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【社内雑談】そもそもSMSってなに? 前編

記事更新日 2025年5月20日


はじめに

最近、偽基地局を使ったSMSフィッシングというものが発生しており、総務省が注意喚起をしていて、5月15日には携帯電話事業者4社が共同で注意喚起しています。

ところで皆さん、SMSという名前自体は聞いたことがあるとおもいますが、SMSとメールの違いって知っていますか?もしかしたら、よく分かっていない人が多いかも。というのも、日本は、世界でSMSが最も普及しなかった国の一つだからなんです。今日は、SMSの仕組みなどを見ながら、何故SMSが普及しなかったのか、そしてなぜ今フィッシングにSMSが使われているのか、ということを話題にしていきたいと思います。

いつものことですが、このブログは個人の見解で、会社としての方針では決してありません。個人が勝手に書いているものだとしてお読みください。尚、各企業・団体の敬称は省略させていただきます。

GSMとは?

社員A(以下A): 最近、偽基地局とやらを使ってSMSを送り、フィッシング詐欺を行うという事例が報告されています。

社員B(以下B): GSMの偽基地局ね。GSMは第二世代携帯電話で、世界中で使われている。そのGSMは、誕生からすでに30年以上経っていて、携帯電話としては枯れに枯れきった技術と言える。それなのに、まだサービスしている国も少なくない未だ現役のシステムだから、iPhoneを始め、未だにほぼ全てのスマートフォンがGSMに対応しているよね。だから、偽基地局とやらにも使いやすかったんだろう。

A: 日本はGSMを採用しなかったんですよね。PDCというシステムを使ったから。

B: そうそう。1990年頃に始まった第二世代携帯電話は、ほとんどの国がGSMを採用した中で、日本だけはNTTが開発したPDCという方式を採用したんだ。そのおかげで、日本だけ携帯電話が独自進化してしまい、後にガラパゴス携帯と呼ばれるようになってしまった。今や、スマホの対義語としてガラケーと略されてしまい、何が語源だかわからなくなっているけど。

A: 日本以外にもGSMを採用しなかった国はあるんですか?

B: 日本以外だと、韓国が唯一GSMを採用しなかった国と言われている。まあ、小さな島国とか北の某国とか例外はあるけど、日本人が普通に渡航するような国でGSMを採用しなかった国は、日本と韓国だけだね。

A: へー。日本はともかく、韓国はなぜGSMを採用しなかったんですか?

B: あそこは、国策で他国に先駆けてCDMAを採用するということにしたんだ。つまり、第二世代を飛ばして、第三世代にしようとしたんだ。そして、先の世代の技術を使うことで、自国のメーカーが他国より先行できるようにした。CDMAはQualcomm製なので、利益のすべてをQualcommに持って行かれる可能性もあったし、日本のようにガラパゴスになる可能性もあった。当時を考えれば相当なギャンブルだったけど、そのおかげで今のサムスンがあるわけだから、成功した政策だと言えると思う。

A: 日本は独自規格を採用した結果ガラパゴスで沈み、韓国はギャンブルで先行規格を採用して成功したと、そういうことでしょうか?

B: 世間の評価は知らないけど、少なくとも私の評価はそうだね。

A: で、その他の国は、普通にGSMを採用したと。

B: もちろん、そうでないシステムを採用した「携帯電話事業者」はあったけど、GSMを全く採用しなかった国はほとんど無かった。だから、GSM端末さえあれば世界どこへ行っても使えた。そういえば、日本はPDCなんてシステムを使っちゃったから、自分の携帯電話を海外で使うことが出来なかったんだよね。私は、当時海外出張が多かったから、GSM端末を現地で買って持っていたよ。日本で国際ローミング端末を準備するよりも、現地でプリペイドSIMを買って使った方が、端末価格を含めてもトータルで安くなったからね。

fig.1
かつて海外で使っていた懐かしいGSM(GPRS)端末

A: 海外SIMといえば、それ以外にもSIMロック制限という壁もありましたしね。

B: そうそう。iPhone以降のスマホは、日本で売られている端末であってもGSM対応になったんだけど、SIMロックがあったために現地のプリペイドSIMが使えなかった。ただ、2010年だったかにソフトバンクが国際ローミング価格をかなり安くしてくれたため、よっぽど長期滞在で無い限り、敢えて現地プリペイドSIMを購入するまでには至らなくなったと記憶している。今やauが国際ローミングの安さを売りにテレビCMを入れているぐらいだから、まあ良い時代だよ。その代わり、円安になりすぎて、海外旅行自体に行けなくなったけど・・・

A: ははは・・・ GSMの話に戻りますけど、GSMは今も世界中で使えるんですか?

B: いや、残念ながらそうではないみたい。GSMは普及率の高さ、寿命の長さを考えても、これ以上無いほどの大成功を収めたシステムだったと言っていいと思う。それでも、さすがに携帯先進国ではGSMのサービスをやめたところも出てきている。オーストラリアは2017年とかなり早い段階で廃止になったし、シンガポールも止めている。アメリカでは最後までGSMを残していたT-Mobileが、昨年GSMを停止するという話になっていたけど、その後グダグダし、結局いつやめるかは不明らしいが、とはいえ近いうちにやめるでしょう。

一方、アフリカなど携帯後進国では、いまだバリバリの現役である国もある。もちろん、都市部のデータ通信とかはLTEや5Gに移行しつつあるようだけど、広いカバーという面でGSMを置き換えられない国も多いみたいだ。

という状況なので、まだ動く中古のGSM基地局って、かなり市場に出回ってると思うんだよね。結構、安価に入荷できると思う。今回の偽基地局もそういったものを流用したんじゃないかと予想できるね。

A: 日本なんて、すでに第三世代CDMAすらサービスが終了しているのに、いまだ第二世代が動いている国が多いって言うのは、ちょっと信じがたいです。

B: むしろ、第三世代を先に廃止して、GSMは生かしているという国もあるようだよ。いずれにしても、端末側が対応しているってことが、GSMが未だ現役であることを表しているよね。iPhoneもPixelもGalaxyも、最新機種ですらGSMに対応しているからね。

SMSの成り立ち

A: さて、本日の話題である、SMSについて触れていきましょう。SMSは、Short Messaging Serviceの略で、携帯電話で短い簡単な文字メッセージが送れるというものになっています。

B: うん。仕組みの前に、成り立ちから。SMSは、電話で文字メッセージが送れるようにするために作られたものなんだけど、もともとはGSM用に作られたものなんだよね。その後、日本独自のPDCでもSMSが採用されたし、後継規格であるWCDMAやLTE、5Gでも使えるようになっているよ。

SMSの歴史を辿ると、最初は、携帯電話事業者側から何らかの料金とか注意とかのメッセージを発信することを主な目的として、開発されたものだったらしい。確かに私も、海外でプリペイドの料金をチャージしたら、SMSでチャージ確認が返ってきた記憶があるよ。

A: なるほど。それが後にユーザー間のやり取りがメインになったのですね。

B: SMSのポイントの一つは、メッセージのやり取りが、インターネットプロトコルとは全く関係無いところで動いている、ということだ。メールアドレスやIPアドレスではなく、電話番号で相手を指定して、通信できる。

A: 確かに。電話番号だけでメッセージが来ますし、それが便利ですよね。

B: SMSが始まったのは1993年だから、大企業とか大学とか、まだ一部の限られた人しかインターネットを使用していなかった時代だ。それどころか、携帯電話以前にまだポケットベル(ページャー)が元気だったはず。でも、いや、だからかSMSは最初から爆発的に普及したわけじゃなかったんだよ。世界的にもまだまだ携帯電話所有率が低かったのもあるし、インターネットメールというものが一般的ではなかったのもあるのかな?

A: なんか、インターネット、特にメールがないからこそ、SMSって凄く便利に感じるだろうと思っちゃうけど、そういうわけじゃなかったんですね。

B: もちろん、便利は便利だったし、使っている人は使っていたんだけどね。先ほどの通り携帯電話の普及率が低かった上に、当時のSMSには大きな問題があった。それは、SMSは携帯電話事業者間を跨げなかったこと。例えば、ドコモからIDO(現au)へSMSを送ることが出来なかった。もちろん、今はできるようになっているけど、かつては同じ事業者内ユーザー同士しかSMS送れなかった。

A: それは、確かに不便ですね。相手の事業者を考えないと、メッセージが送れないなんて。

B: SMSは、もともと携帯電話網内でのやり取りのための技術だから、事業者間を超えるとか、海外と接続するとか、どうしてもハードルが高い。国境なんかないインターネットの世界からすると考えられない仕組みだけど。事業者を跨いで送れない、というこの制限が完全に無くなったのは、海外では1999年、日本ではなんと2011年だからね。結構、それまでに時間がかかったんだ。

A: つまり、かつてはSMSは自由には送れなかったということですか。それが、徐々に障害がなくなり、世界的に流行したと、そういうことなんですね。

SMSの技術的な仕組み

B: じゃあ、SMSの技術的な仕組みというか、構造を話しておこうかな。

A: お願いします。

B: SMSって、文字を伝えるからパケット通信で送ってそうに見えるでしょ?もちろん、LTE以降はパケット通信しかないわけだから、今はパケットで送ってる。でもね、SMSはもともと回線交換式でメッセージを送るシステムだったんだよ。

A: え?回線交換って、音声通話をするための、ずっと繋がっているという方式ですよね?都度、接続してデータを送るパケット通信の方が効率が良いと思うんですが?

B: もちろん、そうだよ。けど、SMSが開発された時に、そんな技術はなかったから。GSMは約13kbpsのコーデックで音声通話をしていたけど、回線交換だからその速度をほぼそのまま使ってSMSを送信していたわけだ。GSMでのパケット通信であるGPRSがスタートしたのは2000年頃と言われているからね。それまでは、回線交換しかない。

A: 2000年と言えば、日本ではすでに第三世代のWCDMAが開始されいたはずですよね?そんな遅い時期までパケット通信がないのなら、回線交換でSMSで送っていたのもわかります。

B: ただ、回線交換のメリットもあるよ。それは、呼び出し(ページング)が出来ることだ。

A: 呼び出し?どういうことですか?

B: 誰かからのメッセージが来たら、メッセージを即座に受信出来るシステムだ。即座と言っても、もちろん電話のトラフィックが優先されたから、回線が空いていたら送る、というシステムだったわけだけど。とにかく、端末にメーセージが来たよと言う通知がくるんだ。

A: 通知が来るって、普通のことじゃないですか?

B: それが、普通じゃないんだよ。普通のEメール、例えばPCのOutlookなんかを考えた場合、自分宛のメールが届いていても、メールサーバーを自分で見に行かないとメールは届かない。メールが自動的に届いているように見えるのは、ポーリングと言って、Outlookアプリが、定期的にサーバーを見に行っているからだ。

A: なるほど。

B: 一方、SMSは回線交換だから、普通に電話着信と同じ「呼び出し」によって、端末に通知されメッセージが送られてくる。だから、即座に受信出来る、そういうメリットもあるわけ。

今は、LINEとかSNSとかのために、スマートフォンOS側でサーバーを使った特殊な呼び出し機能が実装されてるんだけど、通常は、電話側の機能だけでパケット通信の呼び出しするというのは難しいんだ。

A: なるほど、通知って、回線交換だから出来た技ってことですね。

B: でもね、回線交換ってことは、一つ問題が出る。それは、今は当たり前の送信データの「従量課金」が出来ないことだ。SMSは1通半角160文字、全角70文字※1という制限があるんだけど、これはGSMがSMSの1回の接続時間中に送る文字数だったんだよ。だから、料金は1回の通信単位ということになる。そうなると、1文字送っても160文字おくっても料金は同じ。だから、メッセージ1通10円とか20円とかに設定されてしまい、当時としても安いわけじゃない。もちろん、当時は電話料金も自体も高かったから、それでもSMSは電話するよりは安かった、ということではあるのだけど。

現在は、文字制限とかのルールも変わって、日本では「全角70文字単位で3円」みたいな料金になっていて、当時と比べると安くはなっているんだけど、それでも70文字3円ってバカ高いでしょ?30GBで数千円の時代にだよ?

A: 30GBで、どれだけの文字を送れるのかと考えると、恐ろしく高いですね。でも、LTE以降はパケット通信しかできないのだから、今の時代としては、ちょっと料金として高くないですか?

B: LTEや5Gでは、SMSもパケット通信で送られるんだけど、SMS over IPみたいな、回線交換をIP上で実現するみたいな技術によって送られているんだ。だから、普通のIPメッセージとは違うんだよね。どちらかというと、音声通話のVoLTEに近い。だから、料金もパケット通信とは別なんだ。

A: へー、そうなんですか。SMSを送ることがほとんど無いから知りませんでした。今はSMSを送ろうとすると警告が出ますものね。パケットと別料金だし、でわざわざ課金して送りませんよ。

B: 現在のスマートフォンだとRCS※2といって、SMSの進化版に対応しているんだ。例えばRCSを使ったサービスである"+メッセージ"を使えば、SMSのように電話番号だけでメッセージも送れるし、Wi-Fi経由でも送れるし、利便性は高いね。

A: +メッセージといえば、当初ドコモ、au、ソフトバンクの3社の加入者しか使えなかったけど、最近MVNOでも使えるようになって、使い道が広がった奴ですね。なぜか、楽天だけ利用できないですが・・・

B: 楽天だけ、RCS使った独自サービスしているんだよね。加入者数を考えれば、楽天が折れればみんなハッピーだと思うんだけどな。

fig.2
「+メッセージ」アプリ

後半へ続く

後半では、日本のSMS事情や、フィッシング詐欺SMSの防止方法などの話をします。 お楽しみに!

(担当M)

※1; データ量にして128バイト。SMSは半角1文字7バイトという、特殊な文字コードを使っている。

※2; Rich Communication Servicesの略。SMSを代替する技術として、GSM Associationによって開発された。SMSのように電話番号だけでメッセージを送ることが出来るが、完全IPのため料金はパケット通信に準じる。また、Wi-Fiなど携帯電話以外のネットワークでも送受信できる。

※3; ドコモの「あんしんセキュリティ(月額550円~)」といったサービスのこと。