LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ

高校生でもわかる通信用語 #3

広帯域ってなに?

記事更新日 2024年2月6日


本編の前に・・・

このブログは2021年7月から始めまして、2年半近くが経とうとしています。お陰様で、徐々にではありますが閲覧数もGoogleでの検索ヒット数も増えてきております。その一方で、このページにたどり着いている方のほとんどはGoogleなどの検索経由(または弊社の社員)であり、バズることも、劇的に閲覧数が増えることも無い、という状況でもありました。閲覧数が増えているとはいえ、このペースでは成果が出ていないと会社に怒られてしまう(涙)。というわけで、今回からちょっとブログのやり方を変えてみました。

まず、たまにはバズりたい。しかし、検索だけではバズらない。バズるにはSNSが必要だ、ということで弊社の公式X(旧Twitter)と連携することにしました。といっても、当面は「更新しました」と書き込んで貰うだけですが・・・ 弊社のXアカウントは@sangikyo_Oですので、興味がある奇特な方はフォローしてあげてください(あと、中の人はフォロワー数を増やしてください!!)。

次に、これまで隔週更新だったものを、毎週更新に変えてみます。残念ながら記事を書く人が増えたわけではないので、一回一回の内容はこれまでより少なくなるかも知れませんが、「ブログは回数が命」と弊社広報担当に指導されましたので、当面毎週更新でやってみようと思います。いろいろとやり方を工夫しないと回せない感じで、初回から涙目ですが・・・

そんな、内輪の話を冒頭に書かせていただきましたが、これまで読んでいただいていた方も、たまたま今日初めて読んでくれた方も、末永くご愛読よろしくお願い申し上げます。それでは、本編スタートです。

↓↓以下本編↓↓


はじめに

社内の人間に、「今までのブログは難しすぎて専門家しか読まないよ」と指摘されて始めた「高校生でもわかる通信用語」シリーズの第3回です。できるだけ難しい言葉を使わずに、できるだけわかりやすく通信用語を説明していきたいと思います。

今回のテーマは「広帯域」です。通信で良く使われる言葉に「帯域が広い」とか「広帯域」というものがあります。これはぼほ「高速」ど同じ意味になるんですが、なぜ通信では、高速と言わずに広帯域と言うことが多いのか?そもそも帯域が広いというのはどういうことなのか?今回は、そういったことを説明していきたいと思います。

通信するためには?

通信する、すなわち情報を伝達するためにはどうすればいいでしょう? その答えは簡単で、「何かの状態を変化させればよい」ということです。例えば、人間や動物は「声」によって情報を伝達することができます。会話もそうですし、鳴き声だって情報伝達の一つです。ご存じの通り、声、つまり音は空気の振動によって伝わります。しかし、空気を振動させるだけでは情報は伝わりません。例えば、「あーー」という声を出すとしましょう。一見「あーー」という情報が送られているように見えます。怒っているのか、イライラしているのか、そういった感情を読み取れることもあるでしょう。しかし考えてください。もし、それが延々と24時間365日「あーー」と出していたとしたらどうでしょう? 感情読み取れますか?ひたすらうるさいだけで何も伝わりませんよね?前述の様な「あーー」の意味が伝わるのは、普段「あーー」と声を出していないからなんです。そして、何も伝わらない、ということはすなわち情報にはなっていないということです。「あーー」を情報にするためには、無音から「あーー」に変わるとか、「あーー」から「いーー」に変わるとか、そういった変化が必要なんです。「音」というのは情報を伝達する媒体 (メディア)ではあるものの、情報そのものではないんですよね。音は、音程が変わったり、強弱が変わったりすることによって、初めて情報になるのです

fig.1

さて、データ通信をする場合、これは有線、無線にかかわらずですが、使われるのは必ず「電気」です。電気が媒体ということです。そして、ほとんどの場合、電気で信号を送る場合は「電圧の高低」を使っています※1。この場合の電圧の高低というのは、電圧が高い=1、電圧が低い=0(下図A)のような単純な場合もありますし、電圧で波形を作ってそれで通信する(下図B)という場合もあります。どちらの場合も電圧を「変化させて」通信を行っているということは変わりありません。

fig.2
パルス波と正弦波

情報を載せる

上図Aのような通信も、上図Bのような通信もありますが、今後の説明のしやすさ上図Bのタイプについて説明していこうと思います。Bの波、これを見てどう思いますか?これは正弦波とよばれる波形で、電圧は上下に振動しています。電圧は変化していますから情報を送っているように見えます。しかし、この状態だと情報を一切送っていないんですよね。どういうことでしょう?このBの波形が情報を送っていないというのは、実はさきほどの「あーー」と同じです。同じ波形を延々と繰り返しても情報を送ることができません。何度も言っているとおり、状態の変化が無いと情報は載りません。波そのものは電圧の変化ではありますが、それがただ同じ変化を繰り返しているだけとなると状態が変化しているとはいえず、「あーー」という声をずっと出しているのと変わらないんですね。

それでは、波形に信号を載せてみます。波形に情報を載せる方法は色々とあるのですが、例えば電圧に信号を載せたときの例を出してみます。左が信号を載せていない状態の波形、つまり元の波形。右が元の波形に信号を載せたときの波形です。なんとなく元の波形を維持しつつも、強さが一定ではなく、ギザギザした感じです。想像が付くと思いますが、このギザギザに信号が載っているわけです。元の波形から、何かの変化をさせること、これが情報を載せるということです。

fig.3

帯域

さて、今回のテーマ帯域について。帯域とは何か、GoogleのBard(最新のGemini Pro)に聞いてみたところ、「帯域とは、電気信号や光信号などの通信に使用される周波数における「最も高い周波数」と「最も低い周波数」の範囲のことを指します」という答えでした。更に短くすれば「通信に使う周波数の範囲」といったところでしょう。でも、「周波数の範囲」って何のことでしょう?

周波数とは、一秒間に何回波が来るのか?という数値ですね。周波数が高ければ高いほど、同じ時間ないで波の数が多いわけです。さて、下の図を見てください。周波数の定義からして、左のaは低い周波数、右のbは高い周波数だということはわかると思います。

fig.4
周波数の高低

さて、この低い周波数と高い周波数を「帯域」という面で見てみるとどうでしょう。帯域とは周波数の幅と定義されています。上の図、aとbについて周波数の幅というのを見てみましょう。aとbの周波数の幅を表したのが下の図です。

fig.5
周波数の幅の比較

縦軸は波の強さ、横軸が周波数です。周波数の高低の違いはありますが、幅に違いはありません。というか、幅は殆どありませんよね?このきれいな形の波である限りは、周波数の幅なんてほとんどないんです。そりゃそうです。きれいな波の形であるということは、周波数が一定であるということなんですから。じゃあ、帯域が広くなるってどういうときに発生するのでしょう?それは、波の形が汚くなったとき、すなわち「情報」が載ったときです。

fig.6
帯域幅

情報が載ると元の波形をちょっと変形した形になるというのは先ほども書いたとおりですが、そうなると周波数はどうなるでしょうか?実は、情報が載るとちょっと元の周波数と「ずれ」が生じます。変形された波形のある瞬間を切り取れば、それらは元の周波数よりちょっと低かったり、元の周波数よりちょっと高かったり。そして、波形全体をトータルで見ると、周波数の分布が広がっているような形になります。これが帯域と呼ばれるもので、その幅のことを周波数帯域幅と呼びます。周波数は一点の「位置」を指すものですが、周波数帯域幅は「長さ(幅)」を表します。どちらも、Hz(ヘルツ)と呼ばれる単位で表されることが多いですが、実は対象の次元が違うということは意識してください。

帯域幅を広げる

波形に情報が載ると、帯域が広がるってことはわかりました。じゃあ、帯域をより大きく広げるにはどうしたらよいでしょうか?これも答えは簡単で「情報を沢山載せること」です。元の波形との変化の度合いが大きければ大きい程、帯域は広がっていきます。そして、元の波形の変化の度合いを大きくするには、同じ時間での情報量を増やすことです。言い換えれば、高速な情報を載せることです。

fig.7
帯域を広げること

図は情報量が少ないときと、多いときの帯域の広がりの違いです。情報量が多いと波形が複雑になり、それゆえ帯域が広がっていきます。つまり、「高速に通信する」=「帯域が広がる(広帯域)」という事になります。そして、通信を速くすれば速くするほど、帯域はその分広がっていきます。ただし、その逆の高速で通信するためには広い帯域が必要という命題も真です。むしろ、一般的には「使用できる帯域幅によって最大通信速度が決まる」ことが多いものです。ボトルネックは速度では無く帯域にあるものです。

一方で、当然のことながら「通信速度を上げないと広帯域にできない」というわけでは無いですし、「広帯域だと低速で通信できない」というわけでもありません。つまり、広帯域という言葉には、低速から高速まで通信できるという意味が含まれるため、通信業界では高速通信と言わずに、敢えて「広帯域」と称する場合が多いのです。

尚、今回の帯域を広げる例では、きれいな波(正弦波)に情報を載せることを考えましたが、On/Offで通信するようなパルス波であっても、実は全く同じことになります。パルス波においても、通信速度を上げれば上げるほど帯域は広がっていきます。「正弦波とパルス波じゃ全く違うのでは?」、それどころか「そもそもパルス波の周波数ってなに?」と考える人もいるでしょう。パルス波の周波数というのは、理系大学の人であれば絶対に習うフーリエ変換というものを使って考えます。なんと、そのフーリエ変換というものを使えば、パルス波も正弦波も同じように考えることができるようになります。フーリエ変換の説明をここで説明するのは(ボリューム的に)難しいので、もし興味がある方は、フーリエ変換で検索してください。

広帯域あれこれ

携帯電話にちょっと詳しい方なら、「周波数が高い = 広帯域」というイメージがあるかも知れません。実際に周波数が高いほど広帯域なってはいますが、これまでに説明したとおり周波数の高低と帯域の広狭は関係ありません。しかし、電波の場合はある程度周波数が高くないと「周波数が空いていない」という問題にぶつかります。したがって、広帯域を使用するため(周波数の幅を広く取るため)に高い周波数を使わざるを得ない、そのため周波数が高い = 広帯域 となっているのです。最近の5GNRとかだと、20GHzを超えるような(昔じゃ考えられないほど)高い周波数を使っていますが、それは広帯域にするためやむを得ず使っているだけで、本当は携帯電話だって使いやすい800MHzぐらいの周波数で広帯域通信をしたいんです。

話は変わって、帯域の広がり方。情報を載せると帯域が広がりますが、その広がりというのは情報の載せ方によって異なります。例えば、正規分布的に中心が強く、端に向かって弱くなるように広がることもあれば、強さが全帯域フラットに広がる場合もあります。帯域を広げるのであれば後者の方が望ましい(効率がよい)ですが、それを実現するためには単純に情報を載せるだけではダメです。下の図は、5GNRの電波の広がり具合を測定した結果です。なんと帯域幅が100MHzもあり、それが均一に広がっています。これはOFDMという方式によって実現していますが、この帯域の広げ方の詳しい話はまた別の機会で。

fig.8
5GNRの波形

まとめ

以上、いかがだったでしょうか?高速通信であれば広帯域で有り、広帯域であれば高速通信なので、言葉としてどちらを使ってもほぼ同じ意味になるという話でした。通常は、「通信を高速にしたから広帯域になった」というよりも、「使える帯域が決まっているから通信速度の上限も決まった」というケースの方が多いですね。

次回以降、情報をどのように電気信号に載せる変換方法や、上記で出てきたどのようにフラットに帯域を広げるか、ということを説明していきたいと思います。


※1; 「電圧の高低」の測定は「電流の強弱」に変換されるため、厳密に言うと、「電流の強弱」で通信しているともいえますが、一般的な概念としては「電圧の高低」で通信しているとする。