに依頼している以上、他社との差別化は難しいってことを言いたい。価格もそうだし、スケジュール的制限もあるし、それこそ、アメリカの規制回避の面でもね。

例えば、ファーウェイの最新SocであるKirin 9020はファーウェイ傘下のファブレスであるHiSilicon※4が設計開発、中国のファウンドリであるSMIC※5が製造している。現状HiSilicon+SMICでは、まだまだQualcomm+TSMCには敵わない。でも、これがQualcomm+TSMCの1世代遅れぐらいまでキャッチアップできたら、かなり勢力図が変わる。SMICは、ファーウェイと同じく米国の規制がかかっているけど、それでもKirin向けに自力で7nmのプロセスが生産できているらしいから。

A: HiSiliconもSMICも世界シェアが伸びているみたいですし、着々と成長しているようですね。そして、この構成だとアメリカは全く手出しできません。そう考えると、アメリカのこういった規制の仕方って、短期的には効くんでしょうが、長期的に見て成功と言えるようになるんでしょうか?何か、中国の成長を促しているだけのような気がするのですが。

B: そうだね。実は、そういった事をNVIIDAの”革ジャン”ことジェンスン・ファンCEOが言っていたね。NVIDIAのAI用GPUは、中国への輸出規制がかかっているんだけど、ファンCEOは「この規制は中国のAI用GPU開発を促進して、アメリカの影響力を低下させるものだ。中国はそこまで遅れていない、非常に近い、すぐ後ろにいる。」という旨の発言をしている。ファンCEOは、規制することによって、むしろAIで中国勢に追いつかれる、ということを危惧しているんだ。

これは、この発言の少し前にファーウェイが「Ascend 920」というAI GPUを発表したことを念頭に置いている。Ascend 920は、NVIDIAの最新GPU(H200、B300等)には数段劣るものの、中国への輸出が許可されているダウングレード版のH20 GPU※6よりは高速であるとされており、中国国内のAI開発が、脱NVIDIAで進んでいく可能性があることを意味する。

fig.1
Google Gemini作成

A: AI GPUを国内で自作して、ダウングレード版とはいえNVIDIAを超えてくるとは、ファーウェイ恐るべしですね。

B: Ascend 920は、SMICの6nmプロセスで作られているようだ。まあ、かなり歩留まりは悪いみたいなんで格安ってことにはならないだろうけど、脅威は脅威だね。非NVIDIAでも高速に動く、同じく中国のLLMであるDeepSeekと組み合わせれば、アメリカの力を全く借りないLLMの完成だ。また、本当かどうかはわからないが、来年(2026年)には、ファーウェイが3nmプロセスのチップをリリースするというニュースもある。

とにかく、アメリカによる規制のおかげで、ファーウェイはNVIDIAに劣らないAIチップと、Qualcommに劣らないSoCを開発してしまうかもしれない。それが、アメリカの望んだことかと言えば、そうじゃ無いよね。

A: 輸出規制とか、そういったものの効果って、表裏一体ですね。

B: そう。もう、世界中の人の行き来は激しいし、インターネットで世界中繋がっている時代だ。COCOM※7の時代じゃ無いんだから、輸出規制によって技術的な優位性を維持することは出来ないんだよ、きっと。

まとめ

A: それでは、時間が来ましたのでまとめお願いします。

B: シャオミの自社製SoCは、長年の夢ではあるものの、だからといってスマホ市場が劇的に変わるという訳ではないはずだ。製造は他社と同じTSMCとなるので、そこまで差別化はされないように思う。

ただ、その他の製品、例えばTVとかEVとか、そういったものの差別化は可能になっていくんじゃないかな?今後は、白物、黒物関係無く、コネクティビティとAI化というのは必須だろうから、SoCの重要性は増すばかり。そこで、自由の利かない既製品ではなく、自社設計のSoCがあるというのは強みを出せるよね。おそらく、そういったことを視野に入れてのXRING T1の開発だったんだろうし。

A: 自社製SoCは、結構、シャオミという会社、全体に影響する可能性があるんですね。

B: 意地悪な見方をすると、シャオミの自社製SoCを開発は、米中衝突の延長線上にもあると言えるかもしれない。携帯電話の技術全般で言えば、ファーウェイ擁する中国がすでにアメリカを超えている可能性が高いが、遅れていたSoC含めた半導体の面でも中国の進歩はめざましい。そんな氷山の一角がちょこっと見えたのがシャオミのSoCって事なのかもしれない。

中国が半導体でアメリカ、台湾に追いつくかどうかはわからないが、こういったことを繰り返していくうちに、中国国内の半導体設計のエンジニアだったり、半導体製造のエンジニアだったりがどんどん増えて、中国半導体業界全体が成長していっていくってことは、間違いの無いことだ。

A: 正直、日本の現状からすると、羨ましくはあります。AI含むソフトウエア技術の方は、もはや中国と比較にもなりませんが、ハードウエアであるSoCや半導体製造においても歯が立たなくなってしまった感じがします。

B: それは、もう仕方が無い。シャオミだけでも今後10年で500億元(約1兆円)を半導体開発に投資するみたいだし、ファーウェイは、おそらくその10倍は投資している。そして、それと同等の国や自治体の支援があったりする。もう、規模が違う。そして、何より中国には「勤勉な」研究者やエンジニアが大量にいる

例えば、今、日本の首都圏では中学受験が過熱しているけどさ、それを詰め込みだとか、低年齢からやらせすぎだとか非難する人が後を絶たないわけよ。けど、おじさんとしては、そんな緩い感覚で、これからの日本人は大丈夫なのかな?と思っちゃうけどね。だってさ、今、中国で上に立っている研究者やエンジニアは、日本の中学受験とは比べものにならないぐらい低年齢から詰め込んで、日本と比べものにならないぐらいの激しい受験戦争を勝ち抜いた人ばかりだから。

A: そうみたいですね。科挙の本場中国、そしてその影響を強く受ける韓国、台湾も受験は相当厳しいと聞きますね。

B: インドだってみんな受験に人生掛けていると聞くよ。もしかしたら、多くの人にとって詰め込み教育は良くないのかもしれない。でも、結果としては日本だけじゃなくヨーロッパすらも、詰め込み教育大国に負けてるじゃん、半導体も、AIも。アメリカですら、AI研究者の大半が中華系と聞くし。やっぱり、エリート研究者に育てるには詰め込み教育が必要なのでは?と思ってしまうよ。

A: 言われてみれば、そうですよね。半導体投資額とか、そういったもの以前に、もしかしたら子供の教育段階から負けているのかも知れませんね。それを、言われると夢も希望もないですが。

B: 私も偉そうに言っているけど、残念ながら私の足りない頭を引き継いだ娘では、いくら詰め込んでもエリート中国人には太刀打ちできません。だから、日本人エリート層にはもっと詰め込んで頂いて、是非世界と闘っていただきたいです・・・

A: なんという、他力本願!

(担当M)

※1; Huawei Nova Y63(2025年5月発売)、Nova Y72S(2025年4月発売)等。

※2; ファーウェイのスマートウォッチ、スマートバンドをスマートフォンと接続するためには、”Huaweiヘルスケア”アプリをインストールする必要があるが、このアプリをインストール(ダウンロード)するためにAppGalleryアプリが必要となる。

※3; もう一店舗は、イオンモール浦和美園。こちらも、イオンモール川口から5km程度しか離れていない。

※4; HiSilicon Technology Co., Ltdのこと。中国最大のファブレス半導体メーカー。ファーウェイの100%子会社であり、ファーウェイと同じく中国深センに本社を構える。ファーウェイと同様にアメリカによる規制(エンティティリスト)対象である。

※5 Semiconductor Manufacturing International Corporation(中芯国際集成電路製造有限公司)の略称。中国最大の半導体ファウンドリ。本社は上海だが、会社登記はケイマン諸島になっている。主要株主は、中国政府系基金であるICF(中国集積回路産業投資基金)とTD-SCDMA開発で知られる大唐電信グループであり、一部国有の上場企業という扱い。創業者の一人が元TSMCで、そのTSMCより機密情報を盗んだとして度々訴訟を起こされていた。ファーウェイと同様にアメリカによる規制(エンティティリスト)対象である。

※6; NVIDIA H20 Tensor GPUは中国への輸出規制回避向けに「ダウングレード」されたチップ。基となる2013年発売のH100 Tensor GPUの性能の5分の1程度にされていると言われているが、全ての性能が5分の1というわけでは無く、LLM開発には十分に有用であると言われている。

※7; 日本語で「対共産圏輸出統制委員会」。第二次世界大戦後の冷戦時代にソ連、中国のような共産主義国へ、西側諸国の戦略物資・技術を流出させないようにするための委員会。日本を含めたアメリカ、イギリス、フランスなどが加盟。ソ連崩壊により意義が無くなり、1994年に解散。