LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

ネジを締める

記事更新日 2022年1月25日


はじめに

物と物を結合する (=締結) 際に使われるネジですが、ネジの固定が甘かったことが原因と見られるトラックのホイール脱落事故が散見されます。
冬タイヤ・ホイールへの交換後、増し締めの不備やトルク管理が徹底されていなかったとされる事故から、今回はネジを締めるということについてあまり触れたことの無い方向けの内容を記していきます。

ネジってどうやって止まるもの?

頭の形状によってナベネジ、皿ネジ、六角ボルト、六角穴付きボルト等様々な種類があるネジですが、あらゆるネジは雄ねじ (軸側) と雌ねじ (受け側) のネジ山同士を噛み合わせて締め込みを行います。 基本は右ねじで時計回り (CW=ClockWise) に回すことで締め込むことができ、特殊用途では左ねじで反時計回り (CounterClockWise) に回すことで締まるものもあります。

fig.1
図1: 代表的なネジの種類
fig.2
図2: ネジの断面と各部

ネジを締め込んでいく途中は軽い力で締め込んでいくことができますが、さらに締め込んでいくと次第に頭が締結対象に引っかかってそれ以上締め込もうとすると非常に大きな力を必要とする状態になります。この時、軸には山同士が噛み合って伸びようとする力、そしてネジの素材が持つ弾性によって元に形状に戻ろうとするバネのような力が働いています。この元の形状に戻ろうとする力=軸力によってネジが止まります。軸力を働かせるためにもしっかりネジを締め込んで固定することが重要です。

fig.3
図3: ネジの締込み

締め付けトルク

では、先程の章の軸力をしっかり働かせるために、ネジを締め込み続けるとどうなるでしょうか?
軸力はネジの素材が持つ弾性により生じるちからですが、ネジを締め込み続ける (伸び続ける) と弾性の限界を超えてしまい、軸が伸び切って元の形状に戻れなくなってしまいます。伸び切ってしまった軸は元の形状に戻ろうとする力が満足に働かないため、当然軸力も得られなくなってしまいます。
軸力とは、しっかり締め込まないと働かないが、締め込みすぎても失ってしまうものなのです。

伸び切りを防ぎつつ適切な軸力を発生させるため、太さや素材、使用用途に応じて値は個々に異なりますが、各ネジには締め付けトルクという値が設定されています。 ネジを回転させる力をトルク [N・m] で表し、回転させる際に必要な力から軸に生じている軸力を間接的に算出することができます。
ネジの締め始めでは締め付けに必要なトルクは低い値ですが、締め込み続けて頭と締結対象が接触すると徐々に締め付けに必要なトルクは増大していきます。このときトルクを各ネジに設定された締め付けトルクに合わせることで締め付け作業が完了します。
軸力を直接測定機を用いて測定することも可能ですが、装置が大型・高価であるため、現場ではトルクレンチやトルクドライバーと呼ばれる工具を用いて締め込みを行うことが一般的です。

fig.4
図4: トルク管理

ネジ山の処理

さて、前章の締め付けトルクですが、ネジを回転させる力から軸力を測るに当たって問題があります。それは頭と締結対象が接する座面やネジ山の摩擦力です。
摩擦力によって締め付ける際のトルクが損失してしまい、規定の締め付けトルクに達しているように見えるものの実際には意図した軸力に到達していないということがあります。
ネジ山の摩擦力は、締結前にネジ山にオイルやグリースを塗布したり、コーティングによる摩擦低減皮膜を形成することで低下させられます。オイル・グリースを塗布するとネジ山の金属同士が直接接触しないということで、異種金属接触腐食の防止や高い圧力が掛かった金属同士の固着防止にも繋がります。 ですが、ネジ山へのオイル・グリース塗布を前提としないドライ状態での締結を指定される (その場合、摩擦力による損失を予め盛り込んだ締付けトルクを指定) こともありますので、マニュアル遵守での作業をお願い致します。

まとめ

ネジを締めると言っても材質やトルク管理等、様々な要因の元成り立っているのがネジの締結です。作業者の立場としてはマニュアルを遵守し、設計の意図するところを崩さないよう安全に作業を行いたいですね。
今回はネジを止める仕組みについて、簡単な内容について記しました。今後、製品開発やフィールドテストを経て得たネジの緩み止めについての記事をまとめる予定です。