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そもそもIEEE 802.11axってなに? #2

記事更新日 2023年11月21日


はじめに

前回に引き続き光無線通信のブログなのにWi-Fi 6、すなわちIEEE 802.11axについて書こうと考えています。(面倒なので、以降IEEEと802は適宜略します。)理由は、前回も書きました通り、LiFiの標準規格である802.11bbが、11ax準拠で作られた、というかもっと言えば11bbは11axそのものであり、LiFiを理解するには、11axの理解が不可欠であるってことです。

ただ、11axはこれまでのWi-Fiの流れを全て受け継いだ上で新しい技術を取り入れたものであるため、11axの説明のためにはそれまで(11ac以前)の技術的な話もする必要があり、前回は11acまでの技術をちょこっと説明した、そんな流れになっています。

なぜ802.11axが必要とされたのか?

Wi-Fi自体は20世紀末から存在していましたが、その対応機器が爆発的に広まっていったのは802.11n対応機器がリリースされた2008~9年ぐらいからだと思います。実は、11axが必要となった理由は、そのちょっと後辺りの時代のWi-Fi環境に起因しています。

時代背景

Wi-Fiは、それ以前よりノートパソコン向けとして徐々に広まっていましたが、当時のノートパソコンはWi-Fiの有無にかかわらず有線LAN(RJ45)の端子は必ず付いていましたし、なによりWi-Fi対応機器が家庭に何台もあるような状況ではありませんでした。ですから、会社にはWi-FiのAPがあったとしても、自宅で使う場合は有線LANがメインで自宅にまでWi-FiのAPを買って設置しているのはネットワークに詳しいアーリーアダプター以上の層だったと記憶しています。しかし、前述の2008年頃から状況が変わります。まず、DSやPSPといった携帯ゲーム機がWi-Fi対応になりました。さらに、iPhone、つまりスマートフォンが発売され広まりました。そのあたりでWi-Fi対応の「非PC小型端末」というのが爆発的に増えました。ノートPCなんていうのは、いっても家に1台、2台なわけですが、ゲーム機やスマホは一人一台以上あるわけですから、普及したときの数が違います。そして、それらが広まることにより家庭内にWi-Fi対応端末が何台もあるというような状況になるわけで、そうなると家にAPがあるというのも一般的になりました。というか、そこからたった数年で「インターネット回線を引いているのにAPを設置していない家庭」という方がレアになるぐらい爆発的に広まりました。

iPhone発売当時、日本は携帯電話に関しては先進国だったのですが、Wi-Fi普及においては実は後進国と言える状況だったのはご存じでしょうか? 当時、日本において例えば喫茶店でノートパソコンを開いて仕事をしようとした場合、PHSなんかのドングルを挿して使うのが一般的でした。そう言えば、当時できたばかりのイー・モバイルも、音声端末というより、むしろPHSの牙城であったドングルビジネスを奪おうとしていた会社でしたよね。私も会社から華為製のイー・モバイルのドングルが支給され、その通信速度に感動したものです・・・

一方、海外の多くの国、特に携帯先進国以外の国ではそういった携帯電話でPC通信という選択肢はあまり一般的ではなかったようです。ですが、そんな国だからといってノートPC等による「外での通信需要」がないかと言えばそんな事はないわけで、喫茶店で仕事をする人は沢山いました。そのため喫茶店や飲食店においては、例え小さい個人店でさえWi-Fiが使えるというのが当たり前のようでした。「喫茶店で飲み物を頼むとレシートにSSIDとパスワードが載っている」というのが説明書きすらない「常識」レベルの話でしたし、私も海外へ行った際にはそんなサービスをよく利用しました。そんな感じで、スマートフォン普及前から「お店でWi-Fiが使える」っていうのは、海外の多くの国では当たり前だったのです。しかし、当時の日本で外や店でのWi-Fi、つまりは公衆Wi-Fiといえば、NTT系が少しやっていたぐらいでした。いや、それどころか本気で公衆Wi-Fiを広めようとしていたのは、丁度その頃設立されたWi2(ワイヤ・アンド・ワイヤレス)※1ぐらいではなかったでしょうか?いや、そのWi2だって、横浜とか丸の内とかリムジンバスからサービススタートしたのからもわかる通り、日本人向けと言うより外国人ツーリスト向けでしたからね。

しかし、iPhoneを初めとしたスマートフォンが普及しだすと、ユーザーのデータ通信量が爆発的に増え、携帯電話の電波だけで急増したスマートフォンのデータを捌くのが難しくなっていきました。そのため、少しでも携帯電話のトラフィックを別の回線にそらす(オフロードする)必要があり、そのオフロード先として公衆Wi-Fiが期待されるようになりました。すると、ソフトバンクが(いつものように)電撃作戦的に大量に公衆Wi-Fiをばら撒き、それに対抗するようにNTTドコモも本腰を入れ、KDDIはWi2を買収しました。携帯電話大手三社が競うように公衆Wi-Fi設置を進めた結果、大手の喫茶店、ファーストフードであればほぼWi-Fiが使える、個人店でも多くがWi-Fiを使えるといったような、今日のような状況になったのでした。

ここまで、かなり話がわき道にそれましたが、ここで言いたかったのはWi-Fiの普及の歴史ではなく、公衆Wi-Fiなようなものも含めてWi-Fiの電波が内外かかわらず大量に出されているということです。それも、様々な会社の様々な機種によるWi-Fiの電波です。それぞれが独自ルールを持っていて協調はしません。しかも、公衆Wi-Fiは11nスタート以降に広まったものですから、占有する周波数帯域幅は従来の倍になり、それ故電波の混雑具合も倍になりました。都心ですと、もはや混雑と言うより、通信用語の「輻輳」を使った方がよいような場所も少なくありませんでした。輻輳ということは、繋がらないってことですからね・・・

Wi-Fi以外からの干渉

Wi-Fiの周波数は2つあるというのは前回も説明しました。2.4GHz帯と5GHz帯です。5GHz帯は周波数が高いから伝搬の面で不利ですが、その代わり広く帯域が取れ2.4GHz帯は周波数が低いので伝搬面で有利でエリアも広く取れますが帯域が狭い、となっています。しかし、両社の最大の違いはそこではなく、「用途」の違いにあります。5GHz帯は基本的に「Wi-Fiのためだけ」に存在します。例えば5GHz帯は、他システムとの共用のため屋外では使えないとかレーダーを避けなければいけないとか使用制限されるルールがありますが、逆に言えばそれ以外に邪魔するものがないという意味でもあり、通常使用においてはほぼ干渉なしでWi-Fi専用帯域として使えます。一方、2.4GHz帯はもともと「電子レンジ」のために空けられた帯域です。2.4GHz付近の電波を水に当てると効率良く加熱できることもあり、電子レンジは2.4GHzを使いましょうとなっています。こういった、通信以外のために割り当てられた周波数帯域幅をISMバンドと呼んでいますが、そのISMバンドには一つ特長があります。それはどんなシステムで使っても良い(他人の許可を取る必要が無い)ということです。最大出力等の最低限ルールさえ守れば、誰でもどんなシステムでも使えます。日本含め各国の認証を取る必要はありますが、原則全世界で使えますし屋内外どこでも使えます。だから2.4GHz帯は、こちらもWi-Fiと同じように幅広く普及している”Bluetooth”が使っていますし、コードレス電話やドローンのリモコン操作系なども使っている等、標準規格の有無にかかわらず様々な種類の通信が使っています。そういえば、あの両耳別々な完全ワイヤレスタイプのイヤホン、多くのモデル(特に安いモデル)で、Bluetoothを2回線使っちゃうんですよね。あれのおかげで、電車内とかでBluetooth切れる率が倍増しましたよね・・・ まあ、兎にも角にも2.4GHz帯っていうのは、あらゆる周波数の中で最も様々な用途で使われている帯域であることは間違いないと思います。

そんな2.4GHz帯なので、とにかく混んでいます。自宅のWi-Fiだと近隣との離隔が取れるので、大きな影響が無い場合もあるんですが、公衆Wi-Fiとかですと前述の通り携帯3事業者が別々のAPから吹いているのにもかかわらず、隣や向かいの店のWi-Fi電波も飛んできて、それでいてみんなBluetoothヘッドフォンを使うなんて状態ですから、2.4GHzの混み具合は尋常じゃないわけです。そうなると、どうなるか? 当時から喫茶店とかで仕事している人はよくご存じだと思いますが、結果は繋がっているようなんだけど、通信できないみたいな状態が頻発します。実際は、細々と通信しているんでしょうが、あまりに混雑しているためキャリアセンス時点の衝突や、前回説明したRTS/CTSでの待ちなど、大半が「通信不可の時間」となってしまうためまともに通信ができないのです。あまりの通信のできなさに、「人の多いところではWi-Fiはまともに使えない」「やっぱり携帯電話だね」「むしろWi-Fiの電波は邪魔」そんな声が聞こえていた時代だったのでした。

何とかしなければいけないと思ったであろうWi-Fi陣営は、11aから11acまでの技術をリセットするような、大幅な変更を11axに加えてきました。それは、「Wi-Fiは使えない」という悪評を覆すための技術でした。

802.11axの変更点

11acまでの進化というのは最大スループットをあげることが中心でした。しかし、11axでは、最大速度はさほど上がっていませんが、接続性だったり遅延だったり、はたまた省電力だったり、そういった部分に力点を置いています。ここからは、そんな11axの変更点であったり、進化したところだったりを見ていきたいと思います。

OFDMA

11axにおける最も大きな変更点は、OFDMAの採用です。OFDMAとはOrthogonal Frequency Division Multiple Accessの略で、LTEや5GNRでも使われている、というか携帯電話では必須の技術のことです。OFDMAそのものについてはいろいろなところで書かれているので、ご存じの方も多いかとおもいますが、一応ここでも簡単に説明しておきます。

11acまでのOFDMは日本語では「直交波周波数分割多重方式」と訳され、11axのOFDMAは「直交周波数分割多元接続」と訳されます、ってなんのこっちゃですね。多重接続と多元接続って何が違うの?うん、私にもよくわかりません。しかし、言えるのはOFDMとOFDMAとでは、ユーザーを同時に接続させる方法が違うということです。

fig.1
OFDMとOFDMAの違い

11acのOFDMは、ユーザーを時間で分けています。まあ、もともとイーサネットの流れを汲む「早い者勝ち」通信ですから、先に手を上げた人から順番に送られるわけで、時間で区分されるのは自然です。図では簡単のため、STA-AからDが順番に送られていますが、本来は早い者勝ちなので、きれいにこのようにデータが並ぶことは少ないでしょう。

一方、11axは時間方向だけでなく、周波数方向でもユーザーを多重化します。時間と周波数と両方だから多元化?まあ、それが合っているかどうかはわかりませんが、とにかく違いは周波数方向でユーザーを分けること。それで、OFDMがわからない人にはピンとこないと思うんですが、簡単に言えばOFDMは「マルチチャンネル技術の一つ」なんですよね。一つ一つはさほど高速ではないチャンネルを複数同時に使うことで高速にしています。チャンネルのことをOFDM用語的には「サブキャリア」と呼ぶんですが、その複数のサブキャリアを別々のSTAに割り当てれば、周波数方向でもユーザー多重化することになりますので、呼び名もOFDM"A"になるわけです・・・

って、いかにも簡単にできるように書きましたが、OFDMAを実現するのにただ単純にサブキャリア毎にユーザーを割り当てればよいって訳じゃないんです。次は、その辺りの話をします。

RU

11axでは、サブキャリアの間隔が78.125kHzに変更されました。11acまでが312.5kHzでしたから4分の1になりました。その理由は後程説明しますが、この変更によって1チャンネル(20MHz)あたりのサブキャリア数は4倍に増えたのです。で、先ほど11axはサブキャリア毎にユーザー割り当てといいましたが、さすがにサブキャリアは数が多いので、それ毎にユーザーを割り当てるのはちょっと面倒というかオーバーヘッドが大きくなりすぎます。そのため、Resource Unit、略してRUという単位でユーザーを割り当てます。

RUは26サブキャリアを基本単位とします。11系ではサブキャリアをトーンと呼ぶらしいので、1RU26トーンと言い直しますが、もしその場合ですと20MHz幅では9RU使うことができます。つまり、使えるのは合計242トーンとなります。余談ですが、20MHzをサブキャリア(トーン)間隔78.125KHzで割ると、計算上使えるトーン数はもっと多くなるのですが、両端はガードバンド扱いで使わない(使えない)のでこの数字となっています。話を元に戻しますと、RUという単位で区切ることによって、トーン毎にユーザーを割り当てるのに比べて割り当てが単純になります。9つに分割するのと、242個に分割するのでは単純さが違いますよね。また、1トーンだけ使ったのでは通信速度もさほど出ませんから、RUというある程度まとまった範囲で送るのは理にかなっているわけです。先ほどのとおり、20MHzの1チャンネルの幅で9つのRUが使えるので、ある瞬間に同時に割り当てられるユーザーの数は最大9人ということになります。この「ある程度のサブキャリア数でまとめて使う」という考え方は、同じOFDMAのLTEや5GNRでも使われていて、あちらの場合はResource Element(RE)と呼ばれています※2

尚、RUは26トーンだけでなく、52や106…と大きくすることもできます。RUの幅が広い方が、オーバーヘッドも減り最大速度があげられるはずです。11axは2.4GHzだけでなく、5GHzにも対応ですから、80MHzや160MHz幅を考えるとRUのサイズは可変にしておいた方が、便利ということでしょう。もちろん、広いRU、狭いRU混合ということもできます。

fig.2
20MHz幅でのRU配置

OFDMAの意義

11axのOFDMAは、LTEと異なりダウンリンク(AP->STA)だけでなく、アップリンク(STA->AP)にも適応されます。ダウンリンクとアップリンク、どちらもOFDMAにより干渉を最小化して効率を上げるという点では同じですが、両者で考え方というのは若干異なります。

ダウンリンクは、複数STAと同時に通信します。そこで、AP近くのSTA向けRUでは送信電力を下げつつ、遠くのSTA用RUでは送信電力を上げるということをします。このような機能により配下全STAで安定して通信できるようにするのですが、APの最大送信電力というのは(電波法等で)決まっているので、電力の弱いRU、強いRU全て合わせた電力というのは一定になります。

アップリンクは、STAが各々割り当てられたRUを使用します。通常、電池で動く機器が多いSTAはAPよりも低い送信電力しか使えません。そうなると、ダウンリンクとアップリンクでアンバランスになります。そうならないよう、具体的に言えば同じ距離で通信できるようにするため、APから遠いSTAには小さなRUを割り当て、サブキャリアあたりの電力を上げSINRをあげるという方法を採ります。もちろん通信速度は遅くなりますが、まずは安定して繋がることが優先されます。これはバンド幅固定のOFDMではできなかった芸当です。

細かい違いは色々とありますが、ダウンリンク、アップリンク共にSTAが大量に存在する場合に衝突の確率が劇的に下がり、その結果全体のスループットが向上するというのが、11axがOFDMAを採用した最大の理由です。ただし、OFDMAにすると別のところでもメリットがあります。そして、それはSTAが多ければ多いほど効果を発揮します。尚、今から説明するその3つのOFDMAのメリットは、11axという規格上での内容ではなく、無線通信技術として広く知られているOFDMA効用であり、LTE、5GNRでも同じように効果のあることです。

一つ目は、遅延が減るということです。これまで、時間単位では1対1の通信だったものが、複数STAで同時に通信ができるようになります。そのため、単純に順番待ちする時間を減らすことができ、遅延の平均は下がります。特に、通信速度はあまり要らないけど遅延は小さくしたいという、通信型オンラインゲームとか遠隔操作とかでは効果を発揮するでしょう。格闘ゲームとか有線必須Wi-Fi厳禁みたいなところもありましたが、11axになってかなり改善されると思います。

二つ目は、周波数選択性フェージングの回避。Wi-Fiは最低でも20MHz幅、最大だと160MHz幅ととても広帯域を使う通信です。ですから、その帯域のの中でも、周波数によってフェージングの状態が変わることがあり、それを周波数選択性フェージングと呼びます。物理現象なので、そのフェージングを”防ぐ”手立てはありませんが、”避ける”手立てはあります。

それは、フェージングがかかって減衰しているRUを使わなければいいだけです。同じAPからの電波でもSTAによってフェージングの状況は変わります。あるSTAでは周波数選択性フェージングがかかっていても、別のSTAではフェージングがかかっていない場合が多いでしょう。ですから、あるSTAでフェージングがかかっている周波数のRUは、別のSTAに割り当てるというようにすれば、AP全体で見れば、あたかも周波数選択性フェージングの影響がないように振る舞うことができます。それにより、AP全体で見れば、通信品質も電波利用効率も上がります。

fig.3
周波数選択性フェージングとRU割り当て

三つ目は、スケジューリング利得。OFDMAということは、AP側でデータを送信する順番、タイミングを決められるということでもあります。APがリソースをどのようにスケジューリングするかはAPに委ねられています。つまりはメーカー依存です。例えば、携帯電話でよく使われるスケジューラー※3ですと、無線状況のよいSTAが優先されるというルールになっています。通常、STAの受信電力は時間によって変化します。フェージングもありますし、移動しているSTAであれば当然変動するでしょうし、移動していないSTAでも周りの環境が変われば受信電力は変動します。まわりの人が歩いている、ユーザーのSTA(スマホ)の持ち方が変わるといった単純なことでも受信電力が変動します。そのようなとき、受信電力の高いSTA優先でデータを割り当てるようにスケジューリングすれば、APから見たら常に受信電力の高いSTAと通信しているような状態になります。文字だとイメージしづらいので、下の図を見てください。

fig.4
周波数選択性フェージング

これによって、無線状況の悪いSTAとの通信が減る、すなわち高次変調、低符号化の効率のよい通信ばかりになるため無線利用効率が非常に上がります。携帯電話ですと、基地局配下の端末が多いためこのスケジューラーは非常に効果を発揮します。配下STAの少ないWi-FiのAPレベルで大きな効果があるとは思えませんが、これもOFDMAのメリットの一つと考えられます。

MU-MIMOとOFDMA

多重化の話ですと、実は11ac Wave2からMU-MIMO(Multi User-MIMO)が使えるようになっています。MU-MIMOというのは、MIMOのマルチストリームを、1ユーザーの速度向上ではなく、複数ユーザーの同時接続に使おうってものです。理論的にはビームフォーミングを複数ユーザーに同時に振り分けると考えても同じ事だと思います。11acではダウンリンクのみの対応でしたが、11axからはアップリンクも対応しています。また、OFDMAとMU-MIMOを同時に使うこともできますが、その場合、最大ストリーム数とかが制限されます。MU-MIMOは、OFDMAほど同時接続ユーザー数は多くないですが、SNRが高いAP-STA間ではOFDMAよりも良いパフォーマンスを示すそうです。ビームフォーミングはその特性上、APからみて各STAの(水平)角度が大きく違うと良く効き、MU-MIMOはSNRが高いと効果的というわけですから、APを挟んで逆側にいる近くのAPというのが最も理想的なMU-MIMOの条件となります・・・

とごちゃごちゃ書きましたが、忘れてはいけないのはこのブログは802.11bb、つまりはLiFiの規格を説明するためにそのベースとなる11axを説明しているということです。残念ながら、光無線通信でMIMOは使えません。マルチアンテナもありませんし、ビームフォーミングもできません。1対1通信ならば「偏光」という手でMIMOを実装することもできるんですが、LiFiの使用用途を考えるとそれも難しい。複数波長の光でMIMOを再現するっていうのも技術的にはできますが、11bbでは波長が(なぜか)赤外線に固定されているため使えませんし。つまり、MU-MIMOは事実上11bbには実装されないと考えられます。

というわけで、11bbのための11axブログとしては、光では全く無関係になっていますMU-MIMOのところはバッサリと切り捨てさせていただきます。MU-MIMOで説明することは沢山あり、例えばOFMDAとMU-MIMOを共存させるって、結構面倒な手続きがあるみたいなんですが、光には「そんなの関係ねー」ということで、ご了承ください。

まとめ

ここまで、11ax最大の特長であるOFDMAについて説明しました。11axは11ac以前というレガシーシステムが存在しその後方互換を維持するため、実装レベルではOFDMAの実力を発揮できないシーンがほとんどだと思います。しかし、11bbはいきなり11axベーススタートなのでOFDMAの性能が遺憾なく発揮できるはずです。

今回は、予想より長くなってしまったのでいったんここで区切らさせていただきました。次回は、11axのOFDMA以外の特徴と、11bbを考えた場合の課題点などをご紹介しようと思います。


※1; Wi2(ワイヤ・アンド・ワイヤレス)は、もともとはADSLプロバイダーであったアッカ・ネットワークスがWiMAX(BWA)免許取得に失敗したためにアッカのモバイル部門会社(アッカ・ワイヤレス)が独立してできた会社である。したがって、当初は携帯ドングル市場を狙っていたが、結果的に公衆Wi-Fi市場に参入したとも言える。

※2; LTEと5GNRではResource Elementの考え方が異なるが、どちらも「ユーザー割り当ての単位」であることは同じである。

※3; 一般的にProportional Fairness Schedulerと呼ばれる、無線の状況がよい端末ほど重み付けをされて優先的に順番が回ってくるが、それでいて無線状況が悪い端末でも一定程度順番が回ってくるようにするスケジューラーのこと。