LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
ネジの緩み対策
記事更新日 2022年4月5日
はじめに
ネジの止まる仕組みについて記載した前回から日数が開いてしまいましたが、今回はネジの緩み対策について記します。
隊列走行実証実験に参加していた際、常時振動が生じる車載環境にて開発環境やそれ以外の実験環境では体験したことのないネジの緩みに悩まされてきました。
その際、どのような対策を施したか、数あるネジの緩み対策の中でも筆者の扱ったことのある何点かに絞って以下記載していきます。
ネジロック剤
ネジ山に塗布して使用する接着剤を使って固めてしまう方法です。接着を行う都合上、塗布する箇所の油分は使用前に慎重に取り除く必要があります。
結論から言いますと、隊列走行実証実験では最終的に本方式にて緩み対策を施していました。LED Backhaulも同様にネジロック剤を使用しネジが緩まないようにしています。
ネジロック剤には、ネジ山に塗布して締結することで空気が遮断されて硬化する嫌気性タイプ、溶剤の揮発によって乾燥硬化する一般的な接着剤のように使用可能なタイプがあります。
いずれにしても液体状の薬品ですので、塗布する箇所付近に存在する樹脂部品のケミカルクラックに注意する必要があります。かつてLED Backhaulの開発時に某製品を使用したところ、樹脂製のレンズ取付部に亀裂が入り無惨にも砕け散ってしまいました。それ以降はアクリル樹脂を侵さないタイプのネジロック剤を使用しています。
また、高強度、中強度、低強度といった強度区分があり、高強度では人力での分解が難しいほど非常に強固に固まります。そのため、硬化後の分解の有無や期待する固定力に応じて選択しましょう。
実証実験の際は光学系の調整や基板の交換といった作業で分解が前提であり、機械の動作に伴う高負荷を受け止めるような箇所ではなく部品同士を固定する小ネジ程度に留まっていたため、低強度ネジロック剤を使用していました。
常時振動の生じる車載空間とはいえ、締結時にトルク管理をしていてもボルト・ナットが緩んでしまう速度があまりにも早いことに驚きました。
樹脂部品と金属部品を共締めする箇所が集中的に緩んでいたことから、温度変化に伴う寸法変化量が金属よりも樹脂の方が大きく、とくに冷えた際に樹脂部品が収縮したことでボルトの軸力が低下したのではないかと推測しました。緩み対策は必須と判断した際に、ボルト・ナット側は普段と同じものを使用できることや (低強度ネジロック剤であれば) 取り外しが容易であることからネジロック剤を取り入れました。乾燥硬化させるタイプを使用したので、締結後に塗布することで緩み止め効果を生みつつ締結完了した箇所が目視でわかりやすい点も、実験という環境において非常に役立ちました。
ダブルナット
通常締結部位にはナットを1つだけ使用しますが、締結したナット (下ナット) の上にさらにナット (上ナット) を加えて2個連続使用するのがダブルナットです。鉄塔やアンカーボルトに使用されています。
締結用のレンチは2本必要になりますが強力な緩み止め効果を発揮し、標準のナットを2個用いるだけで容易に実装できるので非常ポピュラーな存在と言えます。
一方で、、ナットを2個連続して装着するためボルトの軸長や締結に使用する工具を取り回す空間が必要で、ナットを締め込む際も適切な方法で扱わないと本来のダブルナットの効果が得られません。
実証実験においてネジロック剤を採用する前はダブルナットにしていたのですが、機材の調整で分解・締結する際の工数や奥まった箇所の職人芸的作業は負担が大きく、ダブルナットを前提としていなかったこともありスペースの都合で実装できない箇所も多くありました。作業性改善のため数ヶ月程度でネジロック剤に移行しましたが、ダブルナットにしていた箇所の緩みは無かったので、小ネジ類ではありますが効果は十分に実感できました。
スプリングワッシャー
緩み止めとして非常にポピュラーな存在です。
しかし、緩み止め効果は期待できないとする 論文※1があるので、筆者個人としてはスプリングワッシャーのみで緩み止めができたとするには不安が残るため、別の対策と併用前提の認識でいます。(おそらくネジの緩み対策を考えた誰しも目にしたことがあると思います)
スプリングワッシャーが無い場合ボルトの緩みが生じた段階でネジ山の摩擦力を喪失しますが、スプリングワッシャーの反発力が得られる状態ではわずかながらも摩擦力が残っているので、非常に苦しい言い回しではありますがボルトが空回りするまでの時間稼ぎが期待できるのではないかと考えています。一方で先述の論文においてはスプリングワッシャーがあることで緩みが促進される可能性が示唆されていますので、判断が難しいところです。
ナイロンナット
ナット上部に樹脂製のリングがはまっており、ネジ山とリングの摩擦力で緩み止め効果を発揮するナットです。
リングが樹脂製のため高温・低温環境下では効果が低減することや耐薬品性に劣るため、厳しい環境には向かないとされています。一方、通常のナットと同様の扱いで緩み止め効果が期待でき、他の緩み止め機能を有するナットより安価なこともあり、筆者の趣味関係で何度か使用したことがあります。
ボルトのネジ山に薄い樹脂被覆を形成するタイプのネジロック剤もある (ネジ山に青や黄色の被覆がある) のですが、樹脂の摩擦力で緩み止めを行うためナイロンナット方式と同様の機構と言えるのかもしれません。
また、ナイロンナットの樹脂製リングに替わって特殊な金属製スプリングを挿入した製品も存在し、スプリングが金属製のためナイロンナットと比較して高温・低温・耐薬品性が向上しているようです。(申し訳ないですがこちらは使用したことがありません…)
まとめ
筆者の経験に基づいた内容であるため、実験環境で施した対策とその理由を記した備忘録的な記事となってしまいました。適切な部位に適切な方法で緩み止めを施すのは大前提にしても、ネジロック剤の既存製品やDIYへの実装が容易な点はやはり大きなメリットですので、ネジロック剤に頼っている状況から抜け出せないような気がしてなりません。
また、世の中にはハードロックナットやノルトロックワッシャーといった緩み止め機能を有する便利な製品があることは存じていますが、ブログとしては使用したことのある領域に限定して記載させて頂きました。今後の業務においてこのような製品の活用してみたいところです。
※1; 木村成竹・泉聡志・酒井信介 (2007).三次元有限要素法によるばね座金のゆるみ挙動解析