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【新春特別企画】 :ミリ波の未来を考える

記事更新日 2025年1月7日


2040年を予測する??

社員A(以下A): 皆様、明けましておめでとうございます。今日は、新春特別企画と題しまして、ミリ波の未来を考えるというテーマになっています。ここで言う「ミリ波」とは、ミリ波レーダーや、1対1固定通信のミリ波ではなくて、5Gから使われるようになった携帯電話のミリ波通信のことを指します。

され、Bさんは、これまでかなりミリ波に否定的な発言をされてきたと認識しておりますが、今後のミリ波についてどのような考えをお持ちか聞きたいと思います。

社員B(以下B): 明けましておめでとうございます。いや、ミリ波に関しては正直に話しているつもりで、否定的な発言をしているつもりは無いんだけどね。

A: いやいや、読んでいる方には、ミリ波にかなり否定的だと思われていると思いますよ。ただ、今回は、ミリ波に否定的な話ばかりじゃなくて、今後ミリ波をどうしたらよいのか、どうやったら普及するのかっていう、前向きな話を伺いたいと思っています。また、第100回記念のブログが、5年とかの近未来の予測だったんで、ミリ波を含めてもう少し先まで予測してほしい、的な側面もあります。ミリ波の未来なんて予想できないのは重々承知していますが、そこを何とかお願いします。

B: しょうがないな。まあ、何の根拠もないし、当たりもしないだろうけど、好き勝手な予測ということで勘弁してよね。

A: もちろんです。尚、ミリ波と言っていますが、それ以上の周波数も含めて、ということでお願いします。

B: とりあえず、大前提として、ミリ波が5Gの間にどうにかなるとは思っていません。これは、私の予想とかではなく、みんなが言っているというか、世の中の趨勢としてそうだということです。だとしたら、第6世代(6G)の間、例えば6.5世代とか、その次の第7世代(7G)の開始時に変化があるかもしれないね、って話にしかならない。仮に7G開始時に変化があるとしたら、最速で2040年、つまり今から15年後の話になるかな。

A: 2040年!!いまから15年後か・・・ 予想も付きませんね。

B: 最初に、いくつかの過去の事例から紐解きましょうか。賢者は歴史から学ぶと言いますし。

まず、今現在から15年前を思い出しましょう。今から15年前というと、丁度2010年だ。LTEの開始年でもある。日本で言えば、東日本大震災があった2011年の前の年となるんだけど、その時の通信状況って覚えてる?

A: ああ、ちょうどその頃に、私は携帯をスマートフォンに変えたような気がします。

B: 私の方は、iPhone日本発売時の2008年にすぐにiPhone3Gに切り替えたから、2010年だと、スマホを持ってから2年経ってたって状況だ。多分、iPhone4とか、そんな頃。まだまだ、スマートフォンの普及率は低かったものの、世の中の趨勢的に、もはやスマートフォンへの移行は避けられないことが明白になったという時期だったと思う。

それで、私の感覚的には、2010年のスマートフォンと、今のスマートフォンで何か変わったかと言われれば、何も変わっていないってことになるかな?

A: 15年ですよ?さすがに、そんな事は無いでしょ?

B: そりゃ、スマートフォンの処理速度も上がったし、通信量、いわゆる”ギガ”も増えたし、カメラは綺麗になった。そして、私はほとんどやっていないけど、LINE含むSNSが盛んになった。

けどさ、例えばYoutubeにしても、当時は通信料金の問題で携帯の電波で見るのは難しかったけど、家でWi-Fiに繋げば問題なく見えたし、すでにゲームアプリだって沢山あった。そもそも、課金ゲームはガラケーの頃にできあがったもので、スマホならではのものではないからね。重課金の問題は、DeNAとかGREEとかガラケー時代のアプリで、すでに言われていたから。

fig.3

A: そういう言い方をされると、何も変わっていない、と言えるかも知れません。確かに、今のスマホだからこそできる事って、あまりないですね。

B: そうでしょ?実は、15年って、すごく長い期間に聞こえるけど、テクノロジー的にはそれほど長い期間ではないのよ。日進月歩である通信やコンピューター業界であってもね。

ふり返ってみれば、通信業界においては、2010年から2025年の間に、「スマートフォン(iPhone)の登場」レベルで、世の中にインパクトを与えるような商品・技術はなかったと思う。よく考えれば、お隣のIT業界を見ても、2010年時点で、すでにGAFAは巨人だったからね。スマホの登場で、彼らがその地位を更に確たるものにしたことは否めないけど、それでもGAFAはスマホ登場が契機じゃない。

A: 2010年をググってみると「FacebookがGoogleのアクセス数を超えた」とニュースになっていますから、SNSにしても2010年以前にはすでに大きくなっていたんですね。

B: そう考えると、直近15年を正直に言えば、進化の止まった15年だったと表現しても良いかも知れない。15年で、スマホ、そしてGAFA、ついでにMicrosoftの地位は変化しなかった。だから、今からさらに15年経ったとしても、スマートフォンやGAFA以上のインパクト、つまりゲームチェンジャーの登場がないと、それほど世の中は変わらないんじゃないかな、と思わずにはいられない。

A: なんか、夢の無い話ですね。

B: もちろん、この15年の間にゲームチェンジャー候補が無かったわけじゃ無い。当時、ゲームチェンジャーになりそうだと言われていたのは2つあって、一つはAR/VR、もう一つはセカンドライフ※1を筆頭とした、今で言うメタバース。両者ともFacebook(Meta)が力を入れているけど、ご存じの通り、どちらも今のところぱっとしないね。

A: 業界に変化が無いって事は分かりましたが、これとミリ波とどのような関係があるのですか?

B: 業界が変わらないなら、ミリ波も変わらない、ってこと。そりゃ、何か無いとミリ波に対するニーズも増えないから、ミリ波も変わりようが無い。今後ミリ波だって、ゆっくりと基地局数は増えていくとは思うけど、今のペースで15年経過してしまうと、ミリ波で何か出来るような数にはならないからね。

A: つまり、ゲームチェンジャーの出現が無いと、ミリ波は変わらないって事を言いたいのですか?

B: うん、ご名答。

A: ご名答じゃないですよ。それじゃあ、ここで話が終わっちゃいますよ。

やはりAIしか無いのか?

B: というわけで、やっぱりゲームチェンジャーがあるとするならば、LLM、つまりは生成AIしかないのかなーとは思う。

A: 確かに、ChatGPT登場以来、猫も杓子もAI、AI言ってますよね。中には、LLMどころか、Deep Learningすら疑わしい、ってAIも少なくないですが。

B: AIと言っても色々あるからね。例えば、Apple iPhoneやGoogle Pixelが謳っている端末に載せるAI(Small Language Model:SLM)も進化するだろうけど、あと15年でSMLがゲームチェンジャーになるほど進化するとは思えない。というのは、半導体の進化も電池の進化も鈍化しているから、端末ベースで計算力が見違えて向上するようなことは無いんじゃないかと予想される。

A: そう言われてみれば、ムーアの法則※2も限界に近いと言われています。

B: そうだね。というか、もう10nmぐらいの半導体プロセス※3から、立体構造になったから、実際のプロセスを表していないと言うしね。それでも、MicrosoftのCoplot+PCを含めて、SMLが進化していくのは間違いなく、世の中を変えるゲームチェンジまで行かないまでも、通信業界の構図をひっくり返すぐらいまでの影響力は持つ可能性はあるとも思っているけどね。例えば、iPhoneのシェアをPixelが抜くとか、それぐらいのことはありうるね。

A: それは、AIは影響は大きいものの、ゲームチェンジャーにまでは成れないということですか?

B: いや、そうではない。端末ベースのSLMはゲームチェンジャーにならないけど、LLM、つまりサーバーベースの生成AIはゲームチェンジャーになる可能性を秘めていると思ってる。例えば、昨年末にGoogleが量子コンピューターチップWillowを開発というニュースがあった。夢のコンピューターである量子コンピュータの実用化はまだまだ時間がかかるだろうけど、15年というスパンなら「もしかしたら?」が有り得る。少なくとも、常温超伝導や核融合、軌道エレベータなんかよりは、ずっと可能性が高いんじゃないかな?

A: 量子コンピュータが開発されたら、AIが凄くなるんですか?

B: 量子コンピュータでAIを開発する量子機械学習なる分野があって、量子コンピュータと量子機械学習が合わされば、とてつもないAIができるのではないか?と言われている。先のGoogleのWillowは、今までのものとはレベルが違う量子コンピュータであり、既存のアプリケーション処理でも従来型コンピュータを凌駕する可能性があり、量子機械学習の実現も(将来)期待できると専門家が書いていた。私には量子コンピュータの知見が全く無いので、それが本当なのか判断は出来ないけど、従来のコンピューターとは比べられないほどの、異次元に高速コンピューターでAIが実現したら、それはそれは恐ろしいAIができあがるんじゃない?

A: 言っていることは理解します。確かに、今の生成AIは速度が遅いですが、仮に量子コンピュータによるAIが出来たとして、何がゲームチェンジャーになるのですか?

B: 単純に処理速度が大幅に上がることで、サービスできることが変わる。現在の、ChatGPTとかGoogle Geminiは日進月歩ですばらしいけど、計算リソースが大量に必要なことには変わりない。私は、自分のGoogle Pixelで、テレビCMでもおなじみにGemini Liveをよく使うけど、こちらの問いかけに対して、Geminiの反応はちょっと遅いんだよね。CMでは見せてないけど、使ってみると人間の感覚より反応がワンテンポ遅れる感覚。また、最近、動画作成サービスとして、ChatGPTがSoraを、GoogleがVeo2を発表したけど、まだ数十秒から数分の動画が作れるだけだ。動画はがっつり計算リソースを食うからね。けど、量子機械学習が実現すれば、計算速度は爆速な訳だから、Gemini Liveの回答も爆速だろうし、動画で言えば、例えば1秒でで1時間分の動画が作れるようになる、かもしれない。

A: 確かに、そうですけど。それでもゲームチェンジャーとしては、大したとこではないような・・・

B: もし、そんなことができるのであれば、動画をリアルタイムに分析できるようなサービスが提供できるようになると考えている。今現在は、リアルタイムの画像認識と言えば、ローカルなAIが、顔認識や物体検出などを行っていたけど、逆の見方をすれば、コンピューター性能の制限でAIはその程度のことしか出来ていなかった、とも考えられるわけよ。でも、このリアルタイム動画分析を、サーバー側の高度なAIが行ったらどうだろう。なんか、色々なことが出来そうな気がしない?

A: そうですね。人間の代わりに、いろいろと判断できそうです。というか、人間の仕事がなくなりそうですね。わたしも、次の仕事を考えないと。

いやいや、そんなことじゃなくて、確かに世の中変わると思うんですけど、今回はミリ波の未来の話なんです。AIの進化と通信はあまり関係無いような気がしますが?

B: それが、関係あるんだよ。じゃあ、次にAIが通信に与える影響について説明するね。

A: よろしくお願いします。

AIが通信に与える影響その1~通信量の増大

B: ローカルのSML AIじゃなくて、サーバー側の高度なLLM AIがリアルタイムで動画分析が出来るなら、レベル4やレベル5の自動運転が実現できるとは思わない?

A: レベル4以上ということは、ドライバー不要な、完全な自動運転ですよね。ああ、確かに。リアルタイム映像分析が出来るということは、そういうことができるということでもありますね。

B: 今のLLM AIでも、頑張って学習させれば、かなりレベル4に近づけることが出来るでしょう。でも、消費される計算リソースを考えたら、そんなものをユーザーに提供することは出来ない。でも、AI側の処理が異次元に早くなって、簡単にリアルタイムに映像を処理するサービスが出来るのであれば、レベル4自動運転も視野に入るよね。

A: いまのLLM AIは、文章の回答でさえもっさりですから先は長そうですが、リアルタイムに映像処理できるなら、自動運転は可能になりそうですね。そう考えると、夢が広がりますね。

B: でもさ、そのためには、車載映像などをサーバー側のLLM AIまで、これまたリアルタイムに送る必要があるんじゃない?

A: 確かに、そうですね。

B: 現状でも、自動運転って、かなりレベル4に近いところまでは来ているし、実験レベルではレベル4の自動運転が出来ているよね。けど、それらの自動運転車の課題は「特殊な状況への対応が弱い」ってこと。工事や事故現場で人間が旗振って案内していたりとか、そんな状況に弱い。ローカルAIがいくら頑張っても、ローカル環境でのAIの計算量や学習量は限られてますから、あらゆるシーンに対応するのはなかなか難しい。でも、量子AIが判断するのであれば、さまざまなシーンでの状況判断が可能となるでしょう。

おそらく実装しようと思うと、99%はローカルのAIが判断して、難しい判断の残り1%をサーバーが判断するという「AIの協調動作」になると思うけど、介入割合はともかく、絶対に必要な条件として映像をサーバーへリアルタイムで送り続けられる環境が必要だ。

A: 「リアルタイム映像伝送で自動運転?」なんか、その口上は、5GNR導入時に聞かれた様な気がするんですが・・・

B: そうなのよ。5Gで当初言われていたURLLCとかそのための通信だったと思うんだ。今は誰も使っていないけど。でもさ、実際に必要とする通信さえあれば、仮にURLLCがあればレベル4の自動運転が出来るということになれば、それは多少お金を払っても使うという人が出てくるはずだよね?運転手がいなくていいんだよ?車という概念が変わるよ。社会構造も大きく変わるよね?

A: そうですね。トラックやタクシーが無人で運転できるというだけで、大きく変わります。前に見た自動運転の未来を描いたビデオでは、呼べばくるまが自動で家の前まで来てくれるんだから、自分で自動車を所有するという意味が無くなるって言ってましたね。

fig.1

B: でも、それを実現しようとすると通信、つまり携帯電話の帯域が大量に必要なるんだ。で、帯域が大量に必要だとどうなると思う?現実的には、今ほとんど使っていないミリ波基地局、もしくは、それ以上の高い周波数を活用するしかなくなると思うんだ。

A: sub6で事足りるとは思えないので、確かにそうですね。うーん、でも、それ以外にはないですかね?ミリ波はきついんじゃないですか?

B: 100回記念記事でも書いたとおり、5GNRの段階で、通信技術的には限界に近いので、通信容量を増やすには周波数帯域幅を広げるしかない。そのために、ミリ波みたいな使いにくい電波も活用しなければいけない。これは、もう避けられない物理法則。で、自動運転を考えたら、きつかろうが、何だろうが、いよいよミリ波基地局が必要になってくるんじゃないかと考えられる訳よ。

A: そうか。今はニーズがないからミリ波基地局を建てるモチベーションがないけど、完全自動運転が実現するんであれば、ビジネス的にも社会要請的にも、ミリ波基地局を大量に建てる機運が湧いてくると、そういうことですね。

B: かなり無理矢理な希望的観測だけどね。それで、もしミリ波でカバレッジを作るとなると大変だから、当然めちゃくちゃ無線機の数は必要。だから、基地局工事を大量にすることになるよね。そうしたら、我々みたいな会社は、特需になってありがたいけどさ。さすがに、AIには工事出来ないから、人がやるしかないしね。

A: 15年程度じゃ、ロボットはそこまで行かないでしょうからね。

B: もちろん、自動運転だけじゃない。他にも様々なAIの用途が考えられる。画像をリアルタイムで認識できるとなれば、そりゃ、ガンガン画像をアップロードする用途が出てくるでしょう。全部の防犯カメラがAIに繋がっていて、AIがリアルタイムで犯人を追跡してくれる、そんなSF映画みたいな時代になっているかもしれない。でも、そのレベルの通信量に対応するには、もう200~300mおきぐらいにミリ波基地局建てないとダメでしょう。

A: なるほど。しかし、第5世代に仕込んだミリ波やURLLCが、2世代後に花開く可能性があるというのは不思議ですね。

AIが通信に与える影響その2~ミリ波以上の枠組みを変える

B: 話は変わるけど、先日、ソフトバンクがSub6帯の4.9GHzの100MHz幅を取得したというニュースがあった。色々面倒ごとが残っている帯域のようで、本格的に使えるのは2030年になるようだ。で、ソフトバンクによれば、その帯域は「AIの利用を視野に入れて」取得したという事のようなんだよね。

fig.4
現在のSub6割り当て

A: ソフトバンクは、すでにAI利用を視野に入れているんですね。

B: むしろ、AI利用を視野に入れていない携帯電話事業者はいないと思う。でも、一番AIに強いであろうソフトバンクですら、2030年に使えるようになるSub6が「AI向け」なんだよ。つまり、2030年代になって、やっとAIのためにSub6を活用する時代になる、と携帯電話事業者も考えている訳だ。

A: あれ?Sub6は5Gのために割り当てられた周波数だから、今の2020年代がSub6を活用じゃないんですか?

B: 都心部においてはそうだろうけど、現在の周波数の基地局数から考えると、全事業者とも、まだまだSub6は他の周波数よりエリアが小さいよね。サービスエリアで見ても、Sub6のエリアなんて、ガチの都心しかない。うちの会社は横浜の田舎である「鴨居」にあるんだけど、うちの会社がSub6のエリアになっているのはドコモだけ。そのドコモにしても、ギリギリエリアになっているけど、ちょっと歩くだけでLTEエリアになってしまう、そんなレベルだ。

そう考えると、5Gのメイン帯域であるSub6ですら、世代交代ぐらいの2030年ぐらいに、やっと「どこでもある程度使える」という状況になるんじゃないかな?

A: そんなもんなんですね。Sub6ですらそんな感じだと、Bさんが言うような「ミリ波でエリアを作成」って可能なんですか?15年後だとしても、現実的じゃない気がするんですが?よっぽど、画期的な技術革新でも無い限り。

B: 歴史的に見て、携帯電話に採用される基幹技術となると、遅くとも10年前には開発されていないと実用化は難しいようだ。例えば、5Gに採用されたポーラ符号※4は、かなり短期間で採用されたイメージだけど、それでも2010年に発表された符号であり、携帯電話採用まで10年きっちりかかってる。

A: 画期的な技術革新があるとして、今出てないのであれば6Gに採用されないのは当然のこと、さらにあと5年で出てこないと、7Gにも採用できない、というわけですね。

B: そう。だけどさ、今のところ、という話ではあるけど、「ミリ波が何とかなりそうな画期的な技術がある」という話は、勉強不足なだけかも知れないけど、私は聞いたことが無いな。

A: じゃあ、ミリ波のエリア化は当面無理ということですね?

B: これまでのやり方では無理だろうね。

そこでだ。ここからは、未来の予想というよりは、私の提案として聞いてほしいんだけど。

A: 提案?

B: そう。未来がこうなった方が良いんじゃないかという提案。

A: よくわかりませんが、どうぞ。

B: 私が提案したいのは、「ミリ波(以上)は、もう設置のルールを変えましょう」ってこと。

A: ルールを変える?突然、何言ってるんですか?

B: もうさ、今のミリ波をみていると、1携帯電話事業者でなんとかするって、無理だと思うのよ。それどころか、4社の基地局数を全てまとめたとしても、満足なエリアを作るには至らないと思う。

A: 私も、そう思わずにはいられません。

B: だから、ミリ波は自動運転のためのインフラという扱いにして、例えば国交省管轄にする。つまり、国策で道路にミリ波基地局を建てる

A: それは、ずいぶんとダイナミックな提案ですね。

B: 周波数は、今のローカル5G用のミリ波帯域を自動運転用ミリ波周波数として国策ミリ波局を建てる。もしくは、新しい周波数で1GHz幅とかが出来れば、もっと良いけど。

それで、国策基地局は、原則道路沿いのみに建てて、このミリ波基地局がある道路を、自動運転可能道路として設定する。全国津々浦々全ての道路は難しいかもしれないけど、少なくとも歩道があるような幅の広い道路は全てミリ波の基地局を建てて、レベル4の自動運転可能とする。

ただ、それだけだと自宅まで自動運転というのができないから、自動運転可能道路以外で自動運転する場合は20km/h以下じゃないとダメ、とか制限付けるとか、まあ、頭の良い方が考えれば、やり方はあるでしょ。

A: ほう、道路沿いのみに限定するのは面白いアイデアですね。周波数にしても、ローカル5Gのミリ波って、恐らくほとんど使われないでしょうし、そもそもローカル5Gは自分の土地のみしか電波を出せないので、道路には関係無いという建前ですし。

B: 基地局を建てる上で、最も面倒で時間がかかることの一つが、地権者との設置交渉なんだ。だけど、法律で道路に基地局を建てるとなれば、そもそもの道路の管理者が建てるわけだから、そういった設置交渉やらが不要になるし、設置の家賃も要らないし、かなりスムーズに進むよ。現在のように携帯電話事業者が基地局を建てるよりかは、ずっと安くできる。

A: 道路の管理者、ということは国、都道府県、市町村ってことですね。

B: うん。道路にガードレール付けるとか、街灯を付けるとか、信号を付けるとか、そういう感覚で基地局を建てる。じゃないと、自動運転できない。もちろん、自治体にそんなお金ないし、国策だから、国が予算を付けることになるけどね

もし、これができれば、日本は自動運転大国となり、産業構造も変わって、人手不足も一気に解消だ。ミリ波基地局なんてお釣りが来ると思う。

A: いや、出来たら凄いですけど、さすがに現実的ではないような気がします。

B: そう言われると、もちろんそうなんだけどさ・・・ 夢の話だよ。

A: 現実的なことを言えば、自動運転の用途だけにミリ波を全国に建てるとか、政策的に可能ですかね?自動車しか使わない通信インフラを国費で建てるということに、国民の理解が得られるかどうか?というのが心配です。

B: 費用は、そのミリ波基地局を各携帯事業者へ開放することで回収するのはどうだろう?基地局を建てるのは国や自治体だけど、通信は各事業者が行うという形。通信量に合わせて、各事業者が費用を負担すれば良い訳で。7Gの時代には、基地局の共用なんてのも簡単でしょうから、技術的にも問題ない。

A: なんか、共用という話だけ聞くとトンネル協会※5的なものでしょうかね?

B: 概念的にはそれが近いかな。ただし、無線機の形はトンネル協会式だと無理。今のトンネル協会の無線機は、各事業者社の基地局と接続して電波を出す形になっているんだけど、これだとコストがかかりすぎる。一つの機器で完結しないと。まだ見たことないけど、ネットワークスライシングを使えば、おそらく5Gでも出来るだろうから、ましてや6G、7Gなら、問題なく動くと思う。

fig.2

A: ということは、国や自治体は設備を貸す感じになる訳ですね。

B: 「各事業者による使用料金だけで、設置費用を賄う」という考えでは、おそらく費用的にミリ波基地局は建てられない。「自動運転のためのインフラである」という原則が必要で、ある程度、いやかなりの税金の投入は必要になるでしょう。でも、それによって自動運転が実用化されるなら、国として許されるよね?という前提に成り立ちます。

A: それは、政策として国民が許すかどうかにかかっていますよね?

B: うん。多分に政治だね。その時に政権が安定していたら何とかなるかもしれないけど、今みたいに衆議院で過半数取れていないと、そもそも通らない政策になっちゃうかもね。

だけど、実現すれば、それこそミリ波は全国に普及することになる。そして、これぐらいやってやっと、ミリ波が当初、つまり5G開始以前に考えられていた使い方になるはず。

A: 運良く、技術条件が揃って、それでいて政治の力も必要となると、実現可能性がすごく低い気がするんですが?

B: それは、わかっている。ただね、考えてほしいんだけど、各事業者が独自にミリ波基地局を建てて、それが広い範囲で使い物になる、という可能性よりはそれでも高いと思うんだよね。

A: まあ、それはそうかもしれません。

技術的な可能性はあるのか?

B: 一応、アプリケーションから見た、ミリ波の可能性っていうのはこんなところだけど、技術的なところも触れておきましょう。

A: ありがとうございます。

B: 元々は、ミリ波の普及には、ゲームチェンジャーが必要だったという話だったよね。で、ゲームチェンジャーになる可能性があるのはLLMぐらいだ、ということで、だらだらとアプリケーションの話をしてきました。で、無線技術、通信技術的にゲームチェンジャーになり得るものはあるのか、ちょっと考えてみましょう。

まず、次の6Gは、おそらくサブテラヘルツと呼ばれる100~300GHzの使用する、とされています。今現在、正式に決まったわけじゃないですが、ほぼほぼそうなるかと。

A: サブテラヘルツは聞いたことがあります。

B: で、そのサブテラヘルツを活用するための技術として考えられているのが、ビームフォーミングとか、動的反射板とかなんで、残念ながらミリ波の時に言われていたものの延長しか今のところない、と言っても良いかな?

反射板も、実際に設置できれば効果的なんだろうけど、そんな動的な反射板を取り付けるぐらいなら、その場所に無線機そのものを置けば良いじゃん、って話。置き場所を探すのだって、大変なんだし。

A: そうですね。無線機本体の価格もそうですが、特に、台風もあれば、地震もある日本では何かを「設置する」ことに対するハードルがめちゃくちゃ高いですからね。

B: というわけで、ミリ波活用を促す技術的な可能性があるとすれば、少なくとも日本では、低価格化と設置の容易さ向上の2つしかないと思うんだよね。

以前も話したけど、今ミリ波の無線機は、サブ6とかのマクロな無線機とさほど変わらない価格なんだ。でも、本来ミリ波の無線機はこんな高い価格になるはずじゃなかったんだよ。ミリ波の無線機の価格は、携帯電話の無線機と比較するのではなく、Wi-Fiのアクセスポイントと比較すべきレベルでなければいけなかったはず。

A: そうすれば、公衆Wi-Fiとかそういったお気軽なレベルで設置できるという話でしたよね。

B: そうそう。これまでの周波数の無線機と同じように、設置場所を検討して、シミュレーションして、なんてやっていたらコストが見合わなすぎるからね。とにかく金と時間をかけずに数を置かないと。

A: でも、ミリ波を考え無しに置くと言っても、Wi-Fiアクセスポイントのようなダイポールアンテナレベルの低い指向性のアンテナで設置していたら、必要数のキリが無いんじゃ無いですか?ビームフォーミングが望ましいですが、せめて高利得アンテナにしないと。でも、それだと、結局、無線の設計が必要になりますね。

B: その通り。ビームフォーミングがベストではあるけど、現状、ミリ波のビームフォーミングが劇的に価格が下がるかといわれると、ちょっと難しそうだ。ビームフォーミングの仕組み上、普通のアンテナと同じ価格というわけには行かない。

なので、こういった考え方もある。これは、ソフトバンクのテラヘルツ波に向けての実験だけど、コセカントアンテナという、ちょっと変わったアンテナを使って、道に沿って、距離に関わらず一定の強さになるような指向性を作成することで、道路のような直線的カバレッジが容易になる、という話です。コセカントアンテナって、航空管制用レーダーとして無線従事者免許試験の無線工学Bに出てくるから、そこで知っている人も多いかな?

A: 知りませんよ。無線従事者免許の試験なんて、普通の人は受けません。

B: あっ、そう。詳しくはリンク先を読んでいただくとして、先ほどミリ波を自動運転用にして道路をカバーしろ、という話をしたのはこういった話が背景にあるんだよね。このアンテナなら、ビームフォーミングに比べるとずっと安価だから、無線機の価格が下げられる。それでいて、必要な利得は得られる。

A: なるほど。適当に思いついたことを言っていたわけじゃ無かったんですね。

B: 当たり前だ。次に、設置の容易さという面の改善だけど、最近KDDIがこのような発表をしている。

A: 中継器、つまりリピーターの話ですか?

B: 携帯電話の業界用語的に言えばそう呼ぶんだろう。でもね、プレスリリースでは難しそうに書いているけど、これって、すてにWi-Fiの世界では当たり前に実現している技術なんだ。

A: え?そうなんですか?

B: メッシュWi-Fiと呼ばれていて、バッファーローのWi-Fiルーターだと、もはや標準機能として付いているからね。

とにかく、これはバックホールと呼ばれる、無線機の後ろ側の回線が不要になるから、設置の容易さが圧倒的に向上する。もちろん、無線周波数をバックホールに使う分、ユーザーの通信速度は下がるけど、その分、設置しやすいし、バックホール分のコストも下がる。

A: それは、よいですね。

B: 恐らく、メッシュの機能分機器は高くなるはずだから、この機器が必ずしもコストダウンに繋がるかどうかはわからないけど、こういったものが安くなれば、ミリ波はもっと広がるだろうね。

A: ポン付けできると、施工はかなり楽になりますよね。

B: やっぱりね、光ファイバーは、回線の手配が大変だし、融着とか必要だと施工業者を選ぶからね。「AC電源だけ挿せば、即動く」って言うのが理想的であることは間違いないからね。

というわけで、もし技術面でゲームチェンジが起きるとして、単純な無線技術、通信技術ベースで起こるっていうのは、見込みが極めて薄い。私が考えでは、繰り返しになるけど、ゲームチェンジャーとなり得るのはこんなことだと思う。

無論、これらも技術ではあるけれども、どちらも通信と言うより、コストに対する技術だ。もし、これらが実現すれば、ミリ波の置局これまでとは違うレベルで進むと思うよ。もしかしたら、各携帯事業者単独でも、道路や公共施設レベルでは、ミリ波が使える状態になるかもしれない。ただ、いずれも、今のところ、そんな見通しが全く立っていない、というのが現状ではあるのだけど。

まとめ

A: それでは、長くなりましたので、まとめてください。

B: まとめるも何も、そうだなー。今日話したことは、私の都合の良い想像ではあるけれど、、量子機械学習が実用化するとか、政治的に実現困難な事が運良く実現するとか、どれをとっても、ちょっとした「奇跡」が起こらないと発生しない、レアな未来だ。でも、ミリ波以上の周波数が広く普及するってことは、それぐらい難しいことであるとも言えるんじゃないかな。

A: そう考えると、かなり困難な道のりですね。

B: ミリ波推進派の方々からは、無知なお前だからこの程度のアイデアしか思いつかないんだ、と非難されるかも知れませんが、ちょっと考えてみてください。今現在だって、世界中の頭の良い人達が集まって、様々考えているのに、ミリ波を普及させる良い方法は、誰も考えられてませんからね。

ミリ波が一番進んでいるアメリカですら、FWAとか、スタジアムとかそんな、誰にでも思いつく使い方しかしてないから。そう簡単には、ミリ波の起死回生策なんてないんですよ。

A: 一気に、現実的な話ですね。何か、夢が覚めます。

B: とは言え、ある一人の大天才が状況を一変させてしまうということもあるから、気を落とさないように。だって、15年前に、CPUでIntelがAMDの後塵を拝しているなんて、想像も出来なかったでしょ?

A: まあ、確かにそうですね。価格競争ならともかく、性能競争でIntelが負けるとは想像もしていませんでした。

B: だったら、ミリ波もジム・ケラー※6の登場を待ちましょう。ジム・ケラーが現れれば、状況は好転するでしょう。

A: ジム・ケラー待ちって、結局奇跡待ちじゃないですか。それじゃあ、量子機械学習の実現を待つのと大して変わらないじゃないですか!

B: あれ、気付いちゃいましたか・・・

(担当M)

※1; 3DCGで構成された、仮想世界(メタバース)を提供するアプリケーション。セカンドライフは、その中でもパイオニアとされていて、当時小さな社会現象を起こした。

※2; (後の)インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが発表した「集積回路あたりの部品数が2年毎に2倍になる」とした予測。

※3; 半導体に配置されるトランジスタの長さ。これが短いほど、回路が集積でき、高速に動作させることができ、消費電力を小さくすることができる。そのため、半導体メーカー各社はこの値をできるだけ小さくすべく開発競争を行っているが、すでに物理的限界に達しつつあるとも言われている。

※4; 5Gに採用された、誤り訂正符号。シャノン限界と呼ばれる、理論上の効率上限に初めて到達した、超高効率な符号である。

※5; 公益社団法人移動通信基盤整備協会(JMCIA)のこと。各事業者に変わって、トンネル、地下鉄、地下街のような公共施設に携帯電話基地局を整備する。各携帯電話事業者やメーカーが会員となっている。かつて、トンネル協会と呼ばれていたため、今でもこの名前で呼ばれることが多い。

※6; 天才と呼ばれるマイクロプロセッサ開発者。AMDにてx64命令や、AppleにてA4プロセッサなどを開発。その名を不動のものとしたのはZenアーキテクチャの開発で、これによりAMDはCPU性能でIntelを上回ることとなった。