LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

【社内雑談】 iPhone16日本版ミリ波非対応

記事更新日 2024年9月17日


はじめに

今回も社内の雑談を記事にしてお送りしたいと思います。話題は、アップル「iPhone 16」シリーズ、日本版はミリ波に非対応という記事について。5Gで新たに割り当てられた電波は、sub-6(サブシックス)と呼ばれる3~6GHzの100MHz幅周波数と、ミリ波と呼ばれる26GHz帯400MHz幅の周波数の2つです。5Gは、前世代のLTEと比較しても、技術的にそれほど大きな変化はなく、LTEのマイナーバージョンアップ的な位置付けといっても過言ではありません。だからこそ、5Gの先進的な機能を体感するには、既存の周波数(例えば800MHzや2.1GHz)を5G化するだけではだめで、sub-6やミリ波という新しい周波数で5Gのシステムを使って、ユーザーに体験して貰わなければなりません。特に、ミリ波は最大400MHz幅まで使えます。これは、LTEの20倍にあたり、これまでと違ったユーザー体験ができると言われています。

しかし、今回(2024年9月9日)に発表されたiPhone16シリーズでは、またもや日本でのミリ波対応が見送られました。今回は、このことについて雑談していきたいと思います。毎度毎度のコタツ記事ですので、緩い気持ちで呼んで頂ければと思います。

尚、何度も書いていますが、このブログは個人の見解で、会社としての方針では決してありません。個人が勝手に書いているものだとしてお読みください。

ミリ波対応端末について

社員A(以下A): 昨日発表されたiPhone16シリーズについてです。iPhone16シリーズって、まとめて言ってしまってますけど、iPhone16無印、Plus、Pro、Pro Maxの4つですね。それらiPhone16シリーズが、今回もミリ波に対応しなかったという話をしようと思いまして。

社員B(以下B): そうね。っていうか、その前に、そのiPhone16の違いって分かりにくいよね?PlusとProって何がちがうの?

A: これは、まず、無印とPlusが中身同じ、ProとPro Maxが中身同じと考えてください。主にSoCとカメラが違います。それで、いずれも後者の方がデカい。で、全て並べると、無印->Plus->Pro->Pro Maxの順でデカい、となっています。

B: いやー、分かりにくくなったね。私はiPhone 3Gの時からiPhoneを使っていたけど、最近はAndroidに乗り換えたから、最近のiPhone事情がてんで分からなくなったよ。会社の携帯はiPhoneだけど、強制的に支給されたものだから、iPhoneに興味を持って選択したものじゃないしね。

A: おじさんの感覚はともかく、今でも日本においてのiPhoneのシェアは圧倒的ですよ。稼働台数で約60%、販売台数でも直近で50%を超えています※1

B: 相変わらず、高いシェアだね。女子中高生なんかは、iPhoneじゃないと仲間に入れない、なんて話も聞くしね。

A: 少なくとも半分以上のシェアを、iPhoneだけで取るわけですから、日本においてはiPhoneの影響力って絶大なんですよね?

B: まあ、日本の携帯電話事業者は今もってiPhoneに左右されるよね。全てのサービスは、まずiPhoneで動くことが絶対条件で、今回のiPhone16の様に新型が出るときは、必ず新型iPhoneでも動くように調整される。もちろん、シャープ製もGoogle製もチェックされるけど、iPhoneの場合は「現役全機種、絶対に動く」というのが条件とされるからね。他端末とは、やっぱり扱いは違うよ。

A: そこまで特別なんですね。

B: これは逆のことも言えて、iPhoneが対応していないサービスは手を抜くとまでは言わないけど、本腰を入れられていない感がある。

A: だから、iPhone非対応のミリ波も本腰は・・・って話なんですね。

B: そう。Apple以外の会社ではミリ波対応端末が無いわけじゃ無い。例えば、Google Pixelの上位機種、Proとか二つ折りのFoldとかが対応している場合も多い。といっても、最新のPixel9 Proは対応していなかったりするから、Googleのミリ波対応ルールはよく分からないんだけど。ただね、Pixelは米国版だと、ミリ波対応なんだよね。Proとか関係無く。Pixel4a 5Gという結構前の端末、しかも廉価版の端末からミリ波に対応してたりする。そして、それ以降の端末、ほぼ全て米国版はミリ波対応してるんだ。

ちなみに、Pixelのミリ波対応の状況をまとめるとこんな感じ。

Google Pixel ミリ波対応状況※2

Pixel 米国版 欧州版 日本版
9 Pro Fold
9 Pro XL × ×
9 Pro × ×
9 無印 × ×
8 a × ×
8 Pro ×
8 無印 × ×
(7) Fold
7 a × ×
7 無印 × ×
6 a
6 Pro ×
6 無印 × ×
5 a (5G) × - ×
5 無印 - ×
4 a (5G) × ×

A: これは、よく分からないですね。日本版もよく分からないけど、欧州版もよく分からないなあ。言えるのは、米国版だけはミリ波対応しているってことですかね。

B: そうそう。米国版だけ。iPhoneの場合、Pixelと違い日本版はミリ波に一切対応していないけど、実はiPhoneも米国版はミリ波対応しているんだけどね。

A: そうなんですか?

B: iPhoneが5Gに対応したのはiPhone12からだけど、そのiPhone12からミリ波には対応してたんだよね。ちなみに、Pixelもそうだけど、米国版であって北米版じゃないところがポイント。カナダ版とは別なのよね。

A: なんでアメリカだけ対応なんてことになっているんでしょうかね・・・

こんなところで米中対立の影響が

B: ミリ波って、そもそもアメリカ主導だったのよね。今から10年前ぐらいだけど、Intelとかがミリ波をめちゃくちゃ推していた記憶がある。だから、アメリカでは最初からミリ波の普及が進んでいるんだよね。

A: そうなんですか。携帯電話業界って、端末の方は、Apple、Google、Qualcommがあるアメリカが影響力最強なのは間違いないですが、インフラって、エリクソン、ノキア、ファーウェイの三強だから、アメリカって影響力薄いと思っていたんですけど? 周波数の話って、どちらかというとインフラ側の話ですし。

B: うん、その認識は間違ってはいない。アメリカの国力と比べて影響が少ないということは、確実に言える。だから、アメリカがミリ波で先行したけど、見方を変えるとミリ波を頑張っているのはアメリカだけとも言える状況だ。

A: あれ、アメリカ以外はミリ波だめなんですか?

B: 例えば、中国は、ミリ波を全くやっていない。ファーウェイやZTEがやっていない、という意味じゃなくて、中国は国内でミリ波サービスをしてない、というかやる気が無い。

A: そういうことか。でも、なんで中国はミリ波をやらないんですかね?中国だって都市部の人口密度はめちゃくちゃ高いし、周波数足りてないと思うんですけど。

B: 足りていないけど、ミリ波を使うのは現状技術的に難しいという判断ですかね、建前上は。

A: なんですか、その含みのある言い方は?

B: 誰かがはっきり言った訳じゃ無いけど、私には結局米中対立の余波としか思えないんでね。

A: まさか、そこに繋がるんですか?

B: 中国って、やっぱり人口も多いし、面積も広い。そのために、中国国内だけでも無線機の数が相当出るんだよね。逆に言うと、中国国内で数が捌けないと、無線機の価格が安くならないんだよ。

A: そうですよね。

B: そして結局、ファーウェイやZTEの西側諸国排除の話にも繋がってくる。

A: 確か、トランプ政権時代の2018年ぐらいから、いろいろあってファーウェイの機器がアメリカから排除されたんでしたよね。

B: ここからは持論ね。私には、ファーウェイの機器に、言われているような問題があったかは分からない。でも、規制がかかる直前の2018、2019年ぐらいの段階で、一番品質と価格のバランスが良かった無線機メーカーは、間違いなくファーウェイだったと思う。

A: そういうもんなんですかね?

B: やっぱり、ファーウェイは基礎研究含めた「開発力」が凄かったからね。中国というだけで色眼鏡で見てしまう人には理解されないかもしれないけど、開発力では確実に他社より秀でていたと思う。で、米中対立の中で、それを脅威を感じたトランプ政権がファーウェイを排除したため、西側諸国はファーウェイの機器が使えなくなってしまった。時期的に言えば、5Gのネットワーク構築にファーウェイが使えなくなったということを意味してしまった。

A: そうでしたね。

B: ミリ波が必要なのって、ある程度の通信先進国だよね。で、ミリ波は電波が飛ばないから、無線機の数が沢山必要。そして、通信先進国は西側諸国が多い。しかし、一番安価に、かつ信頼できる無線機を作ってくれそうなファーウェイが使えない。

A: 現状は割高になっちゃているってことですか?

B: 私にはそう思えるね。もし、ファーウェイが世界でミリ波の無線機をバンバン売ってたら、中国国内でもミリ波をやろうという機運が生まれたと思う。ファーウェイを後押しするためにね。そうすると、さらにファーウェイのミリ波無線機が安くなって、ミリ波の普及を後押ししたと思う。

ベンチャーの無線機メーカーなら安くなるって言う人もいるけど、その場合は信頼性の問題で、技術的検証を事業者側がきっちりやらないと導入できない。エンジニアも必要だし、誰でもベンチャーを採用できるわけじゃない。日本の事業者はみなそういう体制があるけど、海外の事業者だと、そういう体制が無い場合もある。そして、一方ファーウェイなら全部お任せでもいい。

A: そうか。そう考えると、アメリカがファーウェイを排除しちゃったことで、逆にアメリカが推すミリ波が後退しちゃったって事か。

B: そうなんだよ。政治的には仕方の無いことなのかもしれないけど、携帯電話技術の普及という面では大きなマイナスだったと思う。

fig.1

卵が先か、鶏が先か

A: さて、話を元に戻して、なんで日本のiPhoneがミリ波に対応していないのかって話なんですが?

B: 何故かはApple社に聞いてくれ、以外の回答はないよ。と、そう答えちゃうとこれで終わっちゃうので、ちょっと日本のミリ波の現状なんかを説明しておこうと思う。

A: いいですね。よろしくお願いします。

B: ちょっと古いデータで申し訳ないけど、今年頭に総務省が出していたデータから。2.1GHzと3~5GHz、Sub-6と、ミリ波という3つの周波数帯それぞれの、楽天を除いた全事業者、つまりドコモ、au、ソフトバンク3大事業者合計の基地局数をまとめたのが下の表。真ん中の周波数3~5GHzとしているのは、3.5GHzぐらいのLTE用に割り当てられた周波数も含んでいるからだよ。

日本の携帯電話基地局数合計(2023年末、楽天モバイル除く)

2.1GHz 3~5GHz(Sub-6) ミリ波
4G(LTE) 171,720 83,099 -
5GNR - 86,323 12,823

A: ぱっと見たところ、明らかにミリ波が少ない・・・

B: ミリ波に行く前に、なぜ5Gのない2.1GHzの基地局数を紹介しているかというと、おそらくこの2.1GHzのエリアが、最終的に「データ通信用のカバレッジ」として目指すべきエリアだと思うから。いいかえると、各事業者の2.1GHzのエリアが、ユーザーから不満が出ないエリア、と言えると思う。

A: なるほど、比較対象な訳ですね。

B: データから楽天を抜いているのもそのせいで、楽天は2.1GHzを持っていないので、比較がわかりにくくなると思って合計値から抜いてある。

A: 了解です。

B: でも、この表をぱっと見ただけで問題点は見えちゃうから、もうあとは言うまでも無いかもしれん。

A: そうですね。あきらかに、というか。

B: 5GのSub-6の基地局数でさえ、各社が本腰を入れているとは思えなかった3.5GHz帯LTEの基地局数に、やっと追いついた感じ。「満足」にはこれから倍以上の基地局数が必要。周波数を考慮すれば4倍は必要。ミリ波の基地局数に至っては、もはややる気無いでしょ?って感じだよね。

A: 10倍以上飛ばない電波の基地局数が10分の1以下ということは、体感は100分の1以下か。

B: 10倍飛ばないと、面積は100分の1だから、体感は1000分の1以下かな?いや、本当はこれでもましな数字。だって、ミリ波は屋内ほぼ全滅になるから、もっともっとユーザー体感は低いと思うよ。

A: うわー、それじゃあ、iPhoneがミリ波に対応したところで、使える場所が無いってことですか?

B: うん、だからiPhoneが対応しないのも、まあ納得なんだけど。でも、これってよく考えると卵が先か、鶏が先かの話なんじゃないかと。もし、最初から、つまりiPhone12から、アメリカのようにミリ波に対応していたら、日本の各事業者も、もっと頑張ってミリ波の基地局を建てたのでは?って思うんだよね。

A: その可能性は否定できませんね。

B: だってさ、現状あまりにやる気なさ過ぎでしょ、各社。ちなみに、上のデータから抜いてあるけど、楽天のミリ波の基地局数は10,000局以上あるんだよ?他社の倍以上だ。状況が苦しいことが伝えられている楽天が真面目にミリ波を1万局も建てているのに、他の事業者は何しているの?と思うでしょ。

A: 意外ですね。うん、楽天モバイルさん、凄い!実は、楽天はミリ波No.1だったのか!

B: ただね、申し訳ないけど、楽天だけじゃAppleは動かない・・・ 悲しいけど、数の理論には逆らえない。他の3社、もっと頑張らないとAppleはミリ波対応してくれないよ。

なんで、そんなにやる気が無いのか。

A: 楽天モバイルがこんなに頑張っているのに、なんで他社はミリ波頑張らないんですかね。iPhoneが対応していないといっても、あまりにひどい気がしますが?

B: これでも世界的に見ると、ミリ波を真面目にやっている方の国のようなんだけど、まあひどいという感想を持つ人がいても不思議じゃない。

A: ほんとですよ!

B: でもね、正直言って、ミリ波の需要がないんだよね、日本では、あまりに。アメリカだと、スーパーボールにミリ波を投入したと大きくニュースになったりして、使い道が見えてきたりはしているんだけどね。日本だと、景気の差もあるのか、そういう大規模な話を聞かないね。

A: 上の記事だと250機のミリ波無線機を投入なんて紹介されていて、さすがアメリカって感じですね。スーパーボールがいくらお祭りといっても、そのために250機ぶち込むってないですよ。スケールが違いますよ。

B: そうそう。

A: でも、日本のことを考えると、もしどこかの事業者が同じように、例えば東京ドームに200機ぐらいのミリ波基地局を建てたとしても、そもそもミリ波に対応する端末がなさ過ぎて、だれも使いませんよね・・・

B: 端末の問題はみんな分かっていて、日本でもミリ波対応端末のみ割引を増額を許可する動きがあるんだ。ただ、動きは速くなくて、なんかワーキンググループでグダグダやっている間に商機を逃しそうな感じが気が、しないでもない。1.5万円割引増という枠も、今となっては、枠が小さいし。だって、iPhone16無印の一番安いモデルで、12万4800円ですよ。他社も、例えばPixelとかも同じぐらいの価格だしね。10年前とは端末価格が全く違う。

A: 確かに、端末全体の価格から見ると、割引額の差は小さいですよね。うーん、どうですかね、これで変わりますかね?あまり変わらないんじゃないですかね?

B: もう少し、ガッツリ割引することを許可して、かつiPhoneがミリ波に対応すれば、少しはチャンスがあるかな・・・

まとめ

A: 課題は沢山あるみたいですが、時間が来たのでまとめていただきましょう。

B: まず理解しておいてほしいのは、携帯電話の1世代の寿命は10年ということ。5Gの開始は、一般に2020年とされるから、5Gの寿命はあと5年ちょっと。もはや半分終わったと言っても良い。けど、ミリ波の基地局数は楽天以外1万局もいかないとかいうレベルです。これから倍のペースでやったとしても、基地局数としては全然足りない。ミリ波を真剣にやりたいのであれば、もう少し本気でやらないときついと思う。これじゃあ、端末側も、コンテンツを作る人も、ミリ波に賭けようとは思わないでしょうね、というのが正直な意見です。

A: そうですね。アメリカは4年前から、各メーカーの主力機種をミリ波に対応させて、インフラ、端末、コンテンツ、一体となってミリ波を盛り上げようとしています。その差は大きいですよね。

B: とはいえ、現状のアメリカでのミリ波の使い方を見ても、正直、日本含めた他国でミリ波が伸びるとは思えない、というのも事実。だって、使い方といっても、スタジアムとFWA※3ぐらいだからね。なにか、ミリ波の画期的な使い方が見つかると良いんだけどね。

A: 全くその通りですね。

B: あとは、ミリ波の無線機が安くならないと。でもね、ビームフォーミング※4がネックで低価格化が難しいという問題が残っているからね。

A: コンテンツ的にも技術的にも難しいとなると、どうすればいいんですかね?

B: 本音を言うと、6Gに期待かな?

A: それは禁句では・・・ なんか、締まらないけど、また次回お目にかかりましょう!

(担当M)

※1; 2024年9月9日、IDC調べ。

※2; Google Pixelホームページより。

※3; Fixed Wireless Accessの略。日本語で固定無線アクセス。ここでは、無線機と無線機の間の通信を指している。

※4; ビームを絞りつつ、好きな方向に向ける技術。電波の飛ばないミリ波においては必須技術とされている。