LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
よくある質問にお答えします (第一回)
記事更新日 2021年11月9日
はじめに
我々の会社は、LEDバックホールという光無線通信機器を製造販売し、フランスOLEDCOMMのLi-Fi機器の輸入代理店も行っています。それらの製品をいろいろな展示会などに出させて頂いて、いろいろなお客様とお話しさせて頂いていますが、殆どの方が「こんなものあったんだ」という感想を持たれていて、光無線通信というものがやっぱりまだまだというか全く知られていないことを思い知ります。 光無線通信の全般の説明については会社のHP上で説明させて頂いていますが、今回は初めてのお客様から問い合わせの多い「良くある質問」とその回答をいくつか紹介したいと思います。第一回の今回は、弊社製品であるLEDバックホールに関する質問です。LEDバックホールに関する基本的な説明はこちらに載せてありますので、そちらをご確認下さい。
LEDバックホールに関するよくある質問と回答
Q. レンズが二つあるのはなぜ?
A. 送信レンズと受信レンズです。
向かって右の白く見える方が送信のレンズ、向かって左の黒く見える方が受信のレンズです。レンズとしては全く同じものですが、受信側には太陽光の影響を防ぐためのフィルタが装着されており黒く見えます。 ちなみに使用しているレンズは、直径が大きい割りに焦点距離が短いため、普通の凸レンズで作ると高級なレンズ用ガラスを使っても厚くなってしまいますが、フレネルレンズにすることで安価なアクリル製にもかかわらず薄くすることができました。
Q. LEDバックホールは、何色の光を使って通信しているのか?
A. 近赤外線を使っているため、目には見えません。
ただし、中心波長850nmという、可視光とはかなり近い波長のため、LEDが出す光の一部は可視光にもかかっており、周囲が暗い状況で、光軸の正面に入ると若干赤く見えます。(空気中においては)性能的な面では赤や青などの可視光でもほとんど変わりはありませんが、眩しくないことを重視して見えない赤外線にしています。
Q. 天候による影響は?
A. 雨はさほど影響はなく、雪は雪そのものより別の影響があります。霧は最も影響が大きいです。
LEDバックホールは、直径10cmのレンズを使用していますので、通信路は直径10cmの円筒と考えることができます。雨や雪による光の減衰量は、その円筒を「横から見た場合に面積としてどれくらい雨や雪が占めるのか」ということに比例します。ですから、降雨量、降雪量が多いほど減衰は大きくなり、同じ雨量でも距離が長くなるほど減衰は大きくなり、同じ水の量なら雨よりも雪の方が(粒の大きさが大きくなることから)減衰は大きくなります。と、なにやら難しげに書いておりますが、実はこの考え方は光無線通信だけに使用されるものではありません。光が「どれだけ減衰するか?」というのは、皆様が「肉眼でどれだけ先を見通せるか?」ということと全く同じことなのです。この「どれだけ先を見通せるか?」を気象用語で視程と呼びます。「視程」は、1000m先が見通せる時、「視程=1000m」というのが定義なのですが、実際の視程はそのような感覚的なものではなく、特定波長の減衰量などから専用の測定機(視程計)で測定されるものです。この視程が一番使われているのは飛行場です。離着陸の可否を判断する基準の一つに視程があるため、どこの飛行場にも視程計が設置されています。 少々脱線しましたが、LEDバックホールの通信速度や通信可能距離は基本的にこの視程に比例します。通信に対する雨や雪、霧の影響も、基本、それらにより視程がどのように影響をうけるかで決まってきます。
LEDバックホールにおける降雨量と減衰量の関係は図の通りです。雨の影響は皆様がイメージされるほど大きくはありません。実際、相当に強い雨が降っていても、200m先が見えなくなることはないと思います。仮に年に1度あるかないかの豪雨であっても、通信速度は低下するものの通信ができない状況になることは殆どありません。2019年の台風19号(あの二子玉川等が洪水になった台風)でも、お客様から「切れた」という連絡はありませんでした。(ちなみに、降雨量と減衰のデータは今もとり続けていますので、いつになるか分かりませんが、今後のブログにてもう少し詳しいデータを発表する予定です)
一方、雪の影響を考える場合、雨ほど簡単なものではありません。単純に雪が降るだけであれば、光の減衰は降雪量に比例しますが、雪にはもう一つレンズに着雪するという大きな問題があります。LEDバックホール本体は中の通信モジュールが発熱しているため、レンズに付いた雪をある程度は溶かす効果があります。しかし、気温が低い場所で雪を溶かすのに十分な熱ではなく、風がある場合などにはレンズに着雪してしまいます。着雪はレンズを直接遮蔽していきますので、視程とは関係なく減衰は非常に大きなものとなります。もう一つの雪の問題は「地吹雪」です。地吹雪が発生している状況では、降っている雪だけなく、風によって舞っている雪により視程は相当に悪くなります。視程がほぼ0になる「ホワイトアウト」が発生すれば、LEDバックホールは完全に遮光されてしまい、通信はできなくなってしまいます。このように、雪は降雪だけであれば通信は可能ですが、着雪、地吹雪によって通信が不可能になる場合があります。
霧は、雨や雪よりも視程に対する影響が大きいです。例えば、東京都心で雨や雪により視程が1000mを切ることは、近年のゲリラ豪雨を考慮してもほぼありませんが、霧により視程が1000mを切ることは、希ですがあり得ます。したがって、通常環境の設置では霧がもっともLEDバックホールの通信に影響を与えると言えます。霧による通信への影響の目安として、おおよそ霧により視程が通信距離を下回ると通信ができなくなるとお考えください。過去の気象庁のデータを見ると、東京や大阪などの都市部で視程が200m以下になることはほぼ無いため、(マージン込みで)通信距離を150m以下にすれば霧による切断は考慮する必要はないと思います。
Q. 太陽光による影響は?
A. 通常使用ではほとんど影響はありません。
LED BHには、太陽光を遮蔽するフィルターが装着されています。それにより太陽光の影響を最小限に抑えています。詳しくはこちらをご覧下さい。
ただし、通信していても、していなくても太陽光に対して完全に正対することのないように注意してください。LED BHはレンズで集光するシステムです。太陽光が強い状況で、LED BHを太陽の方に真っ直ぐ向けてしまうと内部の受信素子(フォトダイオード)が焼けてしまうことがあります。虫眼鏡で集光して紙を焼くのと同じ現象が発生します。(ちなみに、カメラでも同じ事は起きますのでご注意下さい)
Q. レーザーポインターで通信は妨害されないの?
A. 理論的には妨害可能ですが、現実的には困難で無意味です。
一般にレーザーの光はとても強いため、レーザー光がLEDバックホールの受光部(フォトダイオード)にあたると、通信速度が低下したり通信が切れたり、最悪の場合機器が故障する可能性もあります。ただし、これは近い距離から、通信方向(光軸)に対して真っ直ぐレーザーを照射した場合、という条件が付きます。 「太陽光による影響」での回答の通り受信側には太陽光を防ぐためのフィルターが取り付けられており、それにより正面方向以外の光は遮断しますし、かつ受信レンズの受光範囲でなければ受光部に光が当たることがありません。また、LEDバックホールは赤外線を使用していますが、受光部には不要な光をカットするための「フィルター」が取り付けられているので可視光レーザーの影響を軽減します。さらに、日本国内においては「消費生活用製品安全法」によって高出力レーザーポインターの販売は禁止されているため、法律以下の出力のレーザーを使用してLEDバックホールに影響を与えるには、かなり近距離からの照射が必要となります。 以上のように、レーザーポインターでLEDバックホールの通信を妨害しようとする場合、様々な条件を揃えなければならず、妨害するのは結構難しいと思われます。レーザーで妨害するぐらいなら、直接通信の光を遮光するほうがずっと簡単です。
Q. 水中通信は可能か?
A. できません。
近年、光無線通信による水中通信と言うものが注目を浴びているからかこの質問をよく頂きます。しかしながら、LEDバックホールは近赤外線を使用しており、その近赤外線は水に吸収されてしまいますので、水中での通信には適していません。LEDバックホールの筐体はIP67相当ですので水中に入れても多少の時間なら動作はしますが、通信はできません。 尚、水中通信には、緑~青の短波長の光が適しています。
Q. 赤外線リモコンの動作に影響はないのか?
A. ありません。
まず、LEDバックホール自体は、通信相手となる同じLEDバックホール機器の方向に向けて光をとても絞って送信します。そのため、赤外線リモコン受光部に光が当たる可能性はあまり高くはありません。そして波長は、LEDバックホールは850nm、赤外線リモコンは940nmと同じ赤外線ですが若干異なります。 また、赤外線リモコンはパルス変調で、非常にノイズに強い通信です。赤外線リモコンから見ると、LED Backhaulの変調は高速すぎて単なる直流成分の光、つまり環境光の一部に過ぎません。LEDバックホールの出力自体は太陽光や照明など周囲の環境光と比較すれば弱いため、環境光のノイズに対してとても強い赤外線リモコンであれば、ほとんど影響はありません。
最後に
今後もこの様な形で質問に答えていきたいと考えております。もし、光無線通信に関する質問がございましたら、CONTACT欄から投稿頂ければ(可能な限り)回答いたします。