LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
改めてスプリングワッシャー談義とその他ネジ関連
記事更新日 2023年10月24日
はじめに
最近、スプリングワッシャーについて検索された方が弊ブログの過去記事をお読みいただいているようで、ありがたく思います。良い機会ですので、改めてスプリングワッシャーや、その他のネジ関連についての記事を記します。
スプリングワッシャー
改めてスプリングワッシャーの説明ですが、主として緩み止めを目的として使用される座金の一種で、切れ込みの入った輪っかを捻ったような形状をしています。ボルトの締結に伴って厚み方向に圧縮されますが、元の形状に戻ろうとするバネの力が働くことによる緩み止め効果や、切れ込み部のエッジが締結対象に食い込むことで緩み方向に回らなくなる効果を期待されています。
一方で、スプリングワッシャーにおいて元の形状に戻ろうとする力=バネ係数が規定されているものではなく、低頭ボルト等特殊形状ボルトで弊社もお世話になっている鍋屋バイテック会社様が公開している記事 「第4話 座金の役割って何?」 にも記載の通り、バネの力はボルトの締結で重要となる軸力と比較して弱い力、誤差とも言えるオーダーの力しか発揮しません。
そのため、スプリングワッシャーのバネの力が効き始めるまでボルトの緩みが進行してしまう (軸力を喪失する) と、もはや緩みの進行を抑えられません。ただし、スプリングワッシャー無しの場合、ボルトが緩んでしまうと即フリー回転となってしまいますので、そういう意味では緩み止めというよりも、僅かな時間稼ぎができると言った方が適切かもしれません。
念のために軸力についても再度説明しておきますと、ボルト締結に伴ってボルトの軸は前へ前へと進もうと (伸びようと) します。一方でボルトの素材である金属にはある程度柔軟性があるので、元の形状に戻ろうとする力も働きます。このとき軸方向に生じている力のことを軸力と呼びます。軸力を直接測定することは難しいので、通常はボルトを締める際に回転させる力「トルク」を通じて管理します。
また、食い込みについて、ボルトの頭が母材へ陥没してしまうことを防ぐ (面圧を分散する) 目的で締結部位にはワッシャー (平座金) を入れます。そのため、一般的なボルト締結箇所にスプリングワッシャーを入れる場合、「ボルト → スプリングワッシャー → ワッシャー → 母材」という順に並ぶことになります。すると、スプリングワッシャー切れ込み部のエッジはワッシャーに接することとなり、母材への食い込み効果は発揮されません。例えば、下図のM5組ボルトの場合、ボルト・スプリングワッシャー・ワッシャーが一体化されていますが、スプリングワッシャーはワッシャーに接しているので母材へ食い込むことはありません。
ワッシャーを抜いてしまうと、今度は面圧の分散が不十分となって母材への陥没が避けられなくなる (スプリングワッシャーはワッシャーよりも小径) ことや、エッジが食い込むということは母材を傷つけることと同意ですので、締結を繰り返すことのある部位や塗装・コーティングによる表面処理で防錆している箇所には向かない、となってしまいます。
以上より、筆者としては緩み止め効果を期待する場合、ノルトロックワッシャーやハードロックナット等の効果が実証されている器具の使用や、ネジロック剤塗布による緩み止めを行うべきだと考えています。そして、これら緩み止め対策の前にそもそも論ではありますが、適切な軸力を生じさせることが重要です。
一応、樹脂板の締結のように十分な軸力を得ようとすると母材の変形や破損が見られる際には、お守りとしてスプリングワッシャーを入れるようにしています。特に樹脂ですと、熱による寸法変化が金属よりも大きいので、冬場に冷えて収縮する量をスプリングワッシャーのバネの力で吸収してくれることを期待しています。ただし、スプリングワッシャー単体での緩み止めとはせず、樹脂を侵さないネジロック剤との併用しています。
ここまでスプリングワッシャーの効果に疑問を呈するような内容でしたが、緩み止めを主目的としなければ有用な場所は色々あります。スプリングワッシャーが持つ縦方向のバネの力は、ボルトやナットを緩く締めた状態で位置調整等を行う仮止めの際に重宝します。
例えば、以下の図は弊社製品LED Backhaulを取り付けるための壁付金具ですが、こちらは可動軸兼固定軸にM6のボルト・ナットが使用されており、各部にはスプリングワッシャーが用いられています。方向調整を行う際にスプリングワッシャーのテンションが加わっていると、手で台座を動かせる程度の硬さはありつつも各ナットはフリーになっているわけではないので、多少LED Backhaulの保持が緩くとも問題なく方向調整作業をおこなうことができます。軸部にスプリングワッシャーが入っていない場合、ナットを緩めると非常に軽い力で台座の首振りができる状態になってしまい、本体の保持を緩めた瞬間に首がガクッと下を向いてしまうことがあるため、調整作業が大変です。
何度も書きますが、運用上スプリングワッシャーに緩み止め効果を期待していないので、方向調整完了時に適切なトルクでナットを締め込んだ後、ネジ山にネジロック剤を塗布して作業完了としています。
一方、架台の上に取り付けるタイプの台上金具ではスプリングワッシャーは用いられていません。板金加工された台座本体が若干反っていることもあり、軽くボルトを緩めただけではフリーの状態にならず若干のテンションが掛かっているので、とくに調整作業の問題にはなりません。こちらも方向調整完了後にはネジロック剤を塗布して緩み止めを行います。
歯付座金
ワッシャーの内側・外側もしくは内外両側に切り欠きが設けられた形状をしており、切り欠きによってできた歯を撚ることでバネとして機能する部分を有します。捻られた歯のエッジが母材やボルトの頭に食いついて摩擦力を増すことで緩み止め効果を得る、とされています。また、前章のスプリングワッシャーと同様に歯の捻りがバネの力を発揮することで緩み止め効果やガタつき防止効果を得るとも言われています。
エッジが母材に食いつくということは傷が付くということと同意なので、繰り返し着脱を行う場所には不向きです。
一方、傷が付くことを利用し電気的な接続を行う箇所に用いることで、絶縁体となる金属表面の塗装や抵抗となる酸化被膜を削り取りながら締結できます。アース接続端子やバッテリーの接続部、自転車のハブダイナモの接続部にも用いられているようです。
歯付座金自体は個人的にあまり見かける機会は多くないのですが、バラ売りされているトグルスイッチには歯付座金が高い確率で付属している印象で、先程の図もトグルスイッチ付属のものです。パネルにトグルスイッチを取り付ける際、パネルと固定用のワッシャーの間に用いることで、トグルスイッチ固定をサポートしてくれます。
フランジボルト・フランジナット
面圧を下げて陥没を防止する目的で、母材とボルトの頭の間にワッシャーを入れると前章で記しました。この際、ボルトの頭の面積がワッシャーと同等、もしくはさらに広い面積を持っていれば、ワッシャーを使わずとも母材の陥没防止ができるはずです。そこで、ボルトの頭下部に傘を設けて面積を広げ、ワッシャーの役割をボルトの頭に持たせたものがフランジボルトです。
ボルトに対してフランジボルトがあるということは、ナットにも同様にフランジナットと呼ばれるワッシャーの機能をナットに持たせた部品があります。
フランジボルト・フランジナットのどちらも締結箇所に別途ワッシャーを入れる必要がなくなるので、ピックアップする部品点数の削減、ワッシャーの入れ忘れといった作業ミスをなくすことができます。一般的なボルトと比較して価格は高いものの、部品ボックスからピックアップする時間や、作業ミスによる不良・手戻りを考慮すると、大量生産品に実装すれば部品代よりも安くつくのではないでしょうか。
また、フランジボルト・フランジナットの傘の部分は、同じネジ径の通常のワッシャー単体と比較して強度があるので、締結に伴う圧力でワッシャーが反ってしまう症状を防ぐこともできます。
このような利点から、自動車業界ではいち早くフランジボルト・フランジナットを採用したと聞きます。たしかに筆者も愛車を見渡してみると、キャビンからエンジンルームまで多くのフランジボルト・フランジナットが確認できます。
一部のボルトは頭の部分が凹んでおり、数字が刻印されているものがあります。例えば以下の図では「4」と「8」という数字が確認できます。
ボルトの頭に刻まれた数字は強度区分を表しており、「4」の数字は強度区分「4.8」相当という表示で、引張強さが400N/mm²あり、その80%の320N/mm²以上の荷重がかかると軸が伸びてしまって元に戻らなくなることを意味します。こちらの頭に4と刻まれたボルトは、4マークボルトや4Tボルトという呼び方をします。
同様に「8」の場合、強度区分「8.8」相当、引張強さが800N/mm²あり、80%の640N/mm²以上の荷重で伸び切って元に戻らなくなることを意味します。呼び方も同様に8マークボルトや8Tボルトといいます。
例示したボルトは全て車の部品の締結箇所ですので、綿密に強度計算された上で、必要な強度を持つボルトが適材適所で用いられています。ですので、DIYでメンテナンスしている場合、例えネジ径が適合したとしても強度区分の異なるボルトを用いることは絶対にやめましょう。とくにホームセンターにおいては建築材料向けの取り扱いが基本ということもあり、取り扱いがあったとしても4マークボルトが限度と言われていますので、無難にメーカー純正品を取り寄せて使用するのが吉です。
ところで一点、シートレール基部のボルトには通常の六角ボルト・スプリングワッシャー・ワッシャーが用いられていました。また、よく見るとこちらのボルトの強度区分は7のようですね。
軽く見渡した限りで見つけられたフランジボルト・フランジナットではない締結箇所はここだけで、自動車業界が採用するのであれば何かしら意図があるとは思うのですが、一体どのような理由なんでしょうか…… (ちなみにモデルチェンジ後はフランジボルト固定に切り替わっていました)
これらフランジボルトはJISにおいて、ISO準拠のもの (JIS B1189) と附属書にて規定されている1種、2種の合計3種類があり、日本国内においては2種が一般的とされています。
1種・2種では傘部分の形状が異なり、1種は傘がワッシャーに近い平面形状を、2種は傘がテーパー形状をしています。また、同じネジ径で1種・2種を比較した際、傘部を含む頭の高さは2種の方が若干高くなります。
JISでは規定されていませんが母材側の面に、セレートと呼ばれるギザギザの山が立っているものもあります。母材にセレートが食い込むことで緩み止め効果を発揮するとされていますが、母材に傷をつけるため繰り返しの締結には向きません。
また、フランジボルトは頭の形状が六角形状に限られるわけではなく、六角レンチを用いて締結が可能なフランジソケットやフランジボタンキャップボルトと呼ばれるボルトもあります。
まとめ
以上、スプリングワッシャーや、その他のネジ関連についての記事でした。
文章の比重から察している方もいるかもしれませんが、個人的にフランジボルト・フランジナットの波が来ています。今回は車という既製品に実装されている様子を元に執筆しましたが、自分で設計した機構にて同部品が紹介できるようになりたいな、と密かに狙っています。