LED通信事業プロジェクト エンジニアブログ
なんちゃって5Gってなに? その2
高校生でもわかる通信用語 #26
記事更新日 2025年10月21日
はじめに
理系高校生や文系大学生でも分かるように通信用語を説明する「高校生でも分かる通信用語」の第26回です。
先日の9月19日に発売されたiPhone17シリーズ(Air含む)。我々もミリ波対応で記事にしましたが、もう一つ面白い機能が付いています。それはSub-6とミリ波という、5Gのために割り当てられた周波数を使って5Gを使っている場合にのみ「5G+」と画面に表示されるという機能です。これの言い方を変えると、「本物の5G」と「なんちゃって5G」を見分けるための機能である、とも言えます。「5G+」と表示されている時のみがちゃんとした正規の5Gであり、ただの「5G」表記の時は「なんちゃって5G」なんです。”なんちゃって”なんてふざけた言葉ですが、業界人だけで無くマスコミの方も使うことが当たり前になってきています。
「なんちゃって5G」については、このブログでもこれまで何回か触れたことがあるのですが、あらためて「なんちゃって5G」とは何なのか? そして何が「本物の5G」なのか、を技術的な背景の説明の部分から、誰にでもわかりやすく説明したいと思います。
前編となるその1では、5Gになって通信速度を上げるために高い周波数を使う羽目になり、各携帯電話会社は基地局設置費用が大きくなって厳しくなる、という話をしました。後編となる今回は、実際に携帯電話会社各社がどのような判断をしたのか、ということを書きながら、なぜ「なんちゃって」と呼ばれるようになったのか説明したいと思います。
周波数と実際の基地局数
5Gは速度を重視するあまり、使用する周波数を従来に比べてかなり高くしました。しかし、周波数を高くした分のツケは、基地局の数という形で出てきます。確かに、携帯電話会社は各社とも巨大で、利益は出ています。しかし、それでもここから従来の5倍の基地局を建てるとなると、流石に費用が厳しいはず。
ちょっと古いデータで申し訳ございませんが、公式に発表されているデータでは最新と思われる昨年の2024年3月末の基地局数のデータを見てみます。比較のため、楽天モバイルを除いた3社(NTTドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクグループ)を合計したのLTEと5Gの周波数別の基地局数を比較してみます。
携帯電話会社3社の基地局数(2024年3月末、千以下は切り捨て)
| 種類 | 基地局数 |
|---|---|
| プラチナバンド LTE | 264,000 |
| 1.5~1.7GHz LTE | 184,000 |
| 2.1GHz LTE | 173,000 |
| 3.5GHz LTE | 80,000 |
| サブ6 5G | 80,000 |
| ミリ波 5G | 28,000 |
これを見て、今までの話と矛盾していると思いませんでしたか?周波数が高いほど基地局の数が必要となるはずなのに、実際には周波数が低いプラチナバンドの基地局数が一番多い。でも、これって不思議なことでは全然なくて、基地局の建て方(置き方)を考えれば妥当なんですよね。携帯電話会社だってお金は有限です。なるべくお金がかからないように基地局は建てたい。そうなると、どういう考え方になるか?
基地局設置になるべくお金がかからないようにすると考えた場合、下記の様な考えで基地局を建てることになると思います。
- 一番周波数が低く、効果の高いプラチナバンドで、なるべく広いエリアをカバーする
- 人が多くプラチナバンドが混んできた場所には、次に低い周波数である1.7GHzや2.1GHzの基地局を建てる
- 人が多くくて、それらでも混んできた場所には、次の周波数である3.5GHzやサブ6の基地局を建てる
- さらに人が多くて、それらでも混んできた場所には、次の周波数であるミリ波の基地局を建てる
つまり、人が多くて混んできたら、まだ建てていない次に低い周波数の基地局を建てる、という流れです。そういった考え方による、人口と基地局配置の関係をざっくりと表したのが、下の図です。
プラチナバンドは、あらゆる場所で通信できるようにするために使われる”ベース周波数”です。人がいる場所だけでなく、山間部や海へ向けた基地局が作られることもあります。そのため、周波数が低くて電波が飛ぶ範囲が広くても、結果的に基地局数は多くなります。一方、その他の周波数の基地局は必要に応じて追加されていきます。人が多くて周波数が足りなければ、周波数が低い順に追加されていき、人が密集していてどうしても足りない場合は、かなり高い周波数の基地局までも利用されます。言い換えると、ある場所における使われる周波数の幅の合計は、人口密度に比例する、と言って良いでしょう。
すべてのケースにおいてこの考え方で基地局が建てられているとまでは言いませんが、どの携帯電話会社でもおおよそ上のような考えで建てられているのは事実です。そこで、改めて5Gについて考えてみます。もし5Gを津々浦々展開したいのであれば、本来であれば5G用に割り当てられたサブ6の周波数で全国をカバーするべきです。しかし、サブ6の周波数でプラチナバンドと同じエリアを作ろうとするのは、コスト面から見て現実的ではありません。携帯電話会社も営利企業ですから、最も少ない基地局数で、最も効果的なエリアを作りたいはずです。そういった場合、どうやって5Gの基地局を建てたら良いでしょうか?
周波数と基地局数の関係
- 基地局のコストを考えると、最も少ない基地局数で、最も効果的なエリアを作りたい
- 一番低い周波数であるプラチナバンドの基地局数が最も多いのは、人口にかかわらず全てのエリアをカバーするために使われるから
- 次に低い周波数の1.7や2.1GHzの基地局はプラチナバンドだけでは通信が混雑する場所、すなわち人がいる場所で使われる
- サブ6やミリ波などの高い周波数の基地局は人口密集地で使われる
- つまり、結果的に広い範囲をカバーできる周波数の基地局ほど、その数が多くなる
なんちゃって5Gとは?
最も効率の良い周波数であるプラチナバンドは、もともと第一世代のアナログ携帯電話の時代に割り当てられた周波数です。後に、周波数再編等もあったため、アナログ当時の周波数そのままではありませんが、アナログ時代にプラチナバンドを割り当てられていたNTTドコモとKDDIは、当時からずっとプラチナバンドを使っています。何故なら、もともとアナログ用に割り当てられたプラチナバンドは、第2世代になれば第2世代へ、LTEになればLTEへ転用されていくからです。
他の周波数も同様で、基本的にどの周波数も携帯電話のシステム(世代)が変わる度に、新しいシステムへ転用されていきます。2024年3月時点でのプラチナバンドにおけるLTEと5Gの基地局数は以下の通りとなっています。
携帯電話会社3社の基地局数(2024年3月末、千以下は切り捨て)
| 周波数 | LTE基地局数 | 5G基地局数 | 5Gの呼び名 |
|---|---|---|---|
| プラチナバンド | 264,000 | 39,000 | なんちゃって5G |
| 1.5~1.7GHz | 184,000 | 26,000 | なんちゃって5G |
| 2.1GHz | 173,000 | 0 | - |
| 3.5GHz帯(LTE用) | 80,000 | 51,000 | なんちゃって5G |
| サブ6 (5G専用) | 0 | 80,000 | 5G |
| ミリ波 (5G専用) | 0 | 28,000 | 5G |
既存周波数もLTEに比べると基地局数は少ないものの、徐々に5Gに転用されていっているので、上のデータから1年以上経った今なら、かなりの数の基地局が5Gへ転用されているものと考えられます。そして、今回のテーマである「なんちゃって5G」とは、この既存周波数を5Gへ転用した基地局の事を指します。つまり、5G向け周波数では無い既存システム向けの周波数を、5Gへと転用したものを「なんちゃって5G」と呼んでいるのです。
なんで「なんちゃって」なのか?
でも、既存周波数の新システムへの流用なんて、過去からずっとやってきたことです。ですが、なんちゃってLTEと言われたことはありません。なぜ5Gだけが「なんちゃって」なのでしょうか?それは、周波数の幅に関係してきます。携帯会社へ割り当てられた周波数毎の帯域幅の表を見てください。
| 種類 | 周波数の幅[MHz] | 多重化方式 |
|---|---|---|
| プラチナバンド | 10~15 (x 2) | FDD |
| 1.5~1.7GHz | 15~20 (x 2) | FDD |
| 2.1GHz | 20 (x 2) | FDD |
| 3.5GHz | 40 | TDD |
| サブ6 5G | 100 | TDD |
| ミリ波 5G | 400 | TDD |
※FDDは上り(電話機から基地局)と下り(基地局から電話機)で異なる周波数を使用する方式。TDDは、上りと下りが同じ周波数で、時間で上りを下りを分ける方式。
LTEで使う周波数の最大幅は20MHzです。この場合、最も狭いプラチナバンドの10MHz幅でも、LTEの最大の半分はあるので、LTEの性能の半分ぐらいは出ます。また2.1GHzだと20MHzの幅があるため、LTEの能力を全て出すことが可能です。
一方、5Gの最大幅はサブ6で100MHz、ミリ波で400MHzです。ミリ波を基準にすれば、プラチナバンドの10MHzは1/40の幅しか無いため、プラチナバンドとミリ波が同じ5Gを名乗ったとしても、最大通信速度は40倍の差があることになります。確かに、動いているシステムとしては5Gなのでしょうが、5G本来の性能の40分の1しかない、サブ6基準でも10分の1しかないシステムを5Gと呼ぶのはちょっと・・・
しかも、最初の方で書いたとおり、LTE以降の通信速度は周波数の幅のみに比例します。プラチナバンドの10MHzをすべて5G用に使ったとしても、同じく10MHzをLTEに使っていたときと比べて通信速度はほぼ変わりません。つまり、プラチナバンド等のLTE以前の周波数を使っている場合、利用者が感じるLTEと5Gの違いはほとんど無いのです。
それなのに、5Gの電波を掴む限りスマホのピクト(画面上部の表示)は「5G」と表示されます。電話機が実際どの周波数で通信しているかなんてユーザーには分かりません。だから、ミリ波でもプラチナバンドでも同じ表記ならば、「5Gになったのに通信速度は大して変わらない」という意見が出てくるのは当然のことでしょう。逆に、携帯電話に詳しい人から見れば、「いま使っているのは5Gだけど、これは本当の5Gではないよね」と考えるのは当然で、それ故に「なんちゃって5G」という言葉が生み出されたのでしょう。
繰り返しになりますが、「なんちゃって5G」とはサブ6、およびミリ波の5G専用周波数以外、つまり既存周波数を転用している5Gのことを指します。そして、冒頭に書いた「iPhone17シリーズが”5G+”の表記に対応」というのは、5G専用周波数を利用している場合にのみ"5G+"表記になり、それ以外の「なんちゃって5G」のときは単なる"5G"表記になることを意味しているのです。言うならば、"5G+"表記だったときは「十分高速に通信できますよ」と、"5G"表記だったときは「それほど通信は速くありませんよ」とスマホが教えてくれるわけです。
なんで「なんちゃって」なのか?
- LTEならプラチナバンドや2.1GHzでも、ほぼLTEの上限の性能が出せる
- 5Gだと、プラチナバンドでは5Gの上限の10分の1から40分の1程度の性能しか出ない
- 既存周波数転用だと、LTEと5Gの通信速度はほぼ変わらない
- 本来の性能の10分の1以下の性能で前世代LTEと同程度のものを5Gと呼んで良いのか疑問に思う人が出る
- 既存周波数転用の5Gを誰かが「なんちゃって5G」と呼んだため、それが定着してしまった
おまけ:「真の5G」は「なんちゃって5G」の対義語ではありません
「なんちゃって5G」に対して、「真の5G」という言葉が使われることがあります。「なんちゃって5G」が5G専用周波数以外を利用している5Gのことを指しますので、5G専用周波数を利用している場合、つまりiPhone17が5G+の表記をする場合が「真の5G」と思われる方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。「真の5G」とは、5GのStand Alone(SA)方式を指します。SA方式とは、5Gのコアネットワークを使ったサービスとなります。
コアネットワークとは、電波を出す基地局の先にある機器の事で、主にデータセンター(ネットワークセンター)に存在していて、基地局の管理の他に、通信データや音声通話の外部との接続、ユーザー管理や課金用のデータベース等々、携帯電話ネットワーク全体を管理する装置のことです。この装置に障害が起こるとネットワーク全体に障害が起こることから、度々ニュースなんかで名前が出てくることがあります。三年前ぐらい前にKDDIが長期間障害を起こしたことから覚えている人も多いと思います。
さて、このコアネットワークなのですが、ほとんどの場合5Gであっても5Gのコアネットワークを利用していないってご存じでしたか?現在、多くの5Gの基地局はLTEのコアネットワークと接続されており、LTEのコアネットワークを利用して通信しているのです。これを、「独り立ちしていない」という意味で、Non-Stand Alone(NSA)と呼びます。一方、ちゃんと5Gのコアネットワークを利用している基地局もあり、これをStand Alone(SA)と呼びNSAとSAは区別されています(下図)。NSAはLTEのコアネットワークを利用しているというだけで無く、必ずLTEと5Gがセットでないと通信できない、すなわちLTEの電波がないと通信できないという違いもあります。SAは5Gの電波だけでも通信できるため、5Gの電波しか届いていないような場所(現在はほぼありませんが)では、SAでしか通信できません。
尚、通常利用している限り、ユーザーにはNSAとSAの違いを感じることはほぼないでしょう。しかし、SAを利用した場合は、(今はほとんどされていませんが)超低遅延のサービスや、課金ユーザーへ通信速度を保証するサービスなど、5Gの技術を利用した新しいサービスが利用できるようになります。いわゆる、通信速度だけではない、本来予定してた5Gのサービスが提供できるため、この5G SAのことを「真の5G」と呼ぶことが多いようです。
た・だ・し、現在の日本では、この5G SAで接続するために別途契約が必要で、切替事務手数料や基本料金が必要となります。NTTドコモであれば月額550円※3かかります。また、5G SAに対応している端末も必要です。携帯会社によって異なるのですが、概ねiPhoneであればiPhone14以降、Google PixelであればiPhone7以降が必要となるようです。
「真の5G」の定義からすると、コアネットワークが5Gであれば良いのですから、プラチナバンド転用の5Gでも「真の5G」となりえます。しかし、日本では5G SAに対応しているのはサブ6とミリ波の基地局だけです。ですから「真の5G」であれば「なんちゃって5G」ではない、と言えるでしょう(逆は言えません)。ちなみに、「真の5G」ですが、「なんちゃって5G」ほどに浸透している用語ではありません。しかし、SA、NSA関係無く5G専用周波数を利用した5Gのことを「本物の5G」「本来の5G」と呼び、5G SAだけを指す「真の5G」と使い分けているITマスコミも多いようです。したがって、"5G+"は「本物の5G」を表記するものであり、「真の5G」のSAを表記するものではないんですよね。
と以上長々書きましたが、いずれの用語も3GPPやARIBなどで正式に定義された用語ではないので、ITニュース等では頻繁に使われるとはいえ、”一般的にそう呼んでいる”程度の認識にとどめておくとよいでしょう。
「真の5G」とは?
- 5G Stand Alone(SA)のことを「真の5G」と呼ぶことが多い
- 日本におけるSAは、5G専用周波数でのみサービスされている
- NSA含む5G専用周波数での5Gのことは「本物の5G」と呼び、「真の5G」と区別される場合も
- したがって「なんちゃって5G」の対義語は「本物の5G」であり、「真の5G」ではない
- しかし、どれも正式に定義された用語ではないので、勝手に使ってください
まとめ
いかがでしたか?「なんちゃって5G」がなぜ「なんちゃって」なのか、ご理解頂けたと思います。iPhoneの”5G+”の表現対応は、「なんちゃって5G」を更に強調することにはなります。その一方で、頑張って5G専用周波数の基地局を建てている携帯電話会社にとっては、"5G+"表記の量が差別化となりえます。実は、iPhoneに先んじて"5G+"の表記に対応したXiaomi14TはKDDI(au)で販売されている端末でした。おそらく、「本当の5G」のエリアに自信のあるKDDIが先行採用したものだと思います。きっと、iPhone17が"5G+"の表示に対応して、一番喜んでいるのはKDDIではないでしょうか。
最後に一言。この回の最後でも触れましたのですが、2025年に日本で発売されたスマホのほとんどはミリ波に対応していません。唯一ミリ波に対応しているのが二つ折りの超高級機Pixel Pixel 10 Pro Foldで、その他のPixel、そしてiPhone、Galaxyはミリ波に対応していません。したがって、今後iPhone以外のスマホが「5G+」の表記に対応したとしてもミリ波を受信することなどなくて、実質的に「5G+」はサブ6の受信を意味するということは覚えておいてください。
追伸:皆様へご連絡
来月11月に弊社ホームページのリニューアルが予定されています。このブログもリニューアルに伴い引っ越しとなり、レイアウト(見た目)も大幅に変更となる予定です。ただし、中身は変わりませんが・・・
リニューアル作業に伴い、来週のブログはお休みさせていただきます。次回は11月4日更新の予定です。(尚、会社HPのリニューアルが遅れた場合は本ブログ更新も遅れる可能性があります。ご了承ください。)
※3; 現在は、終了日未定でSA接続料無料キャンペーンが実施されている。



