LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
【社内雑談】ガラケーの思い出 その2
記事更新日 2025年8月12日
はじめに
先日、FCNT(旧富士通)が、なんとらくらくホンF-41Fを発売すると発表しました。らくらくホンとは、富士通がNTTドコモ向けに出していたシニア世代向けの携帯電話で、大きなボタン、シンプルな機能など誰でも操作できるのが特徴です。なんでいまさららくらくホンを取り上げるのかと言えば、令和のこの時代に新発売されるこの機種が、なんとガラケーだからです。
というわけで、今回は令和のガラケー新発売を記念して、ガラケーの思い出について語っていきたいと思います。尚、「ガラケー」は、正式には「フューチャーフォン」と呼ばれおりますが、今日のテーマを考えると「ガラパゴス携帯」の略の「ガラケー」と呼んだ方がふさわしいと思いますので、「ガラケー」という呼称で統一させていただきます。
いつものことですが、このブログは個人の見解で、会社としての方針では決してありません。個人が勝手に書いているものだとしてお読みください。尚、各企業・団体の敬称は省略させていただきます。
前編であるその1はこちら。
ノキアの失敗
B: ここからはノキアの話にも繋がっていく。これまで日本が話題だったからガラケーと書いていたけど、当然携帯電話が高機能になる傾向は日本だけじゃなくて世界に広がっていて、日本ほど全体的ではないにしても、高機能機種はどんどん増えていたんだよ。だから、世界シェアトップのノキアも当然、開発費高騰という同じ問題にぶち当たるわけ。
そこで、ノキアはSymbian OS(しんびあんOS)という、携帯電話向け汎用OSを買収したんだ。ここで汎用OSというのは、どんな端末にも同じように使える統一されたOSのこと指す。最も有名なのがWindowsだけど、iOSやAndroidも汎用OSだね。汎用OSは、機器の違い、デバイスの違いなんかをOSが吸収するから、いろいろな端末で使える。WindowsやAndroidを見て分かるとおり、端末のメーカーが違ってもOSが違いを吸収するから、同じアプリが動くよね。
汎用OSのイメージが付かない人向けにちょっと説明。昔のパソコンって、NECならNEC(PC-9801等)向け、富士通なら富士通(FM-7/TOWNS等)向け、シャープならシャープ(MZ/X68K等)向けに専用アプリケーションを作る必要があった。それぞれが別の独自OSを使っていたからね。今の家庭用ゲーム機(PS/Switch)みたいなもんだ。それが、Windowsの登場で、"Windows向け"にアプリを作れば良くなった。NECでも富士通でもシャープでもCompaqでも、OSがWindowsならば、どこ製のパソコンというのを考えなくても良くなった。これが汎用OSの力だ。
A: PC-9801とかX68000とかは聞いたことはありますが、当時はその機種専用アプリが準備されていたんですね。
B: それで話を元に戻して、Symbian OSはガラケーにもスマートフォンにも使える携帯電話用汎用OSで、当時としてはかなり先進的な考え方だったんだ。ノキアとしては汎用OSを使うことで、OSを共通にし端末の開発工数を減らし、端末の開発費を下げる狙いがあった。さらに、販売台数世界一のノキアがいち早く汎用OSを導入することで、他のメーカーもノキアのエコシステムに引き入れ業界の主導権を握ろうとした、とされていた。
しかし、結果的にはそれが取り返しの付かない大失敗になるわけだけどね。

Microsoft Copilot作成
A: なんと、OSが失敗だったんですか。
B: ノキアはSymbian OSを買収した後、仲間を増やすためにオープンソースのソフトウエアとして公開したんだ。だから、ノキアだけじゃなく、日本でも三菱とか、富士通とかいくつかのメーカーがガラケー向けに採用したりもした※5。けど、Symbian OSは設計が悪いのか、はたまた古いのか、とにかく汎用OSのくせにソフトウエア開発が面倒でのアプリの開発もままならなかったという話だ。汎用OSのくせに端末開発コストが下がらなかったとも聞く。そして、オープンソース化して無秩序になったというのも、悪い流れの修正を妨げた。
A: あー、そういうオープンソース化失敗の話はたまに聞きますよね。オープンソースとはいえ、誰もコントロールせず秩序が低い状態になってしまうと、コミュニティーが育たず、そうなると開発インセンティブも無くなり、その結果開発者が増えなくなり・・・ という悪循環に陥るというケース。Symbianもそうだったんですか?
B: 後々の回顧録とか読むと、そうだったみたいね。オープンソース化したって、放置じゃダメだ。先導者たるべくノキアが指導力を発揮しなかったのが失敗の原因だ、としている人もいるね。もっと、開発とかサポートすべきだったと。
そうこうしているうちに、ご存じの通り新しい汎用OSであるApple iPhoneのiOSとGoogleのAndroidが伸びてきて、Symbian OSはそれらと比較されるようになった。しかし、Symbian OSは残念ながらアメリカの両OSとは勝負にならなかった。統一性の無さ、「○○ストア」的なソフトウエアを配布する機能の弱さ等々、いくつかの点でSymbianは両OSに明らかに劣っていたといわれていた。でも、最も劣っているとされていたのが、やはり前述の通りソフトウエア開発のしやすさだ。
例えば、SymbianとAndroidを比べると、Androidの方が圧倒的に端末開発がし易かったようだ。AndroidはSymbianの半分以下の期間で新規端末が開発できるといっている人もいた。だから、Androidには「メーカーが参入しやすい=>端末が増える=>アプリが増える=>新たなメーカーが参入する・・・」 というエコサイクルができあがった。
A: それこそノキアが狙っていたところでしょうに、それをAndroidが実現してしまったわけですね。
B: また、Symbianにはタッチパネルの対応が苦手という想定外の弱点があった。iOSの画期的だった部分として、スワイプやピンチなどのタッチパネルの使い方にあったよね。あの、ぬるっとした操作感こそAppleの発明の一つだと言えると思う。しかし、Symbianは古い設計のOSだったので、ペンでタッチするような昔ながらのタッチパネルには対応できても、iPhoneのようなスムーズな動きまでは考慮されていなかったようだ。そのため、iOSやAndroidのような挙動がどうしても真似できなかった、と言われている。
A: それは痛いですね。そんな些細な弱点が致命傷になるとは。
B: これらの結果、ソニー、サムスン、LGの東アジア勢を筆頭に端末メーカーはどんどんとAndroidへ移行していってしまった。大手メーカーが次々とAndroidへ移行していくもんだから、アプリのデベロッパーはiOSとAndroid向けは作っても、Symbianには目もくれなくなってしまった。そして、最終的に残ったのは、Symbianに突っ込んでしまい、後に引けなくなったノキアだけだった・・・
A: うわ、聞いているだけで胃が痛くなる流れですね。
B: ノキアはSymbianを捨てきれずAndroidの流れに乗ることが出来なかった。Symbianはガラケーでは一定の地位を築いたものの、スマートフォンではiOSやAndroidには到底太刀打ちできず、特にスマートフォンの普及が進んだ先進国でのシェアを急激に落としていった。ただ、まだこの時点でSymbianをあきらめて、Androidに進むか、Symbianが得意だったガラケーに注力すれば、ノキアの末路はもう少しましだったかもしれない・・・
A: え?ここから、更なる悲劇があるんですか?
B: 焦った、いや血迷ったノキアはなぜかMicrosoftと手を組んだ。Symbian OSを捨ててWindows Phoneを取ったんだ。今思えば、考えられる中で最悪の選択だ。確かに当時のWindows Phone OSは、iOSやAndroidに「見た目的には」対抗できるリッチなOSではあった。でも、以前のこの記事にもある通りMicrosoftがアホな施策を連発して自滅。立ち上がる以前にiOS、Androidに対抗しうるOSではなくなってしまった。Windows Phoneの失策はノキアのせいではないが、乗る船を間違えたとういうことだ。
A: 私もその記事は読みました。Microsoftは後発なのにアプリの開発行為自体に金を取ったというあれですね。しかも、結局手遅れになってからタダにするという、何ともあり得ない施策。読んでて、私もイラッとしました。
B: そうそう。Windows Phoneなんて後追いも後追いなんだから、むしろ逆に大盤振る舞いしてアプリ開発者を集めるぐらいの施策が必要だったのに。フリーソフトでもダウンロード数が多いアプリには奨励金をあげるぐらいのね。でも、現実はまさかの、iOSやAndroidよりもアプリの開発ハードルを上げるという愚策中の愚策。だれが、ニッチOSのアプリを金払ってまで開発するかってね。
A: ほんと、何を考えていたんでしょうね。ノキアが、そんなWindows Phoneに突っ込んだのは、本当に悲劇です。
B: 悲劇はWindows Phone以外にも影響した。ノキアはWindows Phoneに入れ込みすぎたせいで、ラインナップに安価な端末が減ってしまったんだ。一応、Windows Phoneはそれなりにリッチなスマホ用OSで端末の性能を必要としたから、安価にするにしても限界があった。すると、ノキアが得意としていた廉価版市場、つまりはアフリカ等の途上国市場も、徐々に中国等のメーカーに奪われていってしまった。
最終的には、ノキアの端末部門はマイクロソフトに買収され、その後たった2年弱で端末部門は解散となったのでした※6。
A: なんという、恐ろしい結末でしょう。
B: ノキアは、2011年までは端末販売台数世界一だったんだけど、2014年に買収され、2015年に解散となった。つまり、度重なる判断の失敗の連続により、販売台数世界一から5年も経たずして消滅したわけだ。しかし、こうやって改めて書くと、他業界でも例を見ないほどの、恐ろしい出来事だよね、ノキアの悲劇って。インフラ側の会社が存続しているから目立たないけど、あれだけの大企業が一瞬で消滅だからね。
A: 過去の成功に囚われイノベーションを無視してしまった失敗例として、デジタルカメラを無視してフィルムにこだわったイーストマン・コダックが挙げられることが多いけど、ノキアもそれに勝るとも劣らない失敗事例ですよね。
B: ちなみに、この話はノキアの携帯端末部門の話で、ノキアという会社自体は携帯基地局等のインフラ側の企業として未だ健在です。今でも、寡占を構成するBIG3(ファーウエイ、エリクソン、ノキア)の地位を守っている巨大企業ですので、お間違いなく。
A: もちろん、分かっています。我が社の大切なお客様ですから。
厳しい現在のスマホ業界
B: とはいえ、ノキアがSymbian OS素早く捨てて、いち早くAndroid陣営に入ったとして、そこで最終的に生き残れたかどうかは分からないんだよね。前回のメーカー図に戻るけど、ガラケーを捨ててAndroidに参入したとしても、ほとんどのメーカーが生き残れていないから。
ガラケー時代にあれだけの栄華を誇ったNECも松下も、結局スマートフォンの時代には生き残れなかった。これは、スマートフォンのOSが統一されてコモディティ化してしまったから、と言われているよね。誰でも作れるようになってしまって、差別化が難しくなったということだ。
メーカー図を見て貰うと分かるけど、PDC時代に端末を販売して、現在も端末を販売しているのはたった4社だけ。しかも、FCNTとモトローラは、もともとの会社とは違う形、異なる資本になっている。だから、当初と同じ会社として残っているのはソニーとシャープだけなんだよ。でも、そのシャープにしたって、携帯電話のせいではないにしても、会社自体が傾いたせいで今は台湾鴻海傘下だし、厳密にはもとの会社とはちょっと違う。となると、最後まで生き残ったのはソニーだけ、と言っていいのかもしれない。
A: ただ、そのソニーにしてもXperiaの発売ペースは遅いし、業界撤退の噂は絶えないですよね。
B: そうだね。スマホ業界は市場こそ大きいけど、本当に浮き沈みが激しい業界だから、仕方ない面もある。浮き沈みが激しいのは日本メーカーだけの話じゃないから、日本のメーカーだけが悪いという話ではないんだけど。
A: そうなんですか?サムスンとか未だ健在だし、日本メーカーが下手を打ったと思っている人も多いと思うんですけど。いわゆる、ガラパゴスが原因で、とか。
B: 例えば、インドにMicromaxという現地の大手家電メーカーがあって、そこがインドやバングラディシュなど周辺国向けにガラケーやスマートフォンを製造販売していた。インド周辺地域の人口の多さも相まって、2014年には世界シェア10位にまでなったんだ。でも、その後中国勢に押し込まれ、インド政府の後押しがあったのにもかかわらず、2022年を最後にスマートフォンの開発をほぼやめてしまっている。つまり、インドという明らかな成長市場の地元企業でさえも生き残れなかった例だ。
また、Wiko(ウイコウ)というフランスのベンチャースマホメーカーがあって、西ヨーロッパで高い支持を得て、実は一時期日本にも参入していたんだよ。まあ、フランスといっても中身は中国のTinnoというOEMメーカー製だったんで、出しているスマホにフランスっぽさは微塵もなかったけどね。それでも、フランスやポルトガルではシェア2位(1位はサムスン)まで行った。でも、昨年にスマホを発表したのを最後に、ほぼ休止状態に陥っている。これは、ベンチャーで一時期売れても、すぐにしぼんでしまう例かな。
A: こうやってみると、生き残るのは大変なんですね。
B: 先のMicromaxも、インドという中国より人件費が安い国の会社ではあるんだけど、結局製造のほとんどは中国だったようで、そうすると最終的には中国企業に負けちゃうんだよね。だからといって、自国製造すれば良いかといえばそうじゃ無くて、サムスン※7を擁していて製造の裾野がある韓国でさえも、業界第2位のLGは撤退してしまっている。そう考えると、中国メーカーに太刀打ちするのはどの国でも難しくて、日本のメーカーがどんどん撤退しているのも、まあやむなしかな。先に話題にしたノキアも、結局アフリカ市場を中国メーカーに取られたのがとどめとなったからね。

A: しかし、日本メーカーに生き残るチャンスはなかったんですかね?ガラケーも、世界から見たら技術的に進んでいたんですよね。
B: そうだね。前回もちょっと触れたけど、パイオニアのボタン無しの液晶携帯。これは、まさにその後の携帯電話がタッチパネルメインになるのを先取りしていたし、しかも携帯電話における絵文字の元祖だったわけだ。それに加えて、i-modeのような課金プラットフォームも日本が世界初だし、携帯電話にカメラを載せて携帯電話で写真を送信できるようにしたのも日本が最初だ。こう言うと、スマホのベースはすでに日本が生み出していた、なんて考え方も出来るかもしれない。
でもね、ただひとつiPhoneが発明できなかった。敗因はそれだけ。ただし、あまりに大きな敗因だけどね。もちろん、iPhoneが発明できなかった理由の一つがガラケーへの固執だというのは否定しないけど。
A: 固執、ですか?
B: 以前も書いたけど、当時私は業務上、特殊な端末で実験や開発をすることが多くて、HTC※8のWindows Mobileスマートフォンや(日本でiPhoneが発売される前の)iPod touchを触ることが多かった。それでiPod touchを触る限り、iPhoneが明らかにこれまでの端末とは異なるであることはわかった。だから、iPhone日本発売時は、個人の携帯をわざわざソフトバンクへMNPし、iPhone3Gを予約して買ったぐらいだ。その時に、恐らくガラケー、というか当時はそんな呼び方をしていなかったけど、既存の携帯電話はiPhoneにひっくり返されるであろう事も私には想像できていた。これは別に私だけじゃなくて、当時iPhoneを実際に買って、実際にメイン携帯として使った人なら誰もが感じたと思う。
でも当時はこの記事のようにiPhoneは大したことないという論調が当たり前だった。iPhoneが実現していることは、ガラケーでも全て出来るし、iPhoneはただ流行っているだけでしょって。実際、私もiPhoneを色々な人に勧めていたんだけど、同じような台詞を結構な人に言われたしね。この記事を書いた本人は、今となっては恥ずかしくて記事をサルベージされたくはないでしょうが、でもみんな日本の携帯電話、つまり日本製端末とi-mode的仕組みの両方に、相当な自信があったんだと思うよ。
A: 私も掘り返して申し訳ないんですが、上の記事は
「モバゲー」や「mixi」,「GREE」が利用している。オープンな巨大サイトが生まれているのが,今のケータイである。(iPhoneの登場で)ビジネスモデルが変わったと大騒ぎするものではない。
と結論づけられてます。でも、残念ながら予想とは全く逆で、iPhoneによってビジネスモデルはすっかり変わってしまって、これ以降モバゲーもGREEもmixiもすっかり影響力を無くしましたね。専門家としてこんな事書いちゃっていると、デジタルタトゥーと言っても良いですね・・・
B: そんなガラケー最高っていう状況下で新たにiPhoneを生み出す、というのは至難の業だね。これこそAppleとスティーブ・ジョブズのなせる技なんだろう。また、失敗例で出して申し訳ないけど、件のMicrosoftは他に先駆けてスマートフォンを出していた※9けど、PCのWindowsの成功に囚われていたからか、iPhoneを生み出せなかったからね。日本人だからできなかった、アメリカ人だからできた、という話ではない。Appleだからできた。
A: そう言われると、Appleを賞賛するしかないんですが。でも、無から有を生み出すAppleの真似は無理だとしても、せめてAndroidぐらいにはなれなかったですかね。
B: 確かに、私だってそれを考えないことはない。上手く後追いできていれば、とも思う。でも、まあ今のGoogleのソフトウエアの開発力を見ていると、あの時日本メーカーが頑張ったところで、どこかで後追いされて、最終的にはノキアと同じ憂き目に遭うだけだったと思うよ。現状、携帯電話のみならずソフトウエアの開発力という点で、Googleに勝る会社はないからね。
A: NotebookLMやGemini CLIのようなものをタダで使わせてくれる太っ腹な会社なんてGoogleしかないですしね。今のAndroidのAIサービスの強力さをみると、確かに結局どこかで負けていそうです。そもそもの資金力が違います。
B: 実は、このブログもGoogle Gemini Code Assistを効かせながら書いているしね。Google様は偉大ですよ。
まとめ
A: さて、かなり長くなりましたんで、この辺でまとめていただきましょう。
B: ガラケー全盛時から、今のスマホ時代に移るまでの栄枯盛衰的なストーリーを話したつもりだけど、上手く伝わったかな。
A: PDCの時にはあんなにあった日本の携帯電話メーカーが、今や風前の灯火状態である、ということは分かりました。しかし、その裏にはスマホ登場だけではない色々なストーリーがあったのだと。特にノキアの話は、なんというか経済学の教科書に載りそうです。
B: そうだね。私は知っての通りWindows Phoneマニアでもあるから、Microsoftによるノキアの買収から部門解散までの話をリアルタイムで追ってたし、こんなひどいことがあるんだと憤慨したよ。Microsoftへの端末部門売却の立役者?でもある当時のノキア社長スティーブン・エロップ氏は、恐らくフィンランド人には相当に恨まれているんじゃないかな。本人のLinkedInによるとMicrosoftをクビになった後、今はカナダの母校で理事やっているらしいけど、彼はフィンランドに二度と入国できないのでは?と思ってる。
A: ですよね。フィンランド人の怒りは日本人の私でも理解できます。ノキアってフィンランドの顔みたいな会社でしょうから。
B: でも、今のスマートフォン業界を見ると、ノキアの端末部門は遅かれ早かれ死に体となったと思うけどね。そう考えると、携帯端末部門撤退に至るまでのノキア、すなわちフィンランドが被るべき損失を、結果的にマイクロソフト社が被る形になったわけだから、今思えば、エロップ元社長はフィンランドにとっては英雄とまでは言わないが、よくやってくれた人と言えるんじゃないか?一方、Microsoftにとって、エロップ氏は疫病神以外の何物でも無いけど。
A: ものは言い様ですね。フィンランド人がどう思うかは別として、Microsoftに多大な損失を与えたというのは間違いないなさそうです。
B: さて今回は、ガラケーの時に栄華を誇った、日本メーカーやノキアなどの携帯電話機のメーカーの栄枯盛衰の話をしたけど、実はその裏ではテキサス・インスツルメンツ(TI)とかインテルとかの半導体メーカーも競争に負けて携帯端末業界からの撤退、部門売却等になっているんだよね。例えば、ノキアはSymbian用にTIのSoCを使っていたので、ノキアの凋落はTIの凋落にも繋がったんだよ。
A: そんな繋がりがあったんですね。
B: ただね、1社だけ、ガラケーからスマホになろうが、どこのメーカーが生き残ろうが、全く影響を受けずに地位を独占し続けた企業があるんだよ。どこだと思う?
A: また、いつものTSMCオチですね。言わせませんよ。
B: 残念、違います。正解は、ARM(あーむ)。CPU性能が必要となったガラケー後期から今の今まで、携帯電話のCPUはずっとARMアーキテクチャのままだ。ARMについて説明すると長くなるからやらないけど、携帯電話端末においてARMだけはずっと同じ地位だね。
A: なるほど。QualcommだろうがMediaTekであろうが、はたまたAppleだろうが、中国系であろうが、確かにすべてARM CPUですね。
B: 金額的に儲かっているのはTSMCでしょけど、別にTSMCが10年後も絶対安泰かと言えば、正直そうでは無い。一度でも競争に負けたらあっという間だ、今のIntelみたいにね。でも、ARMが10年以内にどこかに取って代わられる、というのは予想できない。それぐらい世の中に浸透して、いろいろなものがARMに最適化されてしまった。
A: 確かに。今やWindowsの世界すらARMに浸食されそうですからね。
B: というわけで、携帯電話端末業界の最上流工程って、OSでもSoCでもなく、ARMだったというお話しでした。
A: 言われれば確かにそうですけど、いやいや、そうじゃないでしょ?ガラケーはどこにいったんですか!
※夏休みのため、次回は8/26更新となります。
※5; 三菱電機、富士通、シャープ、ソニーエリクソン等が採用。尚、ガラケー日本最大手のNEC、パナソニックは、LinuxベースのOSを採用した。
※6; その後、フィンランドHMD社が携帯電話におけるノキアブランドの使用権を得ていて、ノキア名でスマートフォン、フューチャーフォンを販売している。
※7; 韓国サムスン電子は、携帯電話をベトナムを中心にインド、インドネシア等で製造している。韓国でも製造しているが、主に自国向けである。尚、中国では製造していない。
※8; 台湾のスマートフォンメーカー。Windows Mobileの頃より、世界に先駆けてスマートフォンを製造していたメーカとして知られる。Androidもいち早く採用し一時期は世界的スマートフォンメーカーとして名を馳せたが、Apple、サムスン電子との競争に負けて低迷。その後、Google Pixelの設計・製造を行っていたが、2017年にスマートフォン設計・研究部門をGoogleに売却し、同社のスマートフォン事業は大幅な縮小となった。
※9; Windows Phoneではなく、(初代)Windows Mobileベースの電話機のこと。HPやHTCが製造していた。