LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
"AI = Accelerating Intelligence" MWC2025レポート(前編)
記事更新日 2025年3月18日
はじめに
MWC Barcelonaという展示会をご存じですか?MWCはMobile World Congressの略で、毎年2月末から3月初旬にスペイン・バルセロナで行われる、モバイル業界最大の展示会です。家電のCES(ラスベガス)と並び、デジタル機器の世界二大展示会と称させる巨大展示会です。そのMWC Barcelona(以降MWC)ですが、今年は3/3から3/6にかけて行われて、4日間合計11万人近い方が来場しました。モバイル業界の全てが集まっているといってよいこの展示会を見れば、モバイル業界、ひいては通信業界の未来が分かるということで、毎年世界中の方々が来場します。
さて、毎年恒例になっておりますが、MWCへ視察に行った弊社社員へのインタビュー記事をお送りしたいと思います。MWCのレポート記事はすでに様々なニュース媒体から出ておりますが、弊社のようなエンジニア会社からの記事というのは結構珍しいらしく、一部の方からは好評を頂いております。そんなわけで、今回も「他には無い業界人としての視点」でお届けいたしますが、一つ注意点がございます。弊社は、一応通信業界の片隅に籍を置く企業ですので、心情としては通信業界のネガティブな記事を書きたくはないのですが、エンジニアの矜持を持って忖度よりも事実の精神で書かせていただきます。もしかしたら、意見が合わず不愉快になるような内容が含まれているかも知れません。しかし、その内容も含め、弊社社員が見て、そして感じたありのままの現状ということで、ご容赦ください。
前編後編の2回に分けてお届けします。今回はその前編となります。
このブログのお約束ですが、この記事は「広報発表ではなくエンジニアブログの記事」ですので、記事の内容は会社の公式な意見、方針ではありません。また、会社名等、固有名詞も出てきていますが、本記事は組織の見解では無く個人の感想であることをご承知置きください。尚、会社名等は敬称を略させて頂きます。
15年ぶりのMWC?
筆者(以降"筆"): MWC参加、お疲れ様でした。久々のMWC参加と聞きましたが、バルセロナはどうでしたか?変わってましたか?それとも、あまり変わっていなかったとか?
弊社社員Sさん(以降"S"): いやー、久々といっても、どれぐらい前だったでしょうか?15年ぶり?とか、それぐらいだったと思います。その頃は、私も若かったので上司にただ連れられて参加したという状態でした。おそらく前回と開催場所が変わっている※1と思いますが、その時とブース規模や人数みたいなものが大きく変わったという印象は受けませんでした。ただ、今回は自分が責任を持って参加する立場になりましたので、展示に対する自分の見方、感じ方はかなり変わったと思います。
筆: 人間の成長で、展示会の見え方も変わってくるんですね。
久々に参加してみて、参加者というか、会場にいる人の種類とか、なにか変わりました?昨年は、というかここのところ、中国、韓国、台湾の東アジア勢の出展が目立っていて、参加者自体も多かったみたいです。また、一方で日本人はあまり多くないという状況が続いていたようですが、参加してみてどう感じましたか?
S: 大昔のことは忘れてしまいましたし、昨年がどうだったのかわからないので増減はわかりませんが、私の感覚としてはそこまでアジア勢が多いという印象は受けなかったですね。最大規模を誇るファーウエイがあるので、もちろん中国人は多かったのだろうと思いますが、だからといって目立って多かったと言えば、そうではないですね。日本人は、残念ながら今年も多くなかった印象ですね。会場で会った日本人の関係者からも、「いつも来られているような会社の方が、今年は来ていない」という話も聞きましたし、そういうことなのでしょう。
むしろ、アフリカの方が盛り上がっているような印象を受けました。人が多いのもそうですが、アフリカ向け商品が多かった印象を受けました。アフリカ向けというと、高級・高機能なものじゃ無く、低価格の無線機やデバイスだったり、廉価版のスマートフォンだったり、そういったものになると思いますが、それらの展示が結構目立っていたような気がします。
筆: なるほど。去年までの(弊社の)参加者に「アフリカ」という感想はなかったので、何か潮目が変わっているのかも知れません。こういった展示会では、どうしてもハイエンド製品ばかりに目が行きますが、むしろ儲かるのは廉価版だったりしますからね。
そう言えば、米トランプ大統領のおかげ?で、最近ほんのちょっと円高方向に振れましたが、それでも、まだまだ円安です。多分、前回MWCへ参加されたのが15年前だとしたら、その時は1ドル100円を切るぐらいの時代だったと思います。今回、円安の影響はどうでしたか?
S: 実際食事は高かったですよ。期間中、毎晩3~4人で(お客様と)会食していたんですけど、3日で1000ユーロ(16万円強)はかかってました。確かに、そこそこ良い店だったとはいえ、決して高級店では無く、普通の食事ですよ。正直高すぎます。交際費で落ちなかったら大変なことになっちゃいます。もちろん、それ以外の食事も高かったですよ。あまりに何でも高いので、大きな声では言えないですけど、ファーウエイのブースで昼食を頂いたこと※2もありました(笑)。
そう言えば、話の流れと関係無いですが、2035年までにバルセロナの展示会場というか、街全体を大きく変えるプロジェクトが進んでいるようです。会場の端っこにこっそりと掲示されてました。もしかしたら、今後MWCの会場も変わっていくかも知れません。
Accelerating the Intelligent World
筆: さて、本題に入りましょう。昨年のMWCは、通信ではなくAIの展示会であると揶揄されるほど、AI中心の展示会となっていました。今年も、事前の情報だとAIばかりのようでしたが、実際はどうでしたか?
S: 今年もAIの展示会と言って過言ではない状況でした。AIに関して、非常に印象に残った言葉がありましたので、最初に紹介します。ファーウエイが掲げていたのですが、Accelerating the Intelligent Worldという言葉。もはやAIは"Artificial Intelligence"の略では無く、"Accelerating Intelligence"の略であると言わんばかりです。つまり、AIとは何か?とかいう時代は終わって、今はAIを加速させる、AIを使って何かを加速させる、そういう時代になったのだと思います。
筆: AIはもはや使って当然の世界になったと、AIを導入とかそんな次元の話をしていないと、そういうことなんでしょうかね。
S: そうなんです。そういうことですね。展示も、AIの紹介というよりは、ネットワークにどのようにAIを導入しているか、どのように使っているか、という展示が多かったですね。
筆: 確かに、ファーウエイの最近のリサーチを読んでも、AIをネットワークに適合させることばかり書いてありましたからね。もはや、そういったフェーズなのでしょう。
S: すでに、携帯電話のネットワークにAIを実装して、いろいろと実行しているという話も多かったですし、AIの簡単な実装方法を提案している会社もありました。例えば、ネットワークのAPI共通化が進んでいて、そういったAPIにAIでアクセスして動かすとか、そういったことが考えられているようです。特に、エリクソンがそこに注力していますね。
従来の無線技術は?
筆: ちょっと待ってください。ファーウエイとかエリクソンなど大手の詳しい話は後で聞きます。AIの話をすると、どうしても大手メーカーの話になっちゃうので、先にAIではない部分の無線通信のトレンドみたいなものを聞いておきましょう。正直なところ、通信業界は過渡期で、決して盛り上がっているとは言えない状況ですが、それでも単純な無線通信技術とか、そういったものは今後も色々と開発されていくはずです。そいうことで、無線機とかアンテナとか無線系機器で、今回のMWCで何かめぼしいものはありましたか?
S: まず、アンテナですね。各社、Massive-MIMOのアンテナとか、沢山の周波数を共用するための巨大アンテナとか、アンテナ周りの製品が結構出ていましたね。これらは、ヨーロッパの携帯電話事業者がリクエストしたみたいなんですけど、結構色々なメーカーから出ていました。ヨーロッパは取付場所に困っているんでしょうか?Massive-MIMOだって、普通のアンテナじゃ無くて、トライバンド対応ですからね。この流れは、世界的に進んでいくんだと思います。
筆: なるほど。携帯電話って世代を経る度に周波数が割り当てられていくんで、マルチバンドアンテナもそれに対応しなければいけないんで、大変だし、アンテナは大型化していきますよね。
そう言えば、ミリ波はどうでしたか?私は、このブログでミリ波の文句ばっかり言っていますが、一方で、Sさんは我が社のローカル5Gミリ波責任者です。MWCのミリ波はどう見ましたか?
S: うーん、どうでしょうかね。ミリ波の展示はあるにはありましたけど、正直新しいものは無かった感じですね。ノキアのアンテナ一体型ミリ波無線機がコンパクトで良いな、とは思いましたが、それ以外に思いつくものはないというか。私が、AIとかを中心に見たので気付かなかっただけかも知れませんが、ミリ波が盛り上がっている感覚は全くありませんでしたね。
筆: やっぱり、そうですよね。最近、ミリ波関連の(ポジティブな)ニュースも全く無い状態ですしね。うーん、この後、各社ミリ波をどうするつもりなんでしょうか?
ミリ波と言えば、もしかしたらミリ波普及を助けてくれるかもしれない、ソフトバンクのAI-RANですが、どうでしたか?私も、一本記事にしたぐらい、期待しているんですけどね?
S: 私も、ソフトバンクがどういった展示をするのかな?と思っていたのですが、現実はこんな感じでした。
筆: え?MWC直前にこんな記事もでていたので、さぞ大々的に何かやるのかと思っていたのですが・・・
S: 単に、商談ブースを置いていただけみたいです。ノキアの方で、ソフトバンクとAI-RANやってますという展示はありましたが、大本営のソフトバンクはこんな感じでした。ちなみに、他にも何カ所か細々としたソフトバンクのブースはあったのですが、私が見た限りみんなこんな感じです。もしかしたら、どこかで大々的にやっていたのかも知れませんが、私が見たブースは全てこんな感じでした。
筆: シュールな画像ですね。いやー、昨年の今頃は、MWCという場でAI-RANアライアンス立ちあげを大々的に発表していましたし、最近もAI-RAN関係で色々と発表していていてプロジェクトの進捗もあったようだし、様々見せるものはあったはず・・・せめてモニター展示とか、それぐらいはすれば良いのにとは思っちゃいますね。日本勢としては、ちょっと、いやかなり残念。何かあったのかな~。
後編に続く
次回の後編では、ファーウエイ、エリクソン、ノキアのビッグ3が何を展示していたのか?今年の日本勢はどうだったのか?などをお届けします。お楽しみに!
※1; MWCは2006年から、バルセロナ市にあるフィラ・デ・バルセロナという見本市会場で行われている。2012年までは、同会場の”モンジュイック”地区で開催されていたが、2013年より、より広大な”グランビア”地区で開催されている。
※2; ファーウエイのブース内には、食事場所があり、招待状を持った人であれば、無料で食事が提供されている。