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【社内雑談】さよなら?民放BS4K その1
記事更新日 2025年9月16日
はじめに
2018年12月1日に放送が開始されたBS4K放送。当初はNHKと日テレを除く民放キー局4社(TBS、フジ、テレ朝、テレ東)、そして通販系2社(ショップチャンネル、QVC)と有料映画放送1社(東北新社)でスタートしました。約1年後に日テレが参加、途中WOWOWも加わり、最大10局で4K放送がされていました。しかし、途中東北新社が不祥事で脱落、そして今年二月にWOWOWが開始からたった4年で脱落し、4K放送ビジネスが厳しいという状況がうかがえました。
そして、ついに民放キー局5社が撤退というニュースが流れてきました。報道によると、4K放送開始以来、5社で300億円ほどの赤字だったそうでやはり4Kビジネスは成立していなかったことが明らかになりました。民放各局はこの報道を否定しているものの、BS4Kからの撤退そのものを否定しているわけでは無く、4K放送の未来が明るくないことは間違いありません。もし、報道が事実になった場合、BS4Kに残るのはNHKとショップチャンネル、QVCという通販2社だけになってしまいます。
なぜ、BS4Kがビジネスとして成立しなかったのかは、今後様々な専門的な方が分析し、何らかの回答を出していくと思います。技術者である我々がビジネス的な話をしても単なる素人談義になってしまうため、ここでは技術的な話を中心に、BS4Kを含めた高画質放送ビジネスについて語っていきたいと思います。
いつものことですが、このブログは個人の見解で、会社としての方針では決してありません。個人が勝手に書いているものだとしてお読みください。尚、各企業・団体の敬称は省略させていただきます。
誰もが予想できた結末
社員A(以下A): まさかというか、やっぱりというか民放キー局の5社がBS4Kから撤退するというニュースが流れてきました。各社報道を否定はしていますが、それはまだ撤退を最終決定した訳ではないと言っているだけで、撤退を否定しているわけではありません。このパターンの報道否定の場合、たいていの場合、後々事実になる事が多いですよね?
社員B(以下B): まあ、遅かれ早かれそうなるかな?とは思っていましたが、ついにその時が来たな、という感じだよね。例のコンプラ問題でフジは追い込まれていますし、他社だって決して安泰では無い。各社にもっと余裕がある状況であれば、総務省の顔を立てて撤退の判断まではしなかったと思いますが、もうそんな余裕もないということなのでしょう。
A: インターネットやスマホなどの他の娯楽のせいで、テレビの平均視聴時間が落ちていると言いますし、テレビ業界は今後先細っていくと言われていますからね。
B: まあ、4Kが流行らなかった理由は色々とあると思う。ただね、BS4Kが流行らないのは、そもそもの初動から必然って感じなんだよね、残念ながら。だって、最初からユーザーのことを考えていないのが見え見えだったからね。
A: え、そうだったんですか?
B: じゃあ、BS4K開始時からの視聴者である私が、どうして4Kがいけていなかったのか、説明していきたいと思う。あ、番組内容とか4Kの魅力的コンテンツとか、そういう話はあまりしませんのであしからず。
A: よろしくお願いいたします。
BSデジタルの状況
B: まずBS4Kの前に、そもそもBSデジタル自体の仕組みを理解している人がほとんどいないというのが、実は最初の問題と考えている。
A: どういうことですか?BSデジタルというのは、今やっているHDのBS放送のことですよね?わかりにくくはないと思いますが。
B: じゃあ、順を追って説明しよう。BSデジタルの前身は、アナログBS放送というものがあって、放送開始以降に発売された多くのブラウン管テレビにチューナーが付いていたと思う。アナログBSは1989年に始まって、NHKの2チャンネルとWOWOW、そしてSt.Giga(セントギガ)という衛星ラジオの計3局4チャンネルで放送していた。この放送は、地上波アナログとともに終了したから2011年の7月まで、約22年放送していたことになる。
A: ああ、NHKのBSは子供の頃見ていましたよ。
B: NHKアナログBSは夜のゴールデンタイムにNFLやNHLの録画放送をしてたりしていた。特にNFL中継には力が入っていて、たまに大橋巨泉※1が解説の時もあったりした。今でこそアメリカンスポーツをDAZN等の有料放送で見られるけど、当時アメリカンスポーツを見られるチャンネルは他になくて非常に貴重だったんだよ。WOWOWは日本初の有料チャンネルとして未だに健在だ。St.Gigaは音楽だけじゃ無く森林の音とか流していたりして、面白いと言えば面白い試みだったと思うけど、流石に衛星ラジオ一本で成立させるのは難しかったようで、すぐに経営難となった。その後任天堂の資本が入ってスーパーファミコンのサテラビューなる謎の機械も販売されていたね。私はセガ派なので実物を見たことは無いけど。
A: 単なるおっさんトークですね。BSとセガ派に何の関係もないし・・・
B: 話を元に戻すと、このBS放送を見るためにはBSアンテナと呼ばれる「パラボラアンテナ」の設置が必要だったわけ。アナログ放送のアンテナよりは設置しやすかったとはいえ、ある程度大きいアンテナを立てる必要があり、視聴の敷居は低くはなかった。集合住宅だと個人ではベランダに取り付けるしかないんだけど、ベランダは共用空間だから取付不可、という集合住宅も少なくなかった。そういった場合、屋上に共同受信用のBSアンテナを建てる必要があり、それはそれで、やっぱり大変なわけですよ。それでもこのBSアナログは一定の地位を築いていて、かなり多くの人が視聴できる環境にあったと思う。
A: うちでも見られたわけですから、結構広く普及していたわけですね。
B: さて、BSアナログの良さは何だったかというと、実は画質と音質だったんだよね。若い人は知らないと思うけど、当時の地上波テレビは「ゴースト」という現象が避けられなかった。ゴーストは、近隣の建物などによる電波の反射波を受信してしまうことにより、ちょっとずれた複数の画像を表示してしまうという現象だ。下の写真のように、ドラゴンボールの残像拳がごとく、画像が残ってしまう現象のことを指す。
この画像は大げさに作ったものなので普通はここまでひどくはなかったけど、それでも受信状況の悪い場所だと本当にこんな感じになっていたよ。
A: これは、ちょっと見にくいですね。
B: テレビのアンテナというのは電波塔、アナログ時代なら関東だと東京タワーに向けて建てることになる。東京タワーがいくら高いとは言え、数キロも離れた場所であればほぼ水平に近い方向になるわけ。で、アンテナ方向が水平だと反射波も受信しやすくなってしまう。だから、いくつかの波が、ちょっとずれて合成されてアンテナに入ることで、このゴーストとなるわけだ。高い建物が近い家とか、家の後ろが崖とかだとゴーストが多くなってしまったんだ。ちなみにこれはアナログだから発生する現象で、デジタルでは同じ環境でも全く発生しない※2から「ゴースト」は今や死語になっているんだけどね。
A: なるほど。地デジ化にはゴースト解消の効果もあったんですね。
B: BSアナログも、理論上はゴーストが発生しうるんだけど、アンテナは障害物の無い上方を向いているし、パラボラというアンテナの性質上横や後ろからの電波はほぼ入ってこない。だから、反射波がアンテナに入ることがほとんど無くて、それ故ゴーストが発生しないんだ。当時としてみると、「ゴーストが無いだけで素晴らしく高画質」な扱いだったから、アナログBSも高画質として崇められていた。
A: BSって高画質ってイメージだったんですね。
B: さて、BSデジタルなんだけど、BSデジタルのスタートは2000年12月1日。意外にもアナログBSが始まってから11年しか経っていない頃なんだよね。この段階で、NHKに加えて民放キー局5社もBSへ参加したんだ。これまでBS放送を見るためには、NHKのBS受信料を払うか、WOWOWに課金するかの2択だったから、今考えると民放BSって初めて無料で見られるBS放送だったんだよね。まあ、NHKとBS契約せずにアナログBS放送を見ていた人は少なくなかっただろうけど。
そして、それらのNHKと民放キー局のチャンネルを見るのであれば、BSのアンテナはアナログ時代と同じものでよいから、テレビ側だけデジタル対応に変えればよかった※3というのも普及の面で大きかったと思う。丁度、地上波デジタル放送への移行期間でもあったために、多くの人は地デジ対応テレビに変えたら、ついでにBSデジタルも見られるようになったという状況だったはず。だから、地デジ強制移行の力もあり、もともとBSが見られていた世帯であれば、ほぼBSデジタルも見られる状況になっていた。
A: なるほど、確かに私もあえてBSデジタルに対応したという感覚はありませんでした。
B: でも、ここでアナログの頃には無かったBSデジタルの問題というか課題がひとつ出る。
アナログからデジタルに変わって、地上波もBSも明らかに画質が上がった。そもそも、アスペクト比※4も違うしね。けど、デジタル同士である地上波デジタルとBSデジタルの画質の違いを分かる人は少ない。地上波デジタルよりBSデジタルの方がちょっとだけ画面解像度が高かった※5んだけど、当時はテレビ側の性能が当時は不十分だったこともあって、その違いに気付いている人は少数だった。また、アナログ時代のような地上波とBSでのゴーストの有無の差も無い。つまり、アナログの頃にあった、BSの「高級感・高画質感」はデジタルになってなくなってしまったんだ。言い方を変えれば、図らずもNHKがBSチャンネル名に付けていたBSの「プレミアム」な感覚が霧散したということだ。
A: 確かに。画質が良いからBSデジタルを見ている、という人はあまり聞いたことがないですね。
B: このことによりBSデジタルは地上波の高品質版というより、単なる地上波のサブチャンネル化してしまったんだ。
A: サブチャンネルですか。確かに、BSの番組表とか見ていると「裏チャンネル」的な内容ばかりですよね。時代劇の再放送とか通販とか・・・
B: そして、このことがBS4Kに結経影響を与えたんだよね。
まあ、コンテンツ的な善し悪しには触れないけど、まあBSデジタルは地上波より視聴率を狙っていないのは間違いないと思う。まあ、スポーツぐらいかな、BS有利なのは。そう考えると、BSデジタルの時点でニッチなわけです。
A: そのスポーツですら、BSだとNHK以外はたまに野球をやるぐらいでほとんど中継していないイメージですよね。今やっている世界陸上も、BSでは全く中継していませんし。
時期尚早だった?
B: さて、そんな状況の中で2018年に4K放送が開始されるわけです。BSデジタル開始から18年だから、実はアナログBSがデジタル化するまでの期間より長い。というか、22年というアナログBSの放送期間に迫るぐらい期間が空いている。だから、新しい放送をするのに時間的には尚早だったってことはないはず。
A: 意外ですね。なんか、デジタル化してすぐ4Kが始まったようなイメージがあったんですけど。
B: 地上波デジタル放送への強制移行が2011年に行われていたから、その数年前ぐらいにテレビを買い換えた人が多いんじゃ無いかな。そうすると、2018年は10年後ぐらいになるわけで、もう新しいものが出るの?と短く感じた人も多かっただろう。でも、テレビ買い換えということを考えると、10年というスパンは悪くない。
アナログ終了ちょっと前ぐらいの液晶テレビって、黎明期だったしパネル性能も不十分で、コントラストが低く残像もひどかった。でも、2018年ぐらいにはそういった問題はほとんど無くなっていた。となると2018年というのは良いタイミングだったと思う。でも、そういった人達がテレビを買い換えても、4K見ようとはならなかった。
A: どうしてでしょう?
B: まず、2018年の4K開始時点でほぼ全てのテレビが4K放送に対応していなかったというのが最初の大きな問題だった。一方で、2018年当時はテレビのパネルの解像度自体は4Kになったものが多かった。当時に販売していた中・大型TVは、ほぼ4K対応だったと記憶している。すでにその2年前の2016年には4Kブルーレイや、4K対応ゲーム機であるPlaystation4 ProとXbox One Sが発売されていたぐらいだし、4Kという言葉自体は浸透していた。
でも、それら4Kを”表示できる”テレビは4Kの放送波を受信出来るチューナーを搭載していなかった。だから、放送開始時は、外付けの4K対応チューナーを買う必要があった。実際、私もそれを買ったし。
A: それは面倒ですね。4Kチューナー内蔵テレビがなかったんですね。
B: 4K開始時期の最新のテレビぐらいからは4Kチューナー内蔵となったけど、4Kを見られるのが最新機種のみとなると流石に視聴者が少なすぎるよね?内蔵テレビが間に合わなかったのは、おそらく4K放送の仕様確定から放送開始までの準備期間が短かすぎたんだと思う。もし4K放送の開始がもっと後なら、4Kチューナー内蔵のテレビがもっと増えたのは間違いない。外付けなんて買うのはマニアしかいないんだから、4Kチューナー内蔵型の普及をもっと待ってもよかったように思える。そういった面で見れば、4K放送開始は早すぎたと言うこともできるだろう。
A: 斬新ですね。放送開始が早すぎた、という見方は聞いたことがありません。
B: まあ、私の持論だから正しいかどうかは分からないよ。でも、4K放送の受信機、つまりテレビの標準規格であるARIB-TR-B39※6というのが2016年7月に策定されているから、そこから放送開始まで1年半しかないわけよ。1年半で商品化となると4Kチューナー内蔵型テレビを放送開始前に余裕を持って出すのは無理だよね。というか、外付けチューナーも含めて、みんな開発ギリギリで4K放送開始に間に合わせたって話だったからね。
そして、4K放送開始で盛り上げようにも、誰も受信機器を持っていないから盛り上がりようも無い。宣伝広告にコストを掛けた割に、各局空回り。
A: なぜ、そんなに焦って放送開始したんでしょうね。別に、1年ぐらい遅れてもよかったのに。
B: これが、ダメなんだ。焦って放送を開始した理由は明確で、2020年の東京オリンピックに間に合わせるためだったからなんだ。
A: なんと!オリンピック絡みですか!いや、でもオリンピックは2020年予定だったんだから、一年遅らせて2019年開始でもよかったし、実際は2021年開催だったから、もっと遅くても良かった。
B: いやいや、時期尚早だろうが何だろうが、総務省のロードマップに載せて始めなきゃいけなかったんだ。何しろ、「政府としても2020年に全国の約50%の世帯が視聴できることを目標に普及に取り組む」と、2018年、当時の野田聖子総務大臣が宣言したそうだから。
A: なんと恐ろしい目標。もちろん、総務省に中の人もメーカーも無理なのは分かっていたでしょうが、なんせ大臣の宣言ですから。誰かがロードマップを遅らせたとなると、どんな責任をとらされるか分かりませんよね。
B: そういうことだね。この発言、2018年2月、つまり4K放送開始の9ヶ月前の話なんだけど、この時点で4Kチューナーは1台もできていなかったんだよ。そこから2年半で50%の普及率ってね。まあ、何を考えて大臣がそんな発言したかは知らないけど、常識的に考えて相当無理があるよね。
A: 立ち上がりの失敗というのは、こんなところにも原因があるんですね。
結構面倒な4K視聴
B: さて、ギリギリになった4Kチューナーなんだけど、実は4K対応テレビと4Kチューナーだけ準備しただけでは全ての放送が見られない、というトラップもあったんだ。なんと、BSアンテナも4K用に買い換えないといけなかったんだ。
A: え?買い換えるんですか?
B: このアンテナ事情は、アナログBSからBSデジタルになった時と似ている。もしNHKの4Kと民放キー局の4K放送を見るだけだったら、BSデジタル用アンテナがそのまま使えた。でも、新たに始まった通販のQVCとショップチャンネル、それに有料の4K映画チャンネル(東北新社)を見るためには、新しいアンテナが必要だったんだ。
A: じゃあ、大きな問題は無いような気がしますね。BSデジタルのアンテナをそのまま使えば良いのですから。申し訳ないですが、その3チャンネルは多くの人には関係無いでしょう?
B: 確かにそうなんだけどさ、オリンピックまでに4K環境を整えよう、なんて考えるようなアーリーアダプター層はアンテナを代えるよね。だって、実状は4K放送といいながらも常に4Kソースで放送しているのはNHK以外だとその通販2局しかないんだから。だから、マニアは無駄に4KでショップチャンネルやQVCを見ちゃうんだよ。
A: それは個人の好き勝手ですからご自由にとしか言えませんが、確かに4Kを味わいたいなら通販2局を見る、というマニア心理は理解できなくも無いです。
B: そして、4Kアンテナに代えるだけで、それらのチャンネルが見られることは見られるんだけど、それをやると更に別の問題が出るんだ。
A: 次は何ですか?
B: 4Kのうち、QVCやショップチャンネル、そしてこちらは更にレアな8Kの電波というのは、左旋偏波という方式で送られている。これが何かの説明は長くなるからしないけど、この電波は他と異なり、アンテナの方で2.4GHzつまりWi-FiやBluetoothと同じ周波数に変換される※7んだ。つまりアンテナからチューナーまでの同軸ケーブルを2.4GHzで伝送することになるんだけど、これを従来の配線や分配器に通してしまうと、2.4GHzの電波が漏れてしまうんだ。そして、漏れてしまうと2.4GHzの電波を使っているWi-FiやBluetoothに悪影響を与えてしまう。
A: そうなんですか?
B: これまでのBSデジタルや他の4Kチャンネルは、もっと低い周波数に変換されるから電波が漏れにくかったんだけど、QVCやショップチャンネルは漏れやすい2.4GHzを使うことになった。だから、4K対応と書かれているコネクタとか分配器を使わないといけないことになっていた。こうなると、家の中のテレビアンテナ配線に関する知識も必要で、これはある程度無線の知識のある人にしかできない。
A: うわー、それは更に面倒ですね。
B: 私はテレビが専門じゃ無いんで、加工等が本来の完璧な状態では無いかもしれないが、なんとか自分でやった。でもさ、一応私は端から見れば無線従事者免許を持つプロな訳で、一般人じゃないのよ。おそらく、一般の人にはこのレベルですらできないはずだよ。
そして、ここでの問題は工事ができる、できないの話じゃない。一般の人には何が問題なのか、何が問題になるのかが理解できない、ということのほうが問題だ。
A: 問題、問題ばかりいって理解しにくい日本語ですが・・・ 言い換えさせてもらうと「普通の方には、BS4Kアンテナに代えることで、何が問題なのか?どういうことが発生するのか?ということが理解できない」、そういうことが4K普及の障害となる、そういうことですね。
B: ありがとう、そういうこと。一般の人にそういったことがわからないということは、そもそもBSデジタルのアンテナから4K対応アンテナへ代えるべきか代えないべきかも分からないということでもある。だから、BS4Kを見るためには、チューナーを買う事に加えてアンテナを代えるだけで無く、ケーブルや分配器も代えなきゃいけないと思い込んでいる人も少なくないだろう。そして、そういった人達にはBS4Kは滅茶苦茶敷居が高くみえるはずだ。
A: 私も、電波業界にいる人間なのに、正直どうしたらよいか分かりませんよ。
B: 4K普及のことだけを考えれば、QVCとショップチャンネルはBSデジタル※8で全く同じ内容を放送しているわけだから、「現在BSデジタルが見られている状態なら、アンテナや配線関係は全てそのままでBS4Kが視聴可能である」と言い切ってしまうのが正解だったのだと思う。4Kを見たければチューナーだけ買えばいいし、BS4K対応テレビに買い換えたならば、そのままBSのアンテナ線を繋げればBS4Kは見られる。8K見たい人だけ全部代えてくれと。
でもさ、放送開始前後で、いろいろと余計な、面倒なことを告知してしまったことが、4K導入の障壁になったと思う。
A: ですよね。通販のためにアンテナまで買い換える必要は無い、と言い切ってしまえば、かなり4K導入のハードルは下がったと思います。
B: 部外者は簡単に言えるけどさ、業界としてはわざわざ衛星使用料まで払って4Kチャンネルを開設してくれるQVCとショップチャンネルは有り難いじゃん。アンテナ代えなくて良いなんて、大っぴらには言えないじゃん。
A: 確かにそうですね。どちらかというとお客様ですものね、その2局は。
B: で、最後にオチがあるんだけど、紆余曲折の結果、今年になってQVCとショップチャンネルの2局も民放キー局と同じグループにチャンネル変更となった。だから、今はその2局を見るためにアンテナを交換する必要も配線を交換する必要も無くなった。2025年9月現在、アンテナを交換する必要があるのは、BS8Kを見る場合のみだ。
A: ひどい。なんという、ひどい結末。何のための4K対応アンテナだったんですか・・・
ニッチの中のさらにニッチ
B: 今まで話したとおり、BS4Kの船出はオリンピックのせいでハードウエア的に準備期間が少なく苦しいものだった、と言えると思う。ただ、船出の失敗はそれだけが理由では無い。もう一つBS4Kを難しくしたのは、前述のBSデジタルのサブチャンネル化にあると、私は思っている。
A: どういうことですか?
B: まず、前回書いたとおり、元祖であるアナログBSは画質面含めて地上波を超える放送という印象があったのに、BSデジタルになって単純に地上波ではやらないようなことをやるサブチャンネルの扱いになってしまった。そして、BS4Kは、実際どうであるかは別として、サブチャンネルのさらにサブチャンネルの扱いだ。今どきのユーチューバーに合わせた言い方にすれば、BS4Kはサブ垢のさらにサブ垢みたいなもので、そりゃ登録者数は伸びないよね?ってことだ。
A: でも、4Kという少なくとも画質面でのアドバンテージはあったわけで、何のアドバンテージの無いBSデジタルとは違うと思うんですけど。
B: これは4K放送を視聴し始めるとわかることなんだけど、BS4Kってほとんど「BSデジタルのサイマル放送」しかやっていないんだよね。これは開局当時からほとんど変わらない。4Kのコンテンツをちゃんと準備していたのはNHKのBS4K(現BSプレミアム4K)のみ。特に民放キー局はBSデジタルのアップコンバートだから、画質的なアドバンテージはほぼない。
A: サイマル放送って、つまりBSデジタルとBS4Kで全く同じ内容、番組の放送をしているってことですよね?
B: そうそう。そういうわけなので、地上波のサブチャンネルであるBSデジタルをアップコンバートしただけの内容を、わざわざBS4Kのチャンネルで見ますか?ということだ。というか、4KテレビでBSデジタルを見れば、テレビ側の画像処理エンジンが自動でアップコンバートを入れるから、BSデジタルとBS4Kの違いは、テレビがアップコンバートするか、テレビ局がアップコンバートするかの違いしか無い。
A: 確かに、そのレベルの違いしか無いのであればBSデジタルで十分ですね。
B: しかもさ、4Kって重いから、チャンネル切替にどうしても時間がかかる。4K環境がある人であっても、同じだったらサクサク動くBSデジテルで見れば良いじゃん、という人は少なくないと思う。
現在だと、ショップチャンネルが常に4K+HDR※9放送で画質が良いんだけど、他局もたとえサイマルであっても、基本4Kで製作した番組をBSデジタルへはダウンコンバート映像を流す、って作りにしてくれれば4Kの価値も上がるんだけどね。まあ、ショップチャンネルやQVCのように単一場所から放送する生放送がベースならそれができても、ドラマとかバラエティー(の再放送)が多い民放だとそこまで4Kの映像ソースや4K対応スタジオが準備できないんだろうね。
A: なんか、ショップチャンネルとQVCだけが4Kを活かしているようで、なんだかモヤモヤしますね。何のための4Kだったのか・・・
次回予告
次回、後編ではBS4Kの問題を更に深掘りします。民放キー局のBS4Kが結果的に何に繋がるのか?次回をお楽しみに。
※1; 「11PM」や「クイズダービー」、「世界まるごとHOWマッチ」など、様々なヒット番組を生み出した大物司会者。アメリカ生活が長くNFLに造詣が深かった。晩年は短期間ではあるが国会議員も務めた。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドにある、日本人向けお土産店である「OKギフトショップ」の創業者でもある。
※2; 地上波デジタル放送の場合、拡散方式としてOFDMを使用しているため、反射波の影響をほとんど無視できる。
※3; アンテナによっては高い周波数のチャンネル(スターチャンネル等)が見られない場合もあった。
※4; 画面の横と縦のサイズ比。アナログ時代は4:3だったが、デジタル移行は16:9に統一されている。
※5; 多くのBSデジタル放送で1920x1080ピクセル(約207万画素)で放送していたのに対し、地上波デジタル放送は一部例外を除き1440x1080ピクセル(約155万画素)で放送していた。現在は、BS4Kの影響でBSデジタル放送も1440x1080ピクセルで放送している放送局が多い。
※6; 「ARIB TR-B39 高度広帯域衛星デジタル放送運用規定」は、標準規格では無く技術文章ではあるが、テレビやチューナーに関する細かい要求事項(例えばEPGやリモコンのボタン)が記定められており、各メーカーはこの文章に準拠した機器を開発する必要がある。したがって、標準規格的な意味合いを持つ。
※7; BSの放送電波は高い周波数の電波のため、そのままだと途中の同軸ケーブルでの減衰が大きい。そのため、BSアンテナは受信した後に「中間周波数」という伝送用の低い周波数に変換して、同軸ケーブルを通しテレビへ送る仕組みになっている。
※8; 正確にはBSデジタルを設置することで見られるようになる東経110度CS(旧スカパー!e2)で放送している。
※9; ハイダイナミックレンジの略。4Kは通常のHDデジタル放送よりも明るさなどに使うことのできるビット数が多く、それゆえ明るさに対する最小と最大の幅が大きい映像を送ることができる。尚、ショップチャンネルは、常時HDRで放送している。また、テレビだけで無く、iPhoneをはじめとする近年のスマートフォンの多くもHDRに対応している。